2022年7月30日 (土)

読書日記「台湾-四百年の歴史と展望」伊藤潔著(中公新書)


台湾の歴史と今後のアメリカの対中戦略(妄想)

ウクライナの次は台湾ということで、やはり歴史が大事。はじめて台湾の通史を読む。1642年のオランダ支配下におかれてから、1990年の李登輝国民党総統の民主化までの台湾史の概説。面白かった。

今まで、日本の過酷な台湾植民地支配と台湾人の抵抗と蒋介石国民党政権のもっと過酷な支配ということしか知らなかった。五年前に台湾に台湾労働裁判所調査で訪れた(台北地方裁判所に見学に行って、労働事件の法廷を見せてもらった)。

中国の明帝国は、台湾を化外の地として自国の領土とは考えず、オランダに委ねた。清帝国も、大陸からの移民(移住)を厳しく制限して、ほぼ台湾を放置していた。台湾の先住民族は清朝下で迫害され抵抗し、移住した漢人も本国から様々な規制を受けていた。その後、日本の台湾出兵の後にはじめて清朝は台湾の経営しはじめるが、日清戦争後に1995年に日本に譲渡する。

そのとき、台湾人(主に漢人移住民)は、1995年直後、フランスに頼って、台湾民主国を設立したが、漢人の指導者は逃亡し、アジア初めての民主共和国は日本軍に蹂躙された(移住していた漢人と先住民族とが頑強に日本軍に抵抗した。先住民族と移住漢人が協力した最初だという)。

日本の植民地支配は過酷であったが、50年の間に植民地下の近代化(農業、工業、行政)が進んだ。台湾人の台湾議会設立運動等もあったが、日本はこれを認めなかった。
日本の敗戦後、国民党が支配するが、1947年「2・28事件」が大量の台湾の知識人・指導層を粛正・虐殺(2万8千人)した。この事件で弾圧された人々は、日本が半世紀の間に殺害した台湾人に匹敵すると言われている(国民党は、日本の植民地支配された奴隷台湾人を排除したと正当化)。1949年に蒋介石が台湾に渡るが、米国トルーマン大統領は台湾に干渉せずと発表したが、1950年に朝鮮戦争が勃発して、方針転換して、台湾と防衛条約を締結する。

その後は長い暗黒の国民党戒厳令下で、やっと1998年に民主化し、民進党が野党として認められる。
台湾は、常に外国(中国本土)に支配され、台湾人の抵抗の歴史である。
民族としては、先住民族と19世紀に移住してきた漢民族(本省人)、国民党と一緒に台湾に来た漢民族(外省人)が混合している。しかし、歴史を見れば、民族としては大陸の中国人(漢人)とは4百年の歴史から現在を見ると、もはや中国の漢民族とは別の民族ではないか。ちょうどマンチュリアンと漢民族が異なるように。


民族自決権から見れば、台湾人には独立の権利はあるように思える。「一つの中国」を押しつけることは民族自決権と台湾人の民主主義に反する。

しかし、台湾が独立を宣言すれば、中国は台湾に侵攻する。ちょうど、ウクライナがNATOに加盟を強行してロシアに侵略されたように。

ここからは妄想。アメリカは、ウクライナにNATO加盟を誘導してロシアを挑発してロシアの弱体化と自国に大きな利益を得た。次に、バイデン大統領は、台湾を独立へと向かわせて、中国を挑発する。この綱渡り米中対抗関係を作り出して、自国に有利な状況を作ろうとする危険なゲームを始めている。

米国は、中国がさらに強大化する前にたたいておこうというのが戦略だろう。
中国は、経済的に台湾を包摂して、香港のように親中国派を育てて併合支配しようとするだろう。
今の世界情勢を見たとき、台湾には独立志向をすることは控えるようにお願いして、中国に軍事力行使をしないように求めるしかない。でも、台湾がアメリカに誘導されて独立したいと民主主義の方向で決めた場合には悪夢の戦争が起こる。

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2022年7月27日 (水)

ロシア・-ウクライナ戦争 開戦5ヶ月


ウクライナ妄想

この前、左派的な人と雑談をしていたら(私も左派ですが)、ロシアは違法な侵略戦争をしたが、このウクライナ戦争でアメリカが世界的に孤立している。中国が力をつけてきてアメリカが弱体化していると言っていたので、ビックリ。
ウクライナへのロシアの侵略に至る経過は次のとおり。


2008年1月 ウクライナ世論調査 50%がNATO加盟反対
2009年7月 これを切り崩そうと、バイデン副大統領(当時)ウクライナのNATO加盟支持表明

2010年6月 親露派ヤヌコーヴィッチ大統領NATO未加盟中立法

2013年11月21日 親欧米派のクーデター「マイダン革命」(議会の暴力的占拠・ウクライナ民族主義クーデター。アメリカの介入あり)

2014年2月 ヤヌコーヴィッチ大統領ロシアに亡命
2014年3月 ロシアの介入 クリミアの独立宣言(ロシア編入)
2014年6月 ポロシェンコ大統領就任(親米派)~2019年5月まで
2017年6月 ウクライナ NATO加盟を優先する法律制定
2019年2月 ウクライナ憲法にNATO加盟の義務を定める改正
2019年5月 ゼレンスキー大統領就任

この経過を見れば、アメリカが一貫してウクライナに自由主義的な介入をしてきた。バイデンの息子がウクライナに食い込んだという絵歩ソードがあり、それを追求したウクライナ検察のトップがバイデンの介入で解任されたという事件もあった。アメリカが一貫してウクライナにNATO加盟を推奨してきた。ウクライナの中立派を親ロシアとして排除してNATO、米軍の援助を強めてきた。
プーチンは、このアメリカの挑発に乗せられて「予防戦争」としてウクライナへの不法な侵略戦争を開始した(相変わらずイワンのバカ)。

結果的に、アメリカは、ロシアの欧州へのガスパイプラインをストップさせて、自国の液化天然ガスを欧州に輸出するという将来的な経済的な特典を得た。また、軍事援助を行うことで、アメリカの軍需産業は莫大な利益をあげる。
さらに、政治的にはNATO結束をはかり、スウェーデン、フィンランドのNATO加盟という大きな成果を得た。独の社民党政権に軍事拡大させ、NATOへの積極的関与することができた。対中国への西側諸国の結束も手に入れた。
アメリカは、イラク戦争やアフガン戦争で、ロシアと同じく侵略戦争を行ったが、西側諸国や西側メディアからは非難されない。アメリカは、綺麗事を言いながらロシアと同じような汚い戦争をやっている。

ロシア・ウクライナ戦争が長引く限り、経済的にも軍事的にも得をするのはアメリカであることは間違いない。
国際情勢は、誰が得をしたのかを冷静に見ることでだいたいわかる。
ロシアのウクライナ侵略開戦から、5ヶ月。戦争が始まれば、行き着くところまで行くしかないのが、歴史の教えるところ。ロシアとウクライナの膠着状態が長く続く。アメリカはこの膠着状態を続けるように管理された軍事援助をしている。ロシアを弱体化させ、アメリカが儲かるという状況がこれから1年以上は続くだろう。
アメリカは、ここから5年先、10年先の中国との対決を次に描いているだろう。中国も習近平政権が今秋継続してから、10年後を見据えた米中対立のゲームを進めるんだろう。

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2022年7月 9日 (土)

映画日記「シン・ウルトラマン」-メフィラス星人が提案する安保条約

この映画を公開直後に観て、しばらくして事務所の若手と2度目を観にいった。二度見はシン・ゴジラと同じ。

映画の1度目はストーリーとメイン映像に目を奪われる。でも、2度目はディテールに気がつく。劇場映画はTVと違って「名画」と一緒。何回観てもワンシーンに発見がある(それが名作の所以)。

 

以下、ネタバレあり

 

この映画は、やはり子供に楽しんでもらおうと意識した怪獣映画。私が小学2年生当時(1966年)、ウルトラマンのTV放映をワクワクしながら観た。その世代には、この映画も楽しく懐かしめた。それを知らない人はよくわからないかもしれない。そういう人々には女性隊員が巨大化するのがセクハラにしか感じられないのだろう。

また子供目線だと、「禍特隊」が単なる国家公務員の寄せ集めで格好よくなく実力も感じられないのが残念で、ストーリー展開に説得力が弱い。

大人目線だと、この映画はメフィラス星人(山本耕史)が出てくる後半が断然に面白い。メフィラス星人と日本国が星間条約を締結して、異星の進んだ科学技術を日本が提供を受ければ、日本の安全保障は盤石。

メフィラス星人は、日本に星間条約を提案する際に「私メフィラス星人を上位概念においてくれ」と言う。総理大臣はこれを了解する。メフィラス星人は、その星間条約をタブレットに写して示すが、その画面には「5条」のタイトルが読める。これは2回目観て気がついた。

さて、この5条とは、日米安全保障条約第5条ですね。外務省はウェブで次のように解説しています。

 第5条は、米国の対日防衛義務を定めており、安保条約の中核的な規定である。
 この条文は、日米両国が、「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃」に対し、「共通の危険に対処するよう行動する」としており、我が国の施政の下にある領域内にある米軍に対する攻撃を含め、我が国の施政の下にある領域に対する武力攻撃が発生した場合には、両国が共同して日本防衛に当たる旨規定している。

そして、メフィラス星人の言う「上位概念」は、日本国憲法の上位に安保条約が置かれているという意味になります。これは、今の日米関係へのメタファー(暗喩)であり、皮肉と揶揄だよね。「メタファー」は私の好きな言葉です。

メフィラス星人と日本の星間条約締結を阻止する反逆者が「禍特隊」とシン・ウルトラマンである。そして、シン・ウルトラマンとメフィラス星人がバトルを繰り広げる。

ところが、シン・ウルトラマンの故郷の「光の国」から来たゾーフィ(ゾフィーではない)が二人の紛争に介入する。メフィラス星人は、ゾーフィの介入した事実に気がつくと、即座に撤退する。

ゾーフィは人類に過剰に肩入れするシン・ウルトラマンを光の国のルールに反したとして処罰し、危険な人類を滅ぼすことを決定して実行に移そうとする。

ここでは、メフィラス星人は米国のメタファーで、ゾーフィが中国のメタファーですね。

メフィラス星人(米国)は、ゾーフィ(中国)との決定的な軍事的な全面対決を回避して、地球(日本)を見捨てることくらい簡単に決断する。

さて、そうなるとシン・ウルトラマン自身は、何のメタファーと考えられるだろうか。

「真・善・美の化身」とされるウルトラマンだが、最初のテレビ作品の企画・脚本の中心は金城哲夫。彼は沖縄出身の作家でTVの「ウルトラマン」に社会的問題を反映させていた。今から見ればその意図は明白で、「戦争と沖縄」「正義と差別」に終生こだわっていたと言っても良いだろう。彼は「沖縄海洋博」の演出も担当し、本土と沖縄の間の葛藤をいっそう抱えていた。(by NHKドキュメンタリー)。

