2021年4月18日 (日)

映画「ノマドランド」

「ノマドランド」を映画館で観てきた。リーマンショックの不況下、米国のとある町の大企業が閉鎖されて、町自体が消滅。夫が亡くなり、自宅も失い、自家用車(ヴァン)を住処とする高齢の女性ファーン。車中泊のまま行く先々で働き、生活の糧を得る漂流高齢労働者(ノマド)。

 

不況の中、社会的セーフティネットもなく、住む場所もなくなったアメリカの高齢労働者たちの過酷な状況を描く。

 

ただし、社会的告発調の映画を想像していたが、実際にはだいぶ印象が異なる。

高齢労働者が「Amazon」の配送センターで働く姿もあるが、描写される「Amazon」社は、高齢者を搾取する企業のようには批判的には描かれていない。かえって高齢労働者にとっては実入りが良い仕事を提供する、人間らしく働ける職場として描かれている。だから、Amazon社は映画撮影を許可したのだろう。

世界恐慌下の「怒りの葡萄」(ジョン・フォード監督、ヘンリー・フォンダ主演)の移動農業労働者のような過酷な労働者や搾取への怒りは描かれない。諦念と孤独が色濃い。これは現代の映画の文法(語り方)。告発調やプロパガンダははやらない。だから、その過酷な出口の見えない米国の現実をえぐっている。

 

映画の主人公には車上生活から普通の屋根のある家で生活する機会が二度来る。一度は中産階級の姉から一緒に住もうと誘われる。不動産業を営む姉夫婦に違和感があり断る。また、同じノマド仲間だったが、息子の家に住みはじめたデイヴに一緒に暮らそうと誘われるが、これも断る。

 

主人公は、自らの意志で働きながら漂流する道を選ぶ。姉は、妹のノマド生活を幌馬車の開拓精神のアメリカの伝統かもしれないと述べる。

 

監督は、クロエ・ジャオという中国人(中国籍)の女性監督。中国国有企業の幹部の娘で、米国の高校、大学を卒業後、米国で職を転々とした後、監督としてデビューして高く評価されているそうだ。

 

アメリカの荒涼とした砂漠と山並みの映像は美しい。この監督の尊敬する映画監督は、ギリシャのアンゲロプロス監督だそうだが、確かに白黒のロードムービーの「旅芸人の記録」に似ている。今のアメリカの厳しい社会的現実を、美しく、諦念と喪失感を、ありのまま切り撮ったところが評価されているのだろう。

 

https://searchlightpictures.jp/movie/nomadland.html

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2021年4月10日 (土)

読書日記 木下武男著「労働組合とは何か」(岩波新書)

木下武男著「労働組合とは何か」(岩波新書)
2021年3月発行
2021年49日読了

 労働社会学者の木下武男教授の著書です。木下教授は、長く「賃金論」をふまえた労働組合のあり方を議論されてきました。1999年「日本の賃金」(平凡新書)では日本型年功型賃金の変容と、グローバル化による職務給・職階制賃金、成果主義賃金について実態(実例)を踏まえた分析と提言(年功賃金から生活できる仕事給)をされており大変に参考になりました。

 木下教授は、この「労働組合とは何か」で、欧米の労働運動・労働組合の歴史と実態を概観した上で、日本の企業別労組の問題点を批判して、新しいユニオニズムを提言されています。

 この本の骨子は次で要約しますが、私は基本的に木下教授の意見に賛成です。

 欧米の労働組合は、ヨーロッパ中世のギルドからの伝統を踏まえたものである。手工業時代からの伝統を踏まえた熟練労働者のクラフツ・ユニオンが力をもって職業別労働組合になり、産業革命後に機械制工場に雇われる不熟練労働者が一般労働組合を組織して戦って、それが産業別労働組合と発展し、経営者団体と交渉して産業別賃金協約を獲得するようになった。典型的には英国の労働運動であり、第二次世界大戦後には福祉国家を成立させた。

