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2007年4月 7日 (土)

労働契約法案に関する日弁連意見

■大山鳴動 労働契約法 骨皮すじ右衛門

ということで一時は盛んに,このブログでも取り上げた労働契約法です。でも,法案化された内容を見ると,確かに羊頭狗肉。骨格どころか大切な部分の骨も欠けているものです。(ちょっと取り上げる意欲が萎えそうな感じですが)
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/dl/166-9b.pdf

■日弁連の意見

日本弁護士連合会には労働法制委員会があります。2002年に設置された委員会です。弁護士会ですから,労働側の弁護士だけでなく,使用者側の弁護士も参加します。また,中労委や地労委で公益委員となっている弁護士も参加してます。

立場の違いはあるとしても,実務法律家としての見地から,労働法制に関して意見を述べてきています。これまで,労働審判法や平成15年の労基法改正の節目に日弁連としての意見をとりまとめてきました。

今回の労働契約法についても,労働法制委員会として意見をとりまとめ,最終的に理事会を通って日弁連の意見として発表されました。
  ↓
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/report/070315.html

日弁連意見の基本的スタンスは,「労働契約法は極めて重要な法案であること,今回の労働契約法はわずかな事項についてしか定められていないため,より望ましい労働契約法を制定するために国会の積極的審議を望む」ということです。玉虫色ですな。

要するに,そのココロは,「小さく産んで,大きく育ててね」ということでしょうね。

■就業規則法理について

とはいえ,就業規則法理については,労働法制委員会の中でも厳しい対立と議論がありました。それも,労働側弁護士同士の対立でした。(使用者側の弁護士は「なんで労働側が反対するの?」という感じ?)。結局,次のような文章に落ち着きました。

この法案は、使用者が一方的に変更する就業規則の効力に関して「就業規則の変更による労働条件の不利益変更」の判例法理を制定法で明示するという意義があるしかし、今まで実務で積み重ねられてきた判例法理が過不足なく立法化されているか否か、立法化によって現実の労使にどのような影響を与えるか、労働組合等との交渉について労働者側の実質的対等性を担保する方策の在り方や合意原則との整合性などについて十分な考察、検討が必要である。さらなる国会での充実した審議を望むものである。

…確かに,玉虫色の文章です。(「何が言いたいんじゃ!」と言われました。)

でもでも,労働組合が存在しない圧倒的多数の職場では就業規則の不利益変更法理さえ,まったく知られておらず,就業規則さえ無視して労働条件の不利益変更がまかり通っている,というのが私の基本的な認識です。

労働契約法に判例法理が盛り込まれることで,その改善に一歩でもつながるのではということで,「判例法理を制定法で明示するという意義がある」という表現になりました。

■反対意見

とはいえ,「法律に書き込まれれば改善につながると思うのは,人が良すぎる。逆に,使用者が就業規則を変更して労働条件を不利益に変更するというアナウンス効果がある」との強い批判もありました。

また,「労働契約の合意原則と最高裁の就業規則変更法理は矛盾しており,理論的に誤っている。誤った判例法理の固定化に手を貸すことになるので反対だ」という原則論もありました。

(…んなこと言ったて,現に労働条件の不利益変更の紛争が生じたら,我々弁護士としては判例法理を活用するしかないじゃん。)

■反対論への疑問

就業規則変更の判例法理に強く反対する論者に対して,「では労働契約に定められた労働条件を不利益に変更をしなければならないときにどうするの?」と聞きました。

論者の一部は,「その場合は解雇できる。変更解約告知+異議留保付き承諾制度を導入する」と言います。

また,ある論者は,「使用者に契約変更請求権を認める。」と言うのです。

… う~ん。

「解雇できる」とする論者が一番,首尾一貫しています。でも,「解雇はいかがなものか」と思って,みんなが色々と頭をひねっているのじゃないのかね。おいちゃん。それを言っちゃあ,お終しめいよ。)

裁判所にて行使する形成権としての契約変更請求権を認めるのも,まあ理論的ではありましょう。でも,結局,「合意原則」は修正せざるをえないということです。

なお,「労働契約法案の9条ただし書と10条を削除しろ」と言う人もいます。が,もしそのように修正して労働契約法が成立すると,就業規則に関する判例法理は立法により否定されたことになるでしょう(裁判官としてはそう解釈するのが自然でしょう)。
そうした場合には,労働条件変更の方法はどう考えるのでしょうか。おそらく,変更解約告知をすれば良いということなのでしょう。

もっとも,そこまで考えていないのかもしれません…。そもそも,「考える必要はない。あくまで批判すれば良いのだから」と言いそうです。あるいは,「実現しっこない」と自分でも思っているから,そう主張するのでしょうかね。それとも,「結局,労働組合が強くなれば,解決することなので,労働契約法を作る必要なんかない。」と言う発想なんでしょうか。 それも一つの立場です…。(そうかあ?)

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