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2006年10月14日 (土)

会社分割・労働契約承継法と「在籍出向」

日本IBMハードディスク部門「会社分割」地位確認訴訟

■会社分割と労働契約承継
日本IBMは,2003年1月,不採算事業であるハードディスク事業を会社分割により日立の子会社(日立GST)に譲渡しました。800人のIBMの労働者は,その会社に問答無用で転籍です。

ご承知のとおり,商法の一部改正による【会社分割制度】が導入されて,「部分的包括承継だ」と称して労働者の同意なくても転籍できると言われています。つまり,会社分割の場合には民法625条1項の労働者の同意が不要になるということです。

「でも,おかしいじゃないか。俺はIBMに就職してんだ。なんで日立なんかにいかなきゃいけないんだ。」ということで,JMIUの日本IBM支部の労組員は,一方的な同意なき転籍(労働契約の承継)は無効だとして日本IBMに対して地位確認の本訴を提起しました(原告約20名。横浜地裁で審理中。なお,週間金曜日10月13日号で私が少し記事(「リストラのデパート 日本IBM」)を書いていますhttp://www.fujisan.co.jp/Product/5723)。

10月12日,労組の比嘉前委員長の証人尋問でした。私が本来は尋問担当だったのですが,トンネルじん肺の仙台地裁判決と重なったため,他の弁護士にピッチヒッターに立ってたってもらいました。でも,この尋問準備中に,いろいろ調査をして驚いたことがあります。

なんと,労働者は転籍でなく在籍出向扱いが多いのです。経産省と厚労省は,ちゃんと追跡調査して発表してほしいですね
(商法は経産省がイニシアを握り,労働契約承継法は労働省のイニシアなんでしょうかね?)。

■同意なき労働契約承継でなく,在籍出向扱い!
多くの日本企業では会社分割をしても新設会社等に労働者は出向しているのです。つまり,会社分割であっても,分割された先の会社に行く労働者は,その新設会社(吸収会社)に転籍するのではなく,分割会社からの在籍出向です(つまり,譲渡先の会社がつぶれても「戻ることができる」ので安心)。

例えば,日立製作所とカシオ計算機が会社分割による携帯電話端末事業の会社設立に関して,労働者は労働契約承継させず,出向させているのです。調べると多数の会社がそのような扱いをしています。楽天とオリエントコーポレーション(あの規制改革会議の宮内氏の会社だよ!)の会社分割でさえ,在籍出向です。   

経産省の報告書でさえ,労働者のモラルを維持するためには,無理矢理労働契約承継させること問題があると指摘してます。

■実態はヨーロッパと一緒で労働者の意思を尊重しているじゃないか
この事件では,EUの事業譲渡指令(「企業,事業又は企業,事業の一部の移転の際の労働者の権利保護に感する加盟国法の接近に関する77/187/EEC指令」)とEC司法裁判所のKatsikasu事件の1992年12月16日判決も引用して,「労働者の使用者選択の自由」(ドイツ連邦労働裁判所は基本権として認めた)に基づき,「労働者の拒否権」があると主張しています。もし否定するのであれば「会社分割の商法及び労働契約承継法は日本国憲法22条の職業選択自由に反するのだ」と大上段の主張をしています。ドイツ民法と上記EEC既得権指令と,日本民法と会社分割・労働契約承継法はよく似た構造になっていると思います(濱口桂一郎先生の御本「増補版・EU労働法の形成」も準備書面で引用させてもらいました。ちゃんと理解できているかどうかは心許ないですが…)。

小樽商科大学の本久洋一先生に緻密な意見書も書いてもらい,横浜地裁で証人にたってもらいました。本久先生は,解釈上,承継拒否権が認められるべきであるとされています。

この裁判は,「労働者は商品や生産設備ではない。労働者の意思を無視した転籍は許されない。」という素朴な労働者の思いから提訴した裁判です。弁護士は「会社分割の商法改正や労働契約承継ができたから,裁判官は国会が作った,この法律に忠実だろうなあ。」と思っていました。

ところが,実態を見ると,「なんだよ。みんな在籍出向させているじゃないか」です。

きっと,企業は「労働者の士気を高め,会社分割した企業が発展するためには在籍出向とすることが良い」判断したのでしょう。労働者の意思を無視すれば企業にとってもマイナスだという判断があったのではないでしょうか。

日本IBMのHDD事業会社分割事件は,12月に証人調べは終了して,来年1月に結審,来春に判決が言い渡されることになるでしょう。

EC司法裁判所やドイツ連邦労働裁判所のような判断を横浜地方裁判所7民はするでしょうかね?

■会社分割で在籍出向している会社一覧
    ↓

証拠説明書で整理した一覧
  ↓
  「ichiran.jtd」をダウンロード   
 

上記各社のWEBでの発表は以下のとおり
  ↓

http://www.toyota-tsusho.com/press/20010928_1pasttomen.cfm

http://www.google.co.jp/search?q=%E4%BC%9A%E7%A4%BE%E5%88%86%E5%89%B2%E3%80%80%E5%87%BA%E5%90%91&hl=ja&lr=&rls=GGLG,GGLG:2006-15,GGLG:ja&start=80&sa=N

http://72.14.203.104/search?q=cache:zc0e8sF2-j8J:www.agc.co.jp/news/2004/0818_1b.pdf+%E4%BC%9A%E7%A4%BE%E5%88%86%E5%89%B2%E3%80%80%E5%87%BA%E5%90%91&hl=ja&gl=jp&ct=clnk&cd=97

http://www.csk.com/press/his/2005/1176434_1582.html

http://www.nec.co.jp/press/ja/0207/2503.html

http://www.nipponkayaku.co.jp/news/press/20030121.html

http://konicaminolta.jp/about/release/konica/2002/020719_1.html

https://www.nichirei.co.jp/ir/mein_menu/main_in040209.html

http://www.sankyo.co.jp/company/release/2002/1126.html

http://www.ihi.co.jp/ihi/ihitopics/topics/2001/0225-1.html

http://72.14.203.104/search?q=cache:DIPjBywKdVYJ:www.unitika.co.jp/news/past-news/2003/0302241.pdf+%E4%BC%9A%E7%A4%BE%E5%88%86%E5%89%B2%E3%80%80%E5%87%BA%E5%90%91&hl=ja&gl=jp&ct=clnk&cd=173

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コメント

はじめまして。
都内の大学4年生です。
専攻は会社法ですが、会社分割や事業譲渡の際の従業員処遇問題に関して卒論を書いて(書こうとして)います。

なかなか公的な報道資料が見つからず苦戦していたところ、水口先生のブログにたどり着きました。
なるほど、会社分割は在籍出向が多いのですね。
この情報を元に検索していくだけでも随分と色々なことがわかりました。
ありがとうございます。

それ以外のお話も勉強になることばかりで、今後のブログも楽しみにしております。

投稿: kingyohime | 2007年9月16日 (日) 07時51分

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