シン・ウルトラマンを制作した庵野秀明(1960年生)は、当時の金城哲夫の発信していた雰囲気やメッセージを世代的に理解できるだろう。樋口真嗣(1965年生)は世代としてはギリギリかもしれない。ただ、庵野秀明は宮崎駿や高畑勲監督と仕事をしており、樋口真嗣も平成ガメラの金子修介監督と一緒に仕事をしている。樋口真嗣も金城哲夫の隠されたメッセージは理解できただろう。

この二人は、ウルトラマン、金城哲夫の作品に最大限の敬意をはらっており、その隠されたメッセージを盛り込んでいるにちがいない。

シン・ウルトラマンの「真・善・美の化身」とは、疎外された自己(日本又は沖縄)であり、理想化された自己(日本又は沖縄)なんだろう。


「シン・ゴジラ」は福島第1原発事故がメタファーであったし、「シン・ウルトラマン」は、日本の安全保障がメタファーだったのである。

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映画日記「PLAN75」


高齢化、老人人口増加により、75歳以上になれば国家が制度として自ら死を選択する道を提供するというストーリーは昔からたくさんあった。かならずしも目新しいテーマや作品ではないし、衝撃的でもない。筒井康隆の小説でも、このテーマで面白おかしいコメディがあった。

この「PLAN75」の映画が目新しく面白いのは、日本人がたんたんと受け入れる様がリアルに描かれていることだろう。そして、映画を見ながら、現在の日本の状況と共振して、「日本人はそうなるだろうなあ」と納得させられる。
「人に迷惑をかけるくらいなら、国のプランに応募して死んでしまおう」
係累も子供も孫もいない後期高齢者。年金もなく、あるいは暮らせない僅かな年金で一人暮らしする老人らは、「未来」ではなく、今の「現実」を描く。政府の安上がりの高齢化対策に従順に従う老若男女の日本国民。何も考えずにたんたんと老人らの死の選択をサポートする若者たち。

そして、老人の最後の措置をするのが、外国人労働者たちである。でも映画では、外国人労働者たちのコミュニティを、日本人社会とは異なる連帯感に満ちた明るい姿として、対照的に描いている。映画の最後では、外国人労働者である彼女は思い切った勇気ある行動に出る。

この日本社会の閉塞感と滅びていく様子を描いているところが、この映画の新しいところ。

最後に夕日を眺める主人公の思いと歩みはどう受け止めるのかは、観客ひとり一人で異なるだろうと感じた。

この映画はフランスとの国際共同製作だそうだ(フランスからの予算をもらって製作)。編集はフランスで行われた。編集担当のフランス人は「こんな制度を政府が提案したら、フランスでは大反対運動を展開して暴動が起こる。日本はこんなに静かに受け入れるのか?」と驚かれたそうだ。インタビューで、監督は「たぶん日本では受け入れられる」と答えたそうだ。私もそう思う。

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2022年5月28日 (土)

読書日記「ウクライナ戦争における対ロシア戦略」遠藤誉著(PHP新書)

遠藤誉氏(筑波大学名誉教授)は、1941年に満州国新京(現吉林省長春)生まれの女性(現在81歳)。当時、ソ連軍の侵攻、国共内戦などの悲惨で過酷な戦争を経験した。1953年に日本に帰国するまで中国で教育を受けた。中国社会科学研究院社会学研究所の客員研究員・教授を歴任した。

著者は、ロシアのウクライナ侵攻に、ソ連軍の対日参戦の恐怖がよみがえったとして、ロシアのプーチンの残忍無比な蛮行を厳しく非難する。他方、プーチンをウクライナ侵攻に意図的に誘い込んだのはバイデンの仕業だったと厳しく批判する。プーチンのウクライナ侵攻を引き込んだバイデン大統領の意図的な罠を事実に基づき暴露、告発している。

私は、ウクライナ侵攻によって利益を得るの結果的には米国だと思っていたが、バイデン大統領が「米軍が軍事介入すると核戦争になるので控える」と言ったので、理性による抑制だと思っていた。ところが、実態は違った。バイデンの仕組んだトラップだとまでは思っていなかった。

2008年1月 ウクライナ世論調査 50%がNATO加盟反対
2009年7月 バイデン副大統領(当時)ウクライナのNATO加盟支持表明
2010年6月    親露派ヤヌコーヴィッチ大統領 NATO未加盟中立法制定
2013年11月21日 ヤヌコーヴィッチ政権 EU連合協定の調印破棄
2013年11月21日 親欧米派のクーデター「マイダン革命」(議会占拠)
2014年2月 ヤヌコーヴィッチ大統領ロシアに亡命
2014年3月 クリミア共和国の独立宣言
2014年4月 バイデンの次男がウクライナ大手エネルギー会社の役員就任し不正関与
2014年6月 ポロシェンコ大統領(親米派)~2019年5月)
2015年   ウクライナ検察の捜査着手→バイデン副大統領 検事総長解任の圧力
2015年1月 オバマ大統領 マイダン革命(クーデター)への関与認める
2017年6月 ウクライナ NATO加盟を優先する法律
2019年2月 ウクライナ憲法にNATO加盟の義務を定める改正
2019年5月 ゼレンスキー大統領就任
2020年   米国大統領選挙 バイデンの「ウクライナ・ゲート」をトランプが攻撃。
2021年9月1日 バイデン大統領がゼレンスキー会談 NATO加盟すすめる。(独仏反対)
2021年10月  ウクライナ軍が東部ドネツク州親ロ派地域にドローン攻撃
        ドイツはミンスク合意の停戦協定違反とウクライナ批判
2021年12月7日 バイデンがプーチンに米軍はウクライナに派遣しないと表


バイデンは、ウクライナをNATO加盟に誘い込み、ロシアの軍事侵攻を誘うように意図的に政治工作をし、最後に、ロシアが軍事侵攻しても米軍は派兵しないと明言してロシアを軍事侵攻に誘い込んだ。

バイデンが受ける利益は、「ウクライナ・ゲートのもみ消し」、「NATOの拡大と結束強化」、「ロシアの天然ガスから米国のLNGガスへの転換で莫大な利益獲得」、「兵器供与の利益獲得」、そして、長期的には「中国の同盟国のロシアの弱体化」を得る。

なるほど。流石にアメリカでずる賢くスマートに自国の利益をあげるものだ。

中国については、必ずしもロシア擁護いってんばりではないとし、アメリカにはめられたロシアを困惑して凝視しているとする。台湾への軍事侵攻はない(ただし台湾が独立しようとしない限り)。中国は、2035年までに経済的に台湾を包摂・支配して、半導体企業などを抱き込んで、親中政権をたてることを目指しているという。

これに対抗して、米国は、ウクライナでやったような台湾政府に罠を仕掛けて、日本や韓国を巻き込んだ挑発をするのではないかとの危惧を著者は抱いている。より端的に「米国は対中包囲網を築くと言いながら、情勢が変われば、日本を見捨てることくらい平気でする」と述べている。

今後のウクライナの停戦にとって、ウクライナがNATO加盟を断念することが必要となり、停戦のためには中国が重要の役割を担うことになり、習近平が虎視眈々と機会をうかがっていると分析している。

著者は、ベトナム戦争から中近東の戦争まで、常に米国は戦争ビジネスでもうけてきたと批判する。日本は米国の手玉にとられつづけてきた。今や、国際情勢を経済・政治・軍事・地政学的情勢を冷静に見据えて進路を誤らないようにすべきだと述べる。

著者の結論は、日本はアメリカに頼らないで「軍事力をもった中立国」を目指して中立外交を展開すべき、と言う。

 

ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか (PHP新書)

 

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2022年5月25日 (水)

「危機の時代」(E.H.カー著)再読 ウクライナ侵略によせて

読書日記「危機の時代」E.H.カー著(岩波文庫)

本書は、英国人のE.H.カーが1939年7月に入稿して、同年9月の第2次世界大戦勃発後に出版された。この本は「来るべき平和の創造者たち」に手向けられた国際政治学と国際法に関する古典。E.H.カーは、ご承知のとおり、「歴史とは何か」「ボリシェビキ革命」等の著作で有名です。ロシアのウクライナ侵略を目の当たりにして再読しました。

E.H.カーは、第1次世界大戦後に外交官としてベルサイユ条約交渉を担当した経験に基づき、その後20年の「危機の時代」を「理想と現実」の緊張関係から見て「来るべき平和の創造者たち」に向けて提言を書いている。ユートピニズムもリアリズムとバランスをとらなければいけないという立場からユートピアニズムを批判しています(社会主義や自由放任主義や絶対平和主義も理想論という意味でユートピアニズムと位置づけています。)

第1次世界大戦後のベルサイユ条約でドイツに過酷な条件で屈辱を与えた結果、超民族主義者のヒトラーを呼び出して、第2次世界大戦に至ったと分析しています。今回のロシアのウクライナ侵略も、冷戦後にロシアに対して過酷な条件と屈辱を与え、その結果、プーチンを呼び出してウクライナ侵略を呼び込んでしまった点で同じ轍を踏んでいます。

国際関係は、国家を超えた権力が存在せず、国際的道議や国際法も確立をしていないので、国家単位の政治的・外交的交渉で決するしかない。比較できるのは、先進的な民主主義の資本主義国家の労使関係に似ている。実力(ストライキ等の大衆行動)と交渉のバランスによって合意を見いだす点では一緒だと言います。実力(ゼネスト)を行使すると、労働側も資本側も双方傷つくのがわかっている間なら妥協的平和を得ることができると言います。

「国際分野における政治権力は、(a)軍事力、(b)経済力、(c)意見を支配する力である。」

「クラウゼヴィッツの「戦争は他の手段による政治的関係の継続のほかならない」という有名な警句は、レーニンやコミンテルンによって繰り返し支持されてきた。」

「過去の偉大な文明はすべて、それぞれの時代の軍事力で優位を占めてきた。……強大国として評価されるのは、通常、大規模戦争を戦って勝利したその報償のようなものである。プロシア・フランス戦争後のドイツ、そして対スペイン戦争後のアメリカ、さらに日露戦争後の日本は、よく知られた最近の事例である。」「日露戦争が終わる1905年まで「慇懃な小男ジャップ」は、同戦争勝利後は逆に「東洋のプロシア人」へと変わった。」

「過去百年の重大戦争のうち、貿易や領土の拡大を計画的、意識的に目指して行われたという戦争はあまりない。最も重大な戦争は、自国を軍事的に一層強くしよとして、あるいは、これよりもっと頻繁に起こることだが、他国が軍事的に一層強くなるのを阻止するために行われる戦争である。」ナポレオンのロシア侵攻も、クリミア戦争の英仏の参戦もそういう理由であった。

「1924年のソヴィエト政府は、日露戦争の始まりについて、「1904年日本の魚雷艇が旅順港でロシア艦隊を攻撃したとき、それは明らかに攻撃的行為であったが、しかし政治的にいえば、日本に対するツアー政府の侵略的政策によって引き起こされた行為であった。日本は危険を事前に防ぐために敵に先制の第一撃を加えたのである。」と国際連盟に表明している。

