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2007年1月25日 (木)

労働契約法,労基法改正の法律案要綱について①

2007年1月25日 第73回労働政策審議会労働条件分科会 

■「労働契約法案要綱」と「労基法一部改正法案要綱」

労働政策審議会に厚労大臣から,「労働契約法案要綱」及び「労働基準法の一部を改正する法律案要綱」についての意見を求める(諮問)がなされました。
    ↓
「roudouzyoukenbunkakai070125.pdf」をダウンロード

■「労働契約法案要綱」について

①【違法な解雇の金銭解消制度】は撤回されています。
②【整理解雇の規制】がなくなっています。
③【就業規則による労働条件の変更】については次のとおりです。

二 労働契約の内容の変更

(一)労働者及び使用者は,その合意により,労働契約の内容である労働条件を変更することができるものとすること。

(二)使用者,労働者と合意することなく,就業規則を変更することにより,労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできないものとすること。ただし,(三)による場合は,この限りではないものとすること。

(三)使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において,変更後の就業規則を労働者に周知させ,かつ,就業規則の変更が,労働者の受ける不利益の程度,労働条件の変更の必要性,変更後の就業規則の内容の相当性,労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは,労働契約の内容である労働条件は,当該変更後の就業規則に定めるところによるものとすること。ただし,労働契約において,労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については三(一)に該当する場合を除き,この限りでないものとすること。

(四)就業規則の変更の手続に関しては,労働基準法第八九条及び第九〇条の定めるところによるものとすること。

■就業規則の変更の判例法理との関係
最高裁秋北バス事件判決の,「就業規則の作成または変更によって、労働者の既得の権利を奪いあるいは不利益な労働条件を一方的に課すことはできない。」という大原則を,上記(二)の「使用者,労働者と合意することなく,就業規則を変更することにより,労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできないものとする」で明示したということですね。

合理性の判断要素として,上記(三)では,①労働者の不利益変更の程度,②労働条件の変更の必要性,③変更後の就業規則の内容の相当性,④労働組合等との交渉の状況その他があげられています。

しかし,裁判所の判例は,上記の4つの要素以外に「代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況」、「不利益を受ける労働者について不利益性を緩和するなどの経過措置」、「同種事項に関する我が国社会における一般的状況」も考慮しています。

また,「賃金等の重要な労働条件の不利益変更については,高度の経営上の必要性がなければならない」,「一部の労働者に特に不利益を課すことは許されない」という判断もしています。

これらの趣旨は法案要綱でも生かされることになるのでしょうか。
もし,上記の法案要綱が,従来の最高裁判例を変えるものではないということが立法者意思として明確(法文,附帯決議,国会審議での場の説明)にされれば判例に沿ったものと間違いなく理解することができます。

■一部の報道について
日経新聞は,1月24日で次のように報道しています。

「労働条件、就業規則で変更・労使交渉が不要に」
(インターネット版)

「労働条件,就業規則で変更」「労使合意不要に」
「新法の目玉は就業規則を役割強化」
「就業規則に労働契約としての法的効力を持たせることで全従業員の労働契約をまとめて変更できるようになる。経営の機動性を増すため経済界が導入を求めていた」(日経朝刊)

「労使交渉不要」などは内容的には不正確です。また,この報道では,今まで就業規則による労働条件の不利益変更が許されず,この労働契約法にて初めて可能になると誤解するおそれがあります。
(逆に言えば,「就業規則による労働条件の不利益変更には合理性が必要である」という判例法理がいかに一般に知られていなかったということを示しているとも言えます。)

■中小企業の労働条件の不利益変更の実態
大企業は「就業規則の変更の判例法理」を踏まえて就業規則の変更による労働条件の不利益変更をしてきます。
しかし,中小企業は,就業規則の変更などという手続をすることなく,恣意的に労働者に労働条件の不利益変更を押しつけるというのが実態です。そもそも,多くの中小企業は就業規則を労働者に周知さえしていません(隠している)。

■就業規則変更の判例法理の実定法化は改良
ですから,使用者が就業規則によって労働条件を不利益に変更するには「周知性」や「合理性」の要件が必要であることを,労働契約法に明示するということは,現実の使用者の乱暴な不利益変更の押しつけから,労働者を保護することになります。

