2024年8月 2日 (金)

日本IBM等と賃金査定のAI利用について都労委で和解成立

2018年に日本IBMは、給与調整(賃金査定)に関して同社のAI(WATSON)をツールとして利用すると公表した。労組はどのようにAIを利用するのかを明らかにするように団体交渉を申し入れたが、会社は、あくまでツールにすぎず、最終的に所属長が決定するので社内の内部資料なので開開示しないと説明を拒んだ。そこで、労組は2020年4月に不誠実団体交渉として東京都労働委員会に不当労働行為救済命令申立をしたもの。

8月1日に都労委で和解が成立しました。

 

厚労記者会での記者会見関連記事(朝日) ↓

https://www.asahi.com/articles/ASS8216D8S82ULFA01BM.html

 

当該組合の声明は次のとおり。

------------------

声 明 (AI不当労働行為事件の和解成立にあたって)

                      2024年8月1日

         JMITU(日本金属製造情報通信労働組合)

         JMITU 東京地方本部

         JMITU 日本アイビーエム支部

         JMITU 日本アイビーエム支部 弁護団

1 東京都労働委員会において、2024年8月1日、私たち労働組合(以下、労組)と日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)との間で、給与調整(賃金査定)におけるAI(人工知能)の利用について次の合意を含む内容の和解が成立した(別紙)。

⑴ 日本IBMは、労組に対し、賃金査定でAIに考慮させる項目全部の標題を開示する。

⑵ 日本IBMは、労組に対し、⑴の項目と賃金規程上の評価項目との関連性を説明する。

⑶ 日本IBMは、労組が組合員の賃金査定について昇給ゼロ、減額、低評価などの具体的な理由とともに疑義を指摘した場合、当該疑義を解消するために、必要なAIの提案内容を開示する。

⑷ AIについての賃金評価方法に関して、今後疑義が生じた場合には、日本IBMは労組と誠意をもって協議するものとする。

2 この事件は、2019年8月、日本IBMがグループ社員に向けて、賃金査定に自社開発のAI(ワトソン)を導入したと発表したことを受け、労組が、AIに考慮させる項目やAIの上司に対する提案内容の開示などを求めて団体交渉を要求したことに端を発する。日本IBMが開示を拒否したので、労組は、同社の対応が労働組合法7条の禁じる不当労働行為(不誠実交渉、支配介入)に当たるとして、2020年4月、東京都労働委員会に救済を申し立てた。なお、申立て後、日本IBMの一部事業がキンドリルジャパン株式会社(以下、キンドリル)に会社分割されて、労組員の一部はキンドリルに承継されているが、キンドリルは現在はAIを賃金査定には使用していない状況にある。

3 社会の様々な領域でAIの利用が進む一方、社会に残る差別(人種、性別、国籍etc.)をAIが学習して再現したり、判断過程がブラックボックス化して理解不能に陥るなどの弊害が指摘されている。企業が人事管理にAIを利用する場合、公正性と透明性の確保が課題となるが、法規制は進んでおらず、個々の労働者の努力には限界がある。

 今回の和解は、賃金査定にあたってAIの評価項目や提案内容を明らかにするという透明性を確保する労使の合意をしたものである。これは労働組合が主体的にAIの利用を監視し、企業に応答責任を課すことで、AIを利用するにあたって労働者の権利と労働条件を守るという労使合意のモデルを提供するものである。職場におけるAIの利用方法は千差万別で今後の動向も流動的であるため、法規制のみには限界があり、この労使合意モデルが今後の出発点になるべきである。今後は、AIの評価によって減額等の疑義が生じた場合のAIの評価(評価根拠・基準、アルゴリズム等)の妥当性・公正性の確保が課題となる。IBMはAIを自ら開発して市場に提供するAIベンダーであるから、今回の和解内容が履行される過程で生じる課題に対する私たちの取組の成果は、同社のAIや同種のAIを利用する他の職場にも波及すると予想される。私たちは日本IBMの従業員が加盟する労働組合としての重い責任を自覚し、労働者・労働組合の先頭に立つ気概を持って、今後とも労働者の権利を守り労働条件の改善に取り組む所存である。                                     以上

別紙

 

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2023年4月28日 (金)

フリーランス新法と労働組合



4月28日に参院議員本会議でフリーランス新法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が成立。実効性等にまだまだ課題が多いが、「ないよりまし」で全会一致で成立。第二東京弁護士会の厚労省委託事業の相談も担当しているが、数多くの相談が寄せられている。中出も、運輸業が相談件数がトップだ。

昨日「軽貨物ドライバー」の労働組合の活動家と、新法の成立後の労働組合としての取り組みについて話しあった。軽貨物のドライバーからの相談が増えており、労働組合として新法が活用可能か、労働運動の方向性についてについて意見交換した。

私は、下請会社と業務委託契約書を締結している軽貨物ドライバーのほとんどは、「労働組合法上の労働者」と認められるので、まずは下請会社との間で労働組合の団交権を確立することが必要。軽貨物ドライバーを組織する労働組合として委託者である会社に団体交渉を申し入れて団交での解決を求めるべきだ。


会社は雇用関係にはないとして団交拒否をすることが多いだろう。しかし、労組法上の労働者性があることはINAXメンテナンス事件最高裁判決、ビクターサービスエンジニアリング事件最高裁判決で決着済みだ。

そこで、労働組合としては、フリーランス新法の紛争解決手続ではなく、労働関係調整法に基づいて労働委員会のあっせん、調停の手続を活用するべきだろう。フリーランス新法では個人受託事業者としての個別的解決をするにすぎない。

東京都労働委員会では、あっせん手続は公益委員だけでなく労働委員会事務局あっせん手続も活用できる。ここでは弁護士を代理人につけずとも労働組合主体で手続をすすめられる。このルートでの解決実績を労働組合が積み重ねていこうと。

労働組合は、フリーランス新法を必要に応じて活用しつつ、中心はドライバーを組織して労使関係として解決を目指すべきだ。しかも、労働関係調整法は、労働組合が主体となって調停やあっせんを労働委員会に申請することができ、ドライバー個人だけで手続をする必要はない。この手続で個別事件として解決しつつ労働組合としての解決実績をつくることができる。

そして、IT技術を活用した業務遂行上の指揮監督関係があるケースがあれば、労基法上(労契法上)の労働者性を認めさせる訴訟提起を含めて取り組みを強化しよう。

さらに下請会社だけではなく、大手元請、ヤマトやAmazonを相手に使用者性を認めさせ、最終的には労働協約締結まで目指す。ヨーロッパの労働運動はそこまで戦っている。

軽貨物ドライバーを含めた「労基法上の労働者性」の確立のための法改正は、このような労働運動の強化と全国的な軽貨物ドライバーの労働組合を強化した先にあるはずだ。
労働組合の意識的、全国的な取り組みを期待したい。

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2023年4月13日 (木)

「労働市場仲介ビジネスの法政策 濱口桂一郎著

ハマチャンこと濱口桂一郎さんから、「労働市場仲介ビジネスの法政策-職業紹介法・職業安定法の一世紀」(JILPT 労働政策レポート14)を送ってもらいました。

労働者側の実務弁護士には余りなじみのないのが職業紹介法などの労働市場法です。こういうと派遣労働者の相談にのっている労働側弁護士に怒られるけど、「労働市場法全体」として法政策をどう考えるかというのはなかなか発想として出てこないのが私です。

職業紹介というと、昔のエリア・カザン監督でマーロン・ブランド主演の映画「波止場」でのマフィアが港湾労働者を職業紹介(手配師)で支配していた悪役、日本だって人買い、手配師でたこ部屋、中間搾取の悪の権化というのが昭和までのイメージでした。

ところが、この規制緩和の時代には、労働市場仲介ビジネとして昇竜の極みで、労働仲介ビジネスとして大変な事業規模を誇るようになったとの認識しかありませんでした。

 

お送りいただいた本は393頁に及ぶ大著。とても読めないですが、最後に今国会で成立予定のフリーランス新法との関連が触れられていました。

同法12条で「募集情報の的確な表示」つまり「虚偽の表示又は誤解を生じさせる表示はしてはならない」が入ったことが指摘されています。特定業務委託事業者(=仲介ビジネス)に募集情報の的確性を義務付けて、厚生労働大臣が指針を示し、違反した場合には適当な措置をとることができる。

これは新しい情報社会立法として注目すべきとのことだそうだ。

実務法律家としては、私法的効力はない業法という性格だろうと考えるので、さて今後どう活用できるか、と考えてしまう。ただし、厚生労働大臣の枠内での紛争あっせん手続においては、解決の基準として生きることにはなるのでしょう。

 

 

 

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2023年4月11日 (火)

読書日記「サピエンス減少-縮減する未来の課題を探る」原俊彦著(岩波新書・2023年)

読書日記「サピエンス減少-縮減する未来の課題を探る」原俊彦著(岩波新書・2023年)

高齢化、少子化、人口縮減、地方消滅。日本の「国難」と言われる。「日本政府のが悪いせいだ」「日本の女性差別が原因だ」「いやフェミニズムやジェンダーフリー思想が犯人だ」「いやいや格差社会と資本主義的搾取が問題だ」等など様々の議論がある。

しかし、日本から世界に目を向け、そして百年、千年の時間単位でこの問題を眺めると、単純な話ではなく、日本だけの問題でもなく、ホモサピエンス全体の宿命なのだ、という。