こうして戦争は、主要戦闘国すべての胸中においては防御的ないし予防的性格をもつものであった。」

ということで、ロシア側にとっては、今回のウクライナ侵略もNATOの拡大を阻止し、将来の侵略に対応する防御的かつ予防的戦争ということになる。長年の戦争のいっかんである(21世紀かどうかは関係ない)。

今や、ロシアのウクライナ侵略から3ヶ月。以前予想したとおり長期戦(一年以上)となることは必至。米国の思うつぼであり、さすがアングロサクソンはすごいと感心する。

現時点の「一人勝ち」は米国。ウクライナに軍事援助して、長期戦に持ち込み、ロシアを弱体化し、NATOの拡大と西欧と日本・韓国の政治的な結束を入手した。経済的にも軍事産業やエネルギー産業が大きな利益をあげる。

ウクライナをコントロールしてNATO加盟に踏み出させたのはバイデンの勝利であった。

他方、中国は機を見ているのであろう。今年9月の共産党大会での習近平の任期延長を獲得した後、ロシアとウクライナ間の仲裁に入るのではないか。そこで成果をあげれば国際的な政治的地位もいや増し。台湾にもにらみがきいて、台湾独立を完全に阻止して経済的に優遇・支配して、親中政権(民進党でなく国民党)の獲得を目指すだろう。

しかし、中国は、軍事力と経済力はあるが、意見を支配する力が欠如している。ロシアに対して、ウクライナ侵略を明確に批判する姿勢を示せば良いものを(対ロ制裁をどこまでするかは個別判断)。ロシアを明確に批判しない以上、台湾や南シナ海への軍事進出の意志ありと、周辺国家と国民に思わざるをえない。孫子の兵法に反しているよなあ。米国は表では綺麗事を言って裏では汚いことをいっぱいしているのだから、中国がそれと同じように建前だけでも綺麗事言えば良いのに。そうしないのが不思議であるが、中国共産党が支配する以上、未来永劫変わらない宿命なのか?いや、イデオロギーではなく、中国やロシアの社会慣習や文化の帰結なのだろう。

 

 

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2022年5月 4日 (水)

読書日記「新・EUの労働法政策」濱口桂一郎著(2022年)

 ハマチャンこと濱口桂一郎さんに、「新・EUの労働法政策」(独立行政法人労働政策研究・研修機構・2022年4月発行))の御著書をお送りいただきました。ありがとうございます。2017年の「EUの労働法政策」(旧版)の続刊ですが、2010年後半以降のEU労働法の大きな進展(シフト制やプラットフォーム労働等への対応)を反映して、まさに「シン」EU労働法政策版です。

2017年旧版では労働条件法政策として、2000年に開始された「雇用関係の現代化と改善」の「経済的従属労働」に関する協議に対して、欧州経団連が突き放した対応に終始し、新たな動きがないとして記述が終わっていました。


ところが、この新版では、ユンケル欧州委員会委員長が重視した欧州社会権基軸(2017年勧告)や現ライエン欧州委員会委員長の下で、透明で予見可能な労働条件指令などが出されて、プラットフォーム労働指令案やAI規則案などの大きな進展が見られており、その概要が紹介されています。(なお、EU法では「指令」はEU加盟国に国内法制制定の拘束力を及ぼすが加盟国内に直接適用されない、「規則」はEU加盟国の私人に直接的適用されます。「勧告」は法的拘束力はない そうです。)


「透明で予見可能な労働条件指令」(2019年6月)は、いわば労働条件の書面通知の強化指令ですが、通知すべき対象者の範囲を拡大して労働者の拡大につながり(案段階では被用者の定義の拡大(プラットフォーム労働を含む)が含まれていたが、最終的には削除された)、手続的規制ですが、最低保障賃金支払や最低保証時間の通知を義務づけることでオンデマンド労働(日本でいえば「シフト制」労働)に対して間接的・手続的の規制をしています。

 

現在「プラットフォーム労働指令案」が2021年9月に欧州委員会から提案され、プラットフォーム労働(プラットフォーム労働遂行者とプラットフォーム労働者(雇用関係あり)に二分されている!)に関して、雇用関係の法的推定の条項が提案されています。プラットフォーム労働についてのアルゴリズム管理について規制も条項として提案されています。


さらに、EUの「人口知能規則案」も2021年4月に欧州委員会から提案され、基本的人権に対してハイリスクを含む「雇用、労働者管理及び自営へのアクセス」について、AI利用に対する規制する規則案が提案されて協議が開始されています。この場合、AIの利用者とは、AIを雇用管理等に利用する使用者への規制です。労働者側の欧州労連は、規則案は不十分であり、労働者の情報開示、情報へのアクセス、訂正、消去、処理の制限などを要求し、日常用語によるアルゴリズムの説明可能性が必要であると提言しているといいます。

 

日本でも現実に事件となっている「シフト制」(裁判)、「Uber EATS団交拒否事件」(都労委)、「日本IBMのAI不誠実団交事件」(都労委)に関連するEUの労働立法の動きを知ることができます。ほかにもハラスメントや労働時間法制、テレワークなどEUの労働法制が全体的に俯瞰されており、文字も大きくなって読みやすくなりました。

著者は、1999年に「EU労働法の形成ー欧州社会モデルに未来はあるか?」を上梓されていました。原点であろう同書で、著者は「ヨーロッパ社会モデル」は「アングロサクソン社会モデル」からの挑戦を受け、「労働者保護が目指した社会的規制が経済的に企業の力を失わせているという問題であり、競争力を回復するために硬直的な労働市場をもっと柔軟にしていかなければならない点」という新自由主義からの挑戦に直面しており、「欧州社会モデルに未来はあるか?」と自問されていました。

本新版では

「2010年代前半がEU労働社会政策の衰退の時代とするならば、2010年代後半はその復活の時代と呼ぶことができよう。その旗頭になったのは欧州社会権基軸という政策理念であった」

と少し高揚感を感じさせる書きぶりです。EUの労働法に興味あるかたには超お勧めです。

EU欧州委員会委員長の前ユンケル委員長は元ルクセンブルグ首相のキリスト教社会人民党の政治家 現在のライエン委員長はドイツのキリスト教民主同盟(CDU)の労働社会大臣、国防大臣を歴任した政治家で、どちらも欧州の中道保守政治家ですね。このあたりが日本とは大きく違います。

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2022年4月24日 (日)

「国連本部を日本に!」-加藤典洋氏の提案

 ロシアのウクライナ侵略で「やはり日米安保は必要だ」と多くの日本人が思っているだろう(私も半分はそう感じる。)。もっとも、中国・北朝鮮がプーチンのように核戦争を辞さずと言えば、米国が日本を防衛するかどうかはわからんと思うが。

 ところで、日米安保がなくとも日本の安全保障を維持する対案を加藤典洋氏が提言をしていました。2019年に亡くなった加藤典洋氏は、文芸評論家として名高く、さらに憲法9条についても三部作を著している(「9条入門」「戦後入門」「9条の戦後史」)。

 加藤氏は、「立憲的護憲派」で「日米安保条約の解消(米軍基地の撤去)」と「日本の安全保障の確保」を目指します。彼は伝統的護憲派からは強く非難されています。加藤氏の戦後体制と憲法9条に対する歴史認識については多くの史料をもとに上記三部作で詳細に論じられています。

 私なりに、これを超乱暴に要約すると(間違っているかもしれないが)

① 敗戦後に対日理事会の天皇訴追の圧力を回避するため、マッカーサーが天皇制を維持するため旧保守層に憲法9条の導入を認めさせた。

② 米ソ冷戦が激化し、国連の集団安全保障が機能しなくなったため、米国が日米安保条約を日本に締結させて日本国土を米軍が自由に利用できるようにして極東米軍の補完のため自衛隊を創設した。


③ 日本人が自らの国家主権を維持して、自国の平和を維持するためには、日米安保条約を解消して自衛のための武力組織を持たなければならない。


④ そのためには、日本は過去の侵略戦争を反省し、国連中心主義を基軸として自国の安全保障を構築すべきである。

 加藤氏は、次のような具体的な対案を提起しています。

第1点は、憲法9条を改正して、自衛隊を二つに分けて、治安出動を禁止された「国土防衛隊」と国連の集団安全保障体制に協力する「国連待機軍」を設ける。また、外国軍基地の国内での設置を禁止する条項を設ける。

第2点は、国連本部を日本に招致し、国連予算の全てを日本が負担する。

 国連の1年間の予算は2022年で約30億ドル(120円換算で3600億円)となるが、日本の在日米軍関係経費は7970億円(令和4年度予算防衛省発表)にのぼり、国連全体の予算の2倍以上です。そこで、日本は国連本部を日本(沖縄)に誘致し、国連予算の分担金として100%全て出せます(今は日本の分担金比率は8%、米国が22%、中国15%)。安保条約がなくなるから在日米軍に払っている予算は不要になるからお釣りがきます。

 日本(例えば、沖縄や北海道)に国連本部が設置されれば、中国やロシアもなかなか攻撃できないでしょう。

「思いつき」「笑い話」「夢物語」

 でも、このくらいの大風呂敷を広げないと、これから何も変わらないでしょう。フィンランドのケッコネン大統領は「国の地政学的環境と利害関係の折り合いをつけて予防外交に徹し、他国をあてにしないこと」と述べた。そのフィンランドが今やNATO加盟しようとしていますが。

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2022年4月17日 (日)

ロシアのウクライナ侵攻と「日本国憲法9条」と日本の対応

ロシアのウクライナ侵攻は違法な「侵略」そのものである。ウクライナがNATOに加盟し、仮にそれがロシアの安全を脅かすものであったとしても、ロシアのウクライナ侵攻は国際法違反の他国への侵略行為にほかならない。

 国連憲章上は、この侵略行為に対して、ウクライナは個別又は集団的自衛権を行使することができる(国連憲章51条)。国連の安保理は、その侵略行為に対して「緊急の軍事措置」をとることができる(同42条)。また、国連加盟国は、安保理の要請に従って兵力などの便益を提供する義務を負う(同43条)。

 ロシアや米国や中国などの常任理事国が侵略を行った場合(米国のイラク侵攻もそうだった。)には、この国らが拒否権を行使するから、国連(安保理)は機能しない。

 では、日本国憲法9条をもとにすると、この事態に日本はどう対応できるのか。

 三つの立場があるだろう。

① 一つ目は、9条を絶対平和主義の非武装中立条項だと解釈して、ロシアやウクライナ、そしてNATO諸国に対して、軍事援助も含めて一切の軍事措置に反対して即時停戦を訴える伝統的護憲派の立場。

② 二つ目は、9条は非武装平和主義ではなく個別自衛権(武力による自衛)を許容していると解釈し、必然的にウクライナの自衛権行使やNATO諸国の軍事援助を容認し、日本もウクライナの側にたって援助する立場。ウクライナに対してどのような援助をするかは、「非軍事から軍事まで」の幅でいろいろな選択肢があり、情勢を見て個々に判断する。当然ながら軍装ヘルメットや防弾ベストは援助できる(おそらく国民の多数派であろう)。集団的自衛権は否定するので兵器や兵員の援助はできない。