 これに対して日本の労働組合運動は、戦後になり企業別労働組合が全国各地に結成され、1946年には多数派の「産別会議」(組合員数163万人)が結成された。その傘下の電産労組がいわゆる「電産型賃金」(生活できる年功賃金)を確立した。

 1946年には、米国の労働諮問団は、年功賃金からジョブ型賃金に転換するように勧告した。また、1947年の世界労連の視察団は、日本の企業別年功賃金に対して「雇用主の意志のままに悪用され、差別待遇されやすい」として「平等な基準」の「仕事の性質」に基づく賃金を提言していた。

 しかし、日本では、その後、経営側は、一時、職務給を導入しようとしたが労働側の反対を受けて、定期昇給制度に人事考課制度を結合させた日本型職能等級賃金制度を確立させていった。

 本来、日本の労働組合は、企業別組合が本流となってしても、産業別統一闘争を発展させ、産業別組合に向けて改革する努力が必要があった。産別会議は、占領軍のゼネスト中止、共産党の介入とそれに対する反発で分裂縮小して崩壊(1956年解散)した。その後の総評型労働運動も「年功賃金・企業別組合」システムを前提とした労働運動となった。春闘などの総評型労働運動の頂点は1975年だったが、それからは凋落していく。1975年は、春闘とスト権ストが敗北した年。

 1980年以降、日本では、企業主義的統合が進み、「労使協調」路線にどっぷりつかっていくことになる。1980年代後半以降、ストライキによる労働日損失がなんと限りなくゼロに近くなることが如実に示している。年功賃金と終身雇用制という日本型雇用システムに労働者の企業意識や忠誠心という労働者の同意を獲得していった。労働者に「安定」を提供したが、「競争」と「差別」(左派労組員への差別と女性差別)が色濃い。

 そして、バブル崩壊、経済のグローバル化、経済のソフト化・IT化のもと、現状の貧困と格差が広がる現在の雇用社会、労働者の状態が生じている。

 現在の企業別労働組合を中心とした労働組合運動、数的には多数派である正社員の年功的賃金制度のままでは、社会を変えられない。旧来の日本型賃金(属人的な年功的賃金)では非正規労働者の同一労働同一賃金は実現できないし、正社員の賃金も低下していく。

 そこで、木下教授は、企業別労働組合も、産業別労働組合に内部改革することを期待しつつ、より必要なのは、企業別組合の外部に組織されたユニオンが未組織労働者を組織し、さらに業種別職種別ユニオンに発展していくことを提言している。その萌芽は確かに広がりつつあるとする。

 

 私も、欧州のような産別労働組合と職務給の雇用社会、社会民主主義の政治体制が日本にあれば良いと夢想しますが、いまさら日本に産別労働組合がないことを嘆いても、死児の齢を数えるようなものでしょう。

 また、これは世界的に見れば、欧米の方が特殊例外な社会(自生的に資本主義を生み出した社会だから)なのでしょう。少なくとも、アジアを見れば、多くは日本のような企業別組合が中心のようです(これはなぜでしょうかね?)。例えば、韓国も左派も右派も企業別労組だし、それでも韓国では中央産別組合の交渉力は強いようです。もっとも、韓国の労働組合組織率は10%で日本の16%よりも低い(。

 木下教授が言われるように、年功型正社員の企業別労組が産業別闘争に大きく踏み出すことに期待しつつ、「貧困と格差」にあえでいる大企業以外の普通の未組織労働者を、業種別ユニオン(一般労組)が広く組織化し、企業を超えた産業別・業種別な労働組合が発展していくことが必要だと思います。

 日本の組織率は民営企業で162%ですが、1000人以上の大企業が全体の66%を占めており、99人以下の企業では推定組織率は0.9%しかありません。日本では99人以下の企業に雇用されている労働者数は、全体の雇用労働者のうち半分です。広大な未組織分野があるわけです。

 企業別労組と労組員、そしてナショナルセンターは、これら企業外に組織されたユニオンを応援し、オルグを増やすための財政援助をしたらユニオンは発展するのではないでしょうか(オルグを増やす余裕がない)。ただ、この方向を指向しているとは見えません。どちからというと、企業内労組を基本としており、中小企業にも企業別労組を組織する方向や、非正規労働者を企業別労組に加盟させる方向を指向しているように思います。この点は、連合も全労連も同じと感じます。

