トンネルじん肺 政府との合意成立,全面和解へ 2007年6月18日
■政府との合意成立
トンネルじん肺根絶訴訟について,ついに政府との間で,トンネルじん肺防止対策の強化をすることを政府に約束させて全面解決をすることになりました。
本日,首相官邸で原告団・家族会が安倍総理大臣と面談し,その上で,厚生労働省,農林水産省,国土交通省,防衛施設庁との間で,「トンネルじん肺防止対策に関する合意書」を締結したのです。
来る6月20日,午後2時30分に東京高裁101号法廷にて和解を成立させます。その後,順次,全国10地裁,3高裁にて国との間での和解を成立させていきます。
■安倍総理のトンネルじん肺根絶に向けての決意
首相官邸の会議室にて,安倍総理の前で原告団長の船山友衛さん,家族会会長の山崎眞智子さん,弁護団長の小野寺利孝弁護士が挨拶しました。
安倍総理大臣は,次のように応えてくれました。
「じん肺のためにつらい苦しい思いをしてこられた患者の皆さん、家族の皆さんに対し、心からお見舞い申し上げる。すでに亡くなられた方々と、そのご遺族の皆さまに哀悼の誠をささげたい」
「原告団の意見も十分くみ取るよう厚労省はじめ関係省庁に指示し、与党とも十分に相談しながら、合意を目指して努力したいと申し上げた。その結果、じん肺対策の一層の強化策がまとめられ、合意に至った」
「じん肺が今後起こらないよう決意したところだ。じん肺対策の強化策が合意できたのは我々の喜びだ」
「現場で働いている方々にもしっかりした対策がとられるようにしたい。皆様の気持ちを無駄にすることのないよう、じん肺防止策を進め、じん肺の起こらない日本にしていきたい」
「じん肺に苦しまれた人々の気持ちを無駄にすることなく,じん肺防止対策を万全に行って二度とじん肺が起こらないよう決意した。」
同席した柳澤厚労大臣も最新の知見と技術でじん肺防止対策を検討することを表明しました。
■トンネルじん肺防止対策に関する合意書の調印
同日午後2時30分に,衆議院第1議員会館第2会議室で「合意書」の調印を行いました。自民党じん肺議連会長の逢沢一郎議員,事務局長の萩原誠司議員,事務局次長の北村茂男議員,公明党じん肺PTの漆原良夫議員が立会人となり,厚労省の青木豊労働基準局長をはじめ,農水省,国交省,防衛施設庁の幹部が調印式に同席しました。
この合意書は次のとおりです。
この政治解決に至る経過は次のとおりです。(以下に続く)
■トンネルじん肺訴訟の10年
2002年11月22日に東京地裁に根絶訴訟を提訴してから,4年7ヶ月での全面解決です。国を被告とする大規模穀賠集団訴訟(全国の原告数は969名)としては,極めて早期の全面解決となったと言えます。
この根絶訴訟の前には,1997年5月19日,ゼネコンのみを被告として東京地裁に提訴した全国トンネルじん肺訴訟(23地裁に提訴し,原告数は1477名)がありました。東京地裁でゼネコンと全面和解したのが2001年2月15日です。ですから,私は,この10年間,トンネルじん肺訴訟を担当してきたことになります。
私も根絶訴訟弁護団事務局長として,首相官邸での総理発言,調印式に出席できて感無量です。
■トンネルじん肺の「政府合意」の意義
トンネルじん肺根絶訴訟は,東京地裁,熊本地裁,仙台地裁,徳島地裁,松山地裁で5連勝しました。このまま訴訟を続けていれば,残りの6地裁でも国は全敗することになったことでしょう。しかし,1審で全勝しても控訴され,最高裁まで争われることは必至です(全国8高裁で審理されることになる)。最高裁判決が確定するまで,どんなに早くても6~7年はかかってしまいます。それでは,重症なじん肺患者の原告の多くは最終決着を見ることができなくなります。
原告らは,先行訴訟である全国トンネルじん肺訴訟での和解基準に従い,元請ゼネコンから和解により損害賠償を獲得しています。そこで,国がトンネルじん肺防止対策を抜本的に強化し,(粉じん測定の義務づけなどの)粉じん障害防止規則を改正することを約束することで全面和解をする(原告は国に対する賠償請求を放棄する)ことを決断したのです。
●原告団・弁護団などの声明は次にアップしておきます。
「tonnneruseimei07618.jtd」をダウンロード
■政治解決に向けての昨年からの動き
政治解決に向けて,2006年7月7日の判決直後から,公明党のじん肺プロジェクトチーム(座長漆原良夫議員,顧問 坂口力議員)が積極的に動き出しました。また,自民党の新政治研究会の勉強会に呼ばれて,トンネルじん肺問題を原告の皆さんと訴えたのが昨年の9月26日です(日弁連の仕事以外で自民党本部に呼ばれたのは初めて)。その後,11月に自民党内にじん肺対策議員連盟が結成されました(会長:逢沢一郎議員,事務局長:萩原誠司議員,事務局次長:北村茂男議員)。野党の民主党,共産党,社民党も全面的に支援をしてくれました。
この動きを作ったのは,原告団と家族会の国会議員への要請行動です。なんと526名の議員の賛同署名を集めたのです。根絶訴訟の原告5連勝(国の5連敗)の判決の「司法の力」と「政治の力」でトンネルじん肺防止のための省令改正をさせることができました。まさに,じん肺患者の原告団と家族会が議員と政府を動かしたのです。
■厚労省の抵抗と「政治の力」
最後の最後まで,厚労省は徹底的に抵抗しました。「5地裁の判決は間違っている。」「省令の改正は,判決の結果でなく厚労省独自の判断でやる」との姿勢に固執していました。厚労省は,原告団や弁護団の顔を見るのもイヤという対応でした(まったく失礼な連中や!他省庁はそんな子供じみた対応をしないのに…。)。ちなみに,労働政策審議会には,「」じん肺部会」もあるのですが,我々の要請にはまったく応えてくれませんでした。
しかし,首相官邸の強い方針で,厚労省とトンネル工事の発注機関である国交省,農水省,防衛施設庁は政策を転換せざるえませんでした。この政治解決に当たって,公明党のPTの地道な取り組みが先行し,その後,自民党議連が発足しました。「政権与党のパワー」と与党議員の皆さんの「力量」を目の当たりにして正直感心しました。やはり,「政治の力は凄い」と素直に思いました。(それを引き出したトンネルじん肺根絶訴訟の小野寺利孝弁護団団長や山下登司夫弁護団幹事長の「胆力」「技と芸」にも舌を巻きました。)
■今後の課題
この「合意書」で約束したことを厚労省や国交省等が確実に履行するか否かを検証しなければなりません。いわば「合意書」は出発地点であり,その合意内容の確実な履行が求められています。彼ら官僚(特に,厚労省)は,原告団や弁護団を「敵」としか考えていませんでしたから,安心はできません。さらに監視運動を怠らないようにしたいと思います。
また,今後新たに発生するトンネルじん肺患者が,裁判を提訴することなく,早期かつ簡易に補償を受けられるように「トンネルじん肺基金」を創設することが残された課題です。トンネルじん肺第二陣訴訟(東京地裁,熊本地裁,仙台地裁)では,国と和解しても,100社以上の元請ゼネコンを被告とする訴訟が係属しています。ここを舞台にしてトンネルじん肺基金とADRを創設することが次の課題です。
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