偽装請負と大手労働組合
■請負企業への出向
松下電器産業の子会社の「松下プラズマディスプレイ」の茨城工場が自社の従業員を請負会社に1年間だけ出向させていたことが朝日新聞で大きく報道されました。これを読んで、「なるほど。そんな手があったか?!」と、企業の狡賢さにあきれました。こんな知恵をつける労務コンサルタント(労務屋)がいるんですね。経営側の弁護士にも相談して、適法だとのアドバイスももらっているんだと思います。
事業主が「労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させること」(労働者供給)を職業安定法44条は禁止しています。その理由は、労働強制、中間搾取がはびこり労働者の生活と雇用の安定を損なうからです。
受入企業の従業員が請負労働者を指揮命令することは違法です。でも、その受入企業の従業員を、請負会社の従業員に出向させれば、指揮命令しているのは請負会社(の従業員)となるから適法となる、という理屈。これってズルですね。
労働者は馬や道具ではありません。事業主の都合のよいときだけ使って、不要になれば切り捨てることは許されません。これが労働法の原点でしょう。だから事業主は労働者を直接雇用するのが原則です。
でも、日本の大手企業労組はそう考えないようです。これを、「hamachanのEU労働政策雑記帳」のブログで知りました。→ http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/
■電機連合の意見
「製造業における偽装請負」に関するマスコミ報道についての見解
http://www.jeiu.or.jp/news/discourse/others/kenkai10.html
東芝や日立、松下などの大企業労組でつくる「電機連合」は、「一部新聞において『製造業における偽装請負』に関する報道がなされましたが、『違法行為はなかった』ことが確認されています」と発表しました。そして、「長期にわたる雇用関係の中で技能熟練が期待される正社員が担当すべき領域と、請負・派遣を活用する領域の区分けを検討する中で、請負・派遣の活用が図られるべきである。」とします。要するに正社員は保護され、そうでない未熟練な請負・派遣労働者は不安定な立場で仕方がないということです。
電機連合は、請負労働者活用のメリットとして「正社員の雇用維持と労働力の需要の変動への柔軟な対応が可能となった」と総括しています。要するに、経営側と一緒で、「労務費の削減」と「雇用調整の柔軟化」を良しとしているのです。
■「法令遵守」ってか?
電器連合が、「法令遵守について一層の徹底を申し入れる」などと言っていますが、そもそも報道された松下電器の子会社では「違法行為はなかった」と断定しているのですから、まったく迫力はありません。
このような大手企業労組の自社中心的な発想には辟易します。そして、残念ながら、日本の労働運動は、このような大手企業労組が「基軸」となっています。労働者の「連帯」とか「人間の尊厳」とか「労働の人間化」とは縁遠い存在なのでしょうか。パート、派遣労働者や請負労働者を、一緒に働く仲間と考える意識は希薄なのでしょう。連合の高木会長が「労組も責任の一端を負う」と自己批判のコメントを出した姿勢とずいぶん違います。
松下の子会社は内部告発者に対して不利益取り扱いしているとも報道されています。訴訟で争われているようですが、裁判所の判断が注目されます。
↓
http://www.asahi.com/national/update/0806/TKY200608050371.html
■労働市場の柔軟化が失業を減らす?
規制改革論者(市場原理主義者)は、「業務請負を違法とする法律こそおかしい」と主張します。労働市場を規制する「職安法は悪法」、「規制の多い労働者派遣法は改正すべき」と主張するでしょうね。
彼ら・彼女らは、「雇用の流動化や労働法の規制撤廃こそ、経済を立て直して雇用を回復させる。独仏は強力な労働者保護政策をとっているから高失業率。米英は解雇が容易で柔軟な労働市場があるから失業率が低い」と声高に唱えています。これが今の主流です。これに異を唱える者は頭の固い愚か者とされているようです。
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コメント
労働問題に興味を持っている高校生なのですが、改正パートタイム労働法についての質問です。まずこの法律は同一価値労働同一賃金の原則というものを推進させることを一つの目的として持っていると言えるのでしょうか?
また、改正パートタイム労働法で定義されているパートタイム労働者は厚生労働省のHPには、、『「1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者(正社員)の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者」とされています。例えば、「パートタイマー」「アルバイト」「嘱託」「契約社員」「臨時社員」「準社員」など、呼び方は異なっても、この条件に当てはまる労働者であれば、「パート労働者」としてパートタイム労働法の対象となります(厚生労働省ホームページhttp://www.mhlw.go.jp/topics/2007/06/tp0605-1b.html
』と定義されているのですが、その中に派遣社員は入るのでしょうか?入らないのでしょうか?
お忙しい中とは思いますが、ご返事いただければ幸いです。
投稿: skyblue.hshtk | 2008年8月 3日 (日) 07時51分
パートタイム労働法の主要な目的は、同一価値労働同一賃金の原則の推進ということではありません。しかし、同法8条や短時間労働者の均衡処遇のなかには、同一価値労働同一賃金をすすめる方向に活用できる部分はあると思います。広い意味で、同一価値労働同一賃金の原則の一環といって良いと思います。
派遣労働者はパートタイム労働法の対象とは想定されていません。
派遣労働者の雇用主は、あくまで派遣元(派遣会社)であり、派遣先の受入企業との間では労働契約関係(雇用契約関係)に立っていないとされており、派遣先企業が雇用する短時間雇用労働者にはあたらないとされると思います。
高校生で労働問題に興味を持たれ、このような鋭い質問をされるとは驚きです。
投稿: 水口 | 2008年8月 9日 (土) 23時37分
はじめまして。貴ブログへの突然の書き込みをいたします失礼をお許しください。「運動型新党・革命21」準備会の事務局です。
私どもは、このたび「運動型新党・革命21」の準備会をスタートさせました。この目的は、アメリカを中心とする世界の戦争と経済崩壊、そして日本の自公政権による軍事強化政策と福祉・労働者切り捨て・人権抑圧政策などに抗し、新しい政治潮流を創りだしたいと願ってです。
私たちは、この数十年の左翼間対立の原因を検証し「運動型新党」を多様な意見・異論が共存し、様々なグループ・政治集団が協同できるネットワーク型の「運動型の党」として推進していきたく思っています。
★既存の中央集権主義に替わる民主自治制を組織原理とする運動型党(構成員主権・民主自治制・ラジカル民主主義・公開制の4原則)
この呼びかけは、日本の労働運動の再興・再建を願う、関西生コン・関西管理職ユニオンなどの労働者有志が軸に担っています。ぜひともこの歴史的試みにご賛同・ご参加いただきたく、お願いする次第です。
なお、「運動型新党準備会・呼びかけ」全文は、下記のサイトでご覧になれます。rev@com21.jp
投稿: 革命21事務局 | 2008年10月 9日 (木) 03時23分