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2007年8月15日 (水)

8.14NHKスペシャル パール判事と東京裁判 そして、レーリンク判事

敗戦記念日に

■NHKスペシャル「パール判事は何を問いかけたか」

8月14日午後10時からNHK総合で放映された東京裁判のパール判事(昔は、パル判事と言っていたので、以下、パル判事と書きます。)のドキュメンタリーは非常に興味深い番組でした。東京裁判で日本人の被告を全員無罪としたパル判事の思想と東京裁判の判事たちの論争を紹介した好番組でした。

インド人のパル判事と言えば、日本のアジア侵略戦争を「正しい戦争」「自衛戦争」「聖戦」であると思いこみたい右派民族主義者の日本人が高く評価する人物です。南京虐殺を虚偽だと主唱する田中正明氏が「パール博士の日本無罪論」で高く持ち上げていました。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%B0%E4%B8%AD%E6%AD%A3%E6%98%8E

このNHKの番組では、パル判事はヒンズー教徒で、ガンジーを尊敬する絶対平和主義者であったと紹介されています。パル判事は、欧米のアジアの武力征服を強く非難し、日本人の戦争は、それを模倣したものだと考えていた。米国の広島・長崎への原爆投下は、ナチスのユダヤ人虐殺に匹敵する残虐行為だとその自ら起案した反対意見の中で書いているそうです。

このあたりまでは、右派も大喜びでしょう。ところが、以下、ちょっと話しが違ってきます(・・・理解しようとしない、右派の方が多いとは思いますが)

■パル判事が言ったこと

パル判事は、反対意見の中で、日本の南京虐殺を含めて日本の残虐行為を事実としては認定しているそうです。しかし、事後法の遡及処罰は許されず、共同謀議の概念も国際法上確立していないとして、全員無罪を言い渡したのです。(要するに、「悪事はやったが、そのとき処罰法がなかったから無罪」ということです)

そして、パル判事が「日本の侵略戦争が国際法上の犯罪にならないと言っただけで、日本の戦争を正当化してはいない」と明言していたと、同僚であった元インドの判事(コルカタ高裁長官)が証言しています。パル判事の息子である弁護士は、パル判事が平和主義者であらゆる戦争に反対していたことを述べています。安倍首相は、インド訪問の際に、このパル判事の息子と面談するそうです。(また大恥をかくとよいのですが)

■レーリンク判事(オランダ)

このNHK番組でも紹介されていたオランダ人のレーリンク判事は、パル判事の思考に近い関係にあり、パル判事とは別の観点から多数意見への反対意見を書いた人物です。このレーリンク判事の対談「レーリンク判事の東京裁判-歴史的証言と展望」(B.V.A.レーリンク・A.カッセーゼ著・小菅信子訳・1996年新曜社)を読んだことがあります。

レーリンクは39歳のオランダ判事で、ナチスに抵抗した裁判官でした。レーリンクも反対意見を書いて、日本人被告の一部を無罪としています。この証言本も面白いのですが、同書で、レーリンク判事は、パル判事について次のように証言しています。

インドのパルは植民地支配に心底憤慨していました。彼は、ヨーロッパがアジアで行ったこと、200年前にアジアを征服し、それからずっとそこを支配し近隣し続けたことに強いこだわりをもっていました。それが彼の態度でした。したがって、アジアをヨーロッパから解放するための日本の戦争、そして、「アジア人のためのアジア」というスローガンは、パルの心の琴線に触れるものがあったのです。彼は、日本人とともにイギリスとたたかうインド軍に属していたことさえあったのです。彼は骨の髄までアジア人でした。

このレーリンク判事について、ウェッブ裁判長は「欠けてはならない判事がいるとすれば、それはレーリンクただひとりだ。なにしろすべての書類に目を通したのは、彼だけなのだから」と述べたそうです。レーリンクは東京裁判に全力投球しています。敗戦直後の広島を空から見てその悲惨な状況を見て衝撃を受けたことを正直に吐露している(39歳でまだ若いし・・・)。また、反対意見を書くことに対して、自国のオランダ政府から圧力を受けても、これに動ぜず、最後まで良心に従って行動しています。その意味で信念をもった反骨の人でもあります。

