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2006年5月26日 (金)

民事裁判の証人尋問

今週、東京地裁で民事訴訟(労働事件)の証人尋問がありました。証人は、使用者側の代表取締役副社長で敵性証人。反対尋問です。

■民事裁判の証人尋問
刑事事件とちがって、民事裁判の場合には証人尋問を法廷で聞いていても書証や争点が判らないとなかなか理解できないでしょう。刑事裁判は「盗ったか否か」、「刺したか否か」など単純な事実の有無が争点ですから法廷傍聴しても理解しやすい。他方、民事裁判は要件事実という法律要件が争点ですから、普通は聞いていてわからない。

■労働事件の証人尋問
でも、労働事件の場合には、解雇や賃金請求などが争点です。解雇の理由が「合理的かつ客観的なものか、社会通念上、相当かどう」が問われます。ですから、民事訴訟の中では比較的にわかりやすいと思います。

■事案の概要
事件の概要は、管理職が非管理職に降格されて賃金が減額された。この「降格」が違法であるとして地位確認・賃金請求をしたケースです。私は、労働者側の原告代理人です。人事評価の妥当性が争点です。

■証人尋問の時間
普通は裁判官は時間を厳しくチェックします。特に昼休みにかかってしまうような場合には。でも、このケースは午前10:30から正午までの予定だったのですが、12:30まで裁判官が時間の延長を許容しました。たぶん、司法修習生が傍聴していたせいでしょう。

法学部の学生さんたちが民事事件を法廷傍聴をする場合には、労働事件がおすすめでしょう。東京地裁の場合には労働専門部(民事11部、19部、36部)がありますから、各部の法廷にいけば労働事件を見られます。

■事案の詳細
少し詳しく述べると、ある企業が、目標管理制度による人事評価に基づいて昇給と昇格を決定する「成果報酬制度」を導入した。原告は人事評価がマイナスとなり降格・賃金減額された。
・しかし、一次評価者は、当該業務は通常にこなしているとの評価している。ところが、二次評価者(副社長。この日の証人)が「甘い評価だ」としてマイナス2の評価したので降格を決定されたのである。
・ところが、この降格の3ヶ月前、副社長は、この労働者に退職勧奨をしている。副社長は「お前は経営構想外だから退職しろ。退職しないならば、今後は給料は上がらない。這いつくばって会社で生きていけ。」と発言していた。(ただし、副社長は反対尋問を受けて、「いくらなんでも、這いつくばって生きていけとまでは言っていない」と否定(「じゃあ、どこまで言ったの?」→証人「…(沈黙)」)。
・ちなみに、会社が全労働者に配布した成果報酬制度のパンフレットには「降格は例外的で、通常の仕事をこなせば対象にならない」と記載されていた(これが本件成果主義賃金についての労働契約の内容のはず)。
・このような降格、賃金減額が人事権の濫用とならないかが争点です。
(ただし、労働法を知らない人にとっては、人事考課がマイナスである以上、降格や賃金減額は当たり前じゃないと思われるかもしれませんね。でも労働契約に定められたルールにそったものでなければなりません。以下、法律論は省略)

■集中審理でなかった理由
本件は1人の証人尋問だけでした。最近は労働事件でも、特に個別労働紛争については、3,4人の人証調べは一日で終える集中審理が普通です。
本件も、本来は、集中審理を予定しており、会社側の人事担当取締役、原告側の証人(退職した原告の同僚)、原告本人、そして副社長を朝から夕方まで一日で審理する予定でした。
ところが、この副社長が体調不良だといって前回欠席したため、他の人証を取り調べた後、今日、尋問したという次第(今日の副社長は元気一杯でした)。でも、本来は原告らと一緒の期日にて、集中審理をすべきですよね。副社長は、原告や原告側の証人尋問の結果をよく研究して証言していました。(病気とはいえ、これはアンフェアーだよね)

■修習生の専門部(労働部)研修とその恩恵
東京地裁労働部の法廷なのに、珍しく司法修習生が3名が傍聴に来ていました。労働部は専門部なので修習生は配属されませんが、専門部修習で、たまたま労働部に修習生が来ていたのでしょう。
というわけで、東京地裁の裁判官(部総括、いわゆる部長)は、冒頭、「今日は主尋問30分、反対尋問30分という予定ですが、まあ少しくらいはのびてもよいですよ。」と発言。修習生がいるのでたっぷり尋問して良いという趣旨でしょう(N部長、修習生への配慮ですか。いつも時間にうるさいのに、今日は違いましたね)。
これに図にのった被告(会社側)弁護士は主尋問で45分も使ってしまって、11時20分で主尋問終了。しかも、証人の陳述書にはまったく書いていない、新たな具体的な事実を主尋問で証言させました(そりゃ ルール違反でしょ!)。そこで、反対尋問の前に原告側は5分休憩をとって打ち合わせした後、午前11時25分くらいから反対尋問開始。反対尋問の終了は12時。

■昼休みに食い込んだ証人尋問
その後、会社側の弁護士が再主尋問7分(しかも、ほとんど誘導尋問!)。これに対して私が再反対尋問を3分。さらに、裁判官が10分程度の補充尋問を行う。
(珍しいわな。やっぱり修習生向けかな?しかも、証人が裁判官の質問をさえぎってしゃべろうとするので、裁判官が「人が質問をしているのだから、最後まで聞いて答えなきゃだめでしょ。失礼だよ」と証人を叱責しながらの力の入った尋問でした。)
和解も視野にいれつつ、最終準備書面に向けて次回進行協議期日を入れることとして、午後12時30分に終了。書記官と廷吏さんの昼休みがなくなったのではと心配です。

■反対尋問の成果は?
成果はあったと思っています。
反対尋問の結果、人事部から退職勧奨対象者のリストを示されて、副社長が原告を含めて10人ほどの退職勧奨をした事実、退職を拒んだ労働者は降格させられている事実などが明らかになりました。また、人事評価がマイナスとなた理由として証言した具体的な事情も、副社長が人事評価したときは認識しておらず、証人として出廷するので調べて、わかったという事実も明らかになりました。
それなりに面白い反対尋問だったと思います(自己満足?)。でも書くと、まだまだ長くなるので、ここで終了。

■判決の見通し
判決で勝訴できるかどうか。
本件は、最近、巷間で流行中の「成果主義賃金」の降格・賃金減額事件です。これに関する判決は社会的にも注目されます。東京地裁労働部は、けっこう経営者の動向、賃金制度の動向などの世相(要するに、「日経新聞」等の見出しを気にしてるように思うこともしばしばあります。)を気にした判決を書くと感じています。ですから、この手の事件は要注意です。成果主義賃金の導入に水を差すような判決には慎重になる傾向があると思ったほうが良いでしょう。進行協議の中で、さぐりを入れて、裁判所の心証を見極めたいと思います。

■証人尋問と労働弁護士
労働弁護士はけっこう証人尋問の経験を積みます。一般民事に比較して証人尋問までいくケースが多いです。また、労働弁護士は、裁判所の証人尋問だけでなく、労働委員会の証人尋問も多いので、普通の弁護士よりも尋問の経験が多くなります(まあ、だから労働事件は手間がかかるということですが)。でも、私は証人尋問は好きです。準備などに手間をがかかり厳しい面もありますが、楽しみでもあります(尋問がうまくいけば…かな)。

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