民主党の労働契約法案と労働時間法制(案)を読んで
■注目すべき民主党案
民主党は「労働契約法案と労働時間法制(案)」について,パブリックコメントを募集しています。
○民主党HP
http://www.dpj.or.jp/news/dpjnews.cgi?indication=dp&num=9337
○民主党案
http://www.dpj.or.jp/news/files/roudou061206(2).pdf
■労働弁護団の労働契約法制提言
労働契約法案としては,1994年に労働弁護団は第一次案を発表しています。1994年当時は,労働弁護団が労働相談活動をする中で個別労働紛争が急増している現実に気づき,労働契約法の必要性を痛感していました。当時は,労働契約法が現実の立法課題や政治課題になるとは(私は)思っていませんでした。
その後,労働弁護団は2005年に労働契約法を提言しています。
↓
http://homepage1.nifty.com/rouben/teigen05/gen050519.htm
ちなみに,当時,私自身,このような法律は,「『革命前夜』にでもならない限り,日本では実現できない」と陰で言っていたものです(要するに「実現不能」ということ)。ところが今,労働契約法が実際に立法課題として浮上しています。文脈とステージが異なる(規制改革の流れにのった)とはいえ「時代」は動くものですな。
■時代は変わる
ということで,民主党の労働契約法を興味深く読みました。中身は,連合の労働契約法試案とほぼ同じです。
↓
http://rengo-soken.or.jp/houkoku/itaku/sian_jobun.pdf
でも,「新自由主義政党」かと思われていた民主党が政治課題として連合の労働契約法試案を受け入れたこと自体が素晴らしいことです。
■民主党案の労働契約変更請求権
さて,注目の労働条件の変更については,使用者に労働契約変更請求権を認める制度を提案しています。
○使用者による契約内容変更の権利が労働契約上認められているとき,使用者の変更権の行使は,次の各号をいずれも充足している場合においてのみ,効力を有すること。
一,変更権行使の必要性があること
二,変更権行使の内容が合理性を有すること
三,使用者が誠実に説明協議を尽くしたこと
○当事者の一方が,契約内容を維持することが困難な事情が生じたために,相手方に契約の変更を申し入れ,当事者間の協議が調わないときは,労働審判所を含む裁判所に契約内容の変更を請求することができること。
現在の秋北バス事件以降の最高裁判決を法律により変更して,労働契約変更請求権を導入しようとするものです。ただ,労働契約変更を認めるかどうかの要件は,現在の最高裁判例の「合理性判断」の枠内にあるものと思われます。
■民主党案の倒産時の変更解約告知制度
なお,民主党案には,倒産の場合には「変更解約告知」を認めるというちょっと気になる提案があります(なお,この倒産の場合とは,民事再生や会社更生の場合に限定するという趣旨だと思われますので,寝た子は起きないでしょう)。
■労働弁護団の労働条件変更手続
これに対して,労働弁護団は,労働条件変更については,次のような最高裁判例に従った提言を行っています。
1 就業規則の作成または変更によって、労働者の既得の権利を奪いあるいは不利益な 労働条件を一方的に課すことはできない。ただし、就業規則の当該条項が合理的なものである限り、労働者に対して拘束力を有する。
2 就業規則の作成または変更における当該条項が合理的なものであるとは、当該条項の作成または変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における合理性を有することをいい、特に、労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成または変更については、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合でなければ、労働者に対して拘束力を生じない。
3 就業規則の作成または変更の合理性の有無については、労働者が被る不利益の内容・程度、使用者の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、不利益を受ける労働者について不利益性を緩和するなどの経過措置、労働組合等との交渉の経緯、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断するものとする。
■両案とも優劣つけ難し
理論的には,民主党案も労働弁護団案もどっちも成り立つのでしょう。
問題は,日本の現実の企業社会に導入された場合に,どのような機能を果たし,どのような結果を招くのかということです。これは政策上の見通しの問題です。
使用者から,「承諾しなければ裁判で決着をつけるぞ」と言われた場合に,拒否できる労働者は極めて少数でしょう。労働者に拒否された場合には,使用者は労使協議をアリバイ的に行ってさっさと労働審判を申し立てるような気がします。
労働弁護団の案の場合には,合理性の予測困難性から見ても,使用者としては,最高裁があげる各要素を検討して慎重に労使協議を行うことになるでしょう。「石橋を叩いて渡る」気持ちに傾くように思います。しかし,他方で,使用者が不利益変更を強行したら,労働者は自ら合理性を争って提訴する負担を課されます。
■労働契約法が政治的争点になりつつある?
それはともかく,野党第一党の民主党から,労働契約の総則,締結・成立,展開,変更,終了までの包括的な労働契約法案が提案されたことは極めて画期的です。
今思えば,労働弁護団は発言力がなく,その提言は政府,マスコミ,主流・非主流の労働運動からは見向きもされませんでした。
ですから,民主党の労働契約法案は,「違法解雇の金銭解決制度」と「過半数労組の承諾による合理性推定(or労使合意の推定)」の「息の根を止める」ための,騎兵隊の突撃のような力強い援軍ですな。民主党には,社民主義にウイングを広げてほしいものです。
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