従来の最高裁判例法理が変更されないということが明らかにされるのであれば,この労働契約法は大いに意味があると思います。

一部に,「労働契約法に就業規則の変更のルールを定めることは,使用者が自由に労働条件を不利益変更することを認めることになる」という反対意見がありますが,それは誤解に基づく批判だと思います。判例法理の実定法化は歯止めの一つになると思います。

■問題点
もちろん,これで十分でないことも明白です。

①就業規則の周知性を要件としてますが,労基法上の手続を経ることが変更就業規則の効力発生要件としていない点が問題です。

②就業規則の変更手続には労働者代表の意見聴取が必要とされていますが,労働者代表の民主的選出のルールが整備されておらず,協議義務とされていない点も問題です。

少なくとも上記2点については,労政審労働条件分科会,国会審議で十分に検討すべきです。今後の労働契約法の重要な検討課題です。(今まで,就業規則の変更法理がそもそも反対であるという原理主義論が強くて,この大切な問題が議論されてこなかったのではないでしょうか? もっとも,民主的な労働者代表委員会に対しては,左右を問わず労組は反対するでしょう。)

■労基法一部改正法案要綱について

次の3点がフルセットで提案されています。

①【長時間時間外労働の割増賃金率の増加】
②【自己管理型労働制】(ホワイトカラー・エグゼンプション)
③【中小企業について,企画業務型裁量労働制の要件緩和】

経営側の巻き返しでしょうね。それとも,厚労省としては「行政として閣議決定に従いやることはやったから,あとは内閣の政治責任」という開き直りでしょうか。

今後,1ヶ月の間は大きな政治争点となりますね。
労働法改正問題が,こんなにマスコミに大きく取り上げられ,大きな政治争点となるのは,この20年くらいなかったことです。

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2007年1月23日 (火)

Not guilty - 富山のえん罪事件に思う

富山の強姦・えん罪事件の報道です。何だか,弁護士として怒り心頭。その後,愕然とします。

朝日新聞
http://www.asahi.com/national/update/0119/TKY200701190358.html
http://mytown.asahi.com/toyama/news.php?k_id=17000000701200003

別の服役中の男が容疑を認めたため,えん罪が判明したという。弁護人も有罪でないとは気がつかなかったと言っています。

富山県警は19日、02年に起きた強姦(ごうかん)事件などで懲役3年の実刑判決を受けて服役した富山県の男性(39)が無実だったと明らかにした。

男性は任意の取り調べに当初は容疑を否認したが、3日目に容疑を認めたため、客観的な証拠がないまま逮捕した。男性は公判中も一貫して罪を認めていたという。

県警によると、2件の事件現場にあった靴跡は、男性の靴のサイズより大きかったという。

佐野仁志・富山地検次席検事は「様々な証拠を総合的に判断して起訴したが、振り返ってみると、男性を犯人と特定する客観的な証拠はなかった。基本に忠実な捜査を怠り、客観的な証拠に対する問題意識が足りなかった」と話した。(朝日新聞)

■虚偽の自白がなぜ生まれるのか?
この男性は,なぜ自白したのか。それを徹底的に調べて,嘘の自白を生み出す刑事司法の構造を是正しなければ「えん罪」は永遠になくならないでしょう。

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2007年1月19日 (金)

ホワイトカラー・エグゼンプション-まだまだあきらめぬ?  内閣・厚労省

■安倍首相のテレビ記者会見 1月16日   http://news.tbs.co.jp/

安倍総理
「働く人々 国民の理解が不可欠である。今の段階では難しい。現段階で国民の皆様の理解が得られているとは思いません。やはり国民の皆様に、働く人たちの理解がなければ、やはりこれはうまくいかないんだろうと思います」

この安倍総理の発言がぶれています。
厚労相や厚労事務次官が修正し解釈しています。

■厚労事務次官定例記者会見  1月18日
     H19.01.18(木)14:00~14:05  省内会見場
  http://www.mhlw.go.jp/kaiken/jikan/2007/01/k0118.html

(記者)
  与党の方で、労働基準法、ホワイトカラーエグゼンプションの関係ですけれども、今通常国会の提出見送りというような判断がなされているんですけれども、いろいろ他にも労働関係は提出予定法案がありますが、これらは予定どおり提出されるということでよろしいでしょうか。

