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2006年4月24日 (月)

弁護士大増員時代-ドイツ弁護士事情

■いよいよ司法試験3000人合格時代
日本も司法試験3000人合格時代を迎えます(2008年)。今後、弁護士は飛躍的に増大していくことでしょう。そのとき法曹界はどのような変化にみまわれるでしょうか。ドイツの弁護士事情を聞いて、そんなことを考えました。

■ドイツ弁護士事情
日独労働法学会に出席した弁護士から、ドイツの弁護士・学者が話したドイツの弁護士事情を聞きました。それによるとドイツの弁護士の就職事情と経営事情は凄まじいようです。どんな惨状かというと。。。

■ドイツ弁護士就職状況の話し

①「ドイツでは、毎年6000人の法曹資格者が誕生し、弁護士が増えて12万人になった。裁判官・検察官弁護士に就職できるのは、合格の成績が発表されてランク3までの16%、つまり1000人くらいしか法曹(裁判官、検事、弁護士)として就職できない。ランクは、州ごとに発表されて、ランク1が0コンマ数%、ランク2が2~3%、ランク3が13%。しかも、昨年は600人の弁護士が破産申請している。」

ちょっと古い本ですが、1991年発行の「ドイツ法入門」(有斐閣 ハンス・P・マルチュケ著 村上淳一訳)の214頁に次のような記述がありました。

②「第2回国家試験に合格して有資格法曹になった者のうち、成績優秀者(優以上の総合評点をとった者)だけが裁判官、検事、各省官吏への任命、または定評のある弁護士事務所への採用を期待しうる。第2回国家試験の合格率は89%であって、合格自体は容易だが、優以上とる者は約14%にすぎないのである。良をとる者約35%も、まずまずの就職口を見つけることができるが、可をとる者約40%にとっては状況は厳しい。弁護士になることは可能であはあるが、弁護士は過剰状態であるから独立してやっていくことは不可能に近く、職員(Angesteller(r)要するに事務員)として雇われたりパートタイムに働いたりしてしのいで行かざるを得ない者も少なくない。」

ドイツでも弁護士が大幅に増員されており、1990年から現在まで弁護士数が2倍になっているとのことです。ですから、1991年頃の②状況が、①のように悲惨な状態になっていても不思議ではないのかもしれません。

また、慶應大学の加藤久雄教授は、平成12年の日弁連法務財団のフォーラムで③「ドイツには10万人の弁護士がいて、その3分の1以上が法律家の仕事がなく半失業状態だ」と述べています。同氏は1985年から15年間 ミュンヘン大学の法学教育に関与していたそうです。
 ↓
http://www.jlf.or.jp/work/studies/forum000322.pdf

にわかには信じがたい話しなのですが、上記②と③の話しからすると、上記①の話しは本当らしい感じです。どなたか詳しい方が、いらっしゃったら是非ご教示下さい。

■弁護士増員の背景
さて、弁護士の数を増やすのはヨーロッパ諸国でも、お隣の韓国でも各国政府が強力に取り組んでいる政策です。日本政府も、司法改革の目玉として弁護士増員政策を採用しました。日弁連も、「国民のための司法」を実現するために弁護士の増員に賛成しました。

弁護士増員政策をすすめる政府の意図の背後には、「大量の弁護士を安く使いたい」、「競争により弁護士の質の向上を図りたい」という経済界の要求があると思います。また、アメリカ的ビジネス・ロイヤーによる「法の支配」(アングロサクソン流の市場個人主義の法律版)を世界各国に及ぼしたいという(誰かさんたちの)思惑もあると思います。

とはいえ、私も理念的には弁護士増員に反対するべきではないと思います。民衆に法律サービスを提供し、また個人の権利のまもる弁護士が身近にいることは必要だからです。

ただし、現実問題、3000人規模で増加していく弁護士が、従来のように法律事務所に入所して裁判を中心とした弁護士業務を行うことは困難が多くなるでしょう。それを続けられるマチベンも売上げと収入が激減するのは避けられないでしょう。つまり、弁護士資格を持っているだけで「中産階級」になれるという時代ではなくなったということです。

司法試験・2回試験の上位10%以内の成績、一流ロー・スクール出身、語学ができるという人たちがビジネスロイヤーとして「中産階級」となれるのでしょう。

■普通の弁護士の年収
他方、いわゆるマチベンは、弁護士資格を持ってるだけでは普通のサラリーマンと同様の年収しか稼げないという時代になるのではないでしょうか。もっとも、それはそれで健全なことだと思います。アメリカの弁護士の大部分はそんなもんだという話しも聞いたことがあります。日本の大手渉外法律事務所に就職した新人弁護士の初任給が1000万円というのが異常なのでしょう。

これからは、普通の弁護士が何をやり甲斐・生き甲斐にして、弁護士として生きていくのかが問われる時代になるのでしょう。

なにやら、他人ごとのように述べてきましたが、私自身や私の事務所が10年後、どうなっているやら・・・。

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コメント

>とはいえ、私も理念的には弁護士増員に反対するべきではないと思います。民衆に法律サービスを提供し、また個人の権利のまもる弁護士が身近にいることは必要だからです。


そのとおりですね!
今でも地方では資格を持たない人たちが債務整理と称して動いているようですが、このような状況も有資格者が不足しているからでしょう。非弁の債務整理屋なんかがまともに仕事をするわけがありません。市民は不利益を受けています。

比較的弁護士の経済的利益になると言われている債務整理でさえやる弁護士が足りないんですから、それ以外の民事事件の状況はなおひどいと思われます。

ところで、10年でフランス並み(先進国で人口当たりの弁護士の数がいちばん少ない)にするには毎年1万2000人合格させる必要があるそうです。

現状で1万2000人は無理でも、3000人にはしないと、司法過疎は解消できないでしょう。

資格を持ちつつ、会社で働いたりする人もいていいわけで、あとは本当に市民のことを考える良い弁護士だけが事務所を持っていけばいいと思います。

合格増員反対と言っている一部の弁護士の活動は国民には既得権益維持のためとしか映りません。そういう決議を地方の弁護士会がすれば、国民は、“弁護士会ってやっぱり既得権益を守るためのギルドだったんだね”と思うだけです。弁護士会や日弁連に対する国民の信頼を低下させてしまいます。

弁護士が不足するがゆえに人権擁護と社会正義の実現ができていないのが特に地方の状況でしょう。

都会もまだまだ街弁という感じの弁護士が足りない気がします。探してもなかなか見つからないという話はよく聞きますから。

増員反対なんてとんでもないことです。

民主党政権は市民社会の実現に向けて、さらに改革を進めてほしいです。また、弁護士の先生方は、既得権益を守るような運動の呼びかけに安易に応じないでほしいですね。増員反対署名に応じるということは、困っている人を見捨てる署名をするということですから。

投稿: ken | 2009年9月26日 (土) 08時44分

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