③ 三つ目は、9条は国連の集団安全保障体制(軍事措置)を前提としていると解釈して、侵略行為に対して国連の軍事措置(42条)ができない場合であれば、国連憲章51条に認められた集団的自衛権に日本も協力することができるという立場。この解釈は、日本国憲法前文の「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」の定めを国連の集団安全保障だけでなく、集団的自衛権にも依拠すると解釈する(今の政府の立場)。もっとも集団的自衛権とはいえ、遙か遠い欧州の戦争まで軍事的援助(兵員派遣や兵器援助)ができるかは今の政府内でも異論が出るだろう(中国・台湾間の軍事紛争なら可とするだろうが)。

 さて、どの立憲的な観点からは、どの立場が良いだろうか。

 自衛隊が9条違反という立場に立つと、①の立場が論理的帰結となる。

 他方、日本国憲法9条が個別的自衛権、専守防衛の軍隊(自衛隊)を許容しているという立場であれば上記②となる。ただ、憲法典の条文と憲法法典制定過程の国会審議に忠実で、その後の憲法事実の変遷を解釈に反映させるべきではないという法実証主義的な立場からすると、②と③の選択は憲法9条改正すべきことになる。

 ドイツ政府(社民党、緑の党)は、ウクライナには最初はヘルメット援助だけだったが、徐々に兵器援助を広げてる。ドイツ政府は、自国が直接戦争に巻き込まれないか、ロシアがガス・石油等の輸出を止めないかという情勢判断に悩んでいるのだろう。

 

 

 

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2022年3月27日 (日)

ウクライナのロシア戦争とフィンランドの冬戦争


ウクライナ軍とロシア軍の戦争が毎日ニュースになり、コンピューターの戦争ゲームのように、軍人あがりの国会議員や安全保障の専門家がテレビで日々の戦況について語っている。判官贔屓でウクライナがんばれと思う。

でも、軍事のリアルの法則として、ウクライナ軍は単独でロシア軍を排除することができるのだろうか?
そんなことはまずないだろう。もはや長期戦になる。そうなれば、多大な民間人の犠牲を負うのは被侵略斟酌国家側なのだ。

最も似ているのは第二次世界大戦のフィンランドとソ連との冬戦争である。
3ヶ月の間にフィンランド軍はソ連相手に善戦したが、結局は孤立無援で敗北した。プーチンやロシア軍の参謀は、このフィンランドの冬戦争を当然に下敷きにしているだろう。

1939年11月30日、ソ連軍がフィンランドに侵攻。口実はフィンランドの社会主義政権が助けを求めているということだった(今のロシアの侵略と同じような口実)。

ソ連赤軍の兵士は、「資本主義の搾取と抑圧に苦しむフィンランド人民を解放するために解放軍として駆けつける。フィンランド人から歓迎される」と思っていた(今のネオナチに苦しむウクライナ人を救済するためと一緒)。

ところがどっこい、強靱なフィンランド軍(司令官は英雄マンネルヘイム将軍)の抵抗にあってびっくり。

スターリン60歳誕生日の1939年12月21日までに全てを電撃的に終えようと思ったところが思うようにならず、スターリンはびっくり仰天(今のプーチンと一緒)。

国際的にソ連は轟々と非難されて国際連盟から除名された。
これが国際連盟の最後の仕事で国際連盟はその後崩壊(今の国連はロシアを除名ところか、常任理事国排除もできない)

当時、英仏はフィンランドに援軍する援軍すると言いながら、結局援軍を送らなかった(今の米国とNATOと一緒です)。
ナチス・ドイツもソ連に距離を取り始めた(このナチス・ドイツは今の中国の役どころ)。
ソ連赤軍の無能さだけが目立った(でもって、ヒトラーはソ連に勝てると攻撃した一因になった)。

スターリンはさすがにまずいと思って、司令官をティモシェンコ将軍に変えて、1940年2月1日からフィンランドに対して、大攻勢をかけてフィンランド軍防衛線を瓦解させた(これから予想されるロシア軍の戦術核兵器やサリン化学兵器の投入)。

当時フィランドは1940年2月19日に外国からの援助は受けられないと悟って、講和交渉を開始(今、ウクライナも譲歩しつつある)して、3月13日に講和条件(当初のソ連の要求より過酷な条件)をのんだ。両軍の先頭は講和交渉の条件と密接に関係していたそうだ。1メートルでも多く支配地域を広げ押し返す状況で停戦条件が決まるという冷徹な原則。

このフィンランドの冬戦争、ソ連軍は8万5000人が戦死。フィンランド軍は2万5000人が戦死。フィンランド軍はよく戦った。

私の若い頃、ベトナム戦争が同時進行でテレビで報道されていたとき、小国ベトナムがアメリカに勝てるわけがないのだから、ホーチミンのベトナムは降伏した方が良い、なんて当時の私はつゆとも思わず、「アメリカはベトナムから出て行け」「英雄的なベトナム民族の自衛・解放闘争万歳」と信じて疑わず、デモにもいったよな。

でも現実では、ウクライナ単独ではロシアには勝てないだろう。ベトナムやアフガンのように長期ゲリラ戦で戦うしかない。
他方で、ロシアが限定核兵器やガス兵器を使用したら、どっかでNATO軍とロシア軍が衝突するかもしれない。

でも世界中で一番抑制的なのはアメリカ合衆国(バイデン大統領)。第三次世界大戦だけは回避するという宣言は安心できる。
また客観的に見れば、一番に利益を得ているのはアメリカだ。
そして、機を見て中国がロシアとウクライナ間の仲介するだろう(虎視眈々と狙っているはず)。
仲介が成功すれば、中国の地位が上がる。でもって、中国が国益上の利益を得ようとするだろう。
中国はウクライナ戦争とその仲介力で、台湾への支配介入のための道具、武器とするだろう。
まさに孫子の兵法。

国際政治は、そういう流れで動くと思う。

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2022年3月13日 (日)

ロシアのウクライナ侵略とフィンランドの歴史と外交政策

読書日記「危機と人類」ジャレド・ダイアモンド著(2019年・日本経済新聞社刊)

 危機にあたって国家はどう対応したのか、危機克服のためにどういう要素を考慮すべきかを、フィンランド、日本、チリ、インドネシア、ドイツ、オーストラリア、アメリカの歴史から考察した書物。今のウクライナは、過去の「フィンランドの対ソ危機」と同じ。歴史は繰り返すを地で行く。以下、私なりの要約。
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 フィンランドは、1809年にロシア帝国に併合されて、1894年にニコライ二世の圧政下にはいった。1917年にロシア革命が起こるとフィンランドは独立宣言したが、国内で社会主義革命を目指す赤衛軍とドイツの支援を受けた保守派の白衛軍との内線となり、白衛軍が勝利して、その後は左派勢力が弾圧、虐殺された。

 スターリンは1930年代末、ドイツの脅威に備えて、英仏ポーランドと防衛協力を申し出たが、これを拒絶されたため、1939年8月に独ソ不可侵条約を調印。同年10月、ソ連はフィンランドにソ連フィンランドの国境線の変更と海軍基地の設定を要求したが、これをフィンランドは拒絶し、同年11月から戦争が開始された(冬戦争)。スターリンはフィンランド民主共和国を設立させて、同国の防衛のためだと主張(今のロシアのウクライナ侵攻と一緒)。

 当時、ソ連は人口1億7000万人、フィンランドは370万人。フィンランド軍と国民は圧倒的なソ連軍に良く戦ったが戦死者は10万人(人口の2.5%)。ソ連軍の陸軍の戦術は拙劣で多大な損害を出した。フィンランド人の死者1人当たり、ソ連兵8人が死んだ。他方で、英仏は援軍を送ると口では言いながら、まったく援軍を送らなかった。外国人義勇軍が1万5000人がフィンラドに味方した。結局は冷徹な軍事力の差には勝てず、フィンランドはわずか開戦半年後1940年3月に講和して、最初の条件より不利な条件をのまされた。

 1941年6月にナチス・ドイツはソ連を攻撃し、同時にフィンランドはナチスと共にソ連に宣戦布告して占領されたカラリア州など奪還する。これを継続戦争という。当時は、フィンランドに苦戦したソ連軍は弱いと考えられ、ナチス・ドイツが勝利すると世界中が思っていた。でも、結局はソ連が勝利し、フィンランドはソ連と休戦協定を結んで同様の条件と多額の賠償金を支払うことになる。

 そこで、1945年以後、フィンランドは、ソ連の逆鱗に触れないよう、でも独立と、自由と民主主義体制の維持と西側との関係維持という「綱渡り外交」をとった。他の西側からはソ連におもねる「フィンランド化」と揶揄されたが、フィンランドの歴史を見ればやむを得ない。

 フィンランドのケッコネン大統領(任期1956年~81年)は、スターリンの思考は「イデオロギーでなく地政学的な戦略」であると喝破し、外交方針は「わが国の地政学的環境を支配する利害関係との折り合いをうまくつけること……予防外交であり、危険が間近にくる前に察知し、危険を回避する対策を講じること……国家は他国をあてにしてはいけない。戦争という高い代償を払って、フィンランドはそれを学んだ。……外交問題の解決にはさまざまな感情-好きとか嫌いとか-を混ぜ込む余裕はつゆほどもないことも学んだ。現実的な外交政策は、国益と国家間の力関係という国際政治の必須要素に対する認識に基づいて決定されるべきである。」

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日本は、第二次世界大戦に敗北したが、何を学んだのだろうか?アメリカの占領政策があまりにうまかったので、日本人は支配されているという感覚もなく、対米依存・従属のままで経済発展できた。そのため、ケッコネン大統領のような冷徹な認識に至らなかった。

だから、非武装中立が一番だとか、また、政府指導者らは今でも核兵器保有国(中国、北朝鮮、ロシア)に対して、日本も核武装・共有するとか、敵地を攻撃するとか、自国の地政学的環境を無視してお目出度いことを言うのではないか。

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2021年11月 3日 (水)

2021年総選挙に思う 衆院比例区の分析

2021年総選挙に思う

11月3日は休日なので、今回の衆院選挙比例区の結果を整理してみた。

 

■比例区の政党得票率・数の近年の数値をあらためて見ると、各政党の得票数・率は、実はそれほど大きな変化はないのがわかる。

 

★主な衆議院比例区選挙の主要政党の投票数・率の推移表

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この比例区への得票数・得票率には、有権者の政党支持の様相が素直に出る。2013年参議院選挙は抜けているが、傾向をつかむのが目的。小選挙区は各政党の候補者数等の要素で変動が激しい。有権者の政党支持数・率は出てこない。その意味では、小選挙区でどう選挙戦をたたかうかは、各政党の戦術が重要であり、各党の手練手管が見物であり、勝負どころなのだろう。

 

■実は比例区では負けてない立憲民主党

 

上記表を見れば、立憲民主党は、2018年総選挙よりも、比例区は得票数・率とも増えている(20%で1149万票)。国民民主党も4.5%で259万票を獲得している。

 

立民・国民両党の合計では、24.5%で1406万票であり、民主党下野後の最高得票なのである。(2009年の民主党の42.4%、2984万票が特別の異常値だった)。

