« トンネルじん肺根絶訴訟の仙台地裁判決後の行動 | トップページ | 共謀罪 10月24日法務委員会 強行採決の危険性 »

2006年10月21日 (土)

会社分割・労働契約承継法と「在籍出向」その2

企業再編と労働者の雇用関係について,会社分割法制ができても,日本企業は在籍出向が多いということに驚いたことはブログで書きました。hamachanのブログで取り上げてもらっており,EUの状況についても教えていただきましたので,事件について少し補足しておきます。

■部分的包括承継
分割・労働契約承継法は,承継営業に主として従事しいている労働者については,同意がなくとも新設会社(吸収会社)に自動的に承継されることを前提としています。国会審議の場でも,「部分的包括承継」だとして,「民法625条1項の適用(労働者の承諾)が除外される」と説明されていました。労働者が不同意であっても,自動的(強制的)に新設会社等に承継されるとするのが「通説」でしょう。

■会社分割では労働者は承継を拒めないのか?
日本IBM事件では,日本の会社分割・労働契約承継法は労働者の承諾権(拒否権)を認めない趣旨か否かが争点になっています(争点1)。

会社は,労働者の承諾は不要とした趣旨だと主張し,労働者の「職業選択の自由」との関係については,「辞職ができるのであるから,職業選択の自由(使用者選択の自由)を奪うものではない」(!)と主張しています。

■Katsikasu事件判決の意味
ECの事業譲渡指令(既得権指令)の第3条は,「移転の日に存在する雇用契約または雇用契約関係から生じる移転元の権利義務は,当該移転によって,移転先に移転する」と定めています。

この条文からは,日本の会社分割・労働契約承継法と同じく,労働者が同意しない場合でも,自動的に移転先に移転させられると読めます。

しかし,前記のとおり,EC裁判所は,Katsikasu事件で,労働者が移転先の雇用関係の係属を義務づけるものではないとして労働者に「承継拒否権」があることを肯定しました。ただし,労働者の拒否権の行使の効果は,加盟国の国内法に委ねられており,加盟国は,その効果を辞職とみなしても,解雇とみなしても,あるいは移転元との雇用関係の維持と定めても自由であると判示しています。この点,hmachanのご指摘のとおりです。

■拒否した後はどうなるのか?
日本の場合に,承継拒否権があるとしたら,日本IBMとの間の労働契約はどうなるでしょうか?。
日本の場合には労働契約が分割会社との間で存続すると解すべきでしょう。ただし,この場合,分割会社(日本IBM)が拒否した労働者を解雇する余地はあります。そして,その解雇については,「整理解雇の法理」によって有効性が吟味されることになるのでしょう。(ドイツでも同様な構造になっているそうです。労旬1351号 根本到 論文)。

この場合,あらためて整理解雇の4要件(要素)が吟味されることになりますねそして,日本の労使関係では,個々の職と労働者との関係はフレキシブルな関係ですから,当該労働者の配転可能性,また,会社分割で労働契約承継を提示したことが解雇回避努力の措置として評価されるか否かが問題になるのでしょう。本件の場合には,これが今,問題になっているわけではありません。

■協議義務違反の有無とその法的効果が争点
実際の事件では,商法附則5条の個別協議や労働契約承継法7条に基づく「理解と効力を得るための協議」の義務違反も争点になっています(争点2)。
事実として,協議義務違反があったかどうかが問題ですが,そもそも,法律論として,商法附則や労働契約承継法に定められた協議義務に違反していた場合,労働契約承継の法的効果に影響を与えるのかが中心的な争点になっています。

|

« トンネルじん肺根絶訴訟の仙台地裁判決後の行動 | トップページ | 共謀罪 10月24日法務委員会 強行採決の危険性 »

労働法」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 会社分割・労働契約承継法と「在籍出向」その2:

« トンネルじん肺根絶訴訟の仙台地裁判決後の行動 | トップページ | 共謀罪 10月24日法務委員会 強行採決の危険性 »