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2007年2月27日 (火)

君が代ピアノ伴奏職務命令合憲 -最高裁第三小法廷判決

君が代ピアノ伴奏最高裁第三小法廷判決
2007年2月27日

■入学式での君が代ピアノ伴奏の職務命令

市立南平小学校の音楽専科の教諭が,入学式の国歌斉唱の際に「君が代」のピアノ伴奏を行うことを内容とする校長の職務命令に対して,自らの思想・良心の自由を理由にピアノ伴奏を拒否したため戒告処分を受けた。この音楽教諭が憲法19条に違反し,処分は違法であるとして争っていた事件で,最高裁第三小法廷は,校長の職務命令は憲法19条に違反せず,戒告処分は適法であるとの判決を言い渡しました。

最高裁webページの判決文
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070227173039.pdf

東京都の10.23通達に基づく都立高校の君が代強制は違憲であるとの2006年9月21日東京地裁判決(予防訴訟判決)が出たばかりです。ピアノ伴奏の職務命令は合憲とする最高裁判決の影響は大きいでしょう。

■最高裁判決の内容について

○思想・良心の内容
最高裁第三小法廷は,音楽教諭が君が代に対してもつ考え方は,「歴史観ないし世界観及びこれに由来する社会生活上の信念等」として憲法が保障する思想・良心の自由であることは認めます。

ところが,「入学式に君が代のピアノ伴奏を求める職務命令は,直ちに音楽教師の歴史観ないし世界観それ自体を否定するものではない」,また,「君が代」のピアノ伴奏をするという行為自体は,「特定の思想を有するということを外部に表明する行為であると評価することは困難」であるとします。

そして,「本件職務命令は,…特定の思想を持つことを強制したり,あるいはこれを禁止したりするものではなく,特定の思想の有無について告白することを強要するものでもなく,児童に対して一方的な思想や理念を教え込むことを強制するものとみることはできない」と判断します。

つまり,客観的に見て,君が代をピアノ伴奏をさせる職務命令は,音楽教諭の思想・良心を侵害する態様のものではないと言いたいのだと思います。

○全体の奉仕者→地方公務員→学習指導要領→国旗国歌指導条項
さらに,最高裁第三小法廷は,公務員は全体の奉仕者であり,地方公務員30条,32条を根拠に教諭は法令等の職務上の命令に従わなければならない地位にあることを強調します。そして,学校教育法18条2号が「郷土及び国家の現状と伝統について,正しい理解に導き,進んで国際協調の精神を養うこと」と規定し,学校教育法等に基づく小学校学習指導要領に「入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国旗を掲揚するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする」と定めているから,「本件職務命令は,その目的及び内容において不合理であるということはできない」と結論づけています。

○学習指導要領の法的拘束力の限界について何ら検討せず
最高裁第三小法廷は,学習指導要領の国歌国旗指導条項について,旭川学力テスト最高裁大法廷判決に基づいて,どのような法的効力を認めるのかは何ら検討していません。これは音楽教諭側が,学習指導要領の法的拘束力論については主張をしていないためなのでしょう。(上告理由になっていない)

予防訴訟判決は,学習指導上要領の国旗国歌指導条項については旭川学力テスト大法廷判決に基づいて「大綱的基準」であると判断し,10.23通達の違法性を導き出しています。

音楽教諭側は,何故,学習指導要領の法的拘束力の限界について,教基法10条1項に基づく主張をしなかったのでしょうか?  詳細はわかりません。

■10.23通達 予防訴訟などとの違い
予防訴訟と君が代解雇訴訟については,10.23通達によって,校長が職務命令を強制されたという前提となる事実関係が異なります。また,教基法10条の不当な支配が論点となっている点でも,この君が代ピアノ伴奏最高裁判決とは異なります。

したがって,予防訴訟や,君が代解雇訴訟,そして,10.23通達に基づいての強制については,この最高裁判決は妥当しないと考えます。

■思想良心の自由を軽視した判決
とはいえ,ピアノ伴奏を命じることは,教師の思想・良心の自由を直接的に規制するものではないという趣旨の最高裁第三小法廷の多数意見は外部的行為と内心領域の峻別論に近いものです。思想・良心の自由が基本的人権の中でも優越的な地位にあるということを軽視した判断だと思います。

この論理をあてはめると,<卒業式等の式の国歌斉唱の際に起立を命じることも,「特定の思想を持つことを強制したり,あるいはこれを禁止したりするものではなく,特定の思想の有無について告白することを強要するものでもなく,児童に対して一方的な思想や理念を教え込むことを強制するものとみることはできない」といわれかねません。>

