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2006年6月10日 (土)

読書日記「村上春樹論」小森陽一著

村上春樹論-海辺のカフカを精読する

  平凡社新書 2006年5月10日初版
      読了 2005年6月9日

護憲運動家の小森陽一氏の評論です。
でも、文学評論が小森氏の本職です。この評論にはびっくりしました。「な~るほど、そう読むか。でも本当かな?」というのが感想です。

村上春樹は女性に高い人気がある作家。
ところが、小森氏は、村上春樹を、主体的で自律した女性(作品中では「自ら主体的に性欲を持つ女性」に象徴させているのだそうです)に対する「嫌悪」を持っている「女性嫌悪」の固まりの団塊の世代のオジサンと評します。しかも、戦後民主主義を無視し、戦争や犯罪、近親相姦などの「タブー」を犯すことを「仕方がない」と読者を誘導して、モラルを相対化する<「癒し>の文学であると口を極めて批判します。

戦争と平和が問われている現代において、偽りの<癒し>をばらまく裏切りの文学として激しく非難しています。…そこまで言うか。というのが正直な感想ですが。

村上春樹の著作は何だかんだといって、たぶんほとんど読んでいます。大学生のときに「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」を読んだときのとまどいを、よ~く憶えています。

加藤典洋がその評論(村上春樹イエローページ)で、村上春樹の小説の構造が綿密に計算されて、日付や時系列に大きな意味があると論じていました。

小森氏も、カフカ少年が小説の中で読む小説の意味(バートン版の「千夜一夜物語」、夏目漱石の「坑夫」、カフカの「処刑地にて」)などを詳細に紹介しながら分析してます。小森氏によれば、「オイディプス神話を下敷きにして、15歳の少年カフカが、団塊の世代の『偽善と虚飾』の固まりである「父親殺し」を行い、「母親と姉と交わる」というタブーを犯しながら、その罪に対決することなくいたしかたないこと>と癒しを与える文学にしている。」と批判します。「『従軍慰安婦問題』を、<いたしかたなかったこと>として不問を付す枠組みが「海辺のカフカ」の中に組み込まれている」(236頁)と言うのです。

「海辺のカフカ」もとまどいを憶える小説でした。私は、この小説を最近流行している訳の分からない(動機が了解不能な)少年犯罪をモチーフとした女性向けのファッション小説のような感じで読んだのです。でも、小森陽一氏の分析は作品中に出てくる「坑夫」や「処刑地にて」などの小説の分析を読むと、一定の説得力はあります。

この評論については、「一部のオタク」のあいだで熱心な議論を引き起こすことでしょう。

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コメント

はじめまして。
私も『村上春樹論』でブログ記事を書きました。
TBさせてください!
そこまでいうか、というご感想に、
思わず頷いてしまいました!

投稿: 麻倉ハジメ | 2006年6月11日 (日) 11時53分

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2002年9月10日に発表された『海辺のカフカ』。 私が読んだのは発刊から1年ぐらい経ってからだったため ピンとこなかったのだが、 それは「9.11」の1周年の前日だったらしい。 さらに、『少年カフカ』というムックに 「癒し」を感じた読者の声を多数収録し、 販売部数を伸ばしていったという。 ここで、小森さんは言う。   結果としてそれは、ある特定の読みの方向で   読者を囲い込みと排除によって選別することに   なるのではないか、と思ったわけです。  (P... [続きを読む]

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