君が代ピアノ伴奏職務命令合憲 -最高裁第三小法廷判決
君が代ピアノ伴奏最高裁第三小法廷判決
2007年2月27日
■入学式での君が代ピアノ伴奏の職務命令
市立南平小学校の音楽専科の教諭が,入学式の国歌斉唱の際に「君が代」のピアノ伴奏を行うことを内容とする校長の職務命令に対して,自らの思想・良心の自由を理由にピアノ伴奏を拒否したため戒告処分を受けた。この音楽教諭が憲法19条に違反し,処分は違法であるとして争っていた事件で,最高裁第三小法廷は,校長の職務命令は憲法19条に違反せず,戒告処分は適法であるとの判決を言い渡しました。
最高裁webページの判決文
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070227173039.pdf
東京都の10.23通達に基づく都立高校の君が代強制は違憲であるとの2006年9月21日東京地裁判決(予防訴訟判決)が出たばかりです。ピアノ伴奏の職務命令は合憲とする最高裁判決の影響は大きいでしょう。
■最高裁判決の内容について
○思想・良心の内容
最高裁第三小法廷は,音楽教諭が君が代に対してもつ考え方は,「歴史観ないし世界観及びこれに由来する社会生活上の信念等」として憲法が保障する思想・良心の自由であることは認めます。
ところが,「入学式に君が代のピアノ伴奏を求める職務命令は,直ちに音楽教師の歴史観ないし世界観それ自体を否定するものではない」,また,「君が代」のピアノ伴奏をするという行為自体は,「特定の思想を有するということを外部に表明する行為であると評価することは困難」であるとします。
そして,「本件職務命令は,…特定の思想を持つことを強制したり,あるいはこれを禁止したりするものではなく,特定の思想の有無について告白することを強要するものでもなく,児童に対して一方的な思想や理念を教え込むことを強制するものとみることはできない」と判断します。
つまり,客観的に見て,君が代をピアノ伴奏をさせる職務命令は,音楽教諭の思想・良心を侵害する態様のものではないと言いたいのだと思います。
○全体の奉仕者→地方公務員→学習指導要領→国旗国歌指導条項
さらに,最高裁第三小法廷は,公務員は全体の奉仕者であり,地方公務員30条,32条を根拠に教諭は法令等の職務上の命令に従わなければならない地位にあることを強調します。そして,学校教育法18条2号が「郷土及び国家の現状と伝統について,正しい理解に導き,進んで国際協調の精神を養うこと」と規定し,学校教育法等に基づく小学校学習指導要領に「入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国旗を掲揚するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする」と定めているから,「本件職務命令は,その目的及び内容において不合理であるということはできない」と結論づけています。
○学習指導要領の法的拘束力の限界について何ら検討せず
最高裁第三小法廷は,学習指導要領の国歌国旗指導条項について,旭川学力テスト最高裁大法廷判決に基づいて,どのような法的効力を認めるのかは何ら検討していません。これは音楽教諭側が,学習指導要領の法的拘束力論については主張をしていないためなのでしょう。(上告理由になっていない)
予防訴訟判決は,学習指導上要領の国旗国歌指導条項については旭川学力テスト大法廷判決に基づいて「大綱的基準」であると判断し,10.23通達の違法性を導き出しています。
音楽教諭側は,何故,学習指導要領の法的拘束力の限界について,教基法10条1項に基づく主張をしなかったのでしょうか? 詳細はわかりません。
■10.23通達 予防訴訟などとの違い
予防訴訟と君が代解雇訴訟については,10.23通達によって,校長が職務命令を強制されたという前提となる事実関係が異なります。また,教基法10条の不当な支配が論点となっている点でも,この君が代ピアノ伴奏最高裁判決とは異なります。
したがって,予防訴訟や,君が代解雇訴訟,そして,10.23通達に基づいての強制については,この最高裁判決は妥当しないと考えます。
■思想良心の自由を軽視した判決
とはいえ,ピアノ伴奏を命じることは,教師の思想・良心の自由を直接的に規制するものではないという趣旨の最高裁第三小法廷の多数意見は外部的行為と内心領域の峻別論に近いものです。思想・良心の自由が基本的人権の中でも優越的な地位にあるということを軽視した判断だと思います。
この論理をあてはめると,<卒業式等の式の国歌斉唱の際に起立を命じることも,「特定の思想を持つことを強制したり,あるいはこれを禁止したりするものではなく,特定の思想の有無について告白することを強要するものでもなく,児童に対して一方的な思想や理念を教え込むことを強制するものとみることはできない」といわれかねません。>
■藤田反対意見
藤田宙晴裁判官は,「このような信念・信条を抱く者に対して公的儀式における斉唱への協力を強制することが,当人の信念・信条そのものに対する直接的抑圧になることは,明白であるといわなければならない」,そしてまた,「自由主義・個人主義の見地から,それなりに評価し得るものであることも,にわかに否定することはできない」と反対意見を述べています。素直な判断だと思います(もっとも,ちょっと回りくどい反対意見ですが・・・)
思想・良心の自由は,あくまで当該個人の主観が抑圧されるかどうかが問題なのですから。
■極めて不当で,残念至極な判決だと思います。
でも,10.23通達で校長と教師に君が代を強制した事案には当てはまらない判決と考えるべきでしょう。
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