■藤田反対意見
藤田宙晴裁判官は,「このような信念・信条を抱く者に対して公的儀式における斉唱への協力を強制することが,当人の信念・信条そのものに対する直接的抑圧になることは,明白であるといわなければならない」,そしてまた,「自由主義・個人主義の見地から,それなりに評価し得るものであることも,にわかに否定することはできない」と反対意見を述べています。素直な判断だと思います(もっとも,ちょっと回りくどい反対意見ですが・・・)
思想・良心の自由は,あくまで当該個人の主観が抑圧されるかどうかが問題なのですから。

■極めて不当で,残念至極な判決だと思います。
でも,10.23通達で校長と教師に君が代を強制した事案には当てはまらない判決と考えるべきでしょう。

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2007年2月25日 (日)

成果主義賃金による降級・減額措置を違法とした東京高裁判決-マッキャンエリクソン事件

マッキャンエリクソン事件 東京高裁2007年2月22日判決

■成果主義賃金による降級・減額措置を違法とした初の東京高裁判決

東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/flash/2007022201000735.html

2審も「次長の降級無効」
 成果主義の外資系代理店

 外資系広告代理店マッキャンエリクソン(東京)の男性次長が、成果主義により給与等級を違法に降級処分にされたとして、地位確認や差額賃金の支払いを求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は22日、降級を無効と認め、計100数十万円の支払いを命じた1審東京地裁判決を支持し、会社の控訴を棄却した。

 会社は「降級は会社の広範な裁量に含まれる」と主張したが、浜野裁判長は「降級にするには根拠を具体的に挙げ、等級に比べ能力が著しく劣ることを明らかにしなければならない」と判断し、降級を無効とした。

 男性の原告代理人弁護士は「地位確認まで認めたのは高裁レベルでは初めてだと思う。企業の成果判定の裁量にも限界があることを明らかにした」と評価している。

 判決によると、会社は01年10月、成果主義に基づく新賃金制度を導入し、業績などによって降給できるようにした。男性は同月に副社長から退職勧奨を受けたが拒否。03年4月に給与等級を7級から6級にされ、基本給は月額で約20万円下がった。(共同)(2007年02月22日 20時55分)

■東京地裁地裁判決(難波裁判官担当)

第1審の東京地裁は民事第36部の難波裁判官の判決です(2006年10月25日)。難波裁判官は,結審間際に,「地位確認の確認の利益があるんでしょうかね? 差額賃金請求だけで十分でないの」などと釈明されたので,地位確認は棄却されるかと覚悟していました。ところが,判決では地位確認まで認容し,画期的な判決になりました。実は,以前に民事裁判の証人尋問についてブログで書いたのはこのマッキャンエリクソン事件の証人尋問でした(http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2006/05/post_a456.html )。

■成果主義賃金の降級措置を違法として地位確認を認めた初の高裁判決

会社が控訴をしましたが,担当部は東京高裁第21民事部(裁判長浜野惺,高世三郎,遠藤真澄)です。実はこの部は,成果主義賃金による減額措置を違法としたノイズ研究所事件の川崎支部判決を取り消した部なのです。

ノイズ研究所事件は,私と同じ事務所の同僚弁護士が担当しており,審理の経過については聞いており,主任の高世裁判官(元東京地裁19部の労働部の総括)が担当していました。このマッキャンエリクソンの件も高世裁判官が主任でした。ということで,ノイズ研究所事件のようにひっくり返されるのではないかと警戒していました。

幸い,マッキャンエリクソン事件はノイズ研究所事件とちがって,労働者側の地裁勝訴判決を維持し,また差額賃金の請求だけでなく,7等級の地位確認まで認めてくれました。

■ノイズ研究所事件とマッキャンエリクソン事件とで結果が違ったのは何故?

マッキャンエリクソン事件は,成果主義賃金が導入されたことは原告は争いませんでした。そして,会社の降級・減額措置は,裁量権逸脱しているという点に主張立証を絞りました。(マッキャンエリクソンでは成果主義賃金制度について詳細に説明した,従業員全員に配布された冊子により導入されており,実は導入時には就業規則の変更手続は行われていませんでした。しかし,管理職であった原告の要求は,成果主義賃金の7等級に復することだったので,その冊子を成果主義賃金の就業規則たる性格を有するものであることを,あえて原告側は争うことを止めました。就業規則たる性格を否定したら,旧賃金制度が適用されることになります。原告の場合には,月額給与は旧賃金制度のほうが安くなってしまうという事案でもありました。)