■法廷で一番欠席が多かったパル判事

他方、パル判事というと、「来日した時から、侵略戦争が国際法上、犯罪ではないとの信念をもち、被告全員無罪のみずからの判決を書くべく、ひたすらに宿舎にこもり準備につとめていた。また法廷での欠席がいちばん多い判事でもあった」(同書の解説(粟谷憲太郎)による)そうです。NHKの番組でもそう解説していました。何しろ1200ページにも及び反対意見を一人で書き上げたのですから(ちょっと偏執的)。

確かに、同書の記述とNHKの番組を見ると、パル判事は、裁判官としては、自己の思想と信念のみに固執しているように思えます。同僚の判事たちと合議して一致点を目指そうという態度を最初から放棄しているように見えます。けっして、バランスがとれた良い法律家とは言えないでしょう。法廷に欠席が多いのでは、日本の居眠り判事たちと同じく、けっして良い裁判官とは思えません。

これに比して、レーリンク判事は、地味ですが、いかにも法律家らしい法律家であり、しかも、良識と反骨精神を併せ持つ、尊敬に値する裁判官です。

ところで、東京裁判の判決記録は、今では公刊(日本語)されているのでしょうか?判決文を読まなければ、批判も賛成もできないでしょうにね。

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2007年8月14日 (火)

現代版「関東軍」 イラク先遣隊 佐藤正久一等陸佐

敗戦記念日に

■駆けつけ警護

TBSのインターネットのニュース「集団的自衛権に関する政府の有識者会合はPKO=国連平和維持活動を行う自衛隊に対して、憲法上できないとしてきた「駆けつけ警護」を認めるべきだ、という意見で一致しました。」と報道しています。
http://news.tbs.co.jp/20070810/newseye/tbs_newseye3630843.html
このニュースの中で、元イラク先遣隊隊長(例のヒゲの隊長)で今回、参議院選挙に当選した佐藤正久参議院議員のインタビュー映像が放映されています。

■佐藤正久(元)一等陸佐曰く

 「自衛隊とオランダ軍が近くの地域で活動していたら、何らかの対応をやらなかったら、自衛隊に対する批判というものは、ものすごく出ると思います」(元イラク先遣隊長 佐藤正久参院議員)

 佐藤氏は、もしオランダ軍が攻撃を受ければ、「情報収集の名目で現場に駆けつけ、あえて巻き込まれる」という状況を作り出すことで、憲法に違反しない形で警護するつもりだったといいます。

 「巻き込まれない限りは正当防衛・緊急避難の状況は作れませんから。目の前で苦しんでいる仲間がいる。普通に考えて手をさしのべるべきだという時は(警護に)行ったと思うんですけどね。その代わり、日本の法律で裁かれるのであれば喜んで裁かれてやろうと」(元イラク先遣隊長 佐藤正久・参院議員)

■昔々、「関東軍」がありました

石原莞爾板垣征四郎(首謀者)が計画し、今田新太郎大尉(実行犯)が柳条湖の南満州鉄道線路を爆破。関東軍はこれを中国軍の破壊工作として軍事行動に出て、日本政府の不拡大方針を無視。「満州国」建国まで突っ走った。

当時においても、石原・板垣の計画は、「統帥権干犯」の重罪であり、陸軍刑法では死刑となるべき罪状です(「昭和史」半藤一利著)。

■佐藤一佐=今田大尉 よみがえった関東軍の亡霊

佐藤正久一等陸佐は、オランダ軍が攻撃を受けたら、情勢視察といってわざと巻き込まれて戦闘に参加すると考えて、それを実行しようと考えていたということです。(「不幸にして、オランダ軍が攻撃を受ける事態が起こらなかったので、おめおめ日本に帰ってきて生き恥をさらし無念である」って思っているでしょうな)。

佐藤一佐の思いが実現したら、イラクの占領抵抗部隊=レジスタンス(=米軍にとってはテロリスト)と、自衛隊が戦闘を行い、日本の憲法9条は吹っ飛び、アホウな日本人は頭に血が上って、「ガンバレ ニッポン チャチャチャ」ってなったでしょう。そして、佐藤一佐は「捨て石」として歴史に今田新太郎大尉と同じく名を残せた。

