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2007年5月29日 (火)

IBM 会社分割事件 横浜地裁H19.5.29判決

■会社分割と労働契約承継に関する初めての判決
会社分割に際して,設立会社等に承継させられた労働者が,商法附則5条の協議違反などを理由として,分割会社に対する労働契約上の地位確認を求めた事案で,横浜地裁が判決を言い渡しました。この種の事案での初判決だと思います。

■日本IBMハードディスク部門会社分割事件
2002年,日本IBMがハードディスク(HDD)事業部門を会社分割をした上で,その持株を全て日立製作所に譲渡しました。その結果,HDD事業部門に所属していたIBM従業員800人が新たに設立された日立GST社に承継させられました。

旧商法の会社分割法制及び労働契約承継法に基づいて,労働契約の承継手続が行われましたが,IBM従業員15名が,同意なき労働契約承継は違法だとして日本IBMに対して地位確認及び損害賠償請求を求めて提訴した事件でした(提訴2003年5月20日)。

■原告らの主張
原告らは,主として次のように労働契約承継の違法性を主張しました。

(1)日本IBMは,旧商法附則5条の個別協議及び労働契約承継法7条の集団協議を十分に行わなかった故に,民法625条の原則にもどって労働者の同意が必要であること。

(2)労働契約承継法には明文では認められていないが,憲法22条1項等を根拠とする「使用者選択の自由」に基づく「承継拒否権」を有していること。

(3)本件会社分割は将来の展望のない「泥船」であり,労働条件の不利益変更を狙,ったもので権利濫用であること。

■横浜地裁判決
  判決要旨 「IBMJHDDyokohamahanketuyoushi.pdf」をダウンロード

横浜地裁(吉田健司裁判長)は,2007年5月29日に,原告の請求を全面的に棄却する判決を言い渡しました。

○旧商法附則5条協議,労働契約承継7条協議について

会社分割の無効事由が認められない限り,会社分割の効果である労働契約の包括的承継自体の無効を争う方法はない

仮に7条措置(労働契約承継法7条の「理解と協力」を得る努力義務)の不履行が分割の無効原因となり得るとしても,分割会社が,この努力を全く行わなかった場合又は実質的にこれと同視し得る場合に限られる

5条協議(旧商法附則5条の個別協議)を全く行わなかったということはできないし,また,実質的にこれと同視し得る場合であると評価することもできないから,会社分割の無効の原因となるような5条協議違反があるということはできない

法解釈上は,無効原因がある場合にのみ,労働契約承継が違法無効となるという構成です。ここは議論を呼ぶところでしょう。つまり,労働契約承継が否定されるケースというのは会社分割が無効になるような場合だけ。まずそんな事態はあり得ないという結論になってしまいます。

旧商法附則5条による個別協議義務や労働契約承継法7条の理解と協力を得る努力義務という手続を,全く行わなかったような場合にだけ,労働者の移籍が強制されないということです。協議が全く行われないとか,それと同視し得るような事態は,ほとんどあり得ないでしょう。

また,5条協議や7条措置が,民法625条の代替措置という構成を,はっきり否定しています(国会審理では修正案の提案者(民主党の北村議員ら)は5条や7条を「代替措置,補完措置」と明言していました。)。代替措置というなら,5条協議違反や7条措置違反の場合には,民法625条の同意原則にもどるという解釈があり得るのですが,それも裁判所は否定しました。違反しても,労働契約が承継されるのであれば,形だけのアリバイ的な協議だけが行われることになります。そのようなものが労働者保護の名には値しません。

○承継拒否権について

憲法22条1項の職業選択の自由には,…従業員の使用者選択の自由も含まれると解することができる。

しかしながら,旧商法及び労働契約承継法における会社分割は,労働契約を含む営業がそのまま設立会社等に包括承継されるものであり,当該労働契約は,分割の効力が生じたときに当然設立会社に承継されるのであるから,承継営業に主として従事していた労働者の担当業務や労働条件には変化がないこと,そのため,労働契約承継法においては労働者の同意を移籍の要件としていないことなどからすれば,分割会社の労働者は,会社分割の際に設立会社等への労働契約の承継を拒否する自由としては,退社の自由が認められるにとどまり,分割会社への残留が認められる意味での承継拒否権があると解することはできない