(次官)
総理の発言を私どももよく確かめましたけれども、今の段階では理解が得られていないとおっしゃっていて、官房長官は、これについて、現状認識を述べられたもので、基本的に厚生労働省で今後きちんとした作業を進めるということだということをおっしゃっているという中で、与党の方でも、私ども見送るというような意思決定がなされたとは認識しておりません。…今後とも粛々と、今までの作業、手続きを続けていきたいというのが基本認識でございます。

(記者)
今日、一部報道で、労働基準法の改正案について、ホワイトカラーエグゼンプションを除いて、残業代の割増しだけをやるという与党合意があったという報道があったのですが、…分割して残業代の割増しだけを出す可能性があるのかどうかというところのご認識をお聞かせください。

(次官)
私ども、昨日与党幹部が話し合われたということに関連して、昨日の段階で、それはまだ詰まっていないという議論が行われたのであって、出さないという決定はされていないというふうに、与党の動きについて、当方の国会担当の窓口の者から報告を受けております。そういう認識でございます。…私どもはパッケージでこれから考えていくという考え方に変わりはありません。

■柳沢厚労相 閣議後記者会見  1月19日
  http://www3.nhk.or.jp/news/2007/01/19/d20070119000127.html

柳沢厚生労働大臣は、閣議のあとの記者会見で「制度についてのPRが十分でなかったことをたいへん反省している」としたうえで「安倍総理大臣の方針は従来とまったく変わっていないと聞いており、それを前提に物事を進めていく」と述べ、通常国会で必要な法案を提出できるよう作業を進めるなど、なお努力したいという考えを示しました。(NHKインターネット版の報道)

1月18日付けの公明新聞http://www.komei.or.jp/news/daily/2007/0118_03.htmlでは,少なくとも自公がWE導入見送り合意と,明確に報道しています。自民・公明与党側の反発が強まるでしょうね。官邸をはさんでの与党側と経営者側の綱引き,安倍総理は右往左往。

安倍総理のテレビの発言が軽いものだとなると,「しんちゃん」の存在自体が官僚からも議員からも軽く受け止められているということです。

それとも,これらは「いや,最終的に断念したわけではないッス」と経済界へのポーズ?「最期まで,ラッパを吹いてました」という旧皇軍的精神主義で,経済界に納得してもらうということかしら。(そのココロは,「次はやりますから,今は勘弁してね」って?)

それとも「WE導入阻止,割増賃金は上げろ」という与党協議会のプレッシャーに対してセット論を強調するためのポーズなのか。

どちらにしても,安倍政権は,ブレが大きすぎて国民から見てわかりにくい。鼎の軽重が問われるってやつですな。

政治的には失策なんでしょうね。
民主党,共産党,社民党にとっては良い展開ですな。

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2007年1月17日 (水)

ホワイトカラー・エグゼンプション導入断念。その後は?

この間の目まぐるしい動きを追って新聞の見出しを次に並べました。
本当に壮観(あるいは,右往左往)ですね。

■残業代ゼロは時期尚早 公明・太田代表が強調
 2007年01月02日19時03分 朝日新聞
■自民・丹羽総務会長も、残業代ゼロに「慎重に対応を」
 2007年01月04日22時11分 朝日新聞
■労働基準法改正案:法案提出方針不変--柳沢厚労相
 2007年1月5日 東京夕刊 毎日新聞 
■安倍首相“残業代なし”法案提出に慎重姿勢
 日テレニュース <1/5 23:56>
■残業代ゼロ 首相「少子化対策にも必要」
 2007年01月05日22時01分 朝日新聞
■残業代ゼロ見送り論、与党に強まる 厚労省に戸惑い
 2007年01月06日20時49分 朝日新聞
■残業代ゼロ制、「説明責任、十分ではない」 中川幹事長
 2007年01月07日16時52分 朝日新聞
■労働時間除外制は通常国会で審議を・経団連会長
 2007年1月9日 19:03 日経新聞 
■労働時間規制除外制は導入見送り、選挙控え政府与党方針
 2007年1月10日 午前7時 日経新聞
■残業代ゼロの基準は年収900万円以上、と厚労相
 2007年01月10日12時11分 朝日新聞 
■残業代ゼロ法案、提出へ 厚労相「対象は20万人」
 2007年01月11日09時13分 朝日新聞 
■残業代ゼロ法案、通常国会に提出へ 塩崎官房長官が表明
 2007年01月11日13時23分 朝日新聞 
■残業代ゼロ法案提出「現状では困難」 中川幹事長
 2007年01月16日12時24分 朝日新聞
■安倍首相 通常国会への提出見送り 労働時間規制除外法案
 2007年1月16日 共同 配信(19時35分)東京新聞
■残業代ゼロ法案 政府、通常国会提出を断念
 2007年01月16日20時55分 朝日新聞