 

共産党は7.2%、416万人で実はずっと変わりがない。社民党も長期低空飛行で傾向が変わらず(今回よくもったというのが正直な感想)。そして、立民+国民+共産+社民を合計すると33.5%と1925万票で、今回の自民党比例票に匹敵する。これに「れいわ」が合流すれば逆転である。もっとも、そうなれば、自公に維新がつくだろう。

 

■立憲民主党は小選挙区でなぜ負けたのか(勝てなかったのか)

 

では立憲民主党は、小選挙区で共産党と議席調整したにもかかわらず、なぜ勝てなかったのか。

 

共産党との共闘の結果だ(中道や保守系が離反した)との説がある。

 

しかし、立憲民主党は、前回と比較して、比例区の得票率も得票数もわずかだが増えている。もし、共産党との共闘が嫌われたのであれば、比例票も国民民主党にもっと流れたはずである。国民民主党の比例票はおそらく前回希望の党を支持した層から来たものと推定できる。維新に投票する人の多数派はもともと反労組(特に強固な「反官公労」)の立場なので、立憲民主党にはいれないだろう。

したがって、データ上は「共産共闘敗因説」は成り立たないのではないか。少なくとも大きな要因ではないだろう。

 

今回は維新が比例区で14%、805万票を獲得した。前回2017年総選挙では6.1%、338万であったので躍進である。ただし、前回2017年は希望の党があり、17.4%で967万票を獲得しておりそのあおりで減らした(だから新党ブームのあだ花だと東京にいる私は思っていた)。前々回の2014年総選挙では維新は15.7%で832万票だから、希望の党が消滅したため、もとにもどったともいえる。

 

維新は、大阪を中心に近畿で小選挙区で躍進し、全国各地でも小選挙区で存在感を示し、比例区票も獲得した。この政党は、自力をつけた。もはや新党ブームのあだ花でなく、今後も有力政党になるであろう(私個人では、およそ賛成できない政策・体質だが、それはそれとして)。

 

立憲民主党が小選挙区で勝ちきれなかったのは、維新の躍進・復調に足下をすくわれたと言えるのではないか。

 

「れいわ」も、3.9%と221万票と健闘した。これも前回に希望の党に投票した人が、清新さを求めて、「れいわ」に投票した方が多かったのではないか。

 

前回希望の党にいれた17.4%の有権者の8%が維新に、4%が「れいわ」に、3.9%が国民民主党に投票したにではないか。その意味で立憲民主党は、希望の党にいれた中道右派層を獲得できなかったといえよう。この点で維新とのたたかいに破れたのではないかと思う。

 

こう考えると、立憲民主党は、維新や「れいわ」に比較して、新鮮さや清冽さ、党首の魅力、政策がリベラル岩盤層向けの規範主義的理想論(優等生的・学校的あるべき論)を並べ立てて現実の生活感覚から乖離したから、小選挙区で勝ちきれなかったと個人的に思う。言い換えれば、構造的な原因や共闘路線の失敗ではない。

 

立憲民主党の戦略的なパフォーマンスと政策提言の向上で勝機はあると思える。来年の参議院選挙までに立て直せるか?

 

■連合の組合員の投票行動は?

さて、日本のナショナルセンターの連合の組合員の票はどうなったかを検討してみる。
参考にしたのは、連合自身が2019年に組合員の政治意識調査をして発表している。

 

★連合「第7回政治アンケート調査」結果の概要2019年である。WEBに公表されている。

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連合の組合員数は約700万人。官公労は約100万人で、民間労組は約600万人だろう。このアンケート調査結果によれば、「支持政党なしが36%。国民と立民支持合計で35%、自民党支持は20%。」だそうだ。その他・答えずの約10%は、その他の野党又は公明党支持だろう。

 

組合員の投票率は85%を超える。この点はさすがだ。一般の投票率は55%程度だから立派なものだ。

 

というわけで、組合員で投票に行くのは全体の85%の600万人ということになる。そして、自民党に投票する組合員が2割で120万人となり、国民か立民に入れる固定層は216万人となる。

組合員の無党派の210万人の多くも野党系にいれるだろうが、組合員の大多数が大企業正社員かつ男性であろうから、維新に投票する組合員も多そうである。

 

さて、今回総選挙の国民民主党の比例区の得票数は260万票である。連合が立民の共産党との共闘を強く批判していたことからすると、連合組合員の多く(特に民間労組)は国民民主党にいれた可能性が強い。そして、上記の民主党系固定支持者の216万人の推計と、国民民主党の比例獲得票数260万票と一致する。

 

他方、立憲民主党の比例区獲得票数は1149万票で、連合の組合員数以上の国民の支持を得ている。連合の組合員、特に官公労の組合員の支持を得ているであろうが、より幅広い国民からの支持を得ている。他方で、国民民主党は大企業労組の組織政党の色合いが強い(言うまでもないか。当たり前かも)。また、国民民主党は明確な原発推進路線であり、幅広い国民の支持を受けるのには疑問符がつく。

 

上記のとおり、連合の組合員の多くは国民民主党に入れたと推測できるので、連合の組合員が支持する政党がなくなって戸惑ったとはデータ上は言えないのではないか。

 

要は、国民と立民の棲み分けはできており、あとは政党として、両党がどのような政策的、政治実践の連携をとるか、である。それこそが野党政治家に求められているミッションであろう。

 

路線の主導権をめぐって相互に叩き合うのは愚かなことではないかね。

 

 

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2021年10月24日 (日)

読書日記 「性の進化論講義」更科功著(PHP新書)

「性の進化論講義」更科功著(PHP新書)2021年8月発行

最近はやりの人類の性差論かと思いきや、まっとうな進化論の講義でした。

さて、オスとメスがいるのは有性生殖の場合。

 

私の高校時代の生物の知識では「原始的な生物が無性生殖で、より高度な複雑な生物は有性生殖と進化した」ということでした。
ところが、現代の進化論では、上記のような素朴な考え方は否定されている。

 

無性生殖の方が、実は効率性やコストが少ないとのこと。

 

それではなぜ有性生殖が幅をきかしているのか(無性生殖の生物も珍しくないそうですが)。

いろんな学説があるが、有力な学説は、病原体(寄生者)に対抗する免疫システムを獲得するためだそうです。

 

個体にとって、捕食者よりも、病原体の方が脅威となっている(ライオンで捕食されるよりも、病原体で死ぬ方が圧倒的に数が多い。100年前のスペイン風邪と第一次世界大戦を比較しても、1000万人以上死んだスペイン風邪の方が脅威)。

 

無性生殖だと、免疫を決める遺伝子がワンパターンであり、危険な病原体に直面すれば同じ遺伝子が多いその生物は絶滅する危険性が高い。

 

人間だと抗原や抗体を司るMHC遺伝子は両親から二つしなかい。しかし、有性生殖だと、多種多様ないろんなMHC遺伝子の組み合わせが生じる。したがって、病原体が現れても、ある個体は免疫がきかず抵抗できないが、ある個体は有効な抵抗力がある場合もある。種としては生き残る。

 

よって、有性生殖はオスとメスは、病原体との競争結果で有性生殖の方が生存や繁殖に有利だったからという理論があるそうだ。

 

ちなみに、ホモ・サピエンスは7万年前頃にアフリカを出た。先にヨーロッパや中東に進出していたネアンデルタール人と部分的交配して全世界にホモサピエンスは広がった。xアフリカを遅く出発したホモ・サピエンスは、アフリカの病原体に対する免疫しかなかったが、ネアンデルタールと交配することで、アフリカ以外の病原体に対する免疫をもつMHC遺伝子を獲得した。ネアンデルタール人のMHC遺伝子は、アジア人の方が多い。アフリカに遅く発したホモ・サピエンスは、アフリカの病原体に対する免疫しかなかったが、ネアンデルタールと交配することで、アフリカ以外の病原体に対する免疫をもつMHC遺伝子を獲得したと考えられるとする。

この本には書かれていないが、新型コロナの流行の感染者と死者の比率や数が、ヨーロッパとアジアで大きく異なることとの関係を妄想してしまう。ヨーロッパ人と東アジア人の遺伝子的差がやはりあるのかもしれない。


著者によれば、進化論は、自然淘汰の理論であり、個体が遺伝的変異を経て世代ごとに変化する理論。

自然淘汰とは、 要するに「子供を多く残すことができるかどうか」で決まる。そのために、環境に有利な形質や生存に有利な形質が変異で生じて次の子供に承継されることが必要。

 

進化の自然淘汰は、次のような条件で生じる

 

① 同種の個体間に遺伝的変異が生じる(異なる特徴が子に遺伝する)
② 生物は過剰繁殖する(親の個体よりも多くこども生む)
③ 遺伝的変異によって、生殖年齢に達する子の数が異なる。
④ より多くの生殖年齢に達する子が持つ変異が、より多く残る。

オスとメスとの関係性は、この自然淘汰の理論で決まってくるとのこと。偶然性で決まる遺伝的変異、環境との適応関係、自然淘汰、性淘汰によって確率論的に決まるようだ。子供を育てる形質や、異性をめぐって闘争するのがオス同士の場合もあればメス同士の場合もあるとのこと。

 

メスの配偶子製造コスト+メスの子育て期間 > オスの配偶子製造コスト

 

この場合にはオス同士がメスをめぐって争う。例えば、ゾウやライオン。

 

メスの配偶子製造コスト < オスの配偶子製造コスト+オスの子育て期間

 

この場合にはメス同士がオスをめぐって争う。例えば、南米にいるある鳥類。

 

以上の例は、妊娠や子育て期間は、メスは繁殖(生殖)行動をしない場合。

 

では、妊娠、子育て期間でも、繁殖(生殖)行動をする例外的な生物であるホモ・サピエンスの場合はどうか。直接的な答えは書かれてていない。このあたりは極めて慎重で、安易なホモ・サピエンスへの適用はしていない。

 

 

https://www.amazon.co.jp/%E3%80%8C%E6%80%A7%E3%80%8D%E3%81%AE%E9%80%B2%E5%8C%96%E8%AB%96%E8%AC%9B%E7%BE%A9-%E7%94%9F%E7%89%A9%E5%8F%B2%E3%82%92%E5%A4%89%E3%81%88%E3%81%9F%E3%82%AA%E3%82%B9%E3%81%A8%E3%83%A1%E3%82%B9%E3%81%AE%E8%AC%8E-PHP%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E6%9B%B4%E7%A7%91-%E5%8A%9F/dp/4569850383/ref=tmm_pap_swatch_0?_encoding=UTF8&qid=&sr=

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2021年10月 3日 (日)

読書日記「「ジョブ型雇用社会とは何か-正社員体制の矛盾と転機」濱口桂一郎著(岩波新書)

読書日記「ジョブ型雇用社会とは何か-正社員体制の矛盾と転機」濱口桂一郎著(岩波新書・2021年9月発行))