国連の最新世界人口推計では、2022年が80億人だが、2086年の104億人をピークに減少しはじめる。2100年の日本の人口の国連予測は7400万人(日本の国立社会保障・人口研究所の予測は5971万人)。日本の少子化・人口減少は世界のトップランナーだが、2100年頃にはアフリカを含めて世界全体で少子化・人口減少に見舞われる。

「人口減少」は、人類が生産力を発展させて、平均寿命が延びて、また男女ともに教育水準が高まり、個人の結婚・出産と生き方に選択の自由が拡大してきた結果にある。この傾向は止められず、また止めるべきでない以上、人口減少を前提として、その対策を充実させるしかないというのがこの本の結論である。

今から1万2千年前の世界人口は5百万人~1千万人、紀元元年頃は2億人~4億人、1950年に25億人、1975年に40億人、2022年には80億人と「人口爆発」である。

マルサスは人口の指数関数的増加を指摘して人口爆発を予測していた。しかし、人口減少も指数関数的に減少する。これを「人口爆縮」と言う。

各時代の平均人口増加率を計算すると
 狩猟採取社会 0.04%
 農耕社会   0.29%
 産業革命時代 0.51~0.98%
 1965~79年  2.05%

人口置換水準の合計出生率は2.1である。
置換水準とは人口の増減ゼロ。
2022年の各国の合計出生率と人口増加率は次のとおり。

 国名 合計出生率 人口増加率 
中  国  1.18 -0.011
韓  国  0.87    -0.05
日  本  1.31    -0.53(トップ)
フランス  1.79     0.21
スウェーデン  1.67     0.60
米  国  1.66     0.47

家族と子供への手厚い保護をするフランスも1.79、男女平等とワークライフバランスの先進国のスウェーデンも1.67にすぎず、何らの対策もとらない米国と同水準である。子供への手厚い保護とジェンダー平等の先進国デンマークも少子化が進行している(1.67)。

アジアも欧米も出生率が「2.1」を大きく上回るまで回復しない限り、少子化・人口減少になる。しかし、アジアも欧米とも「2.1」を上回る大幅回復は見込めない。既に妊娠可能な若い女性人口が少なくなり回復不能である。そうである以上、十数年程度の時間差で全体的も今世紀後半には人口減少は不可避。アフリカも、21世紀後葉までは人口増加が続くが、世紀末には人口減少に転換する。

人口減少社会では、高齢化がいっそう進み、経済的な格差が拡大し、社会保障システムや地域システムが動揺し、行政、経済及び社会システムが全面的に崩壊する危険がある。

それを回避するためには、富裕層に課税して配分の平等を図ることが必須となる。しかし、一国でそうすると富裕層は海外に逃亡するので国際的な課税ルールが必要不可欠となる。また、少子高齢化で労働力人口が爆縮するので、少子化にギャップがあることから、人口余裕国から人口移動(移民)を受入れるしかないが、これが差別などの社会的軋轢を起こさないための施策が必要となる。

これらの対策は、一国では完結しないので、国際的な協力が必要不可欠となる。今後は、地球温暖化等の環境問題だけでなく、人口減少社会への対応として、グローバルなルール作りを実現しないと、ホモサピエンスは大きな打撃を受けることになると警告をする。

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2023年3月19日 (日)

読書日記「迫り来る核リスク<核抑止力>を解体する」

「迫り来る核リスク<核抑止力>を解体する」吉田文彦著(岩波新書)

●理想主義と現実主義

「長崎を最後の被爆地に」の希求から始まる本書は凡百の憲法九条派のお花畑「核兵器反対」の理想主義のプロパガンダ本かと思って読み始めた。しかし、著者の原点は理想主義なのだが、現実的なアプローチを模索するもので面白かった。
 以下、私なりの乱暴な要約で紹介したい。

●核兵器廃絶は百年単位の時間が必要

著者は、核兵器廃絶は「百年単位の時間を要する」と正直に書いている。しかも、核抑止力依存派をタカ派、核即時廃絶派をハト派とし、その中間にフクロウ派を提唱する。フクロウ派は、核兵器のリスクを減らす政策を重視し、何よりも核リスクの低減に重きをおくアプローチと「正しい抑止力」が当面は必要であるとする。フクロウ派の代表はジョセフ・ナイ教授である。

●高まる「核リスク」-誤解と誤報による核兵器使用

核抑止力依存派は、「核兵器は「悪魔の兵器」であり、使用すれば人類の滅亡につながる。だからこそ大国間の相互に抑止力が働き、国際秩序を維持することができる。現に旧ソ連と米国とが全面戦争を回避できたのは、核抑止力という「恐怖の均衡」の結果だ」と言う。

著者は、冷戦時代に相手が核ミサイルを発射すれば、到達前に核兵器で応戦するという警報下発射態勢の下で、ソ連と米国は誤警報や誤解によって全面核戦争の瀬戸際となったことが複数回ある。米ソの政府指導者は地獄の底を見たということを明らかにしている。米ソとも、軍のルールを無視して誤報や誤解だと直感で判断して、ぎりぎりで核ミサイルの発射ボタンを押さなかった指揮官らがいた。このあたりは読んでいてぞっとする。

これは米ソ冷戦の過去の話ではなく、ロシアのウクライナ侵略が行われ、プーチンが核兵器使用の恫喝を口にしたことで、核兵器のリスクは高まっているとする。

●中国の核リスクの高まり

また、中国も警報下発射態勢をとっているが、ロシアと米国の間には冷戦時代の緊急連絡システムや軍人同士のプロフェッショナルの信頼感が中国と米国との間では欠如しており、台湾有事や人為的なミスによって核リスクが高まっているとする。

●東アジア有事と核兵器使用は現実にあり得る

著者は、2025年~2030年の近未来に「現にあり得る」東アジア有事と核使用想定の25のケースがあるとする。3つを紹介すると。

① 経済的に弱体化した北朝鮮は、米韓軍から攻撃を受けると判断して、通常兵器では勝てないので核兵器の使用に踏み切る。これに対して米国は北朝鮮の指導部と核基地を破壊するために核兵器を使用する。米軍に蹂躙される前に日本の米軍基地に向けて核ミサイル攻撃をするというシナリオ。

② 北朝鮮の南進あるいは核兵器を使用すると米国と右派政権の韓国が判断して、核兵器を先制使用するケース。

③ 台湾の場合には、中国が香港市民を大弾圧し、その結果、台湾で独立派の政権が誕生して、中国と台湾で軍事衝突が発生する。台湾軍は米国・韓国・日本から援助を受けて軍事的に優勢となる。中国は、通常兵器での戦闘では不利とみて、日韓の米軍基地や米艦船を核攻撃する。米中はお互いに本土への核攻撃を避けて、核報復は北朝鮮や韓国、日本の間で核ミサイルの応酬になるケース。


●核リスク低減の方策

これらのケースで核兵器を使用させないルールが必要となる。即時に核兵器を廃絶できない以上、まずは核兵器先制不使用宣言を核兵器保有国が行うこと。オバマ、バイデンは積極的だったが、反対派が強く宣言ができなかった。中国は核先制不使用宣言をしている。

●今の日本政府の敵基地攻撃能力保有は危険な道

核先制不使用宣言への反対の理由は、核兵器が使用されないと相手が確信すれば、通常兵器での戦争を招き寄せることになるというのが理由である。それを証明したが、ロシアのウクライナ侵略ということになる。日本政府も米国の核先制不使用宣言に強く反対している。

現在、日本が米国の軍事戦略に強くコミットメントをし、北朝鮮や中国の基地を攻撃するミサイルを保有しようとしている。政府によれば、抑止力を高めるためであって実際には中国や北朝鮮から攻撃がない限り日本から敵基地への攻撃はしない。抑止力を高めることで相手の攻撃を止めさせるためだと説明する。

●日本への核攻撃の現実的危険性

しかし、核兵器の警戒下発射態勢のもとでは、誤解や誤報による核兵器使用のリスクは高い。しかも、有事想定ケースでは、日本がコントロールが及ばない地域(朝鮮半島、台湾海峡、中東など)での軍事衝突が日本にも波及し、日本が攻撃されるリスクも高まっている。

朝鮮半島で軍事衝突が起こり、北朝鮮が米韓の軍事基地に核兵器を使用した場合、米国は北朝鮮に核兵器反撃することは必至である(核を使用しないと米国の抑止力論は崩壊してしまう)。そうなると北朝鮮は、米軍の発射基地だとして日本の米軍基地を標的にして核ミサイルを発射することは必至である。

●冷徹な軍事論理-東アジア有事での日本への核攻撃

つまり、国民を守るために、日本の反撃能力を高めるとか、米軍の核抑止力に依存するとか、核共有などの威勢の良い主張は、かえって日本を核攻撃の標的にすることになる。それが冷徹な軍事的な事実である。

いったん核兵器が使用されれば日本は複数の核兵器での攻撃を受けることになり、戦争が始まればこれを回避することはできないことを覚悟すべきだ。

●フクロウ派として核リスクの低減を

「核のない世界」は遙か遠い道のりだが、当面は、フクロウ派として核兵器リスクを低減する方策を努力する。その場合には抑止力論に対しても「正しい抑止力」として対応すれば核抑止依存派にも一定の支持を得られる。その結果、核兵器先制不使用宣言をルールとする道が開ける。「二千発の核弾頭は多すぎる」として核軍縮の道に踏み出す。また、核兵器が「悪魔の兵器である」という「悪の烙印」を押し続ける努力を続ける。

