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2006年3月26日 (日)

読書日記 「テレビの罠-コイズミ現象を読み解く」香山リカ著

    ちくま新書
    2006年3月10日第1刷
    同年3月22日読了

著者は、「ぷちナショナリズム症候群」(中公新書)や「今どきの『常識』」(岩波新書)などでリベラルの立場(しかも、美人だし…)から若者や社会の心理を鮮やかに描き出してきた精神科医。その著者が、2005年総選挙、小泉自民党が圧勝した「コイズミ現象」の要因について分析しています。

小泉圧勝の原因、テレビを利用しての巧みな世論誘導、そして、これに無批判、無抵抗にのったマスコミ報道の結果であると、多くの論者が指摘してきました。著者もこの側面があることは否定しません。しかし、著者は「すべて小泉首相の天才的な世論操作だ」と言えるだろうかと自ら問い直して注目すべき分析しています。極めて「衝撃的」な内容を含んでいます。

第1点は、マスコミは必ずしも意図的に小泉自民党のお先棒をかついだわけではないとの指摘です(これは「衝撃的」ではない)。

マスコミの現場でも小泉自民党の圧勝は「想定外」と受け止められていると言います。また、「刺客」や、「ホリエモン」という命名は、マスコミが小泉選挙を揶揄する意味がこめられていたと言うのです。でも視聴者(有権者)はそう受け止めなかった。

「今回の選挙では、小泉首相その人こそがメディアをコントロールしている『主体』だと考えられた。ところが、そうやら話はそう単純なことではなさそうだ。テレビは、『政治に関心を持って欲しい』と善意の気持ちで視聴者がより喜ぶような番組を作り、視聴者は『刺客やくの一、小泉首相、それをもって見せてくれ』と要求した。その繰り返しのうちに、いつの間にか小泉自民党だけがアピールされ、大量議席獲得という結果にたどり着いてしまったのだ」

要するに、小泉の訴えとマスコミの判りやすい揶揄的な報道が視聴者に「受け」てしまったのです。一度、「受ける」と、マスコミは視聴者の「受け」を狙って盛り上がっていく。そして「盛り上がる方」が多数派になり、批判的に見る人々は沈黙してしまう(「沈黙の螺旋構造」)。つまり、必ずしもマスコミが一方的に視聴者(世論)を操作しているのでなく、マスコミも視聴者の反応に巻き込まれていくというのです。「自分の意見は世間の多数意見と同じなのだろうか…?と気に病み孤立を恐れる人々の意識が、世論形成に大きな役割を果たしている」(沈黙の螺旋理論-世論形成過程の社会心理学)ということなのです。

第2点は極めて衝撃的な指摘です。
「かつての弱者が野党を見限った」と言うのです。「リベラルな論者はやメディアは、小泉内閣発足以来、富裕層がふくらむ一方で、ますます生活水準が落ちている困窮層が、なぜ自民党に投票するのかと訝しんでいます。けれども今回の選挙の核心が、非正規雇用労働者の、公務員に対する嫉妬、反発にあるのだとすれば、公務員を重要な票田とする社民、共産が票を集められるわけがない」(福田和也「週刊新潮」)。その証拠に、団塊ジュニア層では、自民党支持者は「上流」層では8.3%、「下流」層では18.8%との調査結果(三浦展「下流社会」光文社新書)がある。これを見る限り、「社会的弱者」の方が自民党(小泉)の支持が高いという驚くべき結果なのです。

この「弱者」の意識の変化については、森永卓郎も田中康夫も、「今後、必ず増税となる主張しても視聴者からの反応がない」と嘆き、浅田彰も「負け組の弱者達は、勝ち組に抵抗するどころか、雇用の安定した郵便局員なんかを妬んで、小泉の郵政改革を支持した」と指摘しているそうです。

「視聴者は時によっては”小泉劇場”に快哉を叫び「権力」と一体化したり、時によっては「マンションの耐震偽装問題の責任は政府にある」と「権力」を攻撃する側に回ったり、自在に変幻する存在になった。」
「軸がない、対立の図式がない今。フラットの世界で、誰もがそのときの多数派を探すゲームに夢中になり、その結果に一喜一憂している現代。…人はやはり不安になってしまうようだ。…不安の解決策がテレビから聞こえてくる「超越的で断定的な声」「小泉首相の強い声」だったのであろう」

著者は、現代日本がファシズムの一歩手前にあるとの強い危機感を抱いています。それが「テレビの罠」ということです。では、どうしたら良いというのか?「『テレ権力』を監視せよ!」とのデリダの意見を紹介してはいますが、でも自信なさげです。
確かに民衆が権力に反発しなくなったらどうしたら良いのでしょうかね、本当に…。

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