この成果主義賃金を説明した会社の冊子には,「降級は例外的な事例,著しく能力が劣る場合にのみ降級をする」という注釈が記載されていました。そこで,これが労働契約の内容になっており,使用者の成果主義賃金決定権の裁量を拘束すると主張したのです。この点をとらえて,地裁判決,高裁判決は,本件降級・賃金減額措置を裁量権逸脱で違法としました。

他方,ノイズ研究所事件は,成果主義賃金制度の導入が就業規則の不利益変更にあたり,当該成果主義賃金は著しい不利益を労働者に課すものであって合理性はなく,就業規則の変更による労働条件の不利益変更に該当し,それは違法であるという点が裁判上の最大の焦点でした。東京高裁は成果主義賃金の就業規則の変更による導入は合理性があり適法としたため労働者を逆転敗訴させたのです。現在,最高裁に上告受理申立をしています(http://www.syuppan.net/kyoto/s2-03-19.htm)。

■個別事例判断

ただ,マッキャンエリクソン事件での東京高裁の「降級にするには根拠を具体的に挙げ、等級に比べ能力が著しく劣ることを明らかにしなければならない」とする判示は一般論というよりも,マッキャンエリクソンの成果主義賃金の規定がそう定めているから,使用者の裁量権が拘束されるという個別事案の判断です。

しかし,使用者の成果主義賃金の決定権も労働契約によって拘束されることを明示し,地位確認を認めた点で大きな意義があると思われます。

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2007年2月20日 (火)

マルキスト 柳澤伯夫・厚労大臣

K.マルクス と 柳澤厚労大臣の「労働時間の売買」発言

■工場労働者の労働力(労働時間)の売買
毎日新聞 2007年2月20日 東京朝刊
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/kokkai/news/20070220ddm005010027000c.html

国会:柳沢厚労相が、また失言

 柳沢伯夫厚生労働相は、15日の参院厚生労働委員会で、工場労働を「労働時間だけが売り物です、というようなところ」などと表現していたが、19日の衆院予算委員会で、議事録からの削除を求める考えを表明した。

 これに関連し、共産党の市田忠義書記局長は「厚労相の国語力の問題ではなく、人間観が問われている。単なる失言ではない」と批判した。

■カール・マルクス 曰く

労働力の所有者がつねに一定の時間を限ってのみ労働力を売るということを必要とする」(資本論第1巻・大月書店「マル・エン全集」23a巻220頁)

労働者が売るものは,彼の労働そのものではなく彼の労働力であって,彼は労働力の一時的な処分権を資本家にゆずりわたすのである。だからこそ,……ある国々の法律では,労働力を売ることを許される最長時間が定められているのである。もし労働力をいくらでも長期間にわったって売ることが許されるとしたら,たちどころに奴隷制が復活してしまうであろう」(「賃金,価格,利潤」マルクス著 土屋保男訳・大月書店国民文庫52頁)

マルクスは,「労働者が売るものは『労働力』(労働能力)であり,資本家の指揮の下で働く『労働時間』を売る」ことを前提としています。この点は労働者が資本家に搾取されるというマルクスの搾取理論の【大前提】です(これを否定するとマルクスの剰余価値論は成り立たない。)。

■柳澤大臣の人気回復策

この前提部分について,柳沢伯夫厚労大臣はマルクスとまったく同じことを言ったのです。柳沢大臣は国会議事録から削除などしないで,「マルクスだって同じこと言っている」と反論すればヨカッタのにね。

そして,マルクスと同じように,「だから,労働時間を規制しなければ,奴隷制が復活することになるのだ!」って,法律による労働時間の規制強化が必要だと唱えれば,人気も少しは回復したかも…(そんな わけないか)。

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2007年2月19日 (月)

トンネルじん肺国賠訴訟 徳島地裁3/28,松山地裁判決3/30

■陸続 トンネルじん肺国賠訴訟の判決

トンネルじん肺国賠訴訟は,2006年7月東京地裁,熊本地裁,同年10月に仙台地裁で国の責任を認める判決が言い渡されました。
http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2006/07/post_5860.html

国は,それぞれ控訴をしました。全国11地裁で引き続き争われています。今年度末に立て続けに徳島地裁と松山地裁で判決の言い渡しが予定されています。

3月28日 徳島地裁判決
3月30日 松山地裁判決

両地裁とも原告の勝訴,2連勝ということになるでしょう。違法性の時期が1960年(昭和35年)のじん肺法制定時から認められるか,東京地裁のように1986年(昭和61年)末からかはともかく,国(厚労省)に規制権限行使の義務違反が認められると確信しています

なお,3月30日は金沢地裁のトンネルじん肺も結審します。(この後,新潟地裁,広島地裁,札幌地裁が夏には結審する見込みです。)。もはや原告の勝訴の流れは変わらないでしょう。

国はいつまで無駄な争いをするのでしょうか。

■国会議員の賛同署名505名!