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2023年2月26日 (日)

「フリーランス保護法」案の国会上程

以前から注目してきたフリーランス保護法案が2月24日に国会に上程されました。

https://www.cas.go.jp/jp/houan/211.html

「フリーランス」を「特定受託事業者」と名付けて、次のように定義しています。

特定受託事業者とは、業務委託の相手方である事業者であって、
①個人であって従業員を使用しないもの
②法人であって一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの

 特定受託事業者で、事業者と定義することの問題点について去年10月のパブコメのときに指摘しました。懸念は、この法律で「特定受託事業者」であるとされた個人は、あるいは特定受託事業者であるとして公正取引委員会や厚生労働大臣に申し出た個人が、「労働者ではない」とされてしまうのではないかという点です。

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2022/10/post-57c1d9.html

実務的には、それぞれ別概念であって別の行政機関が法適用の可否を別個に取り扱い、法適用を判断するので問題ないということになるのかもしれません。しかし、労基法上の労働者としてハードルがあると、易きに流れて、「ではフリーランスで」ということにならないのかが心配です。

とはいえ、この新法は是非必要だと痛感します。

フリーランス・トラブル110番(厚労省委託事業)の相談を担当すると、「これは労基法上の労働者だ」と思う相談も多くありますが、労働法を私が有利に解釈しても、労基法上の労働者とは言えないケースも珍しくありません。労基署が労働者ではないので賃金未払い労基法違反で指導できないといったん言われ110番を紹介されて相談する人も多い。じゃあ民事で裁判所に少額訴訟や本人訴訟を、といってもフリーランスの個人で訴訟を出すのも難しい。それでフリーランスのトラブル110番に相談して、和解あっせん手続の利用が急増している。

さて、この法案では、公正取引委員会だけでなく、厚生労働大臣(実際は都道府県労働局)も勧告、命令などができる。命令に違反した場合には罰則もあるものです。厚生労働大臣の管轄になるというのは画期的だと思います。

規制内容は大別すると「取引の適正化」と「就業環境の整備」です。

「取引の適正化」

(1) 給付の内容等の明示(3条)
  給付の内容、報酬額等を書面又は電磁的方法により明示しなければならない。

(2) 報酬の支払期日設定(4条)
 特定業務委託事業者は給付を受託した日から60日以内に報酬を支払わなければならない。再委託の場合には、発注元から支払いをう ける期日から30日以内)

(3)  遵守事項(5条)
① 特定受託事業者に責めに帰すべき事由がないのに給付の受領拒絶
② 特定受託事業者に責めに帰すべき事由がないのに報酬額を減ずる
③ 特定受託事業者に責めに帰すべき事由がないのに返品すること
④ 通常相場に比べ著しく低い報酬の額を定めること
⑤ 正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制させること
⑥ 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
⑦ 特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること

「就業環境の整備」

(1) 募集情報の虚偽表示等の禁止(12条)
(2) 育児介護の配慮義務(13条)
(3) ハラスメント行為に係る相談体制等の措置義務(14条)①セクハラ、②マタハラ、③パワハラ等
(4) 継続的業務委託を解除する場合30日前予告及び理由の開示義務(16条)
  ※契約期間満了後の更新しない場合も含む

 今まで「真のフリーランス」(労働者とはいえない場合)の保護法がなかったのですから、十分でないとはいえ上記の遵守事項等が定められることは大きな前進です。特に、報酬の60日以内支払いや解除(更新拒否含む)の予告や理由の開示は紛争解決の手がかりになります。しかも、厚生労働大臣の管轄になっているのは大きな前進だとおもいます。全国の労働局が対応することになるからです。「事業者」だけど、特定受託事業者の対応を労働局ができるという道が開けたことになります。

 とはいえ、厚生労働大臣が扱うものは「就業環境の整備」であって、募集情報の虚偽表示等、ハラスメント、解除の予告については勧告ができる(育児介護の配慮義務13条は除外)。ただし、勧告違反者に対する命令についてはハラスメント(14条)が除かれているようだ(19条)。

 これは育児介護休業やハラスメントは労基法上の労働者が前提となっているから、厚労大臣は手を出さないということでしょうかねえ。でも12条や16条は勧告するということであれば、これを除外する必要はないように思います。「遵守事項」についても、厚生労働大臣(労働局)も取り扱うようにしても良いと思います。

 

  これから国会での審議が行われるわけですが、労基法上の労働者性に範囲を狭めることがないように運用するなどの答弁での歯止めを獲得するなり、実効性を高める方策を強化するなど、より良い法律になるように国会議員、労働組合や関係団体が頑張らなければならないと思います。

 

 

 

 

 

 

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2022年11月26日 (土)

都労委 Uber EATSの配達員の労組法上の労働者性を肯定

Uber EATSの配達員が結成した労働組合について、東京都労働委員会が労働組合法上の労働者であるということを認めた命令が出ました。

 

https://news.yahoo.co.jp/articles/2dbc1f3dbde0b758bceccc913b99d5e6060f2d61

 

日本の労働法では、労働基準法上の労働者と、労働組合法上の労働者と二つの判断基準があるのが特徴です。

 

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労働委員会は労働組合法上の労働者を認めた。これは、これまでの最高裁判例の判断基準でいけば、Uber EATS の配達員が労組法上の労働者であるのは当たり前のはずです。

 

しかし、Uber EATS(会社)が自分はシェア事業者だとして次のような主張をしていました。

 

 

「シェアリングエコノミーにおいて、実際にサービスを提供する主体は、シェア事業者ではなく、個人又は当該サービス提供を本業としていない法人である。」「ウーバーイーツは、マッチングプラットフォームを提供する典型的なシェア事業者である」

 

「シェア事業者の役割は、個人間の取引の「場」を提供することであり、サービス提供の主体ではないし、ましてや配送事業を行っているわけではない。」

 

要するに、配達という労務を受領しているのはレストランなどのお店や利用者である個人であって、ウーバーイーツは、その間をとりもつマッチングプロットフォームという場をIT技術で提供しているだけだと主張しているわけです。

 

これに対して、東京都労働委員会は、次のように判断をしました。

 

「形式上、シェア事業者をうたっていても、実態として運送業の役務の提供主体であり、その事業のために配達パートナーの労務を利用していると評価されるのであれば、労組法の適用対象となり得る。」

 

「ウーバーイーツ事業におけるプラットフォームにおいては、労働力が取引されているのであるから、純然たる労働市場というべきであり、労働力の交換条件を決定しているウーバー等のプラットフォーマーには集団的労使関係上の責任が当然に認められる。」

 

そして、次の要素を検討して肯定し、労組法上の労働者性を認めました。これは世界的に見ても、EUやUSAの一部の州でも肯定されている判断です。

 

「事業組織への組入れ」

「契約内容の一方的・定型的決定」

「報酬の労務対価性」

「業務の依頼に応ずべき関係」

「広い意味での指揮監督下の労務提供」

「顕著な事業者性」の欠如

以上の要素を肯定するのに、アカウントの停止や配送料の取消、GPS等での監視の事情を重視しています。

 

この判断基準でいけば、Amazonや楽天などのプラットフォーマーの宅配便についても、軽貨物のドライバーの労働組合との関係でも同様のこ とが言えます。

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宅配便の場合には、Amazonや楽天と配達ドライバーの間に、下請の運送業者が介在していることが多いのですが、その下請運送業者も取引条件はAmazonや楽天などのプラットフォーマー事業者に一方的・定型的に決定されています。

 

ですので、プラットフォーマー事業者が一方的・定型的に決定され、事業組織に組入れられており、プラットフォーマー事業者からGPS等での監視や取引停止の不利益を被る関係にあるから、Uber EATSの配達員と同様です。

 

 

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2022年10月 1日 (土)

フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性の問題点と課題(その3) フリーランスの定義の提案

「フリーランス」の定義の提案

 「方向性」では、フリーランスを「業務委託の相手方である事業者で、他人を使用していない者」としている。しかし、この定義に「事業者」という文言を用いることは適切であないと思う。


 先ずは、経済法(独禁法)や租税法、消費者契約法では「事業者」がどう定義されているか確認してみる。
 独禁法では、「事業者とは、商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいう」(独禁法2条1項)と定める。下請法の事業者も同様である。事業者であれば、独禁法や下請法で禁止された私的独占や不当な取引行為は禁止されて保護される。そして、独禁法上は、労働者は事業者ではなく、逆に事業者は労働者ではない。労働関係に独禁法は適用されない。これは、かつて米国において、ニューディール以前にはシャーマン法(反トラスト法)により労働組合が抑圧されてきたことが背景にある。


 租税関係法令では、「事業者とは自己の計算において独立して事業を行う者」(消費税法基本通達)とし、「事業とは対価を得て行われる資産の譲渡等を反覆継続して行うこと」とする。


 消費者契約法は、労働契約には適用されない(同法48条)と定めている。理由は「労働契約に基づく労働は、自己の危険と計算によらず他人の指揮命令に服するものであり、自己の危険と計算とにおいて独立して行われる事業という概念には当たらない」とされている(消費者庁・逐条解説)。


 以上のとおり、独禁法等では、「事業者」と「労働者」は、それぞれは「独立した事業者」と「従属した労働者」は、お互い排他的な概念として整理されている。

 