このような立法は,企業の経済活動のボーダレス化が進展して国際的な競争が激化しグローバル化が急速に進行する社会経済情勢の下で,企業がその経営の効率化や企業統治の実効性を高まることによって国際的な競争力を向上させるために行う組織の再編に不可欠の制度として整備されたものであって,その目的において正当であり,また,労働者保護の観点から,労働者・労働組合への通知(労働契約承継法2条),労働契約承継についての異議申立手続(同法4条,5条),7条措置,5条協議を定めていることからすれば,上記立法は合理性を有する。したがって,旧商法の会社分割の規定及び労働契約承継法中に承継の対象となる労働者について承継を拒否できる旨の規定がないことをもって,違憲・違法となるものではない。

退社の自由があるから,使用者選択の自由の保障されていると言うのです。

なお,EU企業譲渡指令に関しては,次のように判断しています。

EUの企業譲渡における労働者保護指令中の雇用関係の自動移転条項の解釈として,移転を望まない労働者が譲受会社での就労を強制されないとして就労拒否の自由があることは認められるものの,当然に,譲渡会社との雇用関係が維持されるものではないと解されているのであって,原告らの主張を根拠づけるものではない。

しかし,EC司法裁判所は,承継拒否権の効果は加盟国の国内法に委ねられているとしています。つまり,労働契約の承継の効果を阻止した上で,分割会社との間の労働契約が存続するか否かを検討すべきでしょう。ドイツでは改めて分割会社が解雇(経営上の理由による解雇)ができるかどうかを検討することになります。イギリスでは,同意がないことを辞職の申し出と解釈するわけです。

日本の労働法理ではどうなるかが問われたはずですが,横浜地裁は十分な判断をしていません。

■IBMの「企業再編」の実態について
日本IBMは,HDD事業だけでなく,その製造事業部門の多くを,日本の代表的企業に,会社分割などの方法により譲渡してきました。

日立GST社は,2003年以降の連続営業赤字で累積赤字は1202億円にものぼります。皮肉なことに,判決当日の5月29日の朝日新聞は,「事業の一部の売却や撤退などを迫られる可能性が出てきた」と報じています。大幅なリストラが危惧されます。

半導体部門をエプソンに譲渡し,パソコン部門をレノボに譲渡し,プリンター部門をリコーに譲渡しています。しかし,エプソンの半導体部門は失敗して会社解散し,多数の労働者が失業しました。レノボでも生産部門の縮小され,労働者の雇用が失われようとしています。この雇用危機は,労働組合が当初から指摘し,多くの労働者が不安に思っていたことが現実となったものです。

他方で,IBMは情報システム会社として大幅な利益をあげています。経営者側は,労働者の雇用が失われることを企業再編の結果ではなく,当該製造事業が国際競争において敗北した結果だと言うのでしょう。

日本企業は,IBMにババをつかませれて,やられっぱなしです。しかし,そのツケは経営者や株主ではなく,労働者が失業や労働条件低下としてツケを押しつけられることになるのでしょう。

■控訴
今後,控訴をして,東京高裁で審理が続くことになるでしょう。
今年秋の労働法学会では「企業再編」がテーマだそうですので,この判決が批判的に検討されることを願います。

(過去関連ブログ http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2006/10/post_869a.html

ちなみに,会社法改正によって,会社分割は,旧商法時代から比較しも,よりいっそう簡単に実施できるようになっています。債務超過の会社分割も行えるし,また,事業を承継させる必要もないことになってしまいました。

横浜地裁判決は次にアップしておきます。

「IBMyokohamatisaihanketu.pdf」をダウンロード

原告団,労組の声明は次のとおりです。

「IBMJMIUseimei.pdf」をダウンロード

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2007年5月26日 (土)

読書日記 「偽装請負」朝日新聞特別報道チーム 朝日新書

この本,朝日の記者にいただきました。また,メル友(?)の記者が取材チームにいたことを知ってなんだかうれしかった。

朝日新聞の「残業代ゼロ制度」と「偽装請負」というキャッチフレーズは,新自由主義の労働法制規制緩和に痛撃を加えました。(日本経団連の年収400万円のホワイトカラー・エグゼンプションは見事なオウンゴールでした。福井秀夫センセイの労働タスクフォースもオウンゴールだし,そうさせたいね!)

ジャーナリスト諸君,「お見事」でした。
御手洗氏の日本経団連会長就任を狙って攻勢にでたタイミングも素晴らしかった。(勘助は誰だったのでしょう?)