しかし、佐藤一佐、それって軍紀違反でしょうが。

日本の軍人というのは、未だに「関東軍」的な発想しかできないのですね。こいつらに戦争ができる立派な「法制度」を与えることは、「何とかに刃物」と同じです。

こんなことをアメリカ軍の将官が発言したら、共謀した将官や背後関係を追求され、軍法会議にかけられるのではないでしょうか。

■国会での調査と証人喚問を

是非、国会は佐藤一佐を証人喚問をし、自衛隊の上層部も調査をして欲しいものです。民主党多数派の参議院で是非、実現して欲しい。

それほどの重大発言だと思います。軍人の暴走と放言を許してはなりません。
小池百合子防衛大臣にことの重大性が理解できるでしょうか。無理でしょうな。

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2007年8月 9日 (木)

季刊・労働者の権利07年夏号-福井秀夫・大竹文雄編著「脱格差社会と雇用法制」批判特集

■日本労働弁護団の機関誌の特集

福井秀夫・大竹文雄編著「脱格差社会と雇用法制」に対する批判を、日本労働弁護団の機関誌「労働者の権利」で特集されています。労働法学者である、小宮文人、土田通夫・石田信平、野川忍、野田進、濱口桂一郎教授ら各研究者による批判です。

労働法学からの総批判といった感じです。
非常に、力の入った読み応えのある特集です。
http://homepage1.nifty.com/rouben/

特集1 解雇規制をあらためて考える
解題 解雇規制を改めて、考える  鴨田哲郎

現実的政策提言を欠いた新古典派経済原理主義キャンペーン
-福井・大竹編著『脱格差社会と雇用法制-法と経済学から考える』  小宮文人

解雇規制をめぐる効率と公正
-福井・大竹編著『脱格差社会と雇用法制』(日本評論社・2006年)の検討-  土田道夫・石田信平

「解雇ルール」の実態と展望-労使間取引をどう再構築するか-  野川 忍
日本は「解雇制限的な法制」をもつ国か-エールフランス事件とダンロップ事件-  野田 進

解雇規制とフレクシキュリティ  濱口桂一郎

大竹判例分析に異議あり-基礎データを検証する-  労働弁護団 大竹判例分析検証チーム

■政府の労働・雇用政策を決定する人たち

hamachanこと濱口桂一郎教授は、「同書は労働経済学や本来の『法と経済学』の立場から見ても問題点が多く、これを経済学そのものと考えて『法学に対する新自由主義からの果たし状』などといきり立つのはいささか敵を高く評価しすぎている感がある」と書いておられます。(結構、きつい言い方ですね。)

でも、福井秀夫氏らは経済財政諮問会議や規制改革会議の政策決定の中枢に近い人たちですからね。学問的水準はともかく、その政府内での影響力は無視できないでしょう。

■大竹・奥平論文の判例分析の基本的誤りを指摘

大竹・奥平論文の「解雇規制は雇用機会を減らし格差を拡大させる」は、整理解雇判例260件の「判例CD-ROM」の分析から、解雇無効の判決は当該地域の失業率を増加させることが統計的に確認されたと言っています。

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2006/12/post_5403.html

労働弁護団の検証チーム(8名の労働弁護士)が「判例CD-ROM」(第一法規)のうち整理解雇で検索される件数は実は「324件」もあり、これらの事案を分析した結果が掲載されています。この分析結果では、判例分析として整理解雇事案と言える事件は174件にしかすぎないことが確認されています(検証チームの皆さまご苦労さまでした)。大竹・奥平論文の基礎データは、整理解雇事案でない判例86件も含めて、統計処理をして結論を出したことが判明したということです。つまり、まったく前提となる判例データが間違っていることが、法学的に確認されたことになります。

大竹・奥平氏らは、優秀な経済学・統計学の研究者なのでしょうが、実体法、判例分析、民事訴訟制度についての知識が決定的に欠けているということでしょうかね。前提となる基礎データの誤りは致命的です。にもかかわらず、「統計的に確認された」などと、良く大言壮語できるものです。経済学者という人たちの自信過剰(傲慢さ?)にはあきれます。

それとも、優秀な学者の「知性の目」も、新自由主義というイデオロギーで曇らされたということなのでしょうか。

もっとも、「鬼の首でもとったように言うのは大人げない」か?