これで,労基法改正案はすべて流れて,労働契約法もぽしゃる。ひょっとしたら,パート法も最低賃金法も全部,ダメってか?と思っていたのですが,次の読売の報道を見てびっくり。

■読売新聞 インターネット版 2007年1月17日21時11分 
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20070117i114.htm?from=main1
  ↓
残業代の割増率引き上げ、与党が法案提出を要求へ
 与党は17日、政府が通常国会で目指す労働法制の見直しについて、法案として提出を見送るのは「日本版ホワイトカラー・エグゼンプション」制に限定し、残業代の割増率(現行は25%増)引き上げなどの他の改革は、予定通り関連法案提出を政府に求める方針を決めた。

同日の自民、公明両党の幹事長、政調会長らの会談で一致した。これを受け、厚生労働省は通常国会に働き方や賃金のあり方を見直すための労働関連法案を計5本提出する予定だ。

これって,与党協議会のことでしょうね。
【公明新聞:2007年1月18日付】に次のように報道されています。

残業代ゼロ制 通常国会の提出見送り 自公が方針

自民、公明両党の与党幹事長、国会対策委員長、政務調査会長は17日、都内で会談
し、25日召集の通常国会への対応について協議した。
公明党から北側一雄幹事長、漆原良夫国対委員長、斉藤鉄夫政調会長が出席した。

雇用問題に関する与党協議会の設置を提案し、早期に立ち上げることを決めた。
さらに、自民党の中川秀直幹事長が、一定の要件を満たす会社員を労働時間規制から外し、残業代の支払いをなくす「日本版ホワイトカラー・エグゼンプション」制度の導入について、「国民の理解を得られていない」と述べ、与党として次期通常国会に同制度を導入する法案の提出を見送ることで一致
一方、正規・非正規に関係のない同一労働・同一賃金制の導入や最低賃金制度の充実など、その他の労働法制関連法案については、通常国会に提出する方針を申し合わせた
まだまだ,二転三転ありそうですね。
でも,これって官邸に対する自民党の守旧派(あるいは保守本流)側の攻勢って局面(党内権力闘争)なんでしょうか?

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2007年1月15日 (月)

ホワイトカラー・エグゼンプションの「年収要件」って歯止めになる?

 ホワイトカラー・イグゼンプションについて,年収要件は900万円と省令で定めると報道されています。
 
ところで,平成11年6月に,新・職業安定法が成立しました。公共職業安定所と並んで,民間職業事業所を法認するという抜本的改正を行った改正でした(平成12年4月施行。「労働ビッグバン」の走り。宮内義彦さんや奥谷禮子さんはビジネスチャンスをものにしたでしょうな。)。当初,休職者から手数料を徴収できるのは,「芸能家」及び「モデル」の職業に紹介した求職者に限られていました。

平成14年2月16日から,この対象範囲が「経営管理者」(一般的に、部長相当職以上の職にある者、例えば、役員、部長のほか、企画室長、社長室長、エグゼクティブ・バイスプレジデント、ゼネラルマネージャー等部長以上の職に相当するものがこれに該当する。)又は科学技術者(学校教育法の規定による大学(短大を除く)の課程を修了し、又はこれと同等以上の自然科学、社会科学、人文科学等についての専門的知識を持ち、その後5年以上の経験を有することを必要とする。)の職業に紹介した求職者にも拡大されたのです。その年収要件は1200万円でした。

ところが,わずか2年後の平成16年3月1日に,「厳しい雇用失業情勢等に対応するため、職業紹介事業が労働力需給の迅速、円滑かつ的確な結合を図ることができるよう」職業安定法・関係政省令等が改正されて、有料職業紹介事業者が手数料を徴収できる科学技術者・経営管理者の求職者に係る年収要件が、年収700万円超に引き下げられました。

「求職の機会を拡大するためにの年収要件の切り下げだからWEとは違う」という言い訳もあるでしょうが,省令だと簡単に年収は下げられるという「前例」であることには変わりないでしょう。