 アメリカのAFL-CIO20世紀末頃、若いオルグを抱えるために大幅な財政援助(要するにオルグの賃金)をして、労働運動を活性化させたと言います。日本の企業別労組にも是非、期待したいものです。

 

 

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2021年3月 6日 (土)

読書日記 添田孝史著「東電原発事故10年で明らかになったこと」(平凡新書)

<事故はなぜ防げなかったのか>

「地震や津波はいつおこるか予測できないのだから、仕方がないよね」という素朴な感覚がある。でも、この本を読むと、実際の経過は全く異なっていたことがわかります。

実は東電も保安院も津波地震を予測し、2002年から具体的に検討していたが対策をとらなかったのです。

 

この本で複数の事故調の報告書、検察調書、裁判証言録に基づき、事実関係が明らかにされています。以下、時系列にまとめてみました。要約記述にミスがあれば私の責任です。是非、直接同書をお読みください。

10年後に明らかになった事実はもっと広く知られて良いと思う。ちなみに、福島第1原発の原子炉建屋は海抜10mの位置にある。

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2002年8月1日 朝刊各紙で「三陸・房総沖で津波地震発生律20%」と報道された。これは政府の地震調査研究推進本部の発表に基づくもの。

同日、経産省原子力保安院の安全審査官が東電の担当者に連絡して、この津波地震の説明を求める。

同年8月5日東電の担当者(高尾誠)が保安院に赴いて説明。保安院の耐震課長が、福島沖も津波地震を計算するように依頼したが、東電の担当者が抵抗して撤回させる。

2004年12月26日、インドネシア・スマトラ沖地震の大津波でインドのマドラス原発に10mを超える津波が襲来して、原発が緊急停止。

2005年8月 インドのマドラスにて、IAEAが津波による原発事故の危険性に関する国際ワークショップを開催。日本からもJNES(原子力安全基盤機構)と電力会社からの10名が出席。その後、保安院が内部溢水外部溢水勉強会を立ち上げた(保安院の担当は小野祐二班長)

2006年5月11日、第3回溢水勉強会で、福島第1で10mを超える津波が来れば浸水し、炉心溶融になるとの報告。

同年6月9日、溢水勉強会が福島第1現地調査。原発設置当初、土木学会の想定津波が3.5m(2002年に東電は想定津波を5.7mと引き上げられていた。)

2006年9月19日 原子力安全委員会が40年ぶりに耐震指針を改訂。この新基準での古い原発をチェックすることをバックチェックという。津波の安全指針としては「極めてまれであるが発生する津波」にも安全であることとされた。ここで「極めてまれ」とは、1万年から10万年に1回程度の津波であると考えられていた。

この新耐震指針では「後期更新世以降の活動が否定できない断層」つまり約12万年~13万年前以降活動した断層を「将来活動する可能性がある断層」とした。津波を1万年~10万円程度のスパンで考えるのは、この活断層の考え方から当然の帰結となる。

2006年10月6日 保安院の小野班長が東電に「電動機が水で死んだら終わり」、「長くて3年」で対応するようにと話す。保安院の川原室長は「津波は自然現象だから、余裕を確保するように」「経営層に伝えてほしい」と指示。これが東電の武黒本部長に伝えられた。

2007年4月 JNESが福島第1原発に浸水あったら炉心損傷の確率は100分の1より高いとする報告書(施設名を伏せられた)。4月4日、保安院小野班長「想定以上の津波が絶対来ないといえるのか」と東電に強く迫る。ところが、小野班長は6月で経産省の他部署に異動。