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2007年8月 7日 (火)

続・李下に冠を正さず-新司法試験問題「漏洩」疑惑

■択一試験に関する「疑惑」

慶応大学法科大学院の教授が、どのような「問題漏洩」行為をしたのかは新聞報道からは良く判りません。「判例を知らせた」という報道から、私は「沢山(10くらい)の憲法・行政分野の判例のリストが送付されたのかな」と思っていました。そうであれば、「漏洩とは言えないかな」と思っていました。

でも、次にアップされているような内容が、仮に事実であれば、そんな生やさしいものではないようです

平成18年度重判による憲法択一漏洩疑惑

http://www34.atwiki.jp/vipepper/pages/30.html

・疑惑の全貌

2007年4月11日、慶応大学ロースクールの答練受講者に対し、答練を主催する、現在は疑惑の渦中にいる考査委員の教授から、一通のメールが送られた。

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From: ".... ......" <......@....>
Date: 2007年4月11日(水) 午前10時42分
Subject: H18重判の判旨ポイント(行政法)
修了生の皆様

平成18年度の重要判例百選が刊行されたので、そのうち行政法関係で重要そうな 判例を幾つか選んで判旨ポイントを作りました(憲法から1件、行政法から5件)。行政1事件は租税法選択者以外は不要と思います。行政法4と5はちょっと個別的な話なので、とりあえず今年は後回しの扱いでいいでしょう。行政法9も(今 の段階では)やや事例判決的なものかと思います。

それではあと1月、直前の追い込みをがんばって下さい!

○○○○ 4月11日 
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本件メールには、このような重判レジュメが添付されていた。以下は、その抜粋である。

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平成18年度重要判例百選解説より行政法関係の重要判例の判旨ポイント集(速報)  

憲法3事件(P10) 国民健康保険料と憲法84条  (最高裁平成18年3月1日判決)
① 租税以外の公課であっても、賦課徴収の強制の度合い等の点において租税に類似する性質を有するものについては、憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきである。
② 国民健康保険の保険料には憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきであるが、賦課要件がどの程度明確に定められるべきかは、賦課徴収の強制の度合いのほか、社会保険としての国民健康保険の目的、特質等をも総合考慮して判断する必要がある。
③ 本件条例が市長に保険料率の決定及び告示を委任したことは国民健康保険法81条違反とはいえず、憲法84条の趣旨に反するともいえない。
(注:国民健康保険の費用は税(保険税)として徴収する方式もあるが、本件は保険料方式についての判示である。)
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そして、1ヵ月後の第二回新司法試験の初日、択一試験が行われる5月15日のことである。
このメールとレジュメを受信し、考査委員の指示通りに学習していた学生は、我が目を疑ったことであろう。

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〔第18問〕(配点:2)
市町村の国民健康保険条例に保険料率などの具体的規定がないことと租税法律主義を定めた憲法第84条との関係について判示した最高裁判所の判決(最高裁判所平成18年3月1日大法廷判決,民集60巻2号587頁)に関する次のアからエまでの各記述について,正しいもの二つの組合せを,後記1から6までの中から選びなさい。(解答欄は,[№40])
 http://www.moj.go.jp/SHIKEN/SHINSHIHOU/h19-19-01jisshi.pdfより引用。
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重判レジュメでは、学習すべき憲法の判例が「一つだけ」指摘されていた。
そして、その「一つだけ」指摘された憲法の判例が、択一の憲法に出題されていたのである。

■もっとも上記のWEBで、ちょっと疑問

「平成18年度重要判例百選」と書いている部分です。これはきっと、ジュリストの「平成18年度重要判例解説」のことなのでしょうね。

それとも「平成18年度重要判例百選」という判例雑誌があるのでしょうか?(・・・私が無知なだけ?)

でも、「ジュウハン」と言えば、ジュリストの各年度「重要判例解説」のことです。
私の時代の司法試験受験生の間では、重要判例解説を見て、来年度の司法試験の問題を予想して対策をたてるのは「常識」でした。その「ジュウハン」から上記のように絞り込んで勉強できれば、しかも司法試験委員がポイントまで要約してくれれば、こんなに有利なことはありませんよね。

でも「重要判例百選」って書いている、このメールは本物の再現なのでしょうか?「百選」って書いたのは、単なる書き違いなのでしょうかね。慶応法科大学院の教授で、考査委員なのに、こんなケアレス・ミスしますかね?(私はしょっちゅうだけど)。ちょっと上記メールを本物と断定するには躊躇が残ります。

