国歌国旗の強制は違憲・違法 「勝訴!」
国歌斉唱義務不存在確認等請求訴訟 06年9月21日東京地裁判決
(判決報告集会 星陵会館にて)
■都教委の10.23通達
東京都教育委員会は,2003年10月23日,都立高校の校長に対して卒業式・入学式での国旗掲揚の際に起立し,国歌を斉唱することを教師に命じる通達(10.23通達)を発令しました。その結果,それまで都立校の卒業式等では国旗が掲揚され,国歌が演奏されても,教師を含めた参加者には内心の自由が保障されていましたが,一律に起立と斉唱が強制されるようになりました。この強制を止めさせるため,401人の教職員が義務不存在と差し止め,慰謝料を求めて提訴したのが本件訴訟です(「日の丸・君が代」予防訴訟)。以前の私のブログでもアップしています。
http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2006/03/post_1ed6.html#trackback
■強制は,教育基本法10条違反,憲法19条違反
東京地裁民事第36部の難波孝一裁判長は,103号法廷(傍聴席約100人の大きな法廷)で25分にわたり判決要旨を読み上げました。原告らが求めていた請求を全面的に認めました。
■判決言い渡しの法廷の様子
難波孝一裁判長が主文を一つ一つ読み上げました。傍聴席からどよめきが起こり,思わず,弁護団はガッツポーズ。原告弁護団の若い女性弁護士は判決要旨を聞きながら泣き出していました。原告団の多くも涙を流し,傍聴席から男泣きの嗚咽も聞こえてきました。
正直なところ,「主文で勝てなくても,判決理由中に,教育基本法違反との指摘があって石原都知事と都教委の暴走に歯止めをかける手がかりがあばOK」と思っていました。これほどの完全勝訴判決を得るとは予想していませんでした。
弁護士として感無量です。難波裁判長ら3名の裁判官諸氏に敬意を表します。
■画期的な判決主文
判決は,①違法な本件通達に基づく校長の職務命令に基づき,国旗に向かって起立し,国歌を斉唱する義務がないこと,ピアノ伴奏をする義務がないこと(義務不存在)を認めました。また,②違法な本件通達に基づく校長の職務命令に従わないことを理由にしていかなる処分もしてはならない(差し止め)を認めたのです。そして,③精神的慰謝料を一人3万円の支払いを命じたのです。
このような「義務不存在」,「差し止め」の主文を認めたことは,行政訴訟としても思い切った判決です。
■手堅い判決-バランスのとれた常識的な判決
判決理由は,最高裁判所の判例(旭川学力テスト事件最高裁判決)の枠内で手堅くまとめています。すなわち,学習指導要領上の国旗国歌指導を定めた条項は,
「大綱的基準としては法規としての性質を有する」が,「大綱的基準を逸脱して,内容的ににも教職員に対し一方的な一定の理論や観念を生徒に教え込むことを強制するようなものである場合には,教育基本法10条1項の不当な支配に該当し,法規としての性質を否定するのが相当である」
としています。
また,東京地裁判決は,一般論として教師が国旗掲揚,国歌斉唱の指導を行う義務があることを認めており,国旗国歌を尊重する態度を育てることの意義も認めています。バランスをとった判決です。判決は,10.23通達による強制は違憲・違法で許されないとしているのであり,一般論としての国旗掲揚,国歌斉唱の指導義務は認めているのです。
「(世界観,主義,主張により)起立したくない教職員,斉唱したくない教職員,ピアノ伴奏をしたくない教職員に対し,懲戒処分をしてまで起立させ,斉唱等をさせることは,いわば少数者の思想良心の自由を侵害し,行き過ぎた措置である」と判示したのです。
■10.23通達は教育基本法10条1項違反,憲法19条違反
判決は,
「本件通達及びこれに関する被告都教委の一連の指導等は,教育基本法10条に反し,憲法19条の思想・良心の自由に対して,公共の福祉の観点から許容された制約の範囲を超えている」として,「国旗に向かって起立し,国歌を斉唱する義務,ピアノ伴奏をする義務」は負わないと明確に判示しました。
