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2006年5月 6日 (土)

読書日記 「若者が働くとき」 熊沢誠 著

 「若者が働くとき」 熊沢誠 著  ミネルヴァ書房
      2006年2月20日 初版
      2006年5月5日  読了

フリーター、ニートなど若者の労働について新しい視点をもたらす好著です。

■米国マック店でのエピソード

熊沢教授は、この本で「マック仕事」に対する若者の抵抗のエピソードを紹介しています。

「1998年 米国オハイオ州のマクドナルド店にて、15人の若者がピケをはってストライキに突入した。
 きっかけは、66歳の女性同僚がマネージャーから些細なことで罵倒されたこと。争議は大労組チームスターの支援をうけて52日間続き、賃上げや処遇の是正を獲得した。
 大人からの『そんな仕事はさっさと辞めて別の職場で働けよ』という忠告に対して、19歳のリーダーは、『それは的外れだ。他の職場でも同じことが起こるでしょう。』と述べた。」

と言います。若者が元気なのはフランスだけではないようです!

■正社員を含めた労使関係の改善を

熊沢教授は、企業が選抜によって即戦力の正社員を少数精鋭化し、非正規労働者を単純労働、補助労働として「活用」(使い捨て)するという労務政策の結果がフリーターやニートを増加させている指摘します。

そして、正社員を離職して非正規雇用となる多くの若者がいる現実を指摘して、「フリーターを正社員化すれば良いという問題ではない」とされます。正社員として就職した若者の働き方自体に大きな問題があるから、若い正社員の離職率も高く、フリーターとなるという悪循環があると言うのです。

■人間らしい職場を

熊沢教授は、「労使関係を変えて人間らしい職場を作る必要がある」と主張されます。日本では長時間労働と過剰なノルマが労働者を蝕み、同時に社会をも蝕んでいます。過剰なノルマにより、20代の若い労働者が老人を騙したとして社会問題化した住宅リフォーム会社「サムニンイースト」事件は例外ではなく、氷山の一角かもしれません。政府・企業の現在の労務政策は、労働者の階層分化を促進し、フリーターの増加と正社員の職場への定着率の悪化は長期的には社会全体に深刻な影響を与える警鐘を鳴らします。

■若者たち

学校で成功をおさめられなかった若者、フリーターやニートになった若者、彼ら・彼女らに元気を与えてくれる言葉、なかま、組織がどこかにできてくるのでしょうか。冒頭の米国のマック店のような動きが日本でもひろがるでしょうか。今の労働運動の実像を見ると、正直言って、労働組合にどこまで期待できるか心配です。

しかし、コミュニティユニオンや、青年ユニオンが頑張っています。また、既存の労組ではJMIUが業務委託の労働者の直接雇用を求めて頑張っています(光洋シーリングテクノ事件http://blog.goo.ne.jp/jmiufk/d/20060412)。
彼ら・彼女ら、積極的な労働組合に期待し、応援したいと思います。

■熊沢誠ファン

熊沢誠教授は、「日本的経営の明暗」「企業社会と女性労働」「能力主義と企業社会」「働く者の亡き笑顔」等々の著作が多数あります。私も弁護士として労働事件を受任するようになってから読みついできました。また、労働者向けの学習会で講師をするときには、いつも参考にさせていただきました。

熊沢教授は、声高に日本的経営を告発するという感じではありません。圧倒的な社会的権力をもつ経営側の施策に不承不承、適応せざるをえない普通の労働者の目線に立って、少しでも労働を人間らしいものに改良する方向はないか、とため息をつきながら模索しているという風情です。そんな著者のスタンスに大変共感しています。

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