衆参あわせて現職国会議員505名が,原告らの3点の要求(粉じん測定の義務づけ,作業時間短縮,トンネルじん肺補償基金の創設)に賛同署名をしています。なんと国会議員の7割が賛同しているのです。

■公明党のじん肺PT,自民党のじん肺議連

公明党の「じん肺プロジェクトチーム」(座長:漆原良夫議員,顧問:坂口力元厚労大臣)がサポートしてくれています。また,自民党にも「じん肺議連」(会長:逢沢一郎議員,事務局長:萩原誠司議員,顧問:森喜朗元首相)が昨年発足しています。

自民党のじん肺議連の事務局長の萩原誠司議員のHPで次のように報告されています。
http://www.hagiwara-seiji.jp/houkoku_kako/houkoku.html

○2007年2月6日
自由民主党のじん肺対策議員連盟の第二回の総会。新政治研究会が呼びかけ人になって、昨年設立しました。会長は逢沢一郎さん、そして、私は事務局長です。設立以降、議員連盟への加入者が倍増しました。現在裁判が行われていますが国と原告の間の意見の相違を出来るだけ解消し、早期にじん肺根絶のための具体的アクションにつなげることを目指しています。

○2007年2月8日
逢沢一郎代議士とじん肺問題、中国人残留孤児の問題への対応を協議。また、公明党でじん肺対策のプロジェクトチームの座長をしておられる漆原国会対策委員長とも会談し、与党の協力体制を構築することで合意しました

もちろん,民主党,共産党,社民党も原告らを支持してくれています。じん肺患者らの願いを超党派で支援する政治の動きは大きく広がっています。

■厚労省の抵抗

国,特に厚労省(労働安全衛生室)がじん肺予防の政策転換に強い拒否反応を示しています。しかし,全国の11の地方裁判所で敗訴が続くでしょう。高裁も,東京高裁,福岡高裁,仙台高裁の審理が始まります。厚労省は最高裁まで争うつもりなのでしょうか。まるで,戦前の日本軍部のように,いくさを長引かせて犠牲者だけを増やすという姿勢です。

厚労省は,裁判所が指摘するように,トンネルでの粉じん測定及び測定結果に基づく評価基準を省令で定めるべきでしょう。

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2007年2月15日 (木)

裁量労働みなし時間制も見送り 労働契約法案要綱及び労基法改正法案要綱④

2月7日付けの朝日新聞の朝刊に中小企業に対する企画業務型裁量労働制の要件緩和も見送られたと報道されていました。

労働6法案 国会論戦へ

中小企業に対する裁量労働制の導入条件緩和は盛り込まれず,一定の条件を満たす労働者を労働時間規制の対象外とsるう「ホワイトカラーエグゼンプション」(WE)の導入も正式に見送った。

ちなみに,労働6法案とは①雇用保険法改正案,②雇用対策法改正案,③パート労働法改正案,④労働契約法(新法),⑤最低賃金改正案,⑥労働基準法改正案とされています。これに,地域雇用開発促進法改正案が加わって,7法案と言われています。

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2007年2月12日 (月)

亡き平形幸夫さん 「ガス湯沸かし器事故」15年後の報道

1992年12月8日,同僚の平形幸夫弁護士が奥さまとお子さん3人と一緒に一酸化炭素中毒で亡くなりました。ガス湯沸かし器の不完全燃焼が原因でした。

パロマの湯沸かし器の欠陥について報道されてから,私たちも平形さん一家の事故のことを思い出していました。2月11日の朝日新聞や毎日新聞にリンナイ製の湯沸かし器を使用していたと報道されています。

朝日新聞http://www.asahi.com/paper/national.html

92年5人死亡もリンナイ製 弁護士一家、CO中毒 公表と別機種

警視庁野方署の調べや東京ガスによると、事故は92年12月8日正午ごろ、東京都中野区野方2丁目の弁護士平形幸夫さん(当時37)方のアパートの一室で、幸夫さんと妻(同38)、長男(同9)、長女(同6)、次女(同4)の5人が死亡しているのがみつかった。発見時、台所の湯沸かし器に火はついておらず、水が出たままだった。室内にはCOが充満していたという。換気扇を使わず、部屋も閉め切っていたとみられる。死因は、湯沸かし器の不完全燃焼によるCO中毒と断定された。