2007年11月21日付け東電設計による文書で「地震本部の津波地震による津波の最高水位は7.7m」と報告。

2008年2月16日 東電清水社長出席の午前会議で津波の高さが7.7mになる可能性あると説明される。

同年3月18日 東電設計の津波計算で津波が15.7mとなる計算結果が出る。

同年7月31日、東電の武藤副本部長、吉田昌郎原子力設備管理部長(事故当時の福島第1原発所長)、地震対策センター山下所長らが、想定津波は5.7mとすると決定。このことを有力な学者に根回しせよと指示。その理由を、15.7mだと2009年6月まで対策工事は完了せず、原発停止することになりかねず、東電の収支が悪化すると説明された。

同年8月5日、東電の想定津波対策を知らされた日本原電の担当者は「こんな先延ばしで良いのか、東電は何でこんな判断をするのか」と述べた。日本電源は独自に秘密裏に10m超えの津波対策を行う(工事完了が2011年2月)。

同年11月13日 東電は、「貞観地震」を考慮しないことを決定。他方、東北電力は、貞観地震の研究を取り入れてバックチェック最終報告書を既に完成させていた。東電は東北電力に連絡をして、貞観地震のことは参考資料として格下げさせた。

2009年6月24日 バックチェック中間報告審査専門家会合で、産業技術総合研究所地震研究センターの岡村行信センター長が、東北電力の貞観地震を参考資料としているが不十分だと厳しく指摘。(実際には、東北電力は貞観地震津波を想定して女川原発の津波対策は実施していた)

同年9月7日 東電は、保安院に「貞観地震の津波は約9mになる」と報告。2~3割の余裕の上乗せをすると10mを超える対策をとることになる。

2011年3月3日 政府の地震本部が貞観地震を盛り込む報告書を作成したがが、東電は貞観地震は未だ不確実とする記述に修正させる。

同年3月7日、保安院に東電が地震本部の長期評価によれば福島第1では15.7mの津波が予想されると説明。

同年3月11日 東北大地震発生

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丸山真男は、<個人としての信念や良心を持ち、主体的に判断して行動できる近代的市民のエートスは日本では生まれていない>と論じました。残念ながら21世紀になっても当たっているようです。

東電原発事故10年立っても変わらない。また、2011年8月7日に書いた次のブログに書いたことが証明されたように思います。ただし、廃炉には20年から30年かかると書いたのは間違いで、廃炉が可能であったとしても100年はかかると訂正しなければなりません。

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2011/08/post-3c5b.html

 

 

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2021年2月19日 (金)

在宅テレワークの費用負担

新型コロナのもとで在宅でのテレワークが広く行われるようになり、労働組合から在宅テレワークの学習会を頼まれることが増えている。

必ず在宅テレワークする場合の通信情報機器等の費用負担が質問されます。

IT企業等では、もともとPCや携帯、WiFi機器が会社から労働者に貸与されているが、今まで在宅テレワークを予定していなかった企業では、自宅にある自分のPCや家庭用の通信環境を使用する労働者も多い(営業情報取扱い上、企業の立場として不安に思わないのか不思議だが、そのレベルの企業も多いようだ。)。

厚労省H30.2.22のテレワークガイドラインでは「労使のどちらが負担するか、また、使用者が負担する場合における限度額、労働者が請求する場合の請求方法等については、あらかじめ労使で十分に話し合い、就業規則等において定めておくことが望ましい。特に、労働者に情報通信機器、作業用品その他の負担を定めをする場合には、当該事項について就業規則に規定しなければならないこととされている(労働基準法第89条第5号)。」としている。要するに「労使合意」によるので、労働者は当然には請求できないということになる。

私は、近代的な労働契約とは使用者の生産手段を使用して労働に従事させるのが本質なのだから使用者が費用を負担するのが当然と考える。でも、これは法律論(労働契約論)ではないので、法律論として、どのように考えれば良いのだろうか。

民法として考えると、民法485条は次のように定めている。

民法485条 弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。

この弁済とは、売買代金の支払いや売買物の引渡しだけでなく、継続的契約関係である請負や雇用についての双方債務の履行も含まれる。

したがって、労働者が負っている労働に従事する債務の履行も弁済となり、その債務の履行に要する費用は債務者(労働者)の負担とするのが原則ということになってしう。

他方で、「委任」の場合は、民法650条1項は受任者による必要費用を請求することを認めている。委任の典型は弁護士と依頼者との関係だが、弁護士が法律行為を行えば依頼者に必要費用を請求することができることになる。これは民法485条の特則ということになる。

