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2006年8月31日 (木)

労政審労働条件分科会 再開

8月31日午後2時,第60回労働政策審議会労働条件分科会が再開されました。傍聴しましたので審議の内容と感想をアップしておきます。

■冒頭
厚労省事務局から「労働契約法制及び労働時間法制に関する労使の主な意見」が配布されました。
 ↓
「roudoukeiyaku060831.pdf」をダウンロード

担当者が労使の意見を聞いた上で,ポイントになる点について労使の意見を並記したものです。以下,分科会の特徴を報告します。

■6月27日「在り方案」は撤回されたか否か
労働者側委員から,6月27日の「在り方案」は撤回されことの確認を求める発言がなされました。厚労省事務局は,「案を提出したところ,労使から意見があって中断したものです。すべて今後の協議です。」と回答していました。労働者側委員は,執拗に撤回したか否かの確認を求めましたが,厚労省からは「撤回した」との言葉はありませんでした。結局,「すべて今後,議論していく」と,分科会長がひきとりました。

■労働者側委員と使用者側委員が双方の原則的立場を意見開陳
詳細は上記書面のとおりです。それぞれ労使双方委員が全面的な意見開陳をしました。要するに振り出しにもどったということ。労働者委員が「就業規則で労働条件が決定されるシステムに絶対反対」と,未だに強調していたのが印象的でした。

■労使が一致した点
◎通常国会に提出を前提としたスケジュールには反対と労使とも一致しました。それで,使用者は,「先ず,労働時間(労基法)を先行させろ。労働契約法は慎重に審議しろ。」と要求。労働者側は「両方とも一緒に議論しろ」「月何回も審議はできない。月1回のペースでしろ」と要求していました。(労使とも通常国会に提出させないつもり?)
◎個別労働紛争が増加している状況に鑑み,労働契約法を制定することは原則的に賛成。ただ,その内容は判例を踏まえて労使が一致する部分で作っていく。(労働契約法だけ見れば,着地点は見えてきています… 。問題は,労働時間法制のホワイトカラー・エグゼンプション(WE)です。)

今日は意地悪コメントにします。

■傍聴して
○「何で今更,こんな議論を?! 今まで労使委員は何をしていたの?」
という感じです。特に,使用者側委員は,やっと口を開いたということです。長時間残業の割増率アップが報じられて,中小企業団体から突き上げを受けたのでしょう。会議で時間がなくなってからやっと口を開く内気な日本人ということですね。もっと前から言うべきでしょう。振り出しにもどったみたいな~?

労働者委員は,「就業規則に基づいて労働条件を決定・変更することを認める労働契約法は絶対反対」と主張していました。ということは,労働者委員(連合)は,過半数労働組合が同意しても就業規則の合理性や合意推定には「絶対反対」するんだと思うのですが。

ところが,労働者側の意見には「労働組合以外の労働者集団の同意を就業規則の変更の合理性判断に活用することには反対」と記載されています。これを反対解釈するなら,「労働組合であれば,就業規則の変更の合理性判断に活用することは良い」と読めてしまいます。まさか,そんなことは言わないですよね,連合さん。

労働者委員は,「就業規則での労働条件決定(変更))の合理性を認めるのはおかしい」として,「労使で合意できない場合には第三者機関で決定する」と言っていました。就業規則効力否定論です。労基法93条も否定するのでしょうか? また,合意がない場合には,裁判所で仲裁を行うということでしょうかね? いったいどんな制度を構想しているのでしょうか? 頭の悪い私には分かりません。それとも,単なる交渉上の駆け引きの主張なのでしょうか?

○今後どうなるの?
労働者側は「WEは絶対反対。でも労働契約法を葬るつもりはない」のでしょう。使用者側は,「WEがとれれば,最低限の労働契約法なら許容範囲。でも割増賃金アップは絶対拒否」。でもでも,労働者側は「割増アップがなくて,WE導入では,とても妥協できない」でしょう。

労使の交渉はデッドロックにのり上げるのでしょう。

厚労省としては,WEだけの労基法「改正」なんて,来年の参議院選前に通すことはできない(のでは?)。とすると,労使が反対しても,厚労省はWE(労基法改正)と労働契約法をセットにして法案を作るのではないでしょうか。

なお,hamachan(EU労働法政策雑記帳)によると来年度は社会保障関係の年金国会になり,とても労働契約法制が国会で議論することはできないそうです。今年度しかないということらしい(あくまで「らしい」)。

そこで,使用者にはWEを餌にして承諾させる。他方,労働契約法では,解雇の金銭解消制度は無理をしない(「素案」で事実上撤回した?)。ただし,就業規則制度は過半数労働組合が同意すれば合意推定するという制度として,多数派労組の連合を安心させる(懐柔する)。連合は「反対,反対」って言って,国会の力関係では通ってしまう(面子も立つし)。厚労省さん,そんなところでしょうか。

こんなことで,いいのかなあ? 
いやいや,まだまだ,紆余曲折があるのでしょう。

■次回 分科会
9月11日 17:00~19:00 場所未定

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