 濱口桂一郎氏ことハマチャンが2009年7月発行の「新しい労働社会-雇用システムの再構築へ」(以下、「前著」と言う。)の続刊です(以下、「新著」と言う。)。新著の狙いは、2020年に経団連が「ジョブ型」を打ち出し、マスコミ(特に日経)がジョブ型への転換を煽るようになったが、その「ジョブ型」の理解は、著者の打ち出したものとは似ても似つかぬ、大間違いなので、その誤りを正すことを目的としているとのことです。



 メンバーシップ型雇用は、ジョブ型と違って、雇用契約それ自体に具体的な職務が定められておらず、いわばそのつど職務が書き込まれるべき空白の石版です。そこでは労働者と職務の結びつけ方(ジョブ型は先ずは職務があって、それと人を結びつける)、賃金の決め方(ジョブ型は職務によって決める)、労政関係の労働組合の在り方(ジョブ型では職種別賃金を職種別あるいは産業別労組が団体交渉と労働協約で決める)が異なります。

 

 メンバーシップ型では、企業は、職務のポストの空きではなく、先ずは人を見て「正社員として相応しいやる気のある人」を採用する。また、賃金については、職務(ジョブ)ではなく、「人」を見て属人的に決める。企業別に総額人件費の増分を企業別労組で交渉している。

 

 そして、著者は、このメンバーシップ型とジョブ型という概念を分析道具として使用するもので、どちらが良いかという政策的価値判断の概念としては用いていない。前著でも、なにも日本のメンバシップ型をジョブ型に直ちに変更すべきと推奨しているものではないと、私は受け止めています。

 

 前著でも、現代の日本型雇用がメンバーシップ型となっているのは、それなりの理由や社会背景があるが、そのメンバーシップ型から生じる問題点が顕著になっていることから、それを現実的な方法で改革すべきというものであったと私は読みました。

 

 その典型が非正規労働者の格差是正についての論述にあらわれています。

 

 
「直ちに職務給を変えるなどということは少なくとも短期的には事実上不可能です。短期的に事実上不可能なことが前提条件として均等待遇や均衡処遇を語ることは、結果的には当面均等待遇や均衡処遇を実施しないことの言い訳になってしまいます。」「期間比例原則のような現行の賃金制度を前提した改革の道を探ったのは、賃金制度の変更を前提としない短期であっても実施可能な政策を提起すべきだと考えたのです。」(前著105頁)

 

 さて、前著発行後、2016年に安倍内閣の「働き方改革」のもとで、「同一労働同一賃金の実現」が打ち出されて、2018年にはパート・有期雇用法の改正されて、同一労働同一賃金ガイドライン(短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針)が発出されて、「日本版同一労働同一賃金」が法制化されました。

 

 これに対して、新著では、ジョブ型雇用の下での「同一労働同一賃金」がメンバーシップ型雇用の下に「導入」されたとすることは虚構であるとして批判(あるいは揶揄?)されている(と思う。)。



 いわゆるガイドラインの中で、正社員と非正規社員が同一の賃金制度をとる場合を前提として本文(本則)にて論じられているが、日本の場合には、正社員は職能給、非正規社員が職務給と賃金制度が異なる場合が通常なのに、それを本文で触れずに「注」でしか触れていない。その注の内容も、「将来の役割期待が異なる……という主観的・抽象的説明では足りず」という程度しか書かれていない。結局、同一労働同一賃金の名に値いしないものになっていると批判されている。

 


 この点は、まったくそのとおりであり、パート・有期雇用法8条を同一労働同一賃金の原則とすることは、法解釈上も多くの誤解を招くことになり、同一労働同一賃金の原則を使用すべきではないと私も思います。しかし、均等・均衡処遇の原則を、新たに政策課題として新たな立法化まで浮上させた、この10年の動きを無意味と清算することはできないのではないでしょうか。この法律を活用して、非正規労働者や労働運動がどこまで改善を獲得できるのか、労働運動にこそ期待をかけるべきだと思います。



 時に歯切れのよいハマチャン節は面白いのですが、あれっと思うこともしばしばです。例えば、高度プロフェッショナル制度について、長時間労働の抑制それ自体よりも、残業代ゼロ法案とネーミングして、時間外手当問題にのみ注目している旨の批判(新著193頁)とか、「労働組合は資本家の圧政に耐えかねた貧窮のプロレタリアートが結成したというのは九割方ウソです。」(新著263頁・中世ギルドの伝統をひく熟練職人が結成した)とか、労働側から見ると「?」と感じます。このような決めつけ部分が気になります。ちょっと極論ではないかと感じます。



 また、具体的な制度である解雇の金銭解決救済制度などについても労働側との見解の違いは大きいところがあり、個々の制度論は意見を異にするところが多々あります。



 でも、この新著で、例えば経営側は、職務給への変更を断念した後、生活給を職能給と再構成して、潜在的な職務遂行能力で説明するようにしたが、この職務遂行能力の実態は要するに正社員としての「やる気」(だから、人事評価が情意評価となる)と喝破しているような箇所がたくさん出てきて大いに勉強になります。



 著者は日本型正社員のメンバーシップ型の問題点を指摘しながらも、改革の方向を「白地に絵を描く」ようなわけにはいかないことを踏まえた上で、政策的な提言を考える姿勢には共感を持ちます。



 私は、日本型正社員のメンバーシップ型雇用をいきなりジョブ型に変更することは不可能であることは明白なのですから、無限定な職務や長時間労働、女性正社員や非正規労働者の格差問題については、メンバーシップ型を(ジョブ型雇用も参考にしながら)修正することで改善していくべきだと思います。



 長時間労働や配転が無限定なのは「日本はメンバーシップ型だから仕方がない」という現状維持の正当化論拠に「メンバーシップ型」が使われないことを切に望みます。



 新著を読んで、あらためて前著を読み直してみると、新しい労働社会への改善に向けてより深く広い提言が書かれていたのだと思いました。

 

 

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2021年9月 4日 (土)

読書日記「資本主義だけ残った」ブランコ・ミラノヴィッチ著・2021年

原題:Capitalism,Alone

 

この著者は1953年に旧ユーゴスラヴィアで生まれ、父親はユーゴスラヴィアの経済学者・外交官。著者はチトーの共産主義国でエリートとして生まれ、ベルギーで高校を過ごし、ベオグラード大学を卒業した人物。今はニューヨーク市立大学客員教授。

 

この書物の核心は「アメリカを典型とする「リベラル能力資本主義」と、中国を典型とする「政治的資本主義」が世界を制している」というもの。

 

著者の言う資本主義とは、マルクスとヴェーバーの定義と同じで「民間の生産手段によって生産が行われ、資本が法的に自由な労働者を雇用し、調整が分散化されたシステム」とする。マルクスとエンゲルスは250年前にに今日の世界を言い当てていたとする。すなわち「ブルジョワ階級は、彼ら自身の姿に型どって世界を創造する」(共産党宣言1948年)。

 

資本主義は、19世紀のイギリスの古典的資本主義、第2次世界大戦後の社会民主主義的資本主義があり、21世紀アメリカのリベラル能力資本主義がある。

 

そして、現代の中国も政治的資本主義である。生産手段が民間に所有され、資本が労働者を雇用するシステムであり、共産党が支配する異なるタイプの資本主義だとする。ベトナム等もこれに含めている。

 

ちなみに著者は、マルクスの正当性としては、資本主義が帝国主義戦争をもたらすという点と資本家が国内政治を支配するという予測を的中させた点があるが、その欠陥は社会民主主義的資本主義が生まれることを予測していなかった点と次の点にあるとする。

 

著者によれば、現実の共産主義(現存した社会主義)とは、共産党一党独裁・生産手段の国有化・中央集権的計画・政治的抑圧を特徴とするもの。このシステムはマルクスやエンゲルスの予想に反して、植民地支配された第三世界において、古い封建制を廃止し、経済的政治的独立を回復し、国有の資本主義を構築するものである。つまり、西欧において国内のブルジョワジーが果たした役割を果たすのが共産主義革命であったとする。

そして、今や中国に政治的資本主義が確立した。それは生産手段の私的所有のもとでブルジョワジーが中国にも存在しているが、共産党が政治的に支配する資本主義として、技術革新と経済成長を遂げている。そして、この政治的資本主義はアジアやアフリカに輸出されようとしている。

著者は必ずしもグローバル資本主義を賛美しておらず、リベラル能力資本主義は金権主義と不平等が深刻化し、リベラルな価値自体を自ら破壊しかない。政治的資本主義も不平等と腐敗が進行し、共産党の官僚組織が腐敗すればやはり自滅するだろうとする。

資本主義と異なる次のシステムは未だに見えず、今後、リベラル能力資本主義と政治的資本主義が対立してどちらが生き残るか、それとも一つに収斂するのか。それぞれが不平等を是正できるか、富裕層による政治支配や腐敗を制限できるかで決まると結論づけている。ピケティやサンデルに共通する流れだ。

 

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2021年8月14日 (土)

読書日記「米中対立」佐橋亮著(中公新書・2021年)

読書日記「米中対立」佐橋亮著(中公新書・2021年7月)

 これからの国際関係は、「米中対立」が基本的関係となり、それにどう対応・適応していくか(米中冷戦や軍事衝突を回避させるという意味でも)が世界諸国家に求められるということのようだ。

 この本の特徴は、米国と中国は、中国人民共和国が成立してから朝鮮戦争で米中が激突し、台湾をめぐり米中対立が決定的になったが、1972年のニクソン訪中、1979年の米中国交正常化の後は、米国が中国を経済的、軍事的に援助してきたことを指摘する点である。

 1970年代以後の米中の接近は、最初はソ連牽制のための戦略だった。しかし、米ソ冷戦が、米国の勝利で終わった後も、米国は中国との関係を重視して経済的にも育ててきた。それは天安門事件の民主派の大弾圧のあとも基本的には変わらなかった(オバマ政権末期まで)。大量の中国人留学生の受け入れ、WTO参加、軍事関連技術の提供などなどが、この40年間行われてきた。

 その理由として、米国側に、アジア地域の安定を図ること、中国の資本主義化と巨大市場の獲得、そして、中国が資本主義化することで自由で民主的な政治体制に徐々に変化するという期待があったからと指摘する。

 ところが、中国が急激な成長を遂げ、軍事的にも技術的にも巨大化し、米国に急迫する中、習近平指導部が専制的な国内体制を強化し、対外的には「一帯一路」による海外経済進出、南シナ海等への軍事進出、香港の民主派の弾圧と支配、ウイグル民族への弾圧等を一気にすすめた。しかも、中国は、自由と民主を旗印にする欧米型モデルと異なる「一党独裁・権威主義の中国型発展モデル」を世界に発信しつつある(東欧、中央アジア、東アジア、果てはアフリカの権威主義国家がこれにならう。)。そこで、米国の中国の民主化・自由化への期待は消滅した。

 なお、米国の一部の国際政治学者には、「トゥキュディデスの罠」(覇権国の軍事的衝突は必然)に陥らないよう、アジア地域の支配権を中国に平和的に譲渡する方が米国・アジアの平和と安定にとってメリットがあると提案する者もいるという。

