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2006年10月21日 (土)

読書日記「階級社会」 橋本健二著

読書日記「階級社会」 橋本健二 著
     講談社
     2006年9月30日 読了

■「階級」
同じ著者の「階級社会 日本」(青木書店2001年)を2001年頃に読んでから,著者に注目していました。(著書のWEB http://www.asahi-net.or.jp/~fq3k-hsmt/ の読書日記や居酒屋の蘊蓄も楽しんでいました)。「格差社会」論の風にのって,一般読者向けに,敢えて「階級社会」と題した本を講談社から出しました。

英語では,「階級」も「階層」も Class だそうです。日本では,「階級」は政治的用語です。特定の政治党派しか使わない言葉になってしまっています。労働者という用語さえ,日常会話では,そんな雰囲気ですな。

■脱マルクス主義
著者は「階級」という用語が,マルクス主義から離脱しつつあると言います。また,著者は,労働者階級が搾取からの解放という世界史的使命をもっているなどという「理論」をマルクス主義から放逐して,マルクシズムでなく,分析的マルクシズム(マルクシアン)となるべきだと主張していました(「階級社会 日本」)。

だったら,「階層」でいいじゃないかと思いますけどね。でも,著者は「階級」という言葉にこだわるのです。

なぜでしょうか。その理由は・・・・

■労働者階級と新中間階級
「階級とは,社会的資源によって区分された社会階層」のことであるが,マルクスは「特に,生産手段に注目し,この生産手段を所有しているか否かを階級区分の基準にした」と言います。これは社会階層を分析する単位として有効だとします。

著者の強調したい点は,「労働者階級」から「新中間階級」が分化したという点です
高度な技能や資格という「資産」を持っているために,高い賃金を獲得して,資本家の有していた各種の機能を部分的に分かち持つ新中間階級が新たに生まれたと言います。マルクスが「産業下士官」「高級労働者」と呼んだ者たちのことです。

新中間階級を労働者階級だすると立場を,「教条主義的だ」として強く批判します。特に前著「階級社会 日本」で,階級の社会学的研究に党派的介入があった歴史を明らかにして,そのやり方を厳しく非難しています。

著者は,実証的な社会学調査のデータを使って,日本の「資本家階級」(335万人),「労働者階級」(3668万人),「旧中間階級」(1020万人),「新中間階級」(1221万人)の社会的地位,経済的地位,社会意識を分析していきます。その区別の基準はそれなりに興味深いです。
そこから現代日本社会の「格差」とその固定化を明らかにしていきます。この点は,橘木俊詔著の「格差社会」等も明らかにしており,それ自体は目新しくありません。

■労働者階級への厳しい評価
目新しいのは現代の「労働者階級」の社会意識の特徴を「被抑圧状況の下で他者への信頼感を形成できず,それ故に連帯に踏み出せない。しかも,政治意識が低く,最も政治的に不活性で,知識・技能にも劣る階級」と厳しく総括している点です。労働者階級から階級闘争が発展する可能性は極めて低いと結論づけます。

かつての古い日本青春映画の中で「労働者階級」の誇りを体現していた「下町の太陽」「若者たち」(吉永小百合や倍賞千恵子,山本圭らが演じた労働者階級の娘や息子たち)の子孫は,社会の下層で「まどろんでいる」とします(著書のこのあたりの「映画論」や「漫画論」は面白いです)。

フリーターなどの若者らは労働者階級化どころか,アンダーグラウンド化しつつあり,これは教育では解消することはできないと指摘しています(ルンペン・プロレタリアート?)。

■新中間階級-知的でリベラルな普遍的階級?
「新中間階級」は,知的でリベラルであり,高い政治的意識と貧富解消政策に賛成する比率が高いとして,「普遍的階級」としての可能性を持っていると高く評価しています。ただし,新中間階級は,資本家階級と結びつき一体化することで自己の地位を守る可能性もあると指摘しています。

他方,新中間階級は,被用者として不安定な地位にあり,リストラされれば労働者階級に転落する立場にある。また,自分の子どもたちがフリーターになるかもしれない不安を常に感じてもいる。

■「新中間階級の責務」
この新中間階級が当面の自己の利益よりも,より社会的な公正を優先させる行動をとるかどうかが鍵を握ると述べています。そして,「人間に人間の社会を変えられないはずはない」として,「労働時間の短縮から格差縮小へ」とします。

こういう発想をするのは,やはりマルクス主義の影響があるからですね(悪口ではないです。ただ,「労働日の短縮が全ての鍵である」って,マルクスがプロレタリアートの解放の条件だって資本論に書いていましたよね。)

ちなみに,著者から見ると,現代の日本の労働運動をどう分析するのでしょうか。連合の中核組織である上場企業の大手労働組合の組合員は「新中間階級」の下層部分と思われます。

でも,その連合・労組の多くは,ちっとも「普遍的階級」らしくありません。日本の労働運動を壊した連中です。まさに「産業下士官」の互助組織のようなものですけどね。

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