規制改革会議の第一次答申と経済財政諮問会議2007年方針(素案)の労働・雇用分野
■規制改革会議の第一次答申
平成19年5月30日,規制改革会議から「規制改革推進のための第一次答申-規制の集中改革プログラム-」が発表されました。
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/publication/2007/0530/item070530_02.pdf
規制改革会議とは,内閣府設置法に基づく内閣府本府組織令38条にて設置され,同令39条により,「 経済に関する基本的かつ重要な政策に関する施策を推進する観点から、内閣総理大臣の諮問に応じ、経済社会の構造改革を進める上で必要な規制の在り方の改革(国及び地方公共団体の事務及び事業を民間に開放することによる規制の在り方の改革を含む。)に関する基本的事項を総合的に調査審議すること」をつかさどる機関です。現議長は草刈隆郎・日本郵船社長。
■消えた労働タスクフォースの提言
上記第一次答申では,雇用・就労分野は,労働法制について全く触れられていません。なんと,規制改革会議の下の労働タスクフォース(主査・福井秀夫政策大学院教授)が5月21日に発表した「脱格差と活力をもたらす労働市場を~労働法制の抜本的見直しを~」がすっぽりと抜け落ちています。
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/publication/2007/0521/item070521_01.pdf
福井秀夫・労働タスクフォースは,「労働市場における規制を見直し,誰にとっても自由で開かれた市場にすることこそ,格差の是正と労働者の保護を可能とし,同時に企業活動も活性化する」との確信のもとに,「過度に女性労働者の権利を強化すること」に反対し,「労働者の権利を強めれば,労働者の保護になる」というのは「神話」だと論難し,また,労働市場に労働法や判例による介入や,画一的な数量的規制(例えば,就業率や労働時間)などの規制を撤廃することこそが,「根源的な政策課題」であり,「ごく初歩的な公共政策」だと主張していました。
(まさに「リバタリアン」の面目躍如。ハイエク=フリードマン流のシカゴ・ボーイズってわけですね。「国家の品格」の著者の藤原正彦氏に言わせれば「論理を振り回す愚か者」となるのでしょうか。http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2006/03/post_33a2.html)
この労働タスクフォース提言は,さすがに参議院選挙前だから,ボツにされたようです。自民党の人たちは,福井秀夫・労働タスクフォースの提言には,苦々しく思ったでしょうね(「まったく,だからイヤなんだよ。政治音痴の学者は!」ってね。「日経連」の人たちからは「現場を知らないamemkoukabure」とか言われているんでしょうな。)
■経済財政諮問会議 基本方針2007年
6月4日に発表された経済財政諮問会議の「基本方針2007年(素案)」では,「労働市場改革」として次のような提言をしています。http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2007/0604/item6.pdf
(1)「憲章」及び「行動指針」の策定
経済財政諮問会議「労働市場専門調査会」,男女共同参画会議,仕事と生活の調和(ワークライフバランスに関する専門調査会」,「子どもと家族を応援する日本」重点戦略検討会議の提言等を津妻絵,関係府省の連携の下,平成19年内に目処に「憲章」及び以下の内容を含めた「行動指針」を策定する。
・就業率向上や労働時間短縮などの数値目標
・ワークライフバランス社会の実現度を把握するための指標の在り方
・ワークライフバランスの実現に向けた支援施策,制度改革等に関する政府の横断的な政策方針
・経済界・労働界を含む国民運動の推進に向けた取組方針(2)労働市場改革についての検討
専門調査会において,労働市場改革をめぐる課題について引き続き検討を進め,その報告等を踏まえ,経済財政諮問会議で議論を行う。
ちなみに,経済財政諮問会議とは,内閣府設置法18条に基づき,「内閣の重要政策に関して行政各部の施策の統一を図るために必要となる企画及び立案並びに総合調整に資するため、内閣総理大臣又は内閣官房長官をその長とし、関係大臣及び学識経験を有する者等の合議により処理することが適当な事務をつかさどらせるための機関」として設置されたものです。議長は安倍晋三・内閣総理大臣。
「第一次答申」と,「基本方針2007年(素案)」を読む限り,労働市場改革=労働法制改革については,主導権は経済財政諮問会議に移ったように読めます。
■労働市場改革専門調査会
今後の注目は,労働市場改革専門調査会の第1次報告がどのようなものに収斂するかということでしょう。
http://www.keizai-shimon.go.jp/special/work/07/item1.pdf
「リバタリアン」の親玉である八代氏と数少ない規制改革推進派の労働法学者(労働法否定の希有な労働法学者)の小嶌氏がリードしつつ,それに「浪花節」的な日本温情主義のオブラートにくるんだ労働市場政策になるのではないでしょうか。秋に取りまとめられる労働市場改革専門調査会の報告書は,福井・労働タスクフォースの提言を取り込んだ内容になるのかもしれません。もっとも,参議院選挙の結果次第なのかもしれません。
が,しかし。参議院選挙も,結局,自民党が政権維持をする可能性が高いでしょう。仮に,自公が過半数割れして,衆議院解散となって,仮に民主党が政権とっても規制改革路線は変わらないでしょう。(岡田→前原→)小沢・民主党の本質は小泉・安倍政権と差があるとは思えません。
もっとも,日本の民主主義ためには,せめて民主党政権に交代したほうが良いのでしょう。(私の個人的印象では,民主党って,ゴロツキと若造の寄せ集めの政党という感じです。それでも,政権交代は,無いよりかあったほうが良いでしょうから。)
どちらにしても,労働運動の力が弱まる中,労働法制に関する政策論争が,いよいよ重要になってくるのでしょう。(日本では,少子化問題にどう対応するかが重要なポイントとなるように思います。)
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