「労働者性」について
■論文について
ジュリスト 2006年10月1日号 【連載】「探求・労働法の現代的課題」の第12回)「労働者性について」に,論文を掲載しました。同一のテーマについて,学者,労働側弁護士,経営側弁護士がそれぞれの立場から論じるシリーズです。
http://www.yuhikaku.co.jp/jurist/index.html
(このジュリストの表紙には論文題目は載っていませんが・・・。しばらくたったら,ブログに概要をアップします。)
労働者性については,労働法学者は皆川宏之氏,経営側弁護士は石嵜信憲氏,労働側からは私が,それぞれ「労働者性」について,「労働者性の判断基準」,「使用従属性基準についての評価」,「事業者と労働者の中間的な就業形態についての対応」,「労働契約法の適用対象」などの論点について論じています。以前に私が担当した新宿労基署長事件(映画カメラマン)事件も素材になっています。
■実際の労働者性をめぐる紛争
実際の紛争においては,残業代請求の成否,解雇権濫用法理の適用の有無,労災保険の適用の有無,団体交渉権の有無などの争いに関して,労働者性をどう判断するかが極めて重要な論点になります。
私は,現在,労働者性に関わる訴訟案件を4つ抱えています。経済のソフト化が進み,また非正規労働者が増えるなか,これから労働者性が問題となる紛争が多くなると思います。現在抱えている事件は,現代的雇用形態の問題から,いわゆる手間請け大工の労働者性のように伝統的な事件もあります。
■新国立劇場合唱団員事件
新国立劇場の合唱団員の労働者性が争われている事件。音楽家ユニオン所属の組合員の雇い止めが問題となった事案であるが,労働委員会と裁判が並行して進んでいる。
合唱団員は年間の基本出演契約書を締結している。この基本契約書には,年間の公演スケジュール,報酬などが詳細に定められている(全30条)。しかし,個別公演ごとに個別出演契約を締結することになっている(二段階契約方式)。個別出演契約を締結するか否かは自由であるとされている(実際には,個別出演契約を締結しないと翌年のシーズンの契約は更新されない)。
都労委,中労委は労組法上の労働者性を肯定して,団交拒否を不当労働行為とした。他方で,雇い止めを違法無効として地位確認本訴を提起した民事訴訟では,東京地裁は労基法上の労働者性を否定。現在,東京高裁で審理中。
なお,この新国立劇場事件は,次号の労旬に論文を掲載予定。
■眼科医損害賠償事件
眼科医が診療所の管理医師として業務委託契約書(期間1年)を締結した。ところが,報酬が約束どおりでなく,また週休もとれない長時間労働を課せられ,改善を要求したが,聞き入れてもらえなかった。そこで,契約期間途中で,辞職をした。医療法人から,突然の辞職に対して損害賠償請求を受けた事件。
業務委託契約書を締結しているが,使用従属関係にあるから,労働契約であり,長時間労働や週休の労基法違反がある以上,眼科医はやむを得ない事情があるとして労働契約を解除できるか否かが争点
■委託契約残業代請求労働審判事件)
CMやプロモーションビデオを制作する会社と業務委託契約を締結した者が,労働者と言えるかどうかが問題となっている。当人は制作デスクを担当しており,正社員のプロデューサーの下で職務を遂行している。正社員や契約社員と同様に社内にデスク,PCなどを持ち,上司の指示に基づいて働いている。労働者であると言えれば,徹夜作業も含めて残業代請求ができる。これは労働審判事件です。
■手間請大工労災事件(藤沢労基署事件)
いわゆる手間請け大工の労災給付請求事件。横浜地裁,東京高裁にて労働者性を否定されており,現在,最高裁に上告中。
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コメント
水口先生、初めまして。先生のお書きになった、ジュリスト1320号を読まさせて頂きました。私は現在運送会社を経営しており、「労働者」性に非常に関心を寄せております。そこで、先生に質問なのですが、「労働者」性の「使用従属」性基準は判例法理と言えるのでしょうか。例えば、解雇権濫用法理は法の欠けつを埋める判例法理として、機能し、現在では立法化された経緯があります。「使用従属」性基準を判例法理とすれば、現在議論されている労働契約法も上記解雇権濫用法理と同様に「使用従属」性基準を充分に立法化できるのではと考えております。今後もブログを沢山更新して頂きたいと思います。
投稿: C.E.O | 2007年2月 8日 (木) 04時06分