 トランプ大統領は、米中の2国関係の取引で、米国が得をすれば、民主化や自由化、人権の尊重などおかまいなしに話をつけたであろうが、バイデン大統領は、上記のような原則的な方針のもとに中国に厳しく対応する方針を決定した。

 今後は「米中対立」の情勢が基本となる。ただし、「米ソ冷戦」のように軍事的緊張関係を回避することは可能とする。それは、中国の資本主義化によって、米国や他の世界にとっても中国の経済は工場(生産拠点)としても市場としても重要となったから。

 そこで、日本と欧州(EU)は、「米中対立」が新たな「冷戦」に至らないように、米国との関係を基調にしながらも、決定的な米中衝突を招かないような慎重な対応をすべきとしている。

 巨大な中国であっても、国際的に孤立はデメリットしかないと思うのだが。

 香港や台湾については一国二制度を継続し、国際的孤立を回避して、国内の格差問題等の諸問題を解決する方がメリットがあると思うのだが。習近平政権が専制主義に進むのは、中華民族の栄光という非合理な超ナショナリズムや超国家主義のせいなのだろうか。それは、大日本帝国と同じで自滅の道ではないかねえ。

https://www.chuko.co.jp/shinsho/2021/07/102650.html

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2021年5月18日 (火)

建設アスベスト訴訟の最高裁判決、そして国との基本合意書

建設アスベスト訴訟について、最高裁は、5月17日、国の規制権限不行使を違法として、労働者のみならず、一人親方及び中小事業主についても救済した。また、建材メーカー10社について共同不法行為の成立を肯定した。

そして、5月18日に菅総理が原告被害者代表者に面談のうえ直接謝罪し、田村厚労大臣との間で基本合意書を締結しました。この基本合意書締結にあたっての原告側の声明は次のとおりです。最高裁判決の評釈は別に時間をとってアップしたいと思いますが、まずは基本合意書の締結は画期的な出来事です。

NHKニュース

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210518/k10013038131000.html?utm_int=news-social_contents_list-items_012

 

 

建設アスベスト訴訟について国との基本合意書締結にあたっての声明

                  2021(令和3)年5月18日

1(はじめに) 

本日午前、首相官邸にて、菅義偉総理大臣が建設アスベスト訴訟原告団・弁護団らの代表に直接、令和3年5月17日の最高裁判所判決で国の規制権限不行使の違法性が認められたことを厳粛に受け止め、被害者及びその遺族に深くお詫びする旨の謝罪の意を表明し、午後6時すぎに田村憲久厚生労働大臣との間で基本合意書を調印した。

2(経過その1)

 2008(平成20)年5月16日、最初に建設アスベスト訴訟を東京地裁に提訴してからすでに13年が経過した。この間、全国各地で建設アスベスト集団訴訟が提起され、原告の総数は、今回最高裁判決を受けた4事件を含め、被災者単位で900名を超えているが、そのうち7割を超える方々が亡くなっており、生存被災者は3割にも満たない。
  2020(令和2)年12月14日、東京1陣訴訟における最高裁判所第一小法廷の上告不受理決定により国の法的責任が確定し、同年12月23日、田村厚労大臣は、原告代表者を大臣室に招いて謝罪するとともに被災者救済のための協議の場を設けることを表明した。

3(経過その2)

 そして、2021(令和3)年2月18日、自民党・公明党内の「与党建設アスベスト対策プロジェクトチーム(与党PT)」(座長:野田毅衆議院議員、座長代理:江田康幸衆議院議員)の第1回会合が開催された。与党PTにおいては、原告側のヒアリングが行われ、全面的解決に向けて精力的な取り組みを重ねていただいた。また、野党においても、同年3月12日には、野党合同ヒアリングが実施され、原告側の要望を真摯に受け止めていただいた。このような超党派の国会議員諸氏の力強い取り組みの結果、最終的に昨日5月17日、同日の最高裁判決を受けて、与党PTは、原告側の思いを真摯に受け止めていただき、①係属中の訴訟の統一的な和解基準の設定、②未提訴の被害者に対する建設アスベスト給付金制度(仮)の創設、③最高裁判決が建材メーカーの責任を明示していることから建材メーカーの対応の在り方について引き続き与党PTで検討することを、「建設アスベスト訴訟の早期解決に向けて」と題する書面にて発表した。これを踏まえて、われわれはさきほど国と基本合意書を締結した。


4(基本合意書の内容)

 基本合意書の主な内容は次の4点である。
 第1点は、国が最高裁判決を厳粛に受け止め、被害者及びその遺族の方々に深くお詫びするとの謝罪がなされている点である。
 第2点は、係属中の訴訟について、国が裁判上の和解をするための統一的な和解基準定めたことである。具体的には基本合意書第2項記載のとおりである。
 第3点は、未提訴の被害者に対する補償である。すなわち、未提訴の被害者に対して、裁判をすることなく被害補償のための給付金(仮称)を支給する制度を法制化することとし、その給付金の額は上記係属中の訴訟と同様とするものである。
 第4点は、継続協議を合意したことである。すなわち、国は、建設業に従事する者について、石綿被害を発生させないための対策、石綿関連疾患の治療・医療体制の確保、被害者に対する補償に関する事項について、建設アスベスト訴訟全国連絡会と継続的に協議を行うことを約束したものである。特に、被害者の補償に関する事項については、与党PTがとりまとめ文書で明示するように建材メーカーの対応の在り方も含むものと言える。


5(評価と意義)

 建設アスベスト訴訟は、被害者である原告の損害賠償請求訴訟で勝訴するだけでなく、制度政策形成訴訟として、提訴した原告だけでなく未提訴のすべての建設石綿被害者をも広く救済する建設アスベスト被害補償基金制度の創設を目標としてきた。
 アスベスト関連疾患による労災認定者数はこれまでに約1万8000人に上り、建設業がその半数を占め、また石綿救済法で認定された被害者のなか中にも相当数の建築作業者が含まれ、さらに建設アスベスト被害者が今後も毎年500~600人ずつ発生することが予測されている。
 本日締結された国との基本合意書には、国の法的責任を認めた上で被害者への謝罪の意が表明され、係属中の訴訟について高い水準の統一和解基準が盛り込まれるという大きな成果を獲得した。さらに、国との関係では裁判することなく補償を受けられる制度が設けられることになった。被害者が裁判をすることなく国から給付金の補償を受けられる簡易・迅速な制度が法制化されることは、画期的な成果であり、広く被害者を救済する制度が立法化される意義は極めて大きい。


6(今後の課題)

 しかし、この国の給付金だけでは被害者にとって完全な賠償を得られるわけではない。なぜなら、残りの損害(被害)については、石綿含有建材を警告表示なく販売製造し利益を上げてきた建材メーカーらが被害者らに補償(賠償)すべきものであるからである。
  与党PTのとりまとめでは、建材メーカーの対応の在り方が引き続き検討課題とされ、また基本合意書にも被害者に対する補償に関する事項について継続協議事項となっている。国の建設アスベスト被害の給付金制度は、建材メーカーも補償金を拠出する建設石綿被害補償基金制度として拡充し、完全な被害者救済制度として法制化すべきである。これが次の制度政策的な課題と考える。

7(決意表明)

 われわれは、この国との基本合意書の締結が画期的な成果であることを確認し、今通常国会での速やかな立法化に向けて取り組みを行うとともに、超党派の衆議院、参議院の国会議員諸氏に今国会での法案成立への協力をお願いするものである。
  そして、今後は、この国の給付金制度を建設アスベスト被害者に周知徹底を図り、被害者が同制度を利用できるよう支援する取り組みを強める。それと同時に、残された建材メーカーの賠償責任を果たさせるため、建材メーカーに対する集団損害賠償訴訟を提起し、最終的には建材メーカーも被害者への補償金を拠出する建設被害補償基金制度を創設することを目指す取り組みを行うことを、ここに宣言する。
                                 以上

首都圏建設アスベスト神奈川訴訟原告団・弁護団
首都圏建設アスベスト東京訴訟原告団・弁護団
関西建設アスベスト京都訴訟原告団・弁護団
関西建設アスベスト大阪訴訟原告団・弁護団
首都圏建設アスベスト統一本部
関西建設アスベスト統一本部
建設アスベスト訴訟全国連絡会

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2021年4月18日 (日)

映画「ノマドランド」

「ノマドランド」を映画館で観てきた。リーマンショックの不況下、米国のとある町の大企業が閉鎖されて、町自体が消滅。夫が亡くなり、自宅も失い、自家用車(ヴァン)を住処とする高齢の女性ファーン。車中泊のまま行く先々で働き、生活の糧を得る漂流高齢労働者(ノマド)。

 

不況の中、社会的セーフティネットもなく、住む場所もなくなったアメリカの高齢労働者たちの過酷な状況を描く。

 

ただし、社会的告発調の映画を想像していたが、実際にはだいぶ印象が異なる。

高齢労働者が「Amazon」の配送センターで働く姿もあるが、描写される「Amazon」社は、高齢者を搾取する企業のようには批判的には描かれていない。かえって高齢労働者にとっては実入りが良い仕事を提供する、人間らしく働ける職場として描かれている。だから、Amazon社は映画撮影を許可したのだろう。

世界恐慌下の「怒りの葡萄」(ジョン・フォード監督、ヘンリー・フォンダ主演)の移動農業労働者のような過酷な労働者や搾取への怒りは描かれない。諦念と孤独が色濃い。これは現代の映画の文法(語り方)。告発調やプロパガンダははやらない。だから、その過酷な出口の見えない米国の現実をえぐっている。

 

映画の主人公には車上生活から普通の屋根のある家で生活する機会が二度来る。一度は中産階級の姉から一緒に住もうと誘われる。不動産業を営む姉夫婦に違和感があり断る。また、同じノマド仲間だったが、息子の家に住みはじめたデイヴに一緒に暮らそうと誘われるが、これも断る。

 

主人公は、自らの意志で働きながら漂流する道を選ぶ。姉は、妹のノマド生活を幌馬車の開拓精神のアメリカの伝統かもしれないと述べる。

 

監督は、クロエ・ジャオという中国人(中国籍)の女性監督。中国国有企業の幹部の娘で、米国の高校、大学を卒業後、米国で職を転々とした後、監督としてデビューして高く評価されているそうだ。

 

アメリカの荒涼とした砂漠と山並みの映像は美しい。この監督の尊敬する映画監督は、ギリシャのアンゲロプロス監督だそうだが、確かに白黒のロードムービーの「旅芸人の記録」に似ている。今のアメリカの厳しい社会的現実を、美しく、諦念と喪失感を、ありのまま切り撮ったところが評価されているのだろう。

 

https://searchlightpictures.jp/movie/nomadland.html

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2021年4月10日 (土)

読書日記 木下武男著「労働組合とは何か」(岩波新書)

木下武男著「労働組合とは何か」(岩波新書)
2021年3月発行
2021年49日読了

 労働社会学者の木下武男教授の著書です。木下教授は、長く「賃金論」をふまえた労働組合のあり方を議論されてきました。1999年「日本の賃金」(平凡新書)では日本型年功型賃金の変容と、グローバル化による職務給・職階制賃金、成果主義賃金について実態(実例)を踏まえた分析と提言(年功賃金から生活できる仕事給)をされており大変に参考になりました。