委任のような必要費用の請求について民法の雇用には定められていないので、原則どおり労働者が負担するのが原則ということになる。だから、通勤費は使用者が負担する義務は民法からは出てこない。

ただし、民法の規定は任意規定だから、これと違う合意をすれば、その合意が優先することになる。

ということで、上記厚労省ガイドラインは労使での合意をするようにと言うことになる。

ここからが私の試論だが、民法485条ただし書では、「債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする」と定めている。

したがって、「債権者」(使用者のこと)が弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする」としているので、労働者に在宅でのリモートワークをさせた場合には、そのために弁済費用(情報機器や通信料)を増加させるものであるから債権者(使用者)の負担とするということになる。

ただ、同条ただし書きには「債権者が住所の移転その他の行為によって」と定めているので、国の新型コロナ感染防止対策として、企業(使用者)が在宅テレワークを推奨している場合には(業務命令までに至らない場合であっても)、これに該当することになろう。

もっとも、使用者は在宅勤務を推奨しないが、労働者が在宅勤務を希望し、使用者がこれを許可した場合には、この解釈は当てはまらないことになるか。

労働基準法89条第5号は、

5 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項。

「食費、作業用品その他」を労働者に負担させる定めをする場合には、これに関する事項を就業規則に定めなければならないとしている。なので、在宅テレワークに必要な情報通信機器を労働者に負担させる定めをする場合には就業規則に定めなければならないということ。

これを反対解釈できれば、労働者に負担させるという定めがない場合には、使用者が負担することになるようにも読める。しかし、民法485条が弁済費用は債務者の負担とするとの定めているから反対解釈することはできないという結論になる。

労働者に負担させるという定めを使用者がもうけているが、就業規則に記載がない場合には、その定めの効力はどうなるのでしょうか。労基法89条5号に違反しているので、労働者に負担させるとの定めが無効となると言えるのか。民法485条本文あるから、そこまでは言えないのでしょう。

結局、在宅勤務のテレワークの費用については、使用者が主導して在宅勤務のテレワークをする場合には、民法485条「ただし書」を適用して使用者が情報通信機器の費用等を負担することなるのではないかと思います。

労働組合は、これを活用して、使用者が負担することを要求しいけば良いように思います。

仮に、会社が一方的に就業規則に労働者の負担を定めてしまった場合(そんな会社もあるかもしれない)、事業場では負担していなかったのだから、労働条件の不利益変更に該当する余地が生じることになる。

 

 

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2020年10月17日 (土)

日本郵便事件(労契法20条)最判とメトロコマース事件等最判との比較-原点の丸子警報器事件

 2020年10月15日、日本郵便株式会社で働く有期契約労働者と正社員との労働条件の格差に関して、旧労契法20条に違反するか(不合理なものといえるか)否かを判断した最高裁第一小法廷は、扶養手当、年末年始勤務手当、休暇制度の格差を不合理で違法だとしました。

■日本郵便事件最高裁判決(福岡高裁、東京高裁、大阪高裁の各事件)

 最高裁の判断を手当ごとに紹介します。その上で、同じく労契法20条の不合理と認められるか否かを判断した先の10月13日最高裁のメトロコマース事件と大阪医科薬科大学事件の判決とを比較し、なぜ最高裁の結論が分かれたが、最高裁判決文に即して検討してみます。

■扶養手当について


 日本郵便では、無期契約労働者である正社員に対して、扶養手当が支給されていますが、有期契約労働者(契約社員)には扶養手当は支給されません。

 最高裁は、「正社員に対して扶養手当が支給されているのは、正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、その生活保障や福利厚生を図り、扶養親族のある者の生活設計等を容易にさせることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的によるもの」であり、「上記目的に照らせば、本件契約社員についても、扶養親族があり、かつ、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、扶養手当を支給することとした趣旨は妥当するというべきである。そして、本件契約社員は、契約期間が6月以内又は1年以内とされており、第1審原告らのように有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存在するなど、相応に継続的な勤務が見込まれているといえる」から、「職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき(正社員と異なり昇任や昇格は予定されず、特定の業務のみに従事し、幅広い業務に従事することはなく、人事評価の仕組みも異なる等の)相応の相違があること等を考慮しても、両者の間に扶養手当に係る労働条件の相違があることは、不合理であると評価する」とした。