新聞記者らの特別報道チームらしい報告書です。事実にこだわり,当事者にくらいつく点に共感します。

でもでも,ジャーナリストの努力の背後には,労基法違反や労災とたたかう地道な労働者と労働運動があったからこそ社会的問題になったのです。

将来に希望のもてる人間らしい労働条件を求める「まっとうな労働運動」。それを広く報道するジャーナリズムが結び付く方向にしか,「衰退しつつある労働組合運動」が生き残る道はないのではないでしょうか。

でも,シンボリック・アナライザーとか,メディア・アナリストとか,そういう感性のある人物が労働運動に協力してくれないとダメなんでしょうな。

【閑話休題】
我が事務所の創設者であり,尊敬する故小島成一弁護士は,「良い争議は大きくしなさい。争議を大きく育てなさい。スターになる争議を持っていないと労働運動はダメになる。」と労働組合に言われていました。(他方,「キミイ! 死体を焼くような争議をいつまでやっているんだ。」と酷いことも言っていましたが。)

スターになる労働争議,労働運動,若者のユニオン・労働組合がたくさん出てきてほしいですね。

これから,そんな若い人たちがたくさん出てくるでしょう。そんな予感がしています。

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2007年5月23日 (水)

規制改革会議「脱格差と活力をもたらす労働市場へ」を読んで

■労働タスクフォース
福井秀夫センセイが主導する,規制改革会議の再チャレンジワーキンググループ・労働タスクフォースが5月21日に意見書を提出しました。
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/publication/2007/0521/item070521_01.pdf

具体的な内容は,「解雇規制の緩和」や「派遣労働の自由化」などなど,八代尚宏教授の二番煎じでしかありません。今更コメントする価値もないほど低い水準の内容です。関連な論点については過去にブログで関連して意見を述べました。
http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2007/01/post_f2d6.html

ただし,大変に面白いのは,労働政策審議会や裁判所の労働判例を主要な敵と位置づけて,激しく攻撃している点です。

■快刀乱麻
いやあ,規制改革会議の怪傑【労働タスクフォース】は,次のとおり,右も左も滅多斬りですかえって,なんだか彼らの焦りを感じちゃいます…。(敵を多くするのは政治的には下策でしょうに。)

労働市場に対して法や判例が介入することには根拠がなく,画一的な数量規制,強行規定による自由な意思の合致による契約への介入など真に労働者の保護とならない規制を撤廃することこそ,労働市場の流動化,脱格差社会,生産性向上などのすべてに通じる根源的な政策課題なのである。

行政庁,労働法・労働経済研究者などには,このような意味でのごく初歩的な公共政策に関する原理すら理解しない議論を開陳する向きも多い。

また,判例の集積をそのまま立法化することを当然視したり,判例の動向と異なる立法を行うことを忌避しようとしたりするなど,判例と立法の関係に関するこれまでの一部行政や研究者の捉え方にも問題が多い。

要するに,従来の裁判所の判例と労働法学者に主導され,労使の代表者で構成された労働政策審議会を,政府の部局としては珍しく,口を極めて非難している(何しろ,初歩的な公共政策を理解していないとまで言うのですから)。

数値目標を非難しているところを見ると,経済財政諮問会議の労働市場専門調査会の第一次報告書(案)で「完全週休二日制の100%実施,年次有給休暇の100%取得,残業時間の半減を通じてフルタイム労働者の年間労働時間を1割短縮することを目標に働き方の効率化を図る。」の提言を非難しているとも読み取れます。(きっと牽制しているつもりなのでしょうね)。

経済財政諮問会議の労働市場専門調査会の「第一次報告書(案)」の「総論」は,福井センセイの提言と比較すると,随分,ニュアンスが異なります。(http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2007/04/post_ef1a.html 旧来の日本的労使関係の否定側面を正鵠に突いた提言だと思います)。もっとも,これは,参議院選挙前だからであって,参議院選挙後には,労働市場専門調査会から酷い内容の報告が出てくるとの観測もありますが。

新自由主義政策の先兵である「規制改革会議」にとっては,「労働政策審議会」や伝統的な労働判例を形成してきた「裁判所」は,「獅子身中の虫」というわけなのでしょう。規制改革会議は「国家の右手」の先兵で,労働政策審議会や裁判所の労働判例は,「国家の左手」というわけですね。

■自由な労働市場
日本の若い労働者諸君は,自由という美しい言葉で,ワーキングプアという蟻地獄に引き込まれるのでしょうか。
福井秀夫的,大竹文雄的な「自由な労働市場」では,高度な能力をもったプラチナカラーの労働者群と,その他大勢のスキルアップ,キャリアアップの機会を奪われたノン・エリートのブルー・カラー,グレー・カラー,ホワイト・カラーの不安定雇用労働者群に別れることは間違いないでしょう。

