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2007年5月23日 (水)

規制改革会議「脱格差と活力をもたらす労働市場へ」を読んで

■労働タスクフォース
福井秀夫センセイが主導する,規制改革会議の再チャレンジワーキンググループ・労働タスクフォースが5月21日に意見書を提出しました。
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/publication/2007/0521/item070521_01.pdf

具体的な内容は,「解雇規制の緩和」や「派遣労働の自由化」などなど,八代尚宏教授の二番煎じでしかありません。今更コメントする価値もないほど低い水準の内容です。関連な論点については過去にブログで関連して意見を述べました。
http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2007/01/post_f2d6.html

ただし,大変に面白いのは,労働政策審議会や裁判所の労働判例を主要な敵と位置づけて,激しく攻撃している点です。

■快刀乱麻
いやあ,規制改革会議の怪傑【労働タスクフォース】は,次のとおり,右も左も滅多斬りですかえって,なんだか彼らの焦りを感じちゃいます…。(敵を多くするのは政治的には下策でしょうに。)

労働市場に対して法や判例が介入することには根拠がなく,画一的な数量規制,強行規定による自由な意思の合致による契約への介入など真に労働者の保護とならない規制を撤廃することこそ,労働市場の流動化,脱格差社会,生産性向上などのすべてに通じる根源的な政策課題なのである。

行政庁,労働法・労働経済研究者などには,このような意味でのごく初歩的な公共政策に関する原理すら理解しない議論を開陳する向きも多い。

また,判例の集積をそのまま立法化することを当然視したり,判例の動向と異なる立法を行うことを忌避しようとしたりするなど,判例と立法の関係に関するこれまでの一部行政や研究者の捉え方にも問題が多い。

要するに,従来の裁判所の判例と労働法学者に主導され,労使の代表者で構成された労働政策審議会を,政府の部局としては珍しく,口を極めて非難している(何しろ,初歩的な公共政策を理解していないとまで言うのですから)。

数値目標を非難しているところを見ると,経済財政諮問会議の労働市場専門調査会の第一次報告書(案)で「完全週休二日制の100%実施,年次有給休暇の100%取得,残業時間の半減を通じてフルタイム労働者の年間労働時間を1割短縮することを目標に働き方の効率化を図る。」の提言を非難しているとも読み取れます。(きっと牽制しているつもりなのでしょうね)。

経済財政諮問会議の労働市場専門調査会の「第一次報告書(案)」の「総論」は,福井センセイの提言と比較すると,随分,ニュアンスが異なります。(http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2007/04/post_ef1a.html 旧来の日本的労使関係の否定側面を正鵠に突いた提言だと思います)。もっとも,これは,参議院選挙前だからであって,参議院選挙後には,労働市場専門調査会から酷い内容の報告が出てくるとの観測もありますが。

新自由主義政策の先兵である「規制改革会議」にとっては,「労働政策審議会」や伝統的な労働判例を形成してきた「裁判所」は,「獅子身中の虫」というわけなのでしょう。規制改革会議は「国家の右手」の先兵で,労働政策審議会や裁判所の労働判例は,「国家の左手」というわけですね。

■自由な労働市場
日本の若い労働者諸君は,自由という美しい言葉で,ワーキングプアという蟻地獄に引き込まれるのでしょうか。
福井秀夫的,大竹文雄的な「自由な労働市場」では,高度な能力をもったプラチナカラーの労働者群と,その他大勢のスキルアップ,キャリアアップの機会を奪われたノン・エリートのブルー・カラー,グレー・カラー,ホワイト・カラーの不安定雇用労働者群に別れることは間違いないでしょう。

■君子豹変
ちなみに,共産党は,[最高裁判例までもけ散らすようなとんでもない議論だ。あまりに異常だ]と非難しているようです。http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2007-05-23/2007052302_03_0.html 

へー。共産党も,最高裁判例を高く評価するんだ(日本は「ルールなき資本主義」だったと強調してきたし,「就業規則の不利益変更法理」は使用者の一方的な労働条件変更の手段だと決めつけていたのに)。いつから方針を変更したのでしょうかね。

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