ホワイトカラー・イグゼンプションについても当初,900万円とされても,安心ができません。2年も経てば,熱しやすく冷めやすいマスコミも騒がないでしょうから。

この厚労省の「前科」(約4割切り下げ)を当てはめれば,年収900万円は,年収500万円程度に切り下げられることになるかもしれませんね。日本経団連が要求している400万円に近づきますな。

くわばらくわばら。

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2007年1月11日 (木)

追悼 藤村信氏 LE TEMPS DES CERISES 「さくらんぼうの実るころ」

今年になって,昨年8月12日に藤村信氏が亡くなっていたことを遅ればせながら知りました。
  ↓
http://www.sanyo.oni.co.jp/newspack/20060812/20060812010013061.html

藤村信氏死去 ジャーナリスト

 藤村信氏(ふじむら・しん=ジャーナリスト、本名熊田亨=くまた・とおる)12日午前1時20分、脳内出血のためパリの病院で死去、82歳。長野県出身。自宅はパリ。葬儀・告別式は行わない予定。

 元中日新聞記者で同社欧州駐在客員。1991年度にボーン・上田記念国際記者賞、2000年度に日本記者クラブ賞受賞。「プラハの春 モスクワの冬」「ヨーロッパ十字路」などの著書がある。(8月12日12時23分

■1981年5月,ミッテランが仏大統領選で勝利。

当時は私は大学4年生だったと思います。フランスに社会党政権が出来たことにびっくりしました。

藤村信氏は当時,「世界」で「パリ通信」という東西ヨーロッパ政治について不定期に連載していました。1981年11月号の「世界」でミッテラン左翼政権登場を書いた「パリ通信」を読んだ記憶があります。その後,「パンと夢と三色旗-フランス左翼の実験」(藤村信著)という本(1987年5月発行・岩波書店)でミッテラン政権のフランス政治がまとめられていました。

その第1章の「さくらんぼうの実るころ-フランスの左転回」にて,ミッテラン大統領誕生のパリの祝祭,まさに「巴里・革命祭」の様子が美しく書かれています。

■西欧社会主義の最後の灯火?

藤村氏は,オールドリベラリストであり,かつ,「可能であれば」という留保付きで,リベラルな社会主義を指向していたと思います。氏は「フランス左翼の実験」を愛おしむ筆致で描いています。

モラルと現実との相克は左翼政権に果てしない難問を提起して,妥協の出口はまことにせまく,ほとんど見いだしがたい。難礁だらけの水路をいきながら左翼政権はどこまでその初心のモラルをまもっていけるものか?

コミューンのシャンソンに歌われるように,さくらんぼうの実るころは束の間にすぎゆく季節でした。パリ・コミューンといい,人民戦線といい,<5月革命>といい,左翼の実験はそのしるしさえ刻みつけないうちに壊滅させられるか,あるいはさらに強い反動の波にさらわれて消えていきました。

「さくらんぼうの実るころを想う,わが想いはやまないであろう。その想いのごとに,いやされぬこころの傷はうずく。たぐいなき幸にめぐまるるととも,わが悲しみのとざされることはない。さくらんぼうの実るころ,むねにいだいた思い出の,想いやむことはないであろう。」

ちょうど,弁護士になって二年目くらいに,この本を読んでいます。
今,取り出して見るとと,お恥ずかしながら,所々にラインマーカーを引いています。
結構,私は氏の一連の本に影響されているようです。

事実に即して物事を見ること,断定には慎重になること,ユーモア(エスプリ?)を忘れないことなどなど。自分には出来もしないけど,そんな風に書ければ良いなあと,氏の達意の文章にあこがれました。

■ロワイヤル 仏大統領候補

今年,フランス社会党の大統領候補は,セゴレーヌ・ロワイヤル元環境大臣です。
まさに才色兼美。フランス社会党のシンボルのカーネーションのようです(ほめすぎか?)
   ↓
http://www.afpbb.com/article/1201820

同女史のことは
 ↓
http://www.afpbb.com/article/1330819

藤村信氏だったらどんな「パリ通信」を書いてくれたのでしょうか。

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2007年1月 9日 (火)

新年早々「ホワイトカラー・エグゼンプション」導入を巡る政治家の動き

新年早々,私は風邪をこじらせ寝込んでいましたが,その間の,WE(ホワイトカラー・エグゼンプション)に関する政治家の発言は目まぐるしいですね。

昨年12月3日,自民党の雇用・生活調査会が立ち上がり,後藤田議員らが経財諮問会議に対して宣戦布告(http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2006/12/post_bbf7.html)をしました。確かに見事な「反転攻勢」です。

