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2007年5月13日 (日)

読書日記 「市場独裁主義批判」ピエール・ブルデュー著(藤原書店)

■再読…10年前の発言だけど・・・


今月のフランス大統領選で,昔,読んだピエール・ブルデューの「市場独裁主義批判」を思い出しました。トンネルじん肺訴訟の長野地裁への出張の往復の新幹線車中で再読しました。フランスでは1998年に出版。日本では2000年7月に出版されています。

■社会的既得権

彼は約10年前に次のように発言しています。

ネオ・リベラリズムとは,もっとも古臭い経営者のもっとも古臭い考え方がシックでモダンなメッセージという衣装をまとって復活したものです

今日,ヨーロッパ諸国民は彼らの歴史の転換点に立っています。それは,数世紀にわたる社会闘争,労働者の人間的尊厳を守るための知的・政治的たたかいの成果が真っ向から脅かされているからです。

社会的既得権益は「グローバリゼーション」を口実に破壊するのではなく,普遍化すべき,全世界に拡大すべき,まさにグローバル化すべき成果です。

カントやヘーゲル,モーツアルトやベートーベンのような人類の文化的既得財産の擁護を保守的だと断罪する者がいるでしょうか?
多くの人々がそのために苦しみ,たたかった社会的既得権,つまり労働法や社会保障制度はそれと同じように高貴で貴重な成果です。

労働法や社会保障制度を,モーツアルトやベートーベンと同じ「社会的財産」だ!と言い切る姿勢にびっくり(ア・ラ・ラア ちょっとキザ)。

今回の大統領選挙でのフランス左翼が統一して、約47%の得票を得たことは,彼のたたかいが大きく前進したということになるのだと思います(前回はル・ペンに負けたのだから)。

■不安定化路線・弾力的搾取

フランスでも,この社会的既得権の擁護を主張する者らは,「既得権擁護の守旧派」とし攻撃されているようです。彼は「もっとも野蛮な経済勢力の味方になって非難する者たちを前にして憤激を抑えることができない。」と書いています。

不安定就労は新しいタイプの支配様式の一環なのです。労働者に従順を強い,搾取を受入させることを目的に全体的・恒常的な不安感を土台とする支配様式です。

彼は,これを「弾力的搾取」(フレクスプロワタシオン)とか,「不安定化戦略」(プレカリザシオン)と呼んでいます。

不安定就労を余儀なくされ,失業の屈辱に追いやられる脅威にさらされている労働者が,指揮統率の仕事を約束されている一流校出身の大貴族と,実務を執行するだけの,そして常に実力を証明することを求められているがゆえに首をさらした状態にある事務職・技術職の小貴族との関係で自己規定をおこなうとすれば,彼らが抱きうるのは個人としての自分と,自分の属するグループについての幻滅以外のものではありえない。かつては伝統に深く根を下ろし,豊かな技術的・政治的遺産を継承して,誇りに満ちていた労働者集団は士気喪失と価値低下,政治的無関心を余儀なくされている。それが活動家の欠乏という形であらわれている。さらには極右政党の主張への加担という絶望となって現れている。

力強い伝統をもったフランスの労働運動でさえ,上記のような衰退の道をたどっているのですね。(日本なんか、影も形もなくなって当たり前か)。しかし,彼はあきらめる必要はないと言っています。

「市民団体,労働組合,政党が,国民国家,ヨーロッパ国家」を通じて,公共の利益を実現する。「金融市場で挙げた利潤を有効に管理し課税することができる国家。また特に,金融市場が労働市場に及ぼす破壊作用を阻止することができるのは「国家」である

■国家の左手

彼はこれを「国家の左手」と呼んでいるようです。このあたりは中央集権国家フランスらしいのかもしれません。
日本でも,「国家の左手」があったのでしょうか。あったとしても,労働運動と同じく消滅の寸前なのでしょうね。

彼は2002年1月に72歳で亡くなっています。

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