使われていたのは、同社製の開放式湯沸かし器「RU―5EX」で83年の製造。安全装置はなく、一連の事故とは違う機種だった。

平形さんは,1990年4月に事務所に入所(司法修習42期)。亡くなったときは弁護士3年目。さあこれから本格的に弁護士として活躍するという時でした。私たちの事務所にとっても貴重な弁護士でした。

幼い子ども3人を含めて一家5人が亡くなるという大変に痛ましい事故でした。

当時も私たちの法律事務所には,多くの弁護士がいたのですから,私たちも徹底的に事故原因を調べていたら……。少なくとも事故防止対策への警告を発することができたのではないか,との悔いが残ります。

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<教育に自由を!2月10日 市民集会> 鈴木邦男氏と小森陽一氏の対談

■東京都 日の丸・君が代・愛国心の強制
東京都では,日の丸・君が代の強制,愛国心の強制が強まっています。その手法は,「教育委員会が決めたことだから」,「学習指導要領に決まっていることだから」,「校長が決定したことだから」という紋切り型,命令と統制による押しつけです。

命令と統制の正に官僚主義の権化です。こんな権威主義や管理主義の教育からは,創造性ゆたかな子どもは育たないでしょうね。上役や権力者の顔色を見ながらビクビク,オドオドする人間しか出てきません。(で,裏に回れば弱い者虐めをする小日本人たち)。

これでは日本の未来がつぶされます。自殺行為ではないでしょうか。未来を切り開く若い芽を自分でつぶすようなものに思えます。

■鈴木邦男さん 小森陽一さんの対談
市民集会のメインは,新ウヨクの鈴木邦男さんと,旧サヨクの小森陽一さんの対談です。教職員の方の中には,新ウヨクを集会に呼ぶのは何事か,と反対した方もいらっしゃたようです。しかし,対談の内容は非常に面白かった。

【印象に残った鈴木邦男氏の話】

私は右翼のプロだが,今は異端者,裏切り者と言われています。

同じ右翼仲間同士の中は,99%と意見が一致していても,1%の違いでもあれば,許されない。裏切り者などと言われたりします。

ところが,仲間同士でない人と話すと,許容度が広い。ぜんぜん違うと思っていたのに,一つでも二つでも意見が一致すると,「オー」と言って一致するのがうれしくなる。

サヨクとかウヨクとかは大した違いではない。日本には,「話し合える人」と「話し合えない人」の2種類しかいない。

そのとおり。この点は右も左も一緒ですね。

■盛りだくさん人の発言がうまくまとまった集会

都立高校の元校長の渡部謙一さん,埼玉大学教授で元国立市教育委員の安藤聡彦さん,少年法改悪に反対する家裁の調査官の方,都立校の保護者の方々,都立高校生などの発言がありました。どれも実態に迫る素晴らしい発言でした。フォークシンガー岡史明さんの熱唱もありました。なぜか,熱唱の後に,関連裁判の報告を私がしました。

(何だか文化的香りが高い発言者と歌の後で,弁護士が一人浮いていました。「この裁判を一言で言うと,『それでもボクは立てません』ということです。」とジョークを言ったのですが,受けませんでした…。)

■裁判の状況
○予防訴訟の東京高裁の審理期日はまだ入っていません。新教基法の下での起立斉唱義務の存否が争われることになります。

○解雇裁判は昨年12月27日に結審しましたが,判決言渡期日は未定です。今春以降に判決でしょう。

○戒告処分取消訴訟の提訴
2007年2月9日,教職員らは戒告処分取消訴訟を提訴しました。東京地裁民事第19部(中西裁判長)に係属しました。

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2007年2月11日 (日)

「国民投票法」の学習会の講師を引き受けてみて

■国民投票法の学習会の講師

依頼者の方から,国民投票法についての解説を依頼されて,目黒「九条の会」で,昨年21月,お話をしたことがあります。その内容がHPでアップされているのに気がつきました。

私の話をうまくまとめてもらっています。
  ↓
http://www.a9net-meguro.org/oookayama.htm

(ただし,最後の「ご一緒に頑張りましょう」とのフレーズは私の言葉ではありません。「ご一緒に」だけは勘弁。)

■改憲派を有利にする国民投票法案

あの国民投票法案(改憲手続法案)はあまりにひどい中身です。
改憲派が,改憲に向けたイニシアティブを握るための小細工をろうしています。

国民投票法案(与党案)の問題点
(1) 国民投票運動の制限
   ・公務員,教員の地位利用の罰則
   =2年以下の禁固
(2) 不平等,不公正な宣伝
   ・憲法改正案広報協議会(衆参各10名)
   =各会派の議員数により割り当て
        改憲派が改憲の宣伝・広報を行う。
   ・テレビラジオ新聞による意見広告
        憲法改正案広報協議会が政党の所属
       する国会議員の数を踏まえて「時間数・
       枠」を定める
(3) 有効投票の過半数
      =最低投票数を決めない

