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2006年11月 7日 (火)

読書日記 「働きすぎの時代」 森岡孝二著,「搾取される若者たち-バイク便ライダーは見た」阿部真大著

読書日記 「働きすぎの時代」 森岡孝二著
           岩波新書 2005年8月発行
           2006年11月1日読了
      「搾取される若者たち-バイク便ライダーは見た」
          阿部真大著
           集英社新書 2006年10月発行
           2006年10月25日読了

■「働きすぎの時代」
だいぶ以前に購入していた新書ですが,川人博弁護士の過労自殺などの類書を読んでいたので,積ん読になっていました。日本版エグゼンプション(WE)導入の労政審労働条件分科会での審議が大詰めを迎えつつある,この時期に読んでみました。
「280日間,休みのない連続労働」等々ひどい例もたくさん紹介されています。面白かったのは,新自由主義の「枢軸国」である米・英・日で,労働時間が増加し,「働きすぎ」が進行していると指摘して,その原因を4つに整理しているところです。

著者は,①グローバル資本主義(世界的な競争激化による労働時間の延長),②情報資本主義(パソコンとインターネット技術による「どこでもオフィス」状態),③消費資本主義(経済サービス活動の24時間化),④フリーター資本主義(非正規労働者の増加と労働時間の二極化)をあげます。

■「どこでもオフィス」の誘惑と陥穽
特に,「情報資本主義」が労働時間の長時間化,働きすぎを助長しているという点はそのとおりだと思います。「家庭も出先も職場になった」とその特徴を言い表します。いつでも,どこでも,誰でもインターネットに接続できる「ユビキタス・ネットワーク」は,Eメールの洪水をもたらし,労働者は24時間仕事から解放されなくなります。まさに「どこでもオフィス」です(便利になったが,蟻地獄のようなもの)。

一部のホワイトカラーはそれが当たり前になったりしています。ひょっとしたら,「どこでもオフィス」で働く自分が「格好いい」と思ったりしているかもしれません。これが「テクノ依存症」ですね。こんな心理が,長時間・過密労働に過剰適応し,仕事にのめり込んで,ある人はうつ病に罹患したり,ある人は過労死したりするのでしょうね。

■「搾取される若者たち」
   →ワーカーホリックになる若者の心理とカラクリ

「搾取される若者たち-バイク便ライダーは見た」(阿部真大著 集英社新書)では,バイク大好きーの若者たちが,バイク便という仕事にのめり込み,「ワーカー・ホリック」状態になっていく様が描かれています。強制されるのではなく,自らライダーズ・ハイのような状態で身体をこわすまで働き続ける心理によりそって記述されています。
個人請負のバイク便ライダーの労働組合が紹介されたり,「連帯して戦おう」と呼びかけているのには若者らしくて良いですね。応援したいと思います。

■「目覚め」は遠い,おじさん達
多くの「労働者」は,「強制労働させられている」と感じていません。責任感と自らのやりがいを感じて自発的に仕事をしていると思っています。最後の最後に身体や精神の健康を損なってから初めて,自発的でないことに気づくのでしょう。そんな状態から「目覚める」ことはなかなか難しいようです。
高校時代のサラリーマンの友人(多くはそれなりの企業で管理職をしている年頃ですが)に,私が「長時間労働で大変だなあ。」と言っても,「おまえなあ。夜6時,7時にウチに帰って何か面白いことあるか。仕事しているほうが良いに決まっているじゃないか」と言われました。まあ,私もそんな状態ですから,「そりゃそうだよな。」と頷いてしまいました。
でも,専業主婦に支えられている世代だからこそ言えることですが。
こうなると,まさに「ライフスタイル」の問題ですね。日本のおじさん達の「目覚め」は遠いでしょうな。熟年離婚を申し渡されたときに,初めて目が覚めるのでしょう(他人ごとじゃないけど)。

■労政審「ホワイトカラー・エグゼンプション」
労政審労働条件分科会の議論が大詰めです。「自律的労働時間制度」(日本版エグゼンプション)の導入の是非が大争点です。これが導入されれば,日本的職場環境と日本人のライフスタイルからいって,森岡孝二教授が指摘されるように,さらに「過労死予備軍」が増加すると私は考えます。

日本労働弁護団は全国過労死弁護団と共催して次のとおり集会を開催します

【日本版エグゼンプション、断固阻止!役に立つ労働契約法を】
   ↓
労働法制を議論している労政審労働条件分科会は、12月に「建議」を出すべく、スピードップしています。最大の争点は、労働時間法の適用除外者を拡大する日本版エグゼンプションと労働契約法の中に就業規則の民事的効力に関する規定を置くのか、です。前者は8時間労働制の崩壊につながり無限定な長時間労働を強いられる危険があり、後者は就業規則万能法に帰してしまう危険があります。

日 時 2006年11月16日(木)
午後6時30分~午後8時30分(午後6時開場)
場 所  総評会館2階大会議室(地図はこちら)
参加費  無 料(事前申込要・先着順)
内 容  1. 講演  辻信一 明治学院大学教授
     「スローライフとGNH-仕事観の転換を」
     2. 報 告  分科会労側委員/ 弁護団
http://homepage1.nifty.com/rouben/

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