 この「枠組み」をフリーランスに当てはめれば、フリーランスが「事業者」と定義されると、労働者ではないことが前提となり、労働法が適用されないということになってしまう。しかし、実際には、フリーランスと呼ばれる「業務委託の相手方」であっても、労働者性が肯定される者も相当数存在しているのが実態である。


 ところが、フリーランスの定義に「事業者」であることを前提とすると、フリーランス新法が適用されると、労働者性が否定されるという誤解が生じることになってしまう。したがって、フリーランスを「事業者」(「事業者」は労働者ではない)と定義づけることは適切ではない。


 実態から見れば、フリーランスとは事業者から業務委託等により「役務提供」する個人を意味する。つまり、個人の役務提供者にほかならない。この個人の役務提供者は、独立した事業者である場合もあれば、労基法上の労働者性や労組法上の労働者に該当する場合もある。


 そうであれば、フリーランスの定義は、「業務委託の相手方である個人の役務提供者で、他人を使用していない者」とすべきであろう。

 

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2022年9月24日 (土)

フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性の問題点と課題(その2)

フリーランスの法制度の方向性について、フリーランスに仕事を出す事業者の遵守事項として検討されているのは、次のとおりです。

 

(ア)業務委託の開始・終了に関する義務
 ①業務委託の際の書面の交付等
   業務委託の内容、報酬額 等
   業務委託に係る契約期間、契約の終了事由、契約の中途解除の際の費用等
 ②契約の中途解約・不更新の際の事前予告
   30日前の予告、契約終了理由の開示
(イ)業務委託の募集に関する義務
 ①募集の際の的確表示
 ②募集に応じた者への条件明示、募集内容と契約内容が異なる場合の説明義務
(ウ)報酬の支払い義務 60日以内
(エ)事業者の禁止行為
 ①フリーランスの責めに帰すべき理由なく受領を拒否すること
 ②フリーランスの責めに帰すべき理由なく報酬を減額すること
 ③フリーランスの責めに帰すべき理由なく返品を行うこと
 ④通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
 ⑤正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること
 ⑥自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を供与させること
 ⑦フリーランスの責めに帰すべき理由なく給付内容を変更させ、又はやり直させること
(オ)就業環境の整備として事業者が取り組むべき事項
 ①ハラスメント対策
  事業者は、その使用する者等によるハラスメント行為について
   必要な体制の整備その他の必要な措置を講じる。
 ②出産・育児・介護との両立への配慮
   就業条件に関する交渉・就業条件の内容等について必要な配慮をする
 

「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(令和3年3月26日 内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚労省)の中で独禁法や下請法で問題となる行為とされたものが、ほぼ事業者の禁止行為とされています。

 これに、業務委託の際の書面交付等の義務付け、募集の際の義務、ハラスメント対策と出産・育児・介護との両立の配慮を加えており、方向性としては評価できると想います。

 しかし、遵守事項の内容、その具体化には課題があります。

①書面の交付等の義務付けの内容ですが、報酬額のみならず報酬額の算定基準等の明示、そして、中途解約する場合の事業者側の事由(中途解約事由)を記載させることも必要です。

②また、フリーランス側からの中途解約事由も記載することも必要です(募集の際の条件等を契約内容が異なるときや出産・育児・介護等の場合の解除など)。

③ハラスメント対策では、事業者が使用する者等の中に、顧客や関係者が含まれることを明記すべきです。

④ハラスメントの体制整備や措置義務の内容は、相談体制の整備等が想定されていると思いますが、より実効性の高い措置義務を検討すべきです。

⑤出産・育児・介護の配慮義務ですが、一つはこのような事情が生じた場合にはフリーランスの側に解除権を付与して、それを制限することを禁止すべきです。さらに、出産・育児の援助については、非労働者を含めたこども保険制度の創設などの抜本的改革をしないと絵に描いた餅になります。

 

 

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2022年9月18日 (日)

フリーランスのための法制度の方向性の実務的課題

 政府(内閣官房新しい資本主義実現本部)は、「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」(方向性)を発表し、これへの意見募集をしています(2022年9月27日まで)。
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=060830508&Mode=0

 

岸田内閣は、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」(令和4年6月)において、フリーランス形態で働く人が462万人となり、トラブルが発生しており、下請代金支払遅延等防止法といった現行の取引法制では対象とならない方が多く、取引適正化のための法制度について検討し、「早期に国会に提出する」旨を閣議決定しています。来年通常国会にも提出なのではないでしょうか。

 

 政府は、この「方向性」で「個人がフリーランスとして安定的に働くことができる環境を整備する」ため、「他人を使用する事業者(以下「事業者」という)が、フリーランス(業務委託の相手方である事業者で、他人を使用していない者)に業務を委託する際の遵守事項等を定める」と表明しています。

 

 私も弁護士として、フリーランスで働く方から多くの相談に接しています。労働者性が明らかな方については労働法を適用することをアドバイス(労基署等への相談)をします。しかし、労基法上の労働者性については労働行政や司法のハードルが実際上は高いため、グレーゾーンの方にはハードルが高すぎて実効性のある方法をアドバイスするのに苦慮します。

 

※ それでも、労組法上の労働者性は認められるケースが多く、労働組合の団体交渉申し入れという方法もあります。が、どこの労働組合が受け入れてくれるのか不明であり、解決への即効性があるかという「壁」もあります。

 

※ 厚労省が第二東京弁護士会に委託する「フリーランス110番の相談と和解あっせん手続」は、現状では数少ない有効な手段の一つです。 https://freelance110.jp/

 

 今回の方向性の内容については、入口と出口に、二つの大きな課題があります。なお、今回のブログでは規制内容の遵守事項についてはふれません。また、「そもそも現行法の労働者性の範囲を拡大して、労働者として保護すべきである」との理想論もここでは触れません。

 

一つは、「フリーランスと労働者性」との関係です。

 

 「方向性」の「フリーランス」の定義ですが、「業務委託の相手方である事業者で、他人を使用していない者」に業務を委託する際の遵守事項等を定めるとしています。

 

 ここでフリーランス定義で「事業者」であると記載があります。しかし、フリーランスの相談では、①明らかに労働者性が肯定できる方(しかし事業者が個人事業者と強弁する)、②グレーゾーンの方、③事業者性が高い方が混在しています。

 

 相談入口で、①の労働者性が明白な場合には、労働基準監督署等に労基法違反で申告するように助言すれば良いのですが、②のグレーゾーンの場合に、労働者性の有無を振り分けることに時間をかけることは救済や改善の役にはたちません。

 

 ですので、間口は広くして、労働者性のグレーゾーンも含めて、フリーランスとして救済対象を広く受け入れることが求められます。

 

 しかし、その結果、労働者性を肯定する範囲を狭めることがあってはなりません。そこで、この法制度におけるフリーランスの範囲は、労働者性の範囲を狭めるよう解釈してはならない旨を明記すべきです。例えば、解釈規定として「本法のフリーランスの定義は、労働基準法、労働組合法上の労働者性の範囲を限定する趣旨ではない」旨を定めるとかです。

 

二つは、法制度の実効性の確保です。

 

 方向性では、❶「遵守事項に違反した場合、行政上の措置として助言、指導、勧告、公表、命令を行うなど、必要な範囲で履行確保措置を設ける。」、❷「遵守事項違反した事業者を、フリーランスは国の行政機関に申告することができる」、❸「国は、この法律に違反する行為に関する相談への対応などフリーランスに係る取引環境の整備のために必要な措置を講じる」としています。

 

 独禁法や下請法の規制については公正取引委員会の担当です。しかし、公取委は東京に一つあるだけ(そのほか支所、支部が8つしかない)。組織としてもマンパワーとしても、殺到するであろうフリーランスの相談に対応できる体制も知識はないと言って良いでしょう。

 

 しかも、フリーランスの相談には労働者性が認められる方も多く含まれることからすれば、対応する行政機関としては、各地の労働基準監督署と労働局が対応する道しかないでしょう。

 

 相談体制としては、東京で全国対象に行われているフリーランス110番を全国体制として構築し、和解あっせん手続をよりいっそう各地に拡充する方法があります。現在、二弁では弁護士が仲裁人となり和解あっせん手続を行っています。これを、個別労働紛争解決促進あっせん手続のように、全国の労働局に設けることが考えられると思います。

 

 このテーマは、今後も注視していきたいと思います。

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2022年9月10日 (土)

ゴルバチョフの死に想う(2)

Eh

ゴルバチョフが亡くなったとのニュースに接したとき、ちょうどE.H.カーの「歴史とは何か」(1961年の講演)の新版を読み終えたところだった。この本も、岩波新書で学生時代に読んだが、新版をあらためて読んで興味深かった。

 

カーは共産主義を批判していたが、同時にロシア革命を、より大きな歴史的文脈に据えて、革命は不可避(「歴史的必然」、「見えざる手」、「歴史の狡知」などどう表現しようと良い)であったとして、ロシアと世界に与えた衝撃を、その成果とともに最後まで評価していた。

 

そのカー(1982年没)が生きてソ連崩壊を見ていたら、どう論評しただろうか。

 

カーは、歴史について「人物史観」(「歴史は偉人たちの伝記である」)を子供だましと批判する。曰く「第2次世界大戦をヒトラーの個人的な邪悪さの結果とのみ語るのは歴史ではない」(ウクライナ侵攻はプーチンの邪悪さの結果と今も言っている。)。