■法務省は調査結果の報告を

もっともこの件は、疑惑の教授が、自分の法科大学院の「合格者を維持したくてやった」と、「動機」を「自白」した(と報道されている)点が大きな特徴です。

法務省は、調査結果を公表すべきです。どのような答案練習会が行われ、どのようなメールがなされたのか全体を明らかにすべきです。法務省が行わなくとも、慶応大学法科大学院がオープンにするべきでしょう。また、法務省は、採点調整をしない理由を公式に発表・報告すべきです。

今後は、国会でも取り上げられるようです(民主党の議員が質問書を出しているそうです)。また、日弁連の法科大学院センターも調査を開始すべきですねやはり、法科大学院の教授は考査委員にしてはならないと思います。法学部の教授ならセーフだと思いますが(答案練習会や受験指導を行わないことを条件)。

もし他ロースクールでも当たり前の雰囲気があるなら、上記の抜本的な対策を実施すべきでしょう。法務省、文科省、大学は臭いものに蓋をするという対応をするはずです。日弁連は及び腰にならないように願います。

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2007年8月 3日 (金)

李下に冠を正さず-新司法試験問題「漏洩」疑惑

■慶応大学法科大学院教授の新司法試験「漏洩」問題

件の教授は「李下に冠」を正したのでしょうか、それとも本当に「李(すもも)」に手を出してしまったのでしょうか? 

読売新聞で次のように報道されています。(読売新聞8月3日)

 今年の新司法試験で出題・採点を担当する「考査委員」を務めた慶応大法科大学院の植村栄治教授(57)が、事前に試験の類題を教えていた問題で、法務省は3日、「慶応大の学生に有利な結果をもたらしたとは認められない」として、得点調整を行わないと発表した。

■「漏洩」疑惑

問題の行為は次のようなものだそうです。

 今年5月に実施された新司法試験では、慶応大法科大学院の修了生271人を含む4607人が受験。行政法分野の考査委員だった植村教授は2~3月、試験に向けた答案練習会を同法科大学院で7回開催し、関連する判例などを学生に一斉メールで送っていた。

 法務省が今回、メールの内容を調べたところ、「重要そうなもの」と紹介された国民健康保険料に関する判例が、マークシート式の短答式試験でそのまま出題されたことが確認された。採点が終了しているこの問題の正答率を分析した結果、20%台だった全体平均(慶応を除く)に比べ、慶応の修了生の平均は4~5ポイント高かった。

 ただ、慶応よりも正答率が高い法科大学院も12校あり、同省は「受験者なら当然勉強しておくべき重要な判例で、慶応の正答率が不自然に高いとは見えない」と判断した。

他の法科大学院との比較だけでなく、慶応の受験生の他の問題の正答率との比較はどうだったのでしょうね。もし、他の問題の正答率は平均的なのに、当該問題が顕著に高ければ「漏洩」の効果があったということでしょうから。

■論文試験について

 また、植村教授が事前に判例を教えた、外国人の退去強制処分に関する問題も、論文式試験で出題されていた。論文式は採点が終わっていないが、同省は「この判例を知っていたから試験で有利になるとは言えない」とし、採点面での考慮はしないという。

確かに重要な判例であれば有名ですから、皆知っていて当たり前です。論文試験では判例を知っていただけで高得点につながるわけではありません。また、慶応の受験生が全員答練を受けていたかどうかを調べなければなりません。このような事情調査は難しいですから、採点調整するのは無理でしょうね。(他の法科大学院の受験生の気持ちはおさまらないでしょうが。)

■抜本対策-法科大学院教授は考査委員にしない

法科大学院では「法曹倫理」を強調しているにもかかわらず、この問題を一人の教授の不祥事に矮小化させて、蓋をしてしまうのは許されないと思います。(なお、植村教授は懲戒解雇ではなく、辞職を許されたそうです。常識的な感覚からすると、極めて寛大な措置ですね。)

このような問題が発生した以上、法科大学院教授が司法試験委員の考査委員を担当することを止めるべきでしょう。実務家が問題を作るしかないでしょうね。(実務家にとっては余計な負担ですから、法務省や裁判所は嫌がるでしょうけど。もともと実務法律家試験ですから。)

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