■君子豹変
ちなみに,共産党は,[最高裁判例までもけ散らすようなとんでもない議論だ。あまりに異常だ]と非難しているようです。http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2007-05-23/2007052302_03_0.html 

へー。共産党も,最高裁判例を高く評価するんだ(日本は「ルールなき資本主義」だったと強調してきたし,「就業規則の不利益変更法理」は使用者の一方的な労働条件変更の手段だと決めつけていたのに)。いつから方針を変更したのでしょうかね。

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2007年5月17日 (木)

労働審判特集 二弁フロンティア 日弁連シンポ

■NIBEN Frontier MAY.2007 労働審判特集

第二東京弁護士会の会報「二弁フロンティア」2007年5月号に「労働審判手続の施行状況と運用」を掲載しました。

「nibenriberuterouduosinpan.pdf」をダウンロード

前編と後編の二回連載です。前編をアップしておきます。なお,岡口裁判官のホームページで紹介いただきました(アクセス数が急上昇して何事かと驚きましたが…笑)。後編はまた掲載します。

■日弁連 公開シンポ
労働審判制度-創設後1年間の実績及び今後の課題と展望-

5月24日に日本弁護士連合会労働法制委員会主催で公開シンポジウムを開催しますので,興味のある方はご参加下さい(予約制ではないので,当日受付可能です)。東京地裁民事第11部(労働部)の総括の佐村浩之判事も.,菅野和夫教授もパネラーーとして参加されます。
   ↓
http://www.nichibenren.or.jp/ja/event/070524.html

★ここだけの,耳よりな情報を・・・

本邦初公開,日弁連労働法制委員会の総力をあげて(?)集めた「労働審判解決事例集」(57ケース)が発表されます。
労働審判は非公開が原則ですので,なかなか公表されない貴重な資料です。

裁判所は審判事例を公表することに対して渋い対応です。家裁月報には家事審判例は匿名で掲載されているのだから,労働審判も工夫次第でしょう。(「情報公開の時代」なのに,相変わらず消極的ですな。)

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2007年5月13日 (日)

読書日記 「市場独裁主義批判」ピエール・ブルデュー著(藤原書店)

■再読…10年前の発言だけど・・・


今月のフランス大統領選で,昔,読んだピエール・ブルデューの「市場独裁主義批判」を思い出しました。トンネルじん肺訴訟の長野地裁への出張の往復の新幹線車中で再読しました。フランスでは1998年に出版。日本では2000年7月に出版されています。

■社会的既得権

彼は約10年前に次のように発言しています。

ネオ・リベラリズムとは,もっとも古臭い経営者のもっとも古臭い考え方がシックでモダンなメッセージという衣装をまとって復活したものです

今日,ヨーロッパ諸国民は彼らの歴史の転換点に立っています。それは,数世紀にわたる社会闘争,労働者の人間的尊厳を守るための知的・政治的たたかいの成果が真っ向から脅かされているからです。

社会的既得権益は「グローバリゼーション」を口実に破壊するのではなく,普遍化すべき,全世界に拡大すべき,まさにグローバル化すべき成果です。

カントやヘーゲル,モーツアルトやベートーベンのような人類の文化的既得財産の擁護を保守的だと断罪する者がいるでしょうか?
多くの人々がそのために苦しみ,たたかった社会的既得権,つまり労働法や社会保障制度はそれと同じように高貴で貴重な成果です。

労働法や社会保障制度を,モーツアルトやベートーベンと同じ「社会的財産」だ!と言い切る姿勢にびっくり(ア・ラ・ラア ちょっとキザ)。

今回の大統領選挙でのフランス左翼が統一して、約47%の得票を得たことは,彼のたたかいが大きく前進したということになるのだと思います(前回はル・ペンに負けたのだから)。

■不安定化路線・弾力的搾取

フランスでも,この社会的既得権の擁護を主張する者らは,「既得権擁護の守旧派」とし攻撃されているようです。彼は「もっとも野蛮な経済勢力の味方になって非難する者たちを前にして憤激を抑えることができない。」と書いています。