 木下教授は、この「労働組合とは何か」で、欧米の労働運動・労働組合の歴史と実態を概観した上で、日本の企業別労組の問題点を批判して、新しいユニオニズムを提言されています。

 この本の骨子は次で要約しますが、私は基本的に木下教授の意見に賛成です。

 欧米の労働組合は、ヨーロッパ中世のギルドからの伝統を踏まえたものである。手工業時代からの伝統を踏まえた熟練労働者のクラフツ・ユニオンが力をもって職業別労働組合になり、産業革命後に機械制工場に雇われる不熟練労働者が一般労働組合を組織して戦って、それが産業別労働組合と発展し、経営者団体と交渉して産業別賃金協約を獲得するようになった。典型的には英国の労働運動であり、第二次世界大戦後には福祉国家を成立させた。

 これに対して日本の労働組合運動は、戦後になり企業別労働組合が全国各地に結成され、1946年には多数派の「産別会議」(組合員数163万人)が結成された。その傘下の電産労組がいわゆる「電産型賃金」(生活できる年功賃金)を確立した。

 1946年には、米国の労働諮問団は、年功賃金からジョブ型賃金に転換するように勧告した。また、1947年の世界労連の視察団は、日本の企業別年功賃金に対して「雇用主の意志のままに悪用され、差別待遇されやすい」として「平等な基準」の「仕事の性質」に基づく賃金を提言していた。

 しかし、日本では、その後、経営側は、一時、職務給を導入しようとしたが労働側の反対を受けて、定期昇給制度に人事考課制度を結合させた日本型職能等級賃金制度を確立させていった。

 本来、日本の労働組合は、企業別組合が本流となってしても、産業別統一闘争を発展させ、産業別組合に向けて改革する努力が必要があった。産別会議は、占領軍のゼネスト中止、共産党の介入とそれに対する反発で分裂縮小して崩壊(1956年解散)した。その後の総評型労働運動も「年功賃金・企業別組合」システムを前提とした労働運動となった。春闘などの総評型労働運動の頂点は1975年だったが、それからは凋落していく。1975年は、春闘とスト権ストが敗北した年。

 1980年以降、日本では、企業主義的統合が進み、「労使協調」路線にどっぷりつかっていくことになる。1980年代後半以降、ストライキによる労働日損失がなんと限りなくゼロに近くなることが如実に示している。年功賃金と終身雇用制という日本型雇用システムに労働者の企業意識や忠誠心という労働者の同意を獲得していった。労働者に「安定」を提供したが、「競争」と「差別」(左派労組員への差別と女性差別)が色濃い。

 そして、バブル崩壊、経済のグローバル化、経済のソフト化・IT化のもと、現状の貧困と格差が広がる現在の雇用社会、労働者の状態が生じている。

 現在の企業別労働組合を中心とした労働組合運動、数的には多数派である正社員の年功的賃金制度のままでは、社会を変えられない。旧来の日本型賃金(属人的な年功的賃金)では非正規労働者の同一労働同一賃金は実現できないし、正社員の賃金も低下していく。

 そこで、木下教授は、企業別労働組合も、産業別労働組合に内部改革することを期待しつつ、より必要なのは、企業別組合の外部に組織されたユニオンが未組織労働者を組織し、さらに業種別職種別ユニオンに発展していくことを提言している。その萌芽は確かに広がりつつあるとする。

 

 私も、欧州のような産別労働組合と職務給の雇用社会、社会民主主義の政治体制が日本にあれば良いと夢想しますが、いまさら日本に産別労働組合がないことを嘆いても、死児の齢を数えるようなものでしょう。

 また、これは世界的に見れば、欧米の方が特殊例外な社会(自生的に資本主義を生み出した社会だから)なのでしょう。少なくとも、アジアを見れば、多くは日本のような企業別組合が中心のようです(これはなぜでしょうかね?)。例えば、韓国も左派も右派も企業別労組だし、それでも韓国では中央産別組合の交渉力は強いようです。もっとも、韓国の労働組合組織率は10%で日本の16%よりも低い(。

 木下教授が言われるように、年功型正社員の企業別労組が産業別闘争に大きく踏み出すことに期待しつつ、「貧困と格差」にあえでいる大企業以外の普通の未組織労働者を、業種別ユニオン(一般労組)が広く組織化し、企業を超えた産業別・業種別な労働組合が発展していくことが必要だと思います。

 日本の組織率は民営企業で162%ですが、1000人以上の大企業が全体の66%を占めており、99人以下の企業では推定組織率は0.9%しかありません。日本では99人以下の企業に雇用されている労働者数は、全体の雇用労働者のうち半分です。広大な未組織分野があるわけです。

 企業別労組と労組員、そしてナショナルセンターは、これら企業外に組織されたユニオンを応援し、オルグを増やすための財政援助をしたらユニオンは発展するのではないでしょうか(オルグを増やす余裕がない)。ただ、この方向を指向しているとは見えません。どちからというと、企業内労組を基本としており、中小企業にも企業別労組を組織する方向や、非正規労働者を企業別労組に加盟させる方向を指向しているように思います。この点は、連合も全労連も同じと感じます。

 アメリカのAFL-CIO20世紀末頃、若いオルグを抱えるために大幅な財政援助(要するにオルグの賃金)をして、労働運動を活性化させたと言います。日本の企業別労組にも是非、期待したいものです。

 

 

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2021年3月 6日 (土)

読書日記 添田孝史著「東電原発事故10年で明らかになったこと」(平凡新書)

<事故はなぜ防げなかったのか>

「地震や津波はいつおこるか予測できないのだから、仕方がないよね」という素朴な感覚がある。でも、この本を読むと、実際の経過は全く異なっていたことがわかります。

実は東電も保安院も津波地震を予測し、2002年から具体的に検討していたが対策をとらなかったのです。

 

この本で複数の事故調の報告書、検察調書、裁判証言録に基づき、事実関係が明らかにされています。以下、時系列にまとめてみました。要約記述にミスがあれば私の責任です。是非、直接同書をお読みください。

10年後に明らかになった事実はもっと広く知られて良いと思う。ちなみに、福島第1原発の原子炉建屋は海抜10mの位置にある。

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2002年8月1日 朝刊各紙で「三陸・房総沖で津波地震発生律20%」と報道された。これは政府の地震調査研究推進本部の発表に基づくもの。

同日、経産省原子力保安院の安全審査官が東電の担当者に連絡して、この津波地震の説明を求める。

同年8月5日東電の担当者(高尾誠)が保安院に赴いて説明。保安院の耐震課長が、福島沖も津波地震を計算するように依頼したが、東電の担当者が抵抗して撤回させる。

2004年12月26日、インドネシア・スマトラ沖地震の大津波でインドのマドラス原発に10mを超える津波が襲来して、原発が緊急停止。

2005年8月 インドのマドラスにて、IAEAが津波による原発事故の危険性に関する国際ワークショップを開催。日本からもJNES(原子力安全基盤機構)と電力会社からの10名が出席。その後、保安院が内部溢水外部溢水勉強会を立ち上げた(保安院の担当は小野祐二班長)

2006年5月11日、第3回溢水勉強会で、福島第1で10mを超える津波が来れば浸水し、炉心溶融になるとの報告。

同年6月9日、溢水勉強会が福島第1現地調査。原発設置当初、土木学会の想定津波が3.5m(2002年に東電は想定津波を5.7mと引き上げられていた。)

2006年9月19日 原子力安全委員会が40年ぶりに耐震指針を改訂。この新基準での古い原発をチェックすることをバックチェックという。津波の安全指針としては「極めてまれであるが発生する津波」にも安全であることとされた。ここで「極めてまれ」とは、1万年から10万年に1回程度の津波であると考えられていた。

この新耐震指針では「後期更新世以降の活動が否定できない断層」つまり約12万年~13万年前以降活動した断層を「将来活動する可能性がある断層」とした。津波を1万年~10万円程度のスパンで考えるのは、この活断層の考え方から当然の帰結となる。

2006年10月6日 保安院の小野班長が東電に「電動機が水で死んだら終わり」、「長くて3年」で対応するようにと話す。保安院の川原室長は「津波は自然現象だから、余裕を確保するように」「経営層に伝えてほしい」と指示。これが東電の武黒本部長に伝えられた。

2007年4月 JNESが福島第1原発に浸水あったら炉心損傷の確率は100分の1より高いとする報告書(施設名を伏せられた)。4月4日、保安院小野班長「想定以上の津波が絶対来ないといえるのか」と東電に強く迫る。ところが、小野班長は6月で経産省の他部署に異動。

2007年11月21日付け東電設計による文書で「地震本部の津波地震による津波の最高水位は7.7m」と報告。

2008年2月16日 東電清水社長出席の午前会議で津波の高さが7.7mになる可能性あると説明される。

同年3月18日 東電設計の津波計算で津波が15.7mとなる計算結果が出る。

同年7月31日、東電の武藤副本部長、吉田昌郎原子力設備管理部長(事故当時の福島第1原発所長)、地震対策センター山下所長らが、想定津波は5.7mとすると決定。このことを有力な学者に根回しせよと指示。その理由を、15.7mだと2009年6月まで対策工事は完了せず、原発停止することになりかねず、東電の収支が悪化すると説明された。

同年8月5日、東電の想定津波対策を知らされた日本原電の担当者は「こんな先延ばしで良いのか、東電は何でこんな判断をするのか」と述べた。日本電源は独自に秘密裏に10m超えの津波対策を行う(工事完了が2011年2月)。

同年11月13日 東電は、「貞観地震」を考慮しないことを決定。他方、東北電力は、貞観地震の研究を取り入れてバックチェック最終報告書を既に完成させていた。東電は東北電力に連絡をして、貞観地震のことは参考資料として格下げさせた。

2009年6月24日 バックチェック中間報告審査専門家会合で、産業技術総合研究所地震研究センターの岡村行信センター長が、東北電力の貞観地震を参考資料としているが不十分だと厳しく指摘。(実際には、東北電力は貞観地震津波を想定して女川原発の津波対策は実施していた)

同年9月7日 東電は、保安院に「貞観地震の津波は約9mになる」と報告。2~3割の余裕の上乗せをすると10mを超える対策をとることになる。

2011年3月3日 政府の地震本部が貞観地震を盛り込む報告書を作成したがが、東電は貞観地震は未だ不確実とする記述に修正させる。

同年3月7日、保安院に東電が地震本部の長期評価によれば福島第1では15.7mの津波が予想されると説明。

同年3月11日 東北大地震発生

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丸山真男は、<個人としての信念や良心を持ち、主体的に判断して行動できる近代的市民のエートスは日本では生まれていない>と論じました。残念ながら21世紀になっても当たっているようです。

東電原発事故10年立っても変わらない。また、2011年8月7日に書いた次のブログに書いたことが証明されたように思います。ただし、廃炉には20年から30年かかると書いたのは間違いで、廃炉が可能であったとしても100年はかかると訂正しなければなりません。

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2011/08/post-3c5b.html

 

 

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