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2006年11月11日 (土)

11月10日労働条件分科会 労働時間法制の「素案」

■「今後の労働時間法制について検討すべき具体的論点(素案)」が提案されました。

その「素案」が入手できました。素案の中で注目度が高い「自由度の高い働き方にふさわしい制度の創設」と「企画業務型裁量労働制の見直し」部分は次のとおりです。

■素案の内容
○自由度の高い働き方にふさわしい制度の創設
 一定の要件を満たすホワイトカラー労働者について,個々の働き方に応じた休日の確保及び健康・福祉確保措置の実施を確実に担保しつつ労働時間に関する一律的な規定の適用を除外することを認めることとしてはどうか。

(1) 制度の要件
① 対象労働者の要件として,次のいずれにも該当する者であることとしてはどうか。
ⅰ 労働時間では成果を適切に評価できない業務に従事する者であること
ⅱ 業務上の重要な権限及び責任を相当程度伴う地位にある者であること
ⅲ 業務遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする者であること
ⅳ 年収が相当程度高い者であること

(2) 労使委員会の決議事項
 ① 労使委員会は,次の事項について決議しなければならないこととしてはどうか。
 ⅰ 対象労働者の範囲
 ⅱ 賃金の決定,計算及び支払方法
 ⅲ 週休2日相当以上の休日の確保及びあらかじめ休日を特定すること
 ⅳ 対象労働者の同意を得ること及び不同意に対する不利益取り扱いをしないこと
 ⅴ 苦情処理措置の実施
 ⅵ 対象労働者の同意を得ること及び不同意に対する不利益取扱いをしないこと
 ⅶ その他(決議の有効期間,記録の保存等)
 ② 健康・福祉確保措置として,「週当たり40時間を超える在社時間等がおおむね月80 時間程度を超えた対象労働者から申出があった場合には,医師による面接指導を行うこと」を必ず決議し,実施することとしてはどうか。

(3) 制度の履行確保
 ① 対象労働者に対して,4週4日以上かつ一年間を通じて週休2日分の日数(104日) 以上の休日を確実に確保できるような法的措置を講ずることとしてはどうか。
 ② 対象労働者の適正な労働条件の確保を図るため,厚生労働大臣が指針を定めることとしてはどうか。
 ③ ②の指針において,使用者は対象労働者と業務内容や業務の進め方等について話し合うこととしてはどうか。
 ④ 行政官庁は,制度の適正な運営を確保するために必要があると認めるときは,使用者に対して改善命令を出すことができることとし,改善命令に従わなかった場合には罰則を付すこととしてはどうか。

(4) その他
 対象労働者には,年次有給休暇に関する規定(労働基準法第39条)は適用することとしてはどうか。

○企画業務型裁量労働制の見直し
 ① 中小企業については,労使委員会が決議した場合には,現行において制度の対象業務とされている「事業の運営に関する事項についての企画,立案,調査及び分析の業務」に主として従事する労働者について,当該業務以外も含めた全体についてみなし時間を定めることにより,企画業務型裁量労働制を適用することができることとしてはどうか。
 ② 事業場における記録保存により実効的な監督指導の実施が確保されていることを前提として,労働時間の状況及び健康・福祉確保措置の実施状況に係る定期報告を廃止することとしてはどうか。
 ③ 苦情処理措置について,健康確保や業務量等についての苦情があった場合には,労使委員会で制度全体の必要な見直しを検討することとしてはどうか。

■日本版エグゼンプション 「長時間労働野放し制度」
いよいよ日本版エグゼンプションが具体的姿をあらわしました。自律的労働時間制度の名称が,「自由度の高い働き方」に変更されました。でも,健康・確保措置を見れば,「月80時間」以上の残業も許容する制度ですから,その実態は「長時間労働野放し制」ですな。

対象労働者の要件として,「ⅰ 労働時間では成果を適切に評価できない業務に従事する者であること」が上げられていますが,具体的にはどのような業務があてはまるのでしょうか。企画業務型の業務は当然,全て含まれるでしょう。「売上げ」という「成果」が唯一の評価である「営業職」も含まれることになり,対象労働者の範囲は,いわゆる「ホワイトカラー」の範囲にとどまりません。

11月11日の日経新聞朝刊の記事では,使用者側が「年収要件を400万円」と要求しているとのことです。厚労省想定は1000万円程度と言われていますから,使用者の本音は600~700万円くらいを狙っているのでしょうか。使用者が日本版エグゼンプションを適用したい「自由度の高い働き方」をする労働者の年収は,金融関係やマスコミ関係は1000万円以上でしょうが,メーカーなどはせいぜい700万円程度でしょうから。

■企画業務型裁量労働制の「緩和」も
中小企業では,「事業の運営に関する事項についての企画,立案,調査及び分析の業務」に主として従事する労働者にも裁量労働時間みなし制が適用されます。「主として従事する」とは曖昧です。労働者の80%は中小企業に働いていますから,相当な数の労働者が企画業務型裁量労働みなし制が適用されることになるでしょう。

■連合の意見広告
ちなみに,11月10日の日経新聞に連合の日本版エグゼンプション反対の意見広告が大きく出ていました。連合の不退転の決意表明です。ただ,高木剛会長が何故かマウスパッドになっていました。読者に何の意見広告なのか,伝わったでしょうか…(ちょっと心配)

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