不安定就労は新しいタイプの支配様式の一環なのです。労働者に従順を強い,搾取を受入させることを目的に全体的・恒常的な不安感を土台とする支配様式です。

彼は,これを「弾力的搾取」(フレクスプロワタシオン)とか,「不安定化戦略」(プレカリザシオン)と呼んでいます。

不安定就労を余儀なくされ,失業の屈辱に追いやられる脅威にさらされている労働者が,指揮統率の仕事を約束されている一流校出身の大貴族と,実務を執行するだけの,そして常に実力を証明することを求められているがゆえに首をさらした状態にある事務職・技術職の小貴族との関係で自己規定をおこなうとすれば,彼らが抱きうるのは個人としての自分と,自分の属するグループについての幻滅以外のものではありえない。かつては伝統に深く根を下ろし,豊かな技術的・政治的遺産を継承して,誇りに満ちていた労働者集団は士気喪失と価値低下,政治的無関心を余儀なくされている。それが活動家の欠乏という形であらわれている。さらには極右政党の主張への加担という絶望となって現れている。

力強い伝統をもったフランスの労働運動でさえ,上記のような衰退の道をたどっているのですね。(日本なんか、影も形もなくなって当たり前か)。しかし,彼はあきらめる必要はないと言っています。

「市民団体,労働組合,政党が,国民国家,ヨーロッパ国家」を通じて,公共の利益を実現する。「金融市場で挙げた利潤を有効に管理し課税することができる国家。また特に,金融市場が労働市場に及ぼす破壊作用を阻止することができるのは「国家」である

■国家の左手

彼はこれを「国家の左手」と呼んでいるようです。このあたりは中央集権国家フランスらしいのかもしれません。
日本でも,「国家の左手」があったのでしょうか。あったとしても,労働運動と同じく消滅の寸前なのでしょうね。

彼は2002年1月に72歳で亡くなっています。

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2007年5月10日 (木)

サルコジ氏の勝因 仏大統領選挙

■サルコジ氏の勝因の一つ
フランス大統領選挙の結果を報じる記事に気になる記載がありました。

雇用・治安の改善託す 若者と高齢層,支持
     朝日新聞 2007年5月8日朝刊

ウエーター(ギャルソン?)のジョナタンさん(21)。「より働けば,より稼げる社会」を掲げ,週35時間労働制の緩和を説いたサルコジ氏の公約を手放しで歓迎する。…サルコジ氏は低賃金で働く者に語りかけた」

出口調査では働き盛りで安定した職に就いた人が多い35~59歳ではロワイヤル氏がやや優勢か互角。だが,不安定な雇用にさらされ,現状脱出を望む26~34歳と,治安の悪化に不安を抱く60歳以上の高齢層がどっとサルコジ氏に流れた。

この報道によると,フランス大統領選挙は,正社員や公務員の「安定雇用労働者」を,非正規雇用の「不安定雇用労働者」の「敵」のように描き出し対立させる政治手法が成功した例ということになります。

以前ブログで紹介したフランスの経済学者の主張【http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2007/05/eumay_day_ccf9.html】は,政治的には負けたということになってしまいました。

■八代尚宏氏の「労働市場改革」との共通性
これと同じことを主張しているのが,八代尚宏氏ですね(「健全な市場社会」への戦略)。

日本的雇用慣行は「平等な働き方」と言われるが,それは正確には,すに雇用された正社員の間だけのことであり,その背後には不況期に正社員の雇用を守るためには非正社員の雇用契約を打ち切ることが不可欠という格差が存在している。

転職の自由度を高め,労働市場をできるだけ競争的なものに近づけ,「事業者間の競争を通じて労働者を守る」ことに労働政策の役割の重点を置く必要がある。

競争市場における労働契約の自由度を妨げる公的介入は,すでに雇用されている労働者の既得権を守ることはできても,社会全体の雇用調整を減らすことで雇用されなかった人々に犠牲を強いるものとなる。

日本でも,参議院選挙を前にして,労働者の「格差是正」のためには,「より一層の規制改革を」,「労働市場の自由化を」というキャンペーンが行われるのでしょうね。不安定雇用の若者が,新自由主義をかかげたコイズミを応援したことが繰り返されるのでしょうか。

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2007年5月 7日 (月)

大阪地判H19.4.26-枚方市「君が代」不起立調査事件

ピアノ最高裁判決の悪しき影響第1号です。

この事件は,一部勝訴と言われていますが,勝訴部分は,起立しなかったという個人情報の収集の際に,当該個人に目的も明示せず直接に収集しなかったことが枚方市個人情報保護条例8条に違反しており,手続上違法だとして金1万円の慰謝料請求を認容しただけです。大阪地裁判決は,入学式で「君が代」の起立斉唱を指示することは,思想・良心の自由の侵害にあたらない,と明言していますから,実質的には全面敗訴の内容です。