やっぱり政治家の力は凄いです。(大ざっぱなところは難点ですが…。)

○1月2日に公明党の太田代表のWE導入の労基法改正への反対姿勢と,与党協議会設置の要求(1月2日朝日新聞)。

○1月4日に自民党の丹羽総務会会長が,「賃金抑制や長時間労働を正当化する危険性をはらんでいる」「法改正は極めて慎重に対応しなければならない。経営者は人件費の削減ばかりでなく,従業員が報われるように雇用環境の整備にもっと力を入れるべきだ」と強調した(1月4日朝日新聞,1月6日,毎日新聞。詳細は後記参照)。

○1月5日,安倍首相は5日、一定条件下で会社員の残業代をゼロにする「ホワイトカラー・エグゼンプション」の導入について「日本人は少し働き過ぎじゃないかという感じを持っている方も多いのではないか」と述べ、労働時間短縮につながるとの見方を示した。首相は「家で家族そろって食卓を囲む時間はもっと必要ではないかと思う」と指摘。長く働くほど残業手当がもらえる仕組みを変えれば、労働者が働く時間を弾力的に決められ、結果として家で過ごす時間も増えると解釈しているようだ。(1月5日朝日新聞)。

○1月7日,中川秀直自民党幹事長は,「成果があれば短時間労働でよいという考え方や家庭にいる時間が長くなることもある。方向性は理解できる」としながら,政府も経営者も国民への説明が十分でないとして,慎重姿勢をにじませた(1月7日朝日新聞)

公明党の太田代表や自民党の丹羽総務会長らは,WEが残業代を抑制し,長時間労働を助長することを危惧しているのです。
これに対して安倍総理は,「残業代ゼロにすれば,長時間労働がなくなる」というトンチキ理解でいらっしゃる(このヒト,大丈夫かいな?-八代教授の言い分を真に受けられる希有な理解力を持っていらっしゃっる)。自民党中川幹事長は,さすがに「成果があれば短時間で良いから,家庭にいる時間が長くなることもある」と言うにとどめている。

読売新聞は,早々と「労基法改正案,通常国会提出見送りか」と観測記事を報道しています。(1月8日読売新聞)。でも,安心はまだ早いでしょう。自公の与党協議会がどうなるか注目です。

労働組合は,労基法「改悪案」国会提出阻止を強調しています。民主党も,参議院選挙は格差是正を掲げてたたかうという路線だそうです。共産,社民も同様。
労働弁護団も集会を予定しています。
  ↓
http://homepage1.nifty.com/rouben/

参議院選挙の争点は,安倍総理の「憲法改正」と「公務員改革(公務員バッシング)」,対する野党が「格差是正」。この構図は,自民党と公明党の議員さんたちは嫌でしょうね。

丹羽総務会長の1月4日の講演会の発言はこの続きで,どうぞお読みください。

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2007年1月 7日 (日)

今,解雇規制を緩和すれば,さらに格差が拡大し雇用が破壊される

■雇用保障を前提とした戦後の日本企業

(*12月31日の続き→)確かに,日本企業は,戦後の高度経済成長の時代を経て,雇用保障を前提とした日本的雇用ルールを作ってきました。雇用保障と引き替えに,年功的賃金制度,柔軟な配転などの人事処遇,協調的な労使関係があったのでしょう。敗戦直後の激烈な労働争議を経験した「階級的妥協」という側面があったと言われています(R.ドーア氏)。しかし,この雇用保障を前提とした雇用ルールは大企業と中堅企業で妥当していただけで,中小零細企業では「建前」にしかすぎず,現実ではありませんでした(労働者の7割は中小零細に雇用されていた)。

同時に,日本企業は,昔から,雇用保障を受けない季節工,臨時工,社外工などを活用してきました。ですから,非正規労働者を拡大しようと思えば,過去においても十分に拡大して活用できたはずです。

では,何故,今(1990年前半)までは正社員中心の労働・雇用システムを維持してきたのでしょう? (解雇規制が強すぎて解雇できなかったから? じゃあ非正規労働者をもっと増やせばヨカッタのに?でも,量的には拡大しなかった。)

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