よほど改憲派は自信がないんですね。

■民主党のふがいなさ

もっとも,自民党はもともと改憲政党だから,腹も立たないけど。民主党が,こんなひどい改憲手続法に賛成していることには腹が立ちます。(憲法改正したいという意見は意見としてあってもいいけど…。【僕だって,こんな「偽善憲法」は,どうかと思います。】が,しかし,それにしても,こんなひどい改憲手続法って,そりゃないでしょう。)

改憲したいなら正々堂々,自由な国民投票をしましょうよ。それが民主主義でしょうが。民主党の憲法調査会会長である枝野氏は弁護士出身なのにね。ひどいもんだ。まあ,弁護士出身の国会議員といっても,西村氏などいろんな議員がいますからね。

まったく,デモクラットの名が泣きますね。(もっとも,民主党の議員が自分がデモクラットと思っているわけないか…)。

この程度の野党第一党しかもてないのが,日本国民の不幸です。こんな民主党だから,愛知知事選でも,共産党候補に票を食われて,勝ちきれないのですがな。愚かしい。

早く「第二自民党」と党名を替えれば良いのに。でも,「同じ保守なら自民党の議員の方がずっと魅力的で,まともだ。」との評判です(ホント。秘書のレベルが違うし,要請にいったときの議員事務所の感じがよいそうです。みんな(弁護士でなく,依頼者たち)が,そう言っているのよ。)。

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2007年2月 8日 (木)

「ジイジ」の言葉尻をつかまえて・・・う~ん やな感じ

■厚生労働大臣 閣議後記者会見
(H19.02.06(火)09:21~09:28    省内会見場)
http://www.mhlw.go.jp/kaiken/daijin/2007/02/k0206.html

(記者) 少子化対策というのは、女性だけに求めるものなのかどうか、その辺りのお 考えはいかがでしょうか。

(大臣)これはもう、元から私申し上げておりますように、要するに、若い人たちの雇用の形態というようなものが、例えば、婚姻の状況等に強い相関関係を持って、雇用が安定すれば婚姻の率も高まると、こういうような状況ですから、まず、そういうようなことにも着目して、私どもは若者に対して安定した雇用の場を与えていかなければいけないと、こういうことでありましょう。それからまた、女性、あるいは一緒の所帯に住む世帯の家計というようなものが、子どもを持つことによって厳しい条件になりますから、それらを軽減するという、いわゆる経済的な支援というようなものも必要だろうと、このように考えます。それからもう1つは、やはり家庭を営み、また子どもを育てるということには、人生の喜びというか、そういうようなものがあるんだというような、意識の面の、自己実現といった場合ももう少し広い範囲でみんなが若い人たちが捉えるように、ということが必要だろうというふうに思います。ただ、前から言っていることですが、そういうことを我々は政策として考えていかなければいけないのではないかと思うのですが、他方、ご当人の若い人たちというのは、結婚をしたい、それから、子どもを二人以上持ちたいという極めて健全な状況にいるわけですね。だから、本当に、そういう日本の若者の健全な、なんというか、希望というものに我々がフィットした政策を出していくということが非常に大事だというふうに思っているところです。具体的な事について、いろいろまた考えていかなければいけない。基本的枠組みとしては、そのようなことです。

2人以上の子どもを持ちたい若者を「健全」と言うことを,反対解釈すれば,それ以外は「不健全」ということに解されます。でも,それは曲解というものでしょう。為にする議論ですな。そう批判する野党も,所詮は選挙目当ですから。

■けっこうまともな発言なのではないでしょうか?

「子どもを産む機械」発言は言語道断として,上記の柳沢大臣が言っていることは,まっとうな発言だと思います。多数の若者が結婚(法律婚か事実婚かはともかく)して,子ども2人持ちたいと思っているのであれば,それをサポートするのが政府の社会政策でしょう。
そのどこが悪いのでしょうかね? 
大臣発言は,「労働ビッグバン」主義者の連中に対する,反論になっていると思います。奥谷禮子氏なら,「そんなこと自己責任でしょ!」「税金を使って楽にしてくれなんて労働者の甘えだ!」と言うでしょうからね。

■少子化対策は「生む性」の自己決定権に対する侵害?