【事案の概要】
被告枚方(ひらかた)市教育委員会(市教委)が枚方市立各小中学校に対して,平成14年度入学式の国歌斉唱時に起立しなかった教職員の氏名及びその理由等の調査を行いました。枚方市小中学校では,起立しなかった教職員の氏名及びその理由等を記載した文書を作成して保管していました。そこで,教員である原告らが市境に対して上記文書に記載された原告らの情報の削除を求めるとともに,上記情報の収集及び保管が憲法19条に反するとして慰謝料100万円の支払いを求めた事件です。

【原告の主張】
慰謝料請求について,「学習指導要領の国歌国旗条項が教基法10条違反であること,入学式の国歌斉唱時に教職員に対して起立して斉唱することを等を指導した市教委の7点指示が教基法10条違反であること,市教委の7点指示は憲法19条,20条,21条違反であり,校長の指示に基づき国歌を斉唱することを強制されたことにより精神的損害を被った。

【被告市教委の主張】
学習指導要領の国旗国歌条項は教職員に対する義務を規定したものであるから,市教委の指示は適法であり憲法に反しない。教員としての個人的な思想や好悪の感情にいかんにかかわらず学習指導要領による教育を行う立場にあるから,憲法19条に反しない。

【判決】国家賠償請求(慰謝料請求)の適否について

① 国歌斉唱の際に起立するという行為自体は, 小学校及び中学校の教員にとって通常想定されるものであって, その行為が, 客観的にみて, 特定の思想や信仰を有するということを外部に表明する行為であると評価することはできず, 原告らの内心における精神的活動を否定したり, 原告らの思想, 信仰に反する特定の精神的活動を強制するものではない。

② 儀式的行事の際, 国歌を起立して歌うことは, 原告らの世界観, 人生観及び宗教観に直ちに結び付くものとはいえない上, 本件では, 前記のとおり, 学校の方針として国歌斉唱時に起立することを求められているのであるから, 原告らが特定の思想や信仰を有するということを外部に表明する行為であると評価することはできない。

③ 原告らは, 「君が代」斉唱に際する不起立が, 沈黙の自由を侵害するとも主張するが, 「君が代」斉唱時に起立しない理由は様々であり, 「君が代」斉唱時に起立しないことによって, 必ずしも, 起立しない者の思想や信仰が推知されるとはいえない。しかも, 行政機関による一定の行為が憲法1 9 条で保障されている沈黙の自由を侵害するというためには, その行為が, その者の思想や信仰の内容を推知するためにされたものであることを要すると解すべきであるが, 本件においては, 儀式的場面における国歌斉唱の際の通常の行為として, 起立の指示がされたものであって, 教職員の思想や信仰の内容を推知する目的でされたものとはいえないから, 原告らの沈黙の自由を侵害するものとはいえない。

④ 憲法1 5 条2 項, 地方公務員法3 0 条が 「全体の奉仕者」として定め,同法3 2 条は「法令等に従い, かつ, 上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない」と定めており,そして,儀式的行事における国歌斉唱は,我が国に限らず, 起立して行うことが通例であり, 教員が, 国歌斉唱時に起立する行為は, 儀式的行事における通常の振る舞いを示すとともに入学式及び卒業式にふさわしい雰囲気を形成するものとして必要な行為であるといえる。

⑤ したがって, 国歌斉唱の際に起立することが指示されることにより, 原告らが自己の思想等に反する行為を強いられたと感じたり, 原告らの思想等の内容が推知され得ることがあるとしても, 原告らが地方公務員として上記各規定の適用を受けることからすれば, これをもって, 原告らの思想・良心の自由, 信仰の自由及び沈黙の自由が侵害されたと解することはできない。

この大阪地裁判決は,ピアノ最高裁判決のコピー判決です。なんとも「最判」は下級審の裁判官に絶大の威力をもっていますね。

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2007年5月 6日 (日)

映画「輝ける女たち」(Le Héros de la Famille)と仏大統領選

5月3日,渋谷に,フランス映画「輝ける女たち」(原題「家
族のヒーロー」Le Héros de la Famille)を見てきました。
(でも,邦題はひどい題名ですな。)

http://www.kagayakeru-movie.com/

エマニュエル・ベアールは相変わらず妖艶な美女でした。
カトリーヌ・ドヌーブがフランス女の「ド貫禄」を出していま
した。ジュラルディン・ペラスのインテリ・フランス女は怖い。
彼女にはROSEの歌は似合わないけど。
(ベアールに歌ってほしかった)。