「(教師は)一般的に言って,国旗掲揚,国歌斉唱に関する指導を行う義務を負うものと解されるから,…(中略)…国旗掲揚,国歌斉唱を積極的に妨害するような行為に及ぶこと,生徒らに対して国旗に向かって起立し,国歌を斉唱することの拒否を殊更に煽るような行為に及ぶことなどは」許されないとしつつ,しかし,「起立し,国歌を斉唱するまでの義務,ピアノ伴奏をするまでの義務はなく,むしろ思想,良心の自由に基づきこれらの行為を拒否する自由を有している」
と言います。
■判決の特徴
一部の報道(読売新聞の社説http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20060921ig90.htm,産経新聞の社説http://www.sankei.co.jp/news/060922/edi000.htm)は,地裁判決と起立せず斉唱しない者に対する不快感を露骨に表明しています。これを書いた論説委員は判決文を読んでないでしょう。読んでこの程度の社説しか書けないのであれば読解力に難がある方々です。
東京地裁判決は,以上の意見に対して次のように述べます。
「卒業式等の式典において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して国歌を斉唱すること,ピアノ伴奏をすることを拒否した場合に,これと異なる世界観,主義,主張等を持つ者に対し,ある種の不快感を与えることがあるとしても,憲法は相反する世界観,主義,主張等を持つ者に対しても相互の理解を求めているのであって(憲法13条等参照),このような不快感等により原告ら教職員の基本的人権を制約することは相当であるとは思われない。」
少数者の思想良心の自由を尊重すること,多様な世界観,主義,主張を尊重する(個人の尊重)のが憲法の立場であることを素直にかつ明快に指摘しています。
そして,「国旗国歌は,国民に対し強制するのではなく,自然のうちに国民の間に定着させるというのが国旗・国歌法の制度趣旨であり,学習指導要領の国旗・国歌条項の理念と考えられる」と結論づけています。
■詳細な事実認定
判決のもう一つの特徴は詳細な事実認定をしていることです。判決文中「事実及び理由」は全部で70頁です。そのうち「争点に対する判断」部分は43頁。この中で,「前提事実」が「24頁」を占めています。国歌・国旗法制定の国会審議,そして,10.23通達が発令される経過(都教委での議論,都議会での答弁,都教委の校長に対する一連の強制的「指導」)について詳細な事実認定がなされているのです。この事実認定からは,都教委が通達と職務命令により,教師と生徒に一定の理念を押しつけようとしていることが明らかにされています。
この事実認定が上記の教育基本法や憲法論の基礎となっていると思います。
■今後について
今朝は,都教委に判決を厳粛に受け止めて10.23通達を取り消し,控訴をしないようにとの要請行動を行いました。
(21日は,原告,弁護団とで午前2時過ぎまで勝利の美酒を呑んでいたため,ブログにアップするのが遅れてしまいました。昨日は,午前3時に帰宅してから,午前11時30分の都知事と都教委宛の申入書を訂正してメールで送信する作業をしました。そして,午前10時に都議会議員要請で都庁に集合しました。まあ,興奮しているからできることですね。)
都教委も石原知事も控訴を規定方針であると発表しています。
私たちは,この東京地裁の判決の趣旨を広く正しく伝えるよう努力したいと思います。読売や産経の社説のように,判決を曲解・歪曲して非難するような論調も出てくるでしょう。(後日,当事者名を黒塗りしてから,アップしたいと思います)
ちなみに,次の文科省のHPでは,欧米では,国歌国旗を学校で強制する国は珍しいことが分かります(立憲主義に根ざした「世界の常識」はこっちでしょう)。中国や韓国の方が国旗国歌の尊重条項を持っているようです(植民地の経験を持っている国だからでしょう)。
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