子どもを持つ持たないは,「生む性」の自己決定権の問題であり,国家社会が干渉すべきではないという原理主義者がいます。この立場からすれば,子どもを生みやすく,育てやすくする社会政策も,自己決定権に公権力が介入することになるのでしょうか。もしそうなら少子化対策や福祉政策は成り立たないことになります。(まあ,そこまでは誰も言わないでしょうが。ただ,この原理主義者らの論理を突き詰めれば,そこまで行き着くように思います。)

とにかく,「おじいさん」の言葉尻を捕まえて,いつまでも,ネチネチ,クドクド,いたぶるようなやり方は,昔なら「○の腐ったような奴だ」と言いたくなるでしょうね。

でも,そんなこと言うと,またまた問題発言になっちゃいます。(なお,○の中が男であろうと,女であろうと,性別を持ち込むこと自体ジェンダー的に正しくないのでしょうね。○の中は,犬とか,猿をイメージしてくださいね。)

とにかく,言葉尻をとらえての揚げ足とりは,や~な感じ。 嫌いです。

若者に安定した雇用を提供することを少子化対策と語ることがおかしいのでしょうかね。厚労大臣には,加えて,労働時間の短縮を言ってもらえると,もっと良かったのですが。

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2007年2月 7日 (水)

「裁量労働はどうなるの?」労働契約法案,労基法改正法案要綱について③

公明新聞の報道によると,ホワイトカラーエグゼンプションだけでなく,企画型裁量労働制の緩和策も撤回するように自公の雇用生活協議会で合意して,内閣・厚労省も削除することに応じたようです。(安部首相の談話ではいまいち明確でないようですが)

公明新聞
http://www.komei.or.jp/news/daily/2007/0207_02.html

自民党の中川昭一政務調査会長と公明党の斉藤鉄夫政調会長らは6日、官邸に安倍晋三首相を訪ね、労働基準法の改正法案に関して、残業の割増賃金率の引き上げなどを明記するよう申し入れた。柳沢伯夫厚生労働相も同席した。

 席上、中川、斉藤両政調会長は、法定割増賃金率の引き上げについて、(1)一定規模以上の企業は、月80時間を超える残業の割増賃金率を50%とする(2)中小企業については、適用を猶予し、施行後3年を経過した後に検討する――の2点を法律に明記するよう要請した。

 さらに、同法に基づく限度基準告示に関して、80時間未満であっても、月45時間を超える残業については、法定割増率の25%を上回る手当とするよう努力義務とし、長時間労働の抑制を求めた。

 要望ではこのほか、一部の会社員を労働時間規制や残業代支払いの対象から外す「自己管理型労働制」(日本版ホワイトカラー・エグゼンプション)の創設や「裁量労働制」の改正に関する個所については、通常国会に提出する法案では見送るよう改めて確認。事務系労働者の働き方については、今後検討する。

 安倍首相は、自己管理型労働制について「国民の理解が前提」との認識を示し、与党の要望に対し、「よく分かりました」と述べた。

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2007年2月 6日 (火)

「今度こそ本当!?-WE導入断念」労働契約法,労基法改正の法律案要綱について②

■今度こそ本当?-WEの導入断念

毎日新聞は,安倍首相が,ホワイトカラー・エグゼンプション(WE)の導入見送り,残業代割増増額の労基法導入との指示したと報道しました。

安倍首相:WE見送り、時間外賃金の割増率引き上げ指示

 安倍首相は6日、柳沢伯夫厚生労働大臣に政府が今国会に提出予定の労働基準法改正案のうち、残業という概念をなくす日本版ホワイトカラー・エグゼンプション(WE)などの提出を見送り、時間外労働賃金の割増率の引き上げだけを盛り込むことを指示した。

 自民、公明両党の雇用生活協議会で、両党が合意したことを受けたもので、それによると、割増率は月80時間を超える残業について50%(現行25%)に引き上げるとした。ただし、中小企業については適用を猶予し、施行後3年を経過した後に検討し、適用する場合は法改正するとした。見送ったWEに関しては、今後、同協議会などでさらに検討するとしている。

 柳沢大臣はWE見送りについて「本当に必要と思っていたので残念だ。最初に誤解されそれが克服できなかった」と話した。今後の取り扱いについては「論議し直さなければならない。(参院選後などに)すぐに提出することはないと思う」と話している。【東海林智】毎日新聞 2007年2月6日 21時26分

朝日新聞には,自民党・公明党の与党協議会(生活・雇用協議会)が上記の申し入れをしたとの報道されています。

このような報道は年明けからずっと報道されています。
北九州市長選の与党側の敗北,そして,愛知知事選も野党側の候補の得票数を合計をすれば与党側が敗北した現実を見て,安倍首相も決断したということでしょうか。

■後門の狼-中小企業の企画型裁量労働みなし制度の緩和

とはいえ,労基法はWEが注目されていますが,労基法改正の中には,中小企業を対象とした企画型裁量労働みなし制度の緩和が提案されています。企画,立案,調査及び分析の業務(当該業務の遂行手段及び時間配分の決定等に使用者が具体的な指示をしないこととする業務)に主として担当する労働者について適用されます。

つまり,経理などの業務を担当しながら,企画,立案,調査及び分析の業務も担当していれば(51%),裁量労働みなし制を適用されて,残業代の支払いはなくなります。残業代に替えて,裁量労働手当になるということです。こちらのほうはどうなるのでしょうかね?