その夜,TVで,フランス大統領選の「セゴレーヌ・ロワイ
ヤル VS サルコジ」の討論会を見ました。政治討論会
だけど,まるで,フランス映画を見ているようでした。
(フランスTVだから仏語だし,当たり前か。)

でも,フランスの政治家は男女とも見せるなあ,と感じ入
りました。

イギリスの新聞からは,メリー・ポピンズ(セゴ・ロワイヤ
ル)対ドラキュラ(サルコジ:ハンガリー系移民の息子)
と揶揄されていましたっけ。

セゴレーヌ・ロワイヤル(セゴ)は,フランスの行政裁判
所の判事出身だそうです。その後,環境相。サルコジ
優勢なるも,バイル支持者がどう投票するか。サルコジ
が大統領になれば,ル・ペン派の力が増す。

バイル派とすれば,セゴが大統領になったほうが閣内の
要職につけるし,次につながる。

で,大逆転もありうる?という希望的観測・・・ 

日本国内の(結果が分かっている)選挙より面白いです。
フランス左翼の勝利の女神になって欲しいものですが・・・。

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2007年5月 3日 (木)

「青法協」攻撃と故矢口洪一氏 憲法記念日

■憲法と裁判官

石川義夫氏(元東京高裁判事、元司法研修所教官)の著作「思い出すまま」(れんが書房新社)に、24期当時の青法協攻撃に関する内情暴露が記載されていることを知り合いの弁護士から教えてもらいました。(この本は未入手ですので,孫引きです。)

(司法修習)後期の終わりが近づいたある日、田宮上席教官と次席の私が矢口人事局長に呼出された。問題は青法協に所属する修習生が判事補任官を志望した場合、これを以下に処置するかということだった。矢口氏は田宮氏に「研修所教官の方で、疑わしい連中の試験の成績を悪くしておいてくれれば、問題は解決するじゃないか、何とか考えてくれ」と言った。要するに、青法協所属の修習生の任官を人事局の責任で拒否することをしたくないので、研修所教官の責任で拒否しようとしたのである。田宮氏は「教官にはそんなことは出来ません」と言下に断った。私はこの件について、矢口氏の名誉を慮って、今日まで他言しなかったが、目的のためには手段を選ばない矢口氏の手法を思うと、こんなことがあった、ともっと早い時期に公にすべきであたかと後悔している。(同書199頁~200頁)

裁判官ともあろう人が,また後に最高裁長官になった人が,青法協に加入したと疑いのある任官志望の司法修習生の成績評価に手を加えろと等と言うとは…。唖然とします。しかし,裁判官だから,高潔で優秀だという思いこみに対する ちょうど良い「解毒剤」ですね。。(こんなことを公にすると,いよいよ青法協に修習生が近づかなくなるかな)

■変わった裁判官たち

「解毒剤」と言えば,元横浜地裁判事の井上薫氏が「狂った裁判官」(幻冬舎新書)という本を出していましたっけ。この「井上本」は自分のことを含めて言っているのか,他者のことだけを言っているのか,ちょっと良く判りませんでした。でも,対象になる人が一人いることは「石川本」によって証明されたのかもしれません。

しかし,こういう裁判官たちが,学校での国歌国旗起立斉唱の強制と教師の思想・良心の自由という微妙な憲法問題について判断すると考えると,何だか空恐ろしくなります

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2007年5月 1日 (火)

EUのワーキング・プア  May Day 

フランスでもワーキングプアが社会問題化しているそうです。ル・モンド・ディプロマティーク日本語・電子メール版に次のような記事が掲載されていました。

■ヨーロッパをむしばむ賃金格差
     ミシェル・ユソン(Michel Husson)
     経済学者、フランス国立統計経済研究所(INSEE)研究官

今日、パリ都市圏のホームレスの3人に1人は職に就いているという。このショッキングな統計結果は「ワーキング・プア」という新たな社会層の存在を明らかにした。

(フランスでは)低所得者の割合は1983年に11.4%だったのが、2001年には16.6%にまで広がった。他のヨーロッパ諸国の状況も同様であり、… ヨーロッパの低所得者はポルトガルの6%から英国の21%と、平均で15%にのぼる。

「全給与所得者を人数の等しい2つのグループに分けた時、境界線上にある値を中央値と言い、この中央値の60%未満の賃金を「低賃金」と呼ぶ。」そうです。

日本の場合,雇用者のうち,在学生を除く年間所得100万円未満の者は13.2%,同200万円未満の者は29.5%だそうです。日本の給与所得の中央値がいくらか判りませんが,400万円くらいじゃないでしょうか。そうすると,その60%は240万円となります。

上記のヨーロッパの数値は総所得者の中での比率ですから,給与所得者の比率である上の日本の数値とは異なるようです。しかし,日本も,ヨーロッパ並みのワーキングプアがいることは間違いないようです。(日本の若者はパラサイトシングルだから余り目立たない?又はネットカフェの避難所があるからホームレスにはならなくてすんでいる?)