 

カーじゃ、歴史とは歴史的事実の因果関係を解明することであり、因果関係は「政治」の視点からではなく、「社会的・経済的な事象」から原因を抽出して、諸々の原因を相互に順序づけることであり、この因果の解明こそが「歴史解釈」である。そして、因果の解明(歴史解釈)の視点は、当該歴史家の未来への展望から過去を問い直すことと切り離せないとする。そして、「その視点は人類の進歩の信念からはじめて得られる」とい言い切っています。

 

カーは、モンテスキューの次の言葉を引用する。

 

「一つの戦いの偶然的な勝敗で一国を滅ぼしたという場合、一つの戦いの結果が国家の崩壊を招き寄せるほどの全般的な原因がその前にあったのである」と。

 

なるほど。(日本の敗戦をミッドウェー海戦の偶然的な敗北に帰する日本人に聞かせたいね)

 

他方、本書では「偶然」が歴史に与える影響について論じている。指導者の個人的な性格・性質も偶然であると言う。悩ましい論点だとする。

 

例えば、レーニンが天才でニコライ二世が愚か者だったからロシア革命がおこったわけではないし、スターリンの恐怖政治はスターリンが邪悪だったからだけではない。

 

それぞれには、それぞれの社会的・経済的な原因がある。レーニンが53歳で死亡せず生き残ったとしても、レーニンは急速な工業化を強権的に進めるというソ連の歴史コースは変わらなかった。それは当時の経済的・社会的要請であったという。彼の大著「ボリシェヴィキ革命」に詳細に書かれている。しかし、スターリンのような残虐の方法よりも緩和されたであろうとカーは言っている。

 


カーが生きてソ連崩壊とゴルバチョフを見ていたら、きっと次のようにコメントするのではないか。

 

ソ連末期にゴルバチョフがいなくとも、ソ連の共産党独裁の社会主義体制は、1980年代には現実に不適合を起こしており、経済的・社会的要因で崩壊することが不可避であった。しかし、ゴルバチョフが指導者でなければ、多大な流血、場合によればソ連軍の東欧侵攻によってヨーロッパで大きな戦争がおこったであろう。そうなってもソ連の崩壊は不可避だが、短期的に見れば戦争と流血の惨事を防ぐには、指導者のゴルバチョフという個人の資質(偶然)が大きく決定的な影響を与えた、と。

 

そして、社会的、経済的要因としては、重化学工業化や産業化には、共産党の中央集権的な計画経済は有効だったが、経済の情報化や多様な消費生産が求められる段階になると、中央集権的な計画経済は桎梏になり自壊せざるをえなかった。それをゴルバチョフ改革派は修正しようとしたが、もはやその力は残されていなかった。その後の中国の改革開放路線の資本主義化と比較し分析する だろう。

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ゴルバチョフの死に想う(その1)

Photo_20220910025501 先日、ゴルバチョフが亡くなったニュースに接して思い出した。1987年に出版された「ペレストロイカ」という彼の著書を当時読んだ。この本を読んで、当時、私はソ連の社会主義がリベラルで人間らしい社会主義になるのではないか、と個人的には期待した(←バカ)。

 

ゴルバチョフは「我々はソビエト国民の権利と自由の保障を強化することに特別な感心を持つ。ソ連最高幹部会議は、批判に対する抑圧行為を不法なものとして処罰する法令を発布する」「長期的で大局的な見地から国際政治を見るなら、どんな国もよその国を服従させることはできない」「新しい政治理念の大原則は単純である-核戦争は政治、経済、イデオロギー、その他いかなる目標を達成する手段としても用いてはならない」「大量殺戮兵器が出現し、国際社会における階級間の対立が深まれば地球破壊への引き金にもなりかねない。」と書いていた。

 

 

当時、日本の共産党は、ゴルバチョフの新思考外交を「レーニン以降最大の誤り」と言って、スターリン以上の誤りだとしてゴルバチョフを非難をしていた。

 

しかし、ソ連の指導者である彼が、米ソの軍事的対立を解消し、自国の軍事費を抑えて、国内の自由化と民主化を漸進的に進め、外国から資本と技術を導入して、効率的な市場化をすすめるというのは、当たり前の合理的な政策だと思った。当時、中国の鄧小平の改革開放路線が進行していた。

 

ところが、ソ連共産党の守旧派がクーデターをおこしてゴルバチョフは失脚し、エリツィンらの権力闘争にも敗れた(ちょうど大政奉還した徳川慶喜が薩長のクーデターに負けたのと一緒!)。ソ連の社会主義的再生を阻んだのは共産党守旧派とエリツィン派だった。そして、その後、ナポレオン的軍事独裁のプーチンが出現した。

 

ゴルバチョフは、ソ連の最良のコミュニストとして、ソ連共産党内部の権力闘争を勝ち抜き、一時期にはソ連のトップになって、米ソ冷戦を終結させてソ連国民の権利と自由を拡大しようと、ソ連の改革に着手した。しかし、共産党守旧派に妨害され、ロシア人民にも支持されず消えていった。これで共産主義的な進歩史観にとどめを刺した。

 

 

ソ連の崩壊と、その後の中国の発展を見ると、エマニュエル・トッドの家族史観による宿命論が最も説得的に思える。

 

曰く、ロシアや中国のような「共同体家族社会」(家父長が絶対的権威を持ちっており、息子たちは結婚後も父親と一緒に住んで父に従属する。兄弟間は平等(競争)的な関係にある)では、左右のイデオロギーに関係なく、一党独裁的な体制に親和的であり、欧米的なリベラルな民主主義は根付かないという。(もっとも、トッドは家族関係も歴史的変化があり、さまざまな地域での様々な条件で長期的には変化するとは言う。)

 

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2022年7月30日 (土)

読書日記「台湾-四百年の歴史と展望」伊藤潔著(中公新書)


台湾の歴史と今後のアメリカの対中戦略(妄想)

ウクライナの次は台湾ということで、やはり歴史が大事。はじめて台湾の通史を読む。1642年のオランダ支配下におかれてから、1990年の李登輝国民党総統の民主化までの台湾史の概説。面白かった。

今まで、日本の過酷な台湾植民地支配と台湾人の抵抗と蒋介石国民党政権のもっと過酷な支配ということしか知らなかった。五年前に台湾に台湾労働裁判所調査で訪れた(台北地方裁判所に見学に行って、労働事件の法廷を見せてもらった)。

中国の明帝国は、台湾を化外の地として自国の領土とは考えず、オランダに委ねた。清帝国も、大陸からの移民(移住)を厳しく制限して、ほぼ台湾を放置していた。台湾の先住民族は清朝下で迫害され抵抗し、移住した漢人も本国から様々な規制を受けていた。その後、日本の台湾出兵の後にはじめて清朝は台湾の経営しはじめるが、日清戦争後に1995年に日本に譲渡する。

そのとき、台湾人(主に漢人移住民)は、1995年直後、フランスに頼って、台湾民主国を設立したが、漢人の指導者は逃亡し、アジア初めての民主共和国は日本軍に蹂躙された(移住していた漢人と先住民族とが頑強に日本軍に抵抗した。先住民族と移住漢人が協力した最初だという)。

日本の植民地支配は過酷であったが、50年の間に植民地下の近代化(農業、工業、行政)が進んだ。台湾人の台湾議会設立運動等もあったが、日本はこれを認めなかった。
日本の敗戦後、国民党が支配するが、1947年「2・28事件」が大量の台湾の知識人・指導層を粛正・虐殺(2万8千人)した。この事件で弾圧された人々は、日本が半世紀の間に殺害した台湾人に匹敵すると言われている(国民党は、日本の植民地支配された奴隷台湾人を排除したと正当化)。1949年に蒋介石が台湾に渡るが、米国トルーマン大統領は台湾に干渉せずと発表したが、1950年に朝鮮戦争が勃発して、方針転換して、台湾と防衛条約を締結する。

その後は長い暗黒の国民党戒厳令下で、やっと1998年に民主化し、民進党が野党として認められる。
台湾は、常に外国(中国本土)に支配され、台湾人の抵抗の歴史である。
民族としては、先住民族と19世紀に移住してきた漢民族(本省人)、国民党と一緒に台湾に来た漢民族(外省人)が混合している。しかし、歴史を見れば、民族としては大陸の中国人(漢人)とは4百年の歴史から現在を見ると、もはや中国の漢民族とは別の民族ではないか。ちょうどマンチュリアンと漢民族が異なるように。


民族自決権から見れば、台湾人には独立の権利はあるように思える。「一つの中国」を押しつけることは民族自決権と台湾人の民主主義に反する。

しかし、台湾が独立を宣言すれば、中国は台湾に侵攻する。ちょうど、ウクライナがNATOに加盟を強行してロシアに侵略されたように。

ここからは妄想。アメリカは、ウクライナにNATO加盟を誘導してロシアを挑発してロシアの弱体化と自国に大きな利益を得た。次に、バイデン大統領は、台湾を独立へと向かわせて、中国を挑発する。この綱渡り米中対抗関係を作り出して、自国に有利な状況を作ろうとする危険なゲームを始めている。

