8.14NHKスペシャル パール判事と東京裁判 そして、レーリンク判事
敗戦記念日に
■NHKスペシャル「パール判事は何を問いかけたか」
8月14日午後10時からNHK総合で放映された東京裁判のパール判事(昔は、パル判事と言っていたので、以下、パル判事と書きます。)のドキュメンタリーは非常に興味深い番組でした。東京裁判で日本人の被告を全員無罪としたパル判事の思想と東京裁判の判事たちの論争を紹介した好番組でした。
インド人のパル判事と言えば、日本のアジア侵略戦争を「正しい戦争」「自衛戦争」「聖戦」であると思いこみたい右派民族主義者の日本人が高く評価する人物です。南京虐殺を虚偽だと主唱する田中正明氏が「パール博士の日本無罪論」で高く持ち上げていました。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%B0%E4%B8%AD%E6%AD%A3%E6%98%8E
このNHKの番組では、パル判事はヒンズー教徒で、ガンジーを尊敬する絶対平和主義者であったと紹介されています。パル判事は、欧米のアジアの武力征服を強く非難し、日本人の戦争は、それを模倣したものだと考えていた。米国の広島・長崎への原爆投下は、ナチスのユダヤ人虐殺に匹敵する残虐行為だとその自ら起案した反対意見の中で書いているそうです。
このあたりまでは、右派も大喜びでしょう。ところが、以下、ちょっと話しが違ってきます(・・・理解しようとしない、右派の方が多いとは思いますが)
■パル判事が言ったこと
パル判事は、反対意見の中で、日本の南京虐殺を含めて日本の残虐行為を事実としては認定しているそうです。しかし、事後法の遡及処罰は許されず、共同謀議の概念も国際法上確立していないとして、全員無罪を言い渡したのです。(要するに、「悪事はやったが、そのとき処罰法がなかったから無罪」ということです)
そして、パル判事が「日本の侵略戦争が国際法上の犯罪にならないと言っただけで、日本の戦争を正当化してはいない」と明言していたと、同僚であった元インドの判事(コルカタ高裁長官)が証言しています。パル判事の息子である弁護士は、パル判事が平和主義者であらゆる戦争に反対していたことを述べています。安倍首相は、インド訪問の際に、このパル判事の息子と面談するそうです。(また大恥をかくとよいのですが)
■レーリンク判事(オランダ)
このNHK番組でも紹介されていたオランダ人のレーリンク判事は、パル判事の思考に近い関係にあり、パル判事とは別の観点から多数意見への反対意見を書いた人物です。このレーリンク判事の対談「レーリンク判事の東京裁判-歴史的証言と展望」(B.V.A.レーリンク・A.カッセーゼ著・小菅信子訳・1996年新曜社)を読んだことがあります。
レーリンクは39歳のオランダ判事で、ナチスに抵抗した裁判官でした。レーリンクも反対意見を書いて、日本人被告の一部を無罪としています。この証言本も面白いのですが、同書で、レーリンク判事は、パル判事について次のように証言しています。
インドのパルは植民地支配に心底憤慨していました。彼は、ヨーロッパがアジアで行ったこと、200年前にアジアを征服し、それからずっとそこを支配し近隣し続けたことに強いこだわりをもっていました。それが彼の態度でした。したがって、アジアをヨーロッパから解放するための日本の戦争、そして、「アジア人のためのアジア」というスローガンは、パルの心の琴線に触れるものがあったのです。彼は、日本人とともにイギリスとたたかうインド軍に属していたことさえあったのです。彼は骨の髄までアジア人でした。
このレーリンク判事について、ウェッブ裁判長は「欠けてはならない判事がいるとすれば、それはレーリンクただひとりだ。なにしろすべての書類に目を通したのは、彼だけなのだから」と述べたそうです。レーリンクは東京裁判に全力投球しています。敗戦直後の広島を空から見てその悲惨な状況を見て衝撃を受けたことを正直に吐露している(39歳でまだ若いし・・・)。また、反対意見を書くことに対して、自国のオランダ政府から圧力を受けても、これに動ぜず、最後まで良心に従って行動しています。その意味で信念をもった反骨の人でもあります。
■法廷で一番欠席が多かったパル判事
他方、パル判事というと、「来日した時から、侵略戦争が国際法上、犯罪ではないとの信念をもち、被告全員無罪のみずからの判決を書くべく、ひたすらに宿舎にこもり準備につとめていた。また法廷での欠席がいちばん多い判事でもあった」(同書の解説(粟谷憲太郎)による)そうです。NHKの番組でもそう解説していました。何しろ1200ページにも及び反対意見を一人で書き上げたのですから(ちょっと偏執的)。
確かに、同書の記述とNHKの番組を見ると、パル判事は、裁判官としては、自己の思想と信念のみに固執しているように思えます。同僚の判事たちと合議して一致点を目指そうという態度を最初から放棄しているように見えます。けっして、バランスがとれた良い法律家とは言えないでしょう。法廷に欠席が多いのでは、日本の居眠り判事たちと同じく、けっして良い裁判官とは思えません。
これに比して、レーリンク判事は、地味ですが、いかにも法律家らしい法律家であり、しかも、良識と反骨精神を併せ持つ、尊敬に値する裁判官です。
ところで、東京裁判の判決記録は、今では公刊(日本語)されているのでしょうか?判決文を読まなければ、批判も賛成もできないでしょうにね。
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コメント
> 日本のアジア侵略戦争
・弁護士の言とも思えません。証明されていない(議論のある)
事柄を断言なさるとは。
> 残虐行為を事実としては認定している。
・だからナニ? バランスある見方だと思います。
貴方は法廷で『現場にいたから犯人だ』と認めますか?
> 要するに、「悪事はやったが、そのとき処罰法がなかったから無罪」ということです
・弁護士の言とも思えません。それが法であり裁判でしょう?
事後法OK.で裁判制度を否定する、弁護士ですか?
> (また大恥をかくとよいのですが)
・日本人の言とも思えません。内では論争しても対外では
『日本チャチャチャ』が日本人の心情では?
> NHKの番組を見ると、パル判事は、裁判官としては、
自己の思想と信念のみに固執しているように思えます。
・弁護士の言とも思えません。(だからミスジャジした?)
『我思う=事実』が罷り通る世界の住人ですか ?
貴殿の主張は何ですか?
・ 自虐史観は存在しない ?
・ 日本(人)を貶めたい ?
何れにしろ、証拠でもって主張しなさい。
弁護士を名乗った上での書き込みなら。
蛇足ながら、『投稿時間表示』が狂っていますよ。
投稿: 岩谷 正義 | 2008年9月10日 (水) 12時28分