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2006年11月23日 (木)

「今後の労働契約法制について検討すべき具体的論点(1) (素案)」について

11月21日 労政審労働条件分科会
「今後の労働契約法制について検討すべき具体的論点(1) (素案)」

 11月21日の労働条件分科会は傍聴できなかったため,どのような説明と議論がなされたのかは知りません。ところで,なぜ具体的論点の「(1)」なのでしょうか。(1)の後に,続きの(2)が出されるのでしょうかね。

 先ず,労使委員会が消えたのは確定的のようです。
 次ぎに,過半数労働組合の合意による,就業規則の変更による労働条件の不利益変更の「合理性推定」あるいは「合意の推定」も消えました。現状の多数派労組が,労働者の利益を公正に代表しているとは到底思えませんから,賛成です。

 労働組合は,労働組合らしく団体交渉と争議行為により労働条件の決定に関与すべきでしょう。それもまもとにできない現状の多数派(過半数)労働組合が就業規則変更に「白旗」をあげただけで,非組合員の労働条件まで左右するなんて,理屈が通りません。
 この「素案」を読んで見て気がついた点を次ぎにコメントしてます。

■労働契約と就業規則との関係について
昨日の素案をご覧ください。

(1)は「合意原則」との確認。
(2)①は,労基法93条。
②は,労基法92条1項。
③は,「合理的な労働条件を定めて労働者に周知させていた就業規則がある場合には,その就業規則に定める労働条件が,労働契約の内容となるものとすること」という,最高裁判決の(秋北バス事件,電電公社帯広局事件)の確認です。
 
 これまでは,労使の「合意の推定」の用語にこだわっていたのですが,今回は,ストレートに「労働契約の内容になる」としました。この点の「合意原則」との「理論的な整合性」とやらが侃々諤々と問題とされることでしょう。しかし,このほうが実務的な運用に忠実ということになります。逆に言えば,現状に何も付加せず,何も削らないという趣旨ですかね。
 ちなみに,労基法92条,同法93条が労働契約法に移されのではなく,同じ趣旨の条文を労働契約法にも規定するということでしょうね。労基法の92条や93条を削除すると労基署の監督指導ができなくなりますから。

■就業規則の変更による労働条件の変更
 (3)では,就業規則が周知されており,就業規則の変更が合理的なものであるときは,労働契約の内容は変更後の就業規則に定めるところによるとしています。
 この「合理的なもの」であるかどうかの「判断要素」は「次ぎに掲げる事項その他の就業規則の変更に係る事情」として,「ⅰ労働組合との合意その他の労働者との調整の状況(労使の協議の状況)」,「ⅱ 労働条件の変更の必要性」,「ⅲ 就業規則の変更の内容」をあげています。

 過半数労働組合との合意を「合理性」(あるいは「労使の合意」)を推定するとした従来の案は撤回されています。

 最高裁の一連の「就業規則の変更による労働条件の不利益変更の法理」をそのまま法文化するという趣旨なのだと思われます。ただし,この法文が,果たして最高裁の判例を法文化したものと言えるかどうかは,いろいろな解釈があるでしょう。

 最高裁判決の原則論である「就業規則の作成又は変更によって,労働者の既得の権利を奪い,あるいは不利益な労働条件を一方的に課すことは原則として許されない」という大原則は,「合意原則」が法文化されることでクリアしていると読むことができるのでしょう。

 ただし,第四銀行事件最高裁判決,みちのく銀行第事件最高裁判決の趣旨が生かされているかどうかは,今後の議論の論点でしょう。

 また,労基法で定めた就業規則に関する手続違反があって変更の効力を認める余地を残しており,問題です。

■労働条件に関するルールについて
 配転のルールがないのは解せません。

■整理解雇について
 整理解雇についてのルールは,「要件」なのか「要素」なのかとの対立がありました。しかし,今までは,「条文」がないことを前提とした解釈論の争いでした。何よりも今回は「条文」となることが重要だと思います。この部分は労使の綱引きが激しくなるでしょう。

■解雇の金銭解決制度について
 今回は,具体化は断念されたようですね。実際には,個別労働紛争の場合には,労働者本人が金銭解決を希望する場合が多く,訴訟では和解,労働審判では調停で解決しています。

 そもそも,解雇が違法無効であるにもかかわらず,労働者が復職を希望している場合に金銭支払いにより労働契約を解消することは,憲法27条1項で「勤労の権利」を積極的な雇用政策目標(政治的義務)としていることからも無理があります。裁判で憲法違反として争われることは必至でしょう(私が労働者側の代理人なら喜んで,最高裁までやります)。

 なお,解雇の金銭解決制度が導入されたら,雇用流動化が進む中,解雇事件の労働訴訟(or審判)は激増すると思います。ダメもとで金をとろうとする労働者が爆発的に増えるでしょう。労働者は,自主退職はせず,「解雇してくれ」と要求することになります。弁護士人口も増えて,ダメもとで金銭補償の要求(労働裁判又は労働審判)を勧める弁護士が激増するでしょうし…。(使用者の皆さんは覚悟したほうが良いですよ。)

 その結果,「労働」や「解雇」についての現状の「モラル」や「法意識」が大きく変化するとように思います。規制改革会議の皆さんは「アメリカの法意識に近づいて,結構なことだ。」と大喜びでしょうね。普通の企業経営者は,そんな事態になることを想像してみたことがあるのでしょうかね。企業にとっては「劇薬」になると思います。

 そこは「日本的労使関係」の最終的な崩壊(墓場)でしょう。

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