米国は、中国がさらに強大化する前にたたいておこうというのが戦略だろう。
中国は、経済的に台湾を包摂して、香港のように親中国派を育てて併合支配しようとするだろう。
今の世界情勢を見たとき、台湾には独立志向をすることは控えるようにお願いして、中国に軍事力行使をしないように求めるしかない。でも、台湾がアメリカに誘導されて独立したいと民主主義の方向で決めた場合には悪夢の戦争が起こる。

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2022年7月27日 (水)

ロシア・-ウクライナ戦争 開戦5ヶ月


ウクライナ妄想

この前、左派的な人と雑談をしていたら(私も左派ですが)、ロシアは違法な侵略戦争をしたが、このウクライナ戦争でアメリカが世界的に孤立している。中国が力をつけてきてアメリカが弱体化していると言っていたので、ビックリ。
ウクライナへのロシアの侵略に至る経過は次のとおり。



2008年1月 ウクライナ世論調査 50%がNATO加盟反対
2009年7月 これを切り崩そうと、バイデン副大統領(当時)ウクライナのNATO加盟支持表明


2010年6月 親露派ヤヌコーヴィッチ大統領NATO未加盟中立法



2013年11月21日 親欧米派のクーデター「マイダン革命」(議会の暴力的占拠・ウクライナ民族主義クーデター。アメリカの介入あり)

2014年2月 ヤヌコーヴィッチ大統領ロシアに亡命
2014年3月 ロシアの介入 クリミアの独立宣言(ロシア編入)
2014年6月 ポロシェンコ大統領就任(親米派)~2019年5月まで
2017年6月 ウクライナ NATO加盟を優先する法律制定
2019年2月 ウクライナ憲法にNATO加盟の義務を定める改正
2019年5月 ゼレンスキー大統領就任

この経過を見れば、アメリカが一貫してウクライナに自由主義的な介入をしてきた。バイデンの息子がウクライナに食い込んだという絵歩ソードがあり、それを追求したウクライナ検察のトップがバイデンの介入で解任されたという事件もあった。アメリカが一貫してウクライナにNATO加盟を推奨してきた。ウクライナの中立派を親ロシアとして排除してNATO、米軍の援助を強めてきた。
プーチンは、このアメリカの挑発に乗せられて「予防戦争」としてウクライナへの不法な侵略戦争を開始した(相変わらずイワンのバカ)。

結果的に、アメリカは、ロシアの欧州へのガスパイプラインをストップさせて、自国の液化天然ガスを欧州に輸出するという将来的な経済的な特典を得た。また、軍事援助を行うことで、アメリカの軍需産業は莫大な利益をあげる。
さらに、政治的にはNATO結束をはかり、スウェーデン、フィンランドのNATO加盟という大きな成果を得た。独の社民党政権に軍事拡大させ、NATOへの積極的関与することができた。対中国への西側諸国の結束も手に入れた。
アメリカは、イラク戦争やアフガン戦争で、ロシアと同じく侵略戦争を行ったが、西側諸国や西側メディアからは非難されない。アメリカは、綺麗事を言いながらロシアと同じような汚い戦争をやっている。

ロシア・ウクライナ戦争が長引く限り、経済的にも軍事的にも得をするのはアメリカであることは間違いない。
国際情勢は、誰が得をしたのかを冷静に見ることでだいたいわかる。
ロシアのウクライナ侵略開戦から、5ヶ月。戦争が始まれば、行き着くところまで行くしかないのが、歴史の教えるところ。ロシアとウクライナの膠着状態が長く続く。アメリカはこの膠着状態を続けるように管理された軍事援助をしている。ロシアを弱体化させ、アメリカが儲かるという状況がこれから1年以上は続くだろう。


アメリカは、ここから5年先、10年先の中国との対決を次に描いているだろう。中国も習近平政権が今秋継続してから、10年後を見据えた米中対立のゲームを進めるんだろう。


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2022年7月 9日 (土)

映画日記「シン・ウルトラマン」-メフィラス星人が提案する安保条約

この映画を公開直後に観て、しばらくして事務所の若手と2度目を観にいった。二度見はシン・ゴジラと同じ。

映画の1度目はストーリーとメイン映像に目を奪われる。でも、2度目はディテールに気がつく。劇場映画はTVと違って「名画」と一緒。何回観てもワンシーンに発見がある(それが名作の所以)。

 

以下、ネタバレあり

 

この映画は、やはり子供に楽しんでもらおうと意識した怪獣映画。私が小学2年生当時(1966年)、ウルトラマンのTV放映をワクワクしながら観た。その世代には、この映画も楽しく懐かしめた。それを知らない人はよくわからないかもしれない。そういう人々には女性隊員が巨大化するのがセクハラにしか感じられないのだろう。

また子供目線だと、「禍特隊」が単なる国家公務員の寄せ集めで格好よくなく実力も感じられないのが残念で、ストーリー展開に説得力が弱い。

大人目線だと、この映画はメフィラス星人(山本耕史)が出てくる後半が断然に面白い。メフィラス星人と日本国が星間条約を締結して、異星の進んだ科学技術を日本が提供を受ければ、日本の安全保障は盤石。

メフィラス星人は、日本に星間条約を提案する際に「私メフィラス星人を上位概念においてくれ」と言う。総理大臣はこれを了解する。メフィラス星人は、その星間条約をタブレットに写して示すが、その画面には「5条」のタイトルが読める。これは2回目観て気がついた。

さて、この5条とは、日米安全保障条約第5条ですね。外務省はウェブで次のように解説しています。

 第5条は、米国の対日防衛義務を定めており、安保条約の中核的な規定である。
 この条文は、日米両国が、「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃」に対し、「共通の危険に対処するよう行動する」としており、我が国の施政の下にある領域内にある米軍に対する攻撃を含め、我が国の施政の下にある領域に対する武力攻撃が発生した場合には、両国が共同して日本防衛に当たる旨規定している。

そして、メフィラス星人の言う「上位概念」は、日本国憲法の上位に安保条約が置かれているという意味になります。これは、今の日米関係へのメタファー(暗喩)であり、皮肉と揶揄だよね。「メタファー」は私の好きな言葉です。

メフィラス星人と日本の星間条約締結を阻止する反逆者が「禍特隊」とシン・ウルトラマンである。そして、シン・ウルトラマンとメフィラス星人がバトルを繰り広げる。

ところが、シン・ウルトラマンの故郷の「光の国」から来たゾーフィ(ゾフィーではない)が二人の紛争に介入する。メフィラス星人は、ゾーフィの介入した事実に気がつくと、即座に撤退する。

ゾーフィは人類に過剰に肩入れするシン・ウルトラマンを光の国のルールに反したとして処罰し、危険な人類を滅ぼすことを決定して実行に移そうとする。

ここでは、メフィラス星人は米国のメタファーで、ゾーフィが中国のメタファーですね。

メフィラス星人(米国)は、ゾーフィ(中国)との決定的な軍事的な全面対決を回避して、地球(日本)を見捨てることくらい簡単に決断する。

さて、そうなるとシン・ウルトラマン自身は、何のメタファーと考えられるだろうか。

「真・善・美の化身」とされるウルトラマンだが、最初のテレビ作品の企画・脚本の中心は金城哲夫。彼は沖縄出身の作家でTVの「ウルトラマン」に社会的問題を反映させていた。今から見ればその意図は明白で、「戦争と沖縄」「正義と差別」に終生こだわっていたと言っても良いだろう。彼は「沖縄海洋博」の演出も担当し、本土と沖縄の間の葛藤をいっそう抱えていた。(by NHKドキュメンタリー)。

シン・ウルトラマンを制作した庵野秀明(1960年生)は、当時の金城哲夫の発信していた雰囲気やメッセージを世代的に理解できるだろう。樋口真嗣(1965年生)は世代としてはギリギリかもしれない。ただ、庵野秀明は宮崎駿や高畑勲監督と仕事をしており、樋口真嗣も平成ガメラの金子修介監督と一緒に仕事をしている。樋口真嗣も金城哲夫の隠されたメッセージは理解できただろう。

この二人は、ウルトラマン、金城哲夫の作品に最大限の敬意をはらっており、その隠されたメッセージを盛り込んでいるにちがいない。

シン・ウルトラマンの「真・善・美の化身」とは、疎外された自己(日本又は沖縄)であり、理想化された自己(日本又は沖縄)なんだろう。


「シン・ゴジラ」は福島第1原発事故がメタファーであったし、「シン・ウルトラマン」は、日本の安全保障がメタファーだったのである。

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映画日記「PLAN75」


高齢化、老人人口増加により、75歳以上になれば国家が制度として自ら死を選択する道を提供するというストーリーは昔からたくさんあった。かならずしも目新しいテーマや作品ではないし、衝撃的でもない。筒井康隆の小説でも、このテーマで面白おかしいコメディがあった。

この「PLAN75」の映画が目新しく面白いのは、日本人がたんたんと受け入れる様がリアルに描かれていることだろう。そして、映画を見ながら、現在の日本の状況と共振して、「日本人はそうなるだろうなあ」と納得させられる。
「人に迷惑をかけるくらいなら、国のプランに応募して死んでしまおう」
係累も子供も孫もいない後期高齢者。年金もなく、あるいは暮らせない僅かな年金で一人暮らしする老人らは、「未来」ではなく、今の「現実」を描く。政府の安上がりの高齢化対策に従順に従う老若男女の日本国民。何も考えずにたんたんと老人らの死の選択をサポートする若者たち。