WEよりも,年収の制限がないですから,中小企業のサラリーマンの残業代のゼロにするのに大きな役割を果たすでしょう。

■午前9時から午後6時までの労働時間で勝負!

グローバル競争も,朝9時から夕方6時まで働くなかで,「労働力の質」での勝負というわけにはいかんのですかね。

一部の労働者(管理監督者)以外には,その働き方で勝負すれば十分でしょう。

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2007年2月 5日 (月)

映画「それでもボクはやっていない」

■周防正行監督の裁判映画 「痴漢えん罪事件」

富山のえん罪事件についてコメントしたとおり,「それでもボクはやっていない」を子どもたちと見に行ってきました。子どもたちには大好評でした。弁護士として,【日本の刑事裁判が,ありのままま映画化されている】と自信をもって断言できます。

裁判をめぐる人物像も,裁判官,副検事,検察官,弁護士,傍聴人,裁判所門前でマイクで叫んでいる人も含めて「そのまんま」です。

指先でペンをくるっと回す癖のある検事(弁護士もいる!)。「子役人」風のエラソな副検事。ちょっとおたくっぽい裁判官。小生意気な新人弁護士。くたびれた中年弁護士(私です)。みんな「いるいる」です。

法廷の場面でも,周防監督は,エンターテイメントを意識した演出をいっさい排しています。ドキュメンタリーのようです。

裁判員制度を控えて,時期を得た映画となりました。この映画は,最高裁,検察,警察はいやがるでしょうね・・・・。でも,真実なんだから仕方がない。

■幻冬舎「それでもボクはやっていない」

完全シナリオ,周防監督の自作解説,そして,弁護士の木谷明氏(元裁判官)との対談が掲載されています。ご両人の対談も面白いですが,映画ではカットした場面を解説した自作解説も面白いです。

周防監督は同書の「おわりに」で,次のように書いていました。

「刑事裁判の最大の使命は,無実の人を罰してはならないということです」という一節が,木谷弁護士著の「刑事裁判の心」には見つからなかった。」

「刑事裁判の最大の使命は,冤罪を生まないことである」という秋山賢三弁護士の「裁判官はなぜ誤るのか」(岩波新書)にあった一節を発見した。

■「刑事裁判の目的は無罪の発見である」と言った裁判官は誰か?

おなじような趣旨の一節を,私は「無罪の発見こそ,刑事裁判官の職務だ」と,うろ覚えで前にブログで書きました。
  ↓
http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2007/01/post_0ddd.html

この一節は,下村幸雄氏(元裁判官・弁護士)の「刑事裁判を問う-在官30年の思索と提言-」(1989年 勁草書房)の中で書いてありました。

この下村氏の著作を自宅で取り出して探してみたら,この一節が見つかりました。そこには,次のように書かれていました。

「刑事裁判の目的は無罪の発見にある」という藤江忠二郎判事の言葉。(同書263頁)

「藤江さんは民事裁判官であられたが
,『刑事裁判の目的は無罪の発見にある』ということを口癖のように言われていたのである。私はこの言葉を藤江さんご自身の口から聞いた。そして,結局,この言葉が,法律家としての私の金科玉条になった」(同書336頁)

「無実の発見」というところが,有罪率99.9%の実態を踏まえた,うまい言い方だなあと感心した覚えがあります。

あらためて下村氏の著作を読んでみて,研修所教育の在り方について,「無罪記録を使用しないことは『刑事裁判』修習の致命的欠陥である」とされ,誤判事件の「記録を使って始めて,『合理的な疑い』或いは『確信』といった概念の内実を味得し,事実誤認の恐ろしさを知る機会を持つのである」とされています。
「判決書きの訓練」を優先する「官僚的な法律技術屋養成のため」の教育だと喝破されています。

「官僚的な法律技術屋」というのは,民事・刑事の区別なく,また裁判官だけでなく,弁護士にとっても耳が痛いところですね。

とにかく,映画「それでもボクはやっていない」を是非,ご覧ください。

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