■年末年始勤務手当、有給の病気休暇、夏期冬期休暇、年始期間の祝日給

 日本郵便では、正社員に対して、年賀状配達の年末年始勤務手当を支給し、夏期冬期休暇(夏冬各3日の有給休暇)、年始期間の祝日給、私傷病による欠勤についての有給の病気休暇を付与していました。最高裁は、上記各労働条件の格差をもうけることも扶養手当と同様に不合理であると判断しました。

 年末年始勤務手当については「最繁忙期であり、多くの労働者が休日として過ごしている上記の期間において、…その勤務の特殊性から基本給に加えて支給される対価としての性質を有するものである」から、「これを支給する趣旨は、本件契約社員にも妥当するものである。」として、その相違は不合理なものとした。年始期間の祝日給についても同様の判断をしています。

 有給の病気休暇については「賃金以外の労働条件の相違についても、同様に、個々の労働条件が定められた趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である」とし、「有給の病気休暇が与えられる趣旨は、上記正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、その生活保障を図り、私傷病の療養に専念させることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的による」と考えられるから、「上記目的に照らせば、郵便の業務を担当する時給制契約社員についても、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、私傷病による有給の病気休暇を当たることとした趣旨は妥当するいうべきである。」そして、第1審原告らは「相応に継続的な勤務が見込まれるているといえる」から、正社員と上記時給制契約社員との間に、… 職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、私傷病による病気休暇の日数につき相違を設けることはともかく、これを有給とするか無給とするかにつき労働条件の相違があることは、不合理である」と判断しました。

 有給の夏期冬期休暇についても、その格差が不合理なものであるとして、休暇をとれずに勤務したことによる財産敵損害を受けたといえるとして、損害額について審理すべきとして原審に差し戻しました。

 なお、住居手当については、日本郵便では、正社員の中に新一般職(配置転換も転居を伴わないで行う無期契約労働者)にも住居手当が支給されていることから、原審の判決段階で契約社員に支給しないのは不合理であると判断されて、これが確定しています。ただし、新一般職という地域限定のコース正社員がいる場合の判断ですから、一般化はできません。

■ハマキョウレックス事件最高裁判決の引用

 事件番号としては、福岡高裁事件、東京高裁事件、大阪高裁事件の順番であり、休暇制度に関する最初の判断は福岡高裁事件となっています。

 福岡高裁事件では、ハマキョウレクッス最高裁判決を引用して次のように判示しています。

有期労働契約を締結している労働者と無期労働契約を締結している労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である(最高裁平成…30年6月1日第二小法廷判決・民集72巻2号202頁※ハマキョウレックス事件)ところ、賃金以外の労働条件の相違についても、同様に、個々の労働条件の趣旨を個別に考慮すべきである」と判断しました。

 そして、正社員に有給の夏期冬期休暇が付与される趣旨は「労働から離れる機会を当たることにより、心身の回復を図るという目的によるものであると解され、夏期冬期休暇の取得の可否や取得し得る日数は上記正社員の勤続期間の長さに応じて定まるものとはされていない。」そして、郵便業務に従事する時給制契約社員は、契約期間が6ヶ月以内とされるなど、繁忙期に限定された短期間の勤務ではなく、業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれているのあって、夏期冬期休暇を与える趣旨は、上記時給制契約社員にも妥当する」として、相応の相違があることを等を考慮しても、夏期冬期休暇を付与しない相違は不合理なものと評価できるとしました。

■メトロコマース事件と大阪医科薬科大学事件の最高裁判決との比較

 最高裁第三小法廷は、退職金や賞与の支給の相違であっても、労契法20条にいう不合理と認められる場合はあり得るとしながら、