そして、老人の最後の措置をするのが、外国人労働者たちである。でも映画では、外国人労働者たちのコミュニティを、日本人社会とは異なる連帯感に満ちた明るい姿として、対照的に描いている。映画の最後では、外国人労働者である彼女は思い切った勇気ある行動に出る。

この日本社会の閉塞感と滅びていく様子を描いているところが、この映画の新しいところ。

最後に夕日を眺める主人公の思いと歩みはどう受け止めるのかは、観客ひとり一人で異なるだろうと感じた。

この映画はフランスとの国際共同製作だそうだ(フランスからの予算をもらって製作)。編集はフランスで行われた。編集担当のフランス人は「こんな制度を政府が提案したら、フランスでは大反対運動を展開して暴動が起こる。日本はこんなに静かに受け入れるのか?」と驚かれたそうだ。インタビューで、監督は「たぶん日本では受け入れられる」と答えたそうだ。私もそう思う。

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2022年5月28日 (土)

読書日記「ウクライナ戦争における対ロシア戦略」遠藤誉著(PHP新書)

遠藤誉氏(筑波大学名誉教授)は、1941年に満州国新京(現吉林省長春)生まれの女性(現在81歳)。当時、ソ連軍の侵攻、国共内戦などの悲惨で過酷な戦争を経験した。1953年に日本に帰国するまで中国で教育を受けた。中国社会科学研究院社会学研究所の客員研究員・教授を歴任した。

著者は、ロシアのウクライナ侵攻に、ソ連軍の対日参戦の恐怖がよみがえったとして、ロシアのプーチンの残忍無比な蛮行を厳しく非難する。他方、プーチンをウクライナ侵攻に意図的に誘い込んだのはバイデンの仕業だったと厳しく批判する。プーチンのウクライナ侵攻を引き込んだバイデン大統領の意図的な罠を事実に基づき暴露、告発している。

私は、ウクライナ侵攻によって利益を得るの結果的には米国だと思っていたが、バイデン大統領が「米軍が軍事介入すると核戦争になるので控える」と言ったので、理性による抑制だと思っていた。ところが、実態は違った。バイデンの仕組んだトラップだとまでは思っていなかった。

2008年1月 ウクライナ世論調査 50%がNATO加盟反対
2009年7月 バイデン副大統領(当時)ウクライナのNATO加盟支持表明
2010年6月    親露派ヤヌコーヴィッチ大統領 NATO未加盟中立法制定
2013年11月21日 ヤヌコーヴィッチ政権 EU連合協定の調印破棄
2013年11月21日 親欧米派のクーデター「マイダン革命」(議会占拠)
2014年2月 ヤヌコーヴィッチ大統領ロシアに亡命
2014年3月 クリミア共和国の独立宣言
2014年4月 バイデンの次男がウクライナ大手エネルギー会社の役員就任し不正関与
2014年6月 ポロシェンコ大統領(親米派)~2019年5月)
2015年   ウクライナ検察の捜査着手→バイデン副大統領 検事総長解任の圧力
2015年1月 オバマ大統領 マイダン革命(クーデター)への関与認める
2017年6月 ウクライナ NATO加盟を優先する法律
2019年2月 ウクライナ憲法にNATO加盟の義務を定める改正
2019年5月 ゼレンスキー大統領就任
2020年   米国大統領選挙 バイデンの「ウクライナ・ゲート」をトランプが攻撃。
2021年9月1日 バイデン大統領がゼレンスキー会談 NATO加盟すすめる。(独仏反対)
2021年10月  ウクライナ軍が東部ドネツク州親ロ派地域にドローン攻撃
        ドイツはミンスク合意の停戦協定違反とウクライナ批判
2021年12月7日 バイデンがプーチンに米軍はウクライナに派遣しないと表


バイデンは、ウクライナをNATO加盟に誘い込み、ロシアの軍事侵攻を誘うように意図的に政治工作をし、最後に、ロシアが軍事侵攻しても米軍は派兵しないと明言してロシアを軍事侵攻に誘い込んだ。

バイデンが受ける利益は、「ウクライナ・ゲートのもみ消し」、「NATOの拡大と結束強化」、「ロシアの天然ガスから米国のLNGガスへの転換で莫大な利益獲得」、「兵器供与の利益獲得」、そして、長期的には「中国の同盟国のロシアの弱体化」を得る。

なるほど。流石にアメリカでずる賢くスマートに自国の利益をあげるものだ。

中国については、必ずしもロシア擁護いってんばりではないとし、アメリカにはめられたロシアを困惑して凝視しているとする。台湾への軍事侵攻はない(ただし台湾が独立しようとしない限り)。中国は、2035年までに経済的に台湾を包摂・支配して、半導体企業などを抱き込んで、親中政権をたてることを目指しているという。

これに対抗して、米国は、ウクライナでやったような台湾政府に罠を仕掛けて、日本や韓国を巻き込んだ挑発をするのではないかとの危惧を著者は抱いている。より端的に「米国は対中包囲網を築くと言いながら、情勢が変われば、日本を見捨てることくらい平気でする」と述べている。

今後のウクライナの停戦にとって、ウクライナがNATO加盟を断念することが必要となり、停戦のためには中国が重要の役割を担うことになり、習近平が虎視眈々と機会をうかがっていると分析している。

著者は、ベトナム戦争から中近東の戦争まで、常に米国は戦争ビジネスでもうけてきたと批判する。日本は米国の手玉にとられつづけてきた。今や、国際情勢を経済・政治・軍事・地政学的情勢を冷静に見据えて進路を誤らないようにすべきだと述べる。

著者の結論は、日本はアメリカに頼らないで「軍事力をもった中立国」を目指して中立外交を展開すべき、と言う。

 

ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略 世界はどう変わるのか (PHP新書)

 

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2022年5月25日 (水)

「危機の時代」(E.H.カー著)再読 ウクライナ侵略によせて

読書日記「危機の時代」E.H.カー著(岩波文庫)

本書は、英国人のE.H.カーが1939年7月に入稿して、同年9月の第2次世界大戦勃発後に出版された。この本は「来るべき平和の創造者たち」に手向けられた国際政治学と国際法に関する古典。E.H.カーは、ご承知のとおり、「歴史とは何か」「ボリシェビキ革命」等の著作で有名です。ロシアのウクライナ侵略を目の当たりにして再読しました。

E.H.カーは、第1次世界大戦後に外交官としてベルサイユ条約交渉を担当した経験に基づき、その後20年の「危機の時代」を「理想と現実」の緊張関係から見て「来るべき平和の創造者たち」に向けて提言を書いている。ユートピニズムもリアリズムとバランスをとらなければいけないという立場からユートピアニズムを批判しています(社会主義や自由放任主義や絶対平和主義も理想論という意味でユートピアニズムと位置づけています。)

第1次世界大戦後のベルサイユ条約でドイツに過酷な条件で屈辱を与えた結果、超民族主義者のヒトラーを呼び出して、第2次世界大戦に至ったと分析しています。今回のロシアのウクライナ侵略も、冷戦後にロシアに対して過酷な条件と屈辱を与え、その結果、プーチンを呼び出してウクライナ侵略を呼び込んでしまった点で同じ轍を踏んでいます。

国際関係は、国家を超えた権力が存在せず、国際的道議や国際法も確立をしていないので、国家単位の政治的・外交的交渉で決するしかない。比較できるのは、先進的な民主主義の資本主義国家の労使関係に似ている。実力(ストライキ等の大衆行動)と交渉のバランスによって合意を見いだす点では一緒だと言います。実力(ゼネスト)を行使すると、労働側も資本側も双方傷つくのがわかっている間なら妥協的平和を得ることができると言います。

「国際分野における政治権力は、(a)軍事力、(b)経済力、(c)意見を支配する力である。」

「クラウゼヴィッツの「戦争は他の手段による政治的関係の継続のほかならない」という有名な警句は、レーニンやコミンテルンによって繰り返し支持されてきた。」

「過去の偉大な文明はすべて、それぞれの時代の軍事力で優位を占めてきた。……強大国として評価されるのは、通常、大規模戦争を戦って勝利したその報償のようなものである。プロシア・フランス戦争後のドイツ、そして対スペイン戦争後のアメリカ、さらに日露戦争後の日本は、よく知られた最近の事例である。」「日露戦争が終わる1905年まで「慇懃な小男ジャップ」は、同戦争勝利後は逆に「東洋のプロシア人」へと変わった。」

「過去百年の重大戦争のうち、貿易や領土の拡大を計画的、意識的に目指して行われたという戦争はあまりない。最も重大な戦争は、自国を軍事的に一層強くしよとして、あるいは、これよりもっと頻繁に起こることだが、他国が軍事的に一層強くなるのを阻止するために行われる戦争である。」ナポレオンのロシア侵攻も、クリミア戦争の英仏の参戦もそういう理由であった。

「1924年のソヴィエト政府は、日露戦争の始まりについて、「1904年日本の魚雷艇が旅順港でロシア艦隊を攻撃したとき、それは明らかに攻撃的行為であったが、しかし政治的にいえば、日本に対するツアー政府の侵略的政策によって引き起こされた行為であった。日本は危険を事前に防ぐために敵に先制の第一撃を加えたのである。」と国際連盟に表明している。