■新自由主義者との論争も日本と同じです

自由主義の論理からすれば、… 給与の序列を是正しようとする社会経済政策は、仮に善意によるものであっても、失業を生むだけであるという。

しかし、このような仮説を裏付けるような研究はひとつもない。… 経済協力開発機構(OECD)ですら、「各国での最低賃金水準からしてどの程度の雇用が犠牲になっているかを数字で表すのは困難であり、賃金水準が顕著な影響を与えるとする研究と影響は皆無であるとする研究が混在する」と認めている。

フランス労働省の雇用・所得・社会的結束評議会(CERC)は次のように指摘しているそうです。

「安定雇用の状態から不安定で柔軟な雇用の状態に近づけば、失業と雇用、無職を循環する状態になるにつれ貧困のリスクは増える。」
「質の高い雇用こそが貧困に対する最大の防壁である。」

日本の厚労省の労働政策審議会も,このCERCくらいのことは言ってほしいものですね。

■メーデー・スローガン
メーデー・スローガンは,やっぱり「貧困と格差を解消するために労働者は連帯してたたかおう」が良いですね。

今時,こんなスローガンは,マスコミには冷笑されるでしょうが,労働組合が,このスローガンをおろしたら,社会的存在価値がなくなります。

フランスでは「労働の価値」の擁護が,大統領選挙の争点となっているようです。日本でも,7月の参議院選挙で,「企業栄えて民滅ぶ」を地でいく「構造改革路線」への賛否が争点に浮上することを願います。

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蓮華 蓮花 れんげ

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戦後補償裁判の最高裁判決を読んで 

■最高裁戦後補償判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070427134258.pdf

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070427165434.pdf

2007年4月27日の西松建設強制連行損害賠償請求事件判決(最高裁第二小法廷)及び慰安婦損害賠償請求事件判決(最高裁第一小法廷)は結論的に次のように判示しています。

日中戦争の遂行中に生じた中華人民共和国の国民の日本国又はその国民若しくは法人に対する請求権は,日中共同声明5項によって,裁判上訴求する権能を失ったというべきであり,そのような請求権に基づく裁判上の請求に対し,同項に基づく請求権放棄の抗弁が主張されたときは,当該請求は棄却を免れないこととなる。

正義の司法判断が下されることを期待しました。しかし,「厚く高い壁」に跳ね返されたように思えます。

■最高裁判決の言わんとしたこと

しかし,これでお終いというわけではないようです。最高裁判決を良く読むと,最高裁判事たちは司法の責任から逃げるには逃げたのですが,どうやら日本政府と日本国民自身に「下駄」をあずけた形です。

最高裁判決は,中華人民共和国の国民(被害者)は,損害賠償請求権を有していること自体を否定していません(かえって肯定している!)。ただ,日本の裁判所に裁判上の請求ができないだけだ,と言っているのです。

日本の裁判所としては,「日本政府が『請求権放棄の抗弁』を出した場合には棄却せざるをえない。日本政府及び日本法人が抗弁を出さなければ損害賠償を命じるよ。」と言っていることになります。要するに,あとは日本政府の責任でなんとかしろと言っているわけです。

■「美しい国」「毅然とした国」「品位ある国」そして「戦後レジームからの脱却」へ

わが国が「美しい国」,「品位ある国」になるために,日本政府と日本国民は,あのアジア侵略によって深く被害を受けたアジアの民衆に対して心からの陳謝と戦後補償を実行するべきです。(それが将来の「東アジア共同体」創設の大前提でしょう。)

わが国及び国民が過去の戦争責任を果たした後に初めて,「被爆者」や「空襲被害者」(戦争犯罪被害者)は,アメリカ合衆国に対して,広島原爆投下,長崎原爆投下,東京空襲などの「戦争犯罪」を告発することができるでしょう(提訴もありうる?)。この道こそが,本当の「戦後レジーム」からの脱却だと思います。

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