労働審判制度施行1年
■労働審判は順調なスタート
2006年4月に労働審判法が施行されて,もうすぐ1年になります。2007年2月には最高裁や東京地裁と弁護士会との協議が行われ,私も参加して意見を述べました。労働審判の施行状況について裁判所の統計(速報値)に基づいて簡単に紹介します。
【労働審判の概要については】
↓
http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2006/03/post_a4e6.html
労働審判制度は裁判員制度と違って,地味な取り扱いで出発をしました。しかし,結果的には,大変に順調な船出をしたと思います。労働者側の弁護士も労働組合も,始まる前は不安もありましたが,実際に労働審判を経験してみた方々の意見を聞くと概ね好意的に受けとめています。
私が現在まで申し立てた労働審判事件は8件。退職金請求事件1件、残業代請求事件1件、地位確認事件(解雇、雇止)3件、退職強要差止事件1件、自宅待機命令違法確認事件1件,労働契約関係不存在確認事件(労働者側からの申立)1件です。今のところ,すべて調停にて解決しており、審判を受けた事件はない。現在,また解雇事件の1件を起案中です。
■労働審判の全国地裁の申立件数
最高裁判所によれば,昨年4月から12月までの全国地方裁判所での労働審判事件の新受件数は877件となっています。
地裁 件数 比率
東京 258 29%
大阪 84 10%
横浜 77 9%
名古屋 54 6%
札幌 34 4%
神戸 33 4%
福岡 29 3%
千葉 26 3%
さいたま 25 3%
京都 24 3%
その他 233 27%
総計 877 100%
■労働審判の申立事件種別
地位確認事件,つまり解雇事件(雇止め事件含む)が半数を占めています。
東京地裁における申立事件の種別
(2006年 4月~2007年1月)
事件種別 件数 比率
地位確認 126 46.3%
賃金 52 19.1%
退職金 27 9.9%
損害賠償 28 10.3%
解雇予告手当 6 2.2%
配転命令無効確認 4 1.5%
残業代 15 5.5%
その他 14 5.1%
計 272
■高い解決率-調停成立が7割
調停成立率
全国地裁 70.5%
東京地裁 74%審判率
全国地裁 17.7%
東京地裁 16.5%審判に対する異議率
全国地裁 51.4%
東京地裁 70%
調停成立率は全国平均で74%。労働事件の本訴の和解率は約50%ですから,74%の調停成立率は極めて高いものです。
また,調停が成立せず労働審判となるケースは全国平均で17.7%,東京地裁は16.5%です。このうち異議申立されるのは全国では51%,東京地裁では70%です。
つまり,審判が出ても異議がなく確定する率が全国では49%,東京地裁でも30%あるというのです。本訴では労働事件の控訴率は80%ですから,労働審判の確定率は高いと言えます。
結局,異議なく確定した事件も含めると労働審判全体で約8割が労働審判手続にて終局的に解決していることになる。予想以上の高い解決率であり,労働審判制度の実効性が高いと評価できます。
■審理の迅速性
平均審理期間(申立から終局までの日数。但し,取下げ,移送は除く)
全国地裁 72.9日
東京地裁 67.7日
■労働事件数の推移
労働審判の施行により,今まで裁判所に申し立てられなかった個別労働紛争が申し立てられるようになったという【掘り起こし効果】が見られます。
2003年度が労働事件数のピークで,その後は減少傾向にあったのが,労働審判施行により,労働事件数は増加しています。ただし,まだ,その効果は大きくはありません。
全国地裁 訴訟 仮処分 労働審判 計
2003年4月~11月 1610 492 - 2102
2004年4月~11月 1658 434 - 2092
2005年4月~11月 1562 433 - 1995
2006年4月~11月 1288 279 744 2311
東京地裁 訴訟 仮処分 労働審判 計
2003年4月~12月 653 159 - 812
2004年4月~12月 610 170 - 780
2005年4月~12月 547 168 - 715
2006年4月~12月 458 88 258 804
ここで注目されるのは,全国でも東京地裁でも仮処分事件が約半分に減少していることです。従来であれば,仮処分を申し立てていた事件の半数は,労働審判に申し立てられていることになります。将来的には,労働審判が個別労働紛争の裁判手続のメインになると思います。
■現状分析と今後の課題は
労働審判が施行されて1年をテーマに,裁判所との協議会や座談会に出席しました。これらは判例タイムズやNBLに掲載される予定です。また,第二東京弁護士会の会報やひろばユニオンという雑誌に労働審判についての原稿を書きました。高い解決率や,迅速性の要因,また,今後の課題などは,これらの雑誌や会報で触れます。
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