こうして戦争は、主要戦闘国すべての胸中においては防御的ないし予防的性格をもつものであった。」

ということで、ロシア側にとっては、今回のウクライナ侵略もNATOの拡大を阻止し、将来の侵略に対応する防御的かつ予防的戦争ということになる。長年の戦争のいっかんである(21世紀かどうかは関係ない)。

今や、ロシアのウクライナ侵略から3ヶ月。以前予想したとおり長期戦(一年以上)となることは必至。米国の思うつぼであり、さすがアングロサクソンはすごいと感心する。

現時点の「一人勝ち」は米国。ウクライナに軍事援助して、長期戦に持ち込み、ロシアを弱体化し、NATOの拡大と西欧と日本・韓国の政治的な結束を入手した。経済的にも軍事産業やエネルギー産業が大きな利益をあげる。

ウクライナをコントロールしてNATO加盟に踏み出させたのはバイデンの勝利であった。

他方、中国は機を見ているのであろう。今年9月の共産党大会での習近平の任期延長を獲得した後、ロシアとウクライナ間の仲裁に入るのではないか。そこで成果をあげれば国際的な政治的地位もいや増し。台湾にもにらみがきいて、台湾独立を完全に阻止して経済的に優遇・支配して、親中政権(民進党でなく国民党)の獲得を目指すだろう。

しかし、中国は、軍事力と経済力はあるが、意見を支配する力が欠如している。ロシアに対して、ウクライナ侵略を明確に批判する姿勢を示せば良いものを(対ロ制裁をどこまでするかは個別判断)。ロシアを明確に批判しない以上、台湾や南シナ海への軍事進出の意志ありと、周辺国家と国民に思わざるをえない。孫子の兵法に反しているよなあ。米国は表では綺麗事を言って裏では汚いことをいっぱいしているのだから、中国がそれと同じように建前だけでも綺麗事言えば良いのに。そうしないのが不思議であるが、中国共産党が支配する以上、未来永劫変わらない宿命なのか?いや、イデオロギーではなく、中国やロシアの社会慣習や文化の帰結なのだろう。

 

 

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2022年5月 4日 (水)

読書日記「新・EUの労働法政策」濱口桂一郎著(2022年)

 ハマチャンこと濱口桂一郎さんに、「新・EUの労働法政策」(独立行政法人労働政策研究・研修機構・2022年4月発行))の御著書をお送りいただきました。ありがとうございます。2017年の「EUの労働法政策」(旧版)の続刊ですが、2010年後半以降のEU労働法の大きな進展(シフト制やプラットフォーム労働等への対応)を反映して、まさに「シン」EU労働法政策版です。

2017年旧版では労働条件法政策として、2000年に開始された「雇用関係の現代化と改善」の「経済的従属労働」に関する協議に対して、欧州経団連が突き放した対応に終始し、新たな動きがないとして記述が終わっていました。


ところが、この新版では、ユンケル欧州委員会委員長が重視した欧州社会権基軸(2017年勧告)や現ライエン欧州委員会委員長の下で、透明で予見可能な労働条件指令などが出されて、プラットフォーム労働指令案やAI規則案などの大きな進展が見られており、その概要が紹介されています。(なお、EU法では「指令」はEU加盟国に国内法制制定の拘束力を及ぼすが加盟国内に直接適用されない、「規則」はEU加盟国の私人に直接的適用されます。「勧告」は法的拘束力はない そうです。)


「透明で予見可能な労働条件指令」(2019年6月)は、いわば労働条件の書面通知の強化指令ですが、通知すべき対象者の範囲を拡大して労働者の拡大につながり(案段階では被用者の定義の拡大(プラットフォーム労働を含む)が含まれていたが、最終的には削除された)、手続的規制ですが、最低保障賃金支払や最低保証時間の通知を義務づけることでオンデマンド労働(日本でいえば「シフト制」労働)に対して間接的・手続的の規制をしています。

 

現在「プラットフォーム労働指令案」が2021年9月に欧州委員会から提案され、プラットフォーム労働(プラットフォーム労働遂行者とプラットフォーム労働者(雇用関係あり)に二分されている!)に関して、雇用関係の法的推定の条項が提案されています。プラットフォーム労働についてのアルゴリズム管理について規制も条項として提案されています。


さらに、EUの「人口知能規則案」も2021年4月に欧州委員会から提案され、基本的人権に対してハイリスクを含む「雇用、労働者管理及び自営へのアクセス」について、AI利用に対する規制する規則案が提案されて協議が開始されています。この場合、AIの利用者とは、AIを雇用管理等に利用する使用者への規制です。労働者側の欧州労連は、規則案は不十分であり、労働者の情報開示、情報へのアクセス、訂正、消去、処理の制限などを要求し、日常用語によるアルゴリズムの説明可能性が必要であると提言しているといいます。

 

日本でも現実に事件となっている「シフト制」(裁判)、「Uber EATS団交拒否事件」(都労委)、「日本IBMのAI不誠実団交事件」(都労委)に関連するEUの労働立法の動きを知ることができます。ほかにもハラスメントや労働時間法制、テレワークなどEUの労働法制が全体的に俯瞰されており、文字も大きくなって読みやすくなりました。

著者は、1999年に「EU労働法の形成ー欧州社会モデルに未来はあるか?」を上梓されていました。原点であろう同書で、著者は「ヨーロッパ社会モデル」は「アングロサクソン社会モデル」からの挑戦を受け、「労働者保護が目指した社会的規制が経済的に企業の力を失わせているという問題であり、競争力を回復するために硬直的な労働市場をもっと柔軟にしていかなければならない点」という新自由主義からの挑戦に直面しており、「欧州社会モデルに未来はあるか?」と自問されていました。

本新版では

「2010年代前半がEU労働社会政策の衰退の時代とするならば、2010年代後半はその復活の時代と呼ぶことができよう。その旗頭になったのは欧州社会権基軸という政策理念であった」

と少し高揚感を感じさせる書きぶりです。EUの労働法に興味あるかたには超お勧めです。

EU欧州委員会委員長の前ユンケル委員長は元ルクセンブルグ首相のキリスト教社会人民党の政治家 現在のライエン委員長はドイツのキリスト教民主同盟(CDU)の労働社会大臣、国防大臣を歴任した政治家で、どちらも欧州の中道保守政治家ですね。このあたりが日本とは大きく違います。

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2022年4月24日 (日)

「国連本部を日本に!」-加藤典洋氏の提案

 ロシアのウクライナ侵略で「やはり日米安保は必要だ」と多くの日本人が思っているだろう(私も半分はそう感じる。)。もっとも、中国・北朝鮮がプーチンのように核戦争を辞さずと言えば、米国が日本を防衛するかどうかはわからんと思うが。

 ところで、日米安保がなくとも日本の安全保障を維持する対案を加藤典洋氏が提言をしていました。2019年に亡くなった加藤典洋氏は、文芸評論家として名高く、さらに憲法9条についても三部作を著している(「9条入門」「戦後入門」「9条の戦後史」)。

 加藤氏は、「立憲的護憲派」で「日米安保条約の解消(米軍基地の撤去)」と「日本の安全保障の確保」を目指します。彼は伝統的護憲派からは強く非難されています。加藤氏の戦後体制と憲法9条に対する歴史認識については多くの史料をもとに上記三部作で詳細に論じられています。

 私なりに、これを超乱暴に要約すると(間違っているかもしれないが)

① 敗戦後に対日理事会の天皇訴追の圧力を回避するため、マッカーサーが天皇制を維持するため旧保守層に憲法9条の導入を認めさせた。

② 米ソ冷戦が激化し、国連の集団安全保障が機能しなくなったため、米国が日米安保条約を日本に締結させて日本国土を米軍が自由に利用できるようにして極東米軍の補完のため自衛隊を創設した。


③ 日本人が自らの国家主権を維持して、自国の平和を維持するためには、日米安保条約を解消して自衛のための武力組織を持たなければならない。


④ そのためには、日本は過去の侵略戦争を反省し、国連中心主義を基軸として自国の安全保障を構築すべきである。

 加藤氏は、次のような具体的な対案を提起しています。

第1点は、憲法9条を改正して、自衛隊を二つに分けて、治安出動を禁止された「国土防衛隊」と国連の集団安全保障体制に協力する「国連待機軍」を設ける。また、外国軍基地の国内での設置を禁止する条項を設ける。

第2点は、国連本部を日本に招致し、国連予算の全てを日本が負担する。

 国連の1年間の予算は2022年で約30億ドル(120円換算で3600億円)となるが、日本の在日米軍関係経費は7970億円(令和4年度予算防衛省発表)にのぼり、国連全体の予算の2倍以上です。そこで、日本は国連本部を日本(沖縄)に誘致し、国連予算の分担金として100%全て出せます(今は日本の分担金比率は8%、米国が22%、中国15%)。安保条約がなくなるから在日米軍に払っている予算は不要になるからお釣りがきます。

 日本(例えば、沖縄や北海道)に国連本部が設置されれば、中国やロシアもなかなか攻撃できないでしょう。

「思いつき」「笑い話」「夢物語」

 でも、このくらいの大風呂敷を広げないと、これから何も変わらないでしょう。フィンランドのケッコネン大統領は「国の地政学的環境と利害関係の折り合いをつけて予防外交に徹し、他国をあてにしないこと」と述べた。そのフィンランドが今やNATO加盟しようとしていますが。

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«ロシアのウクライナ侵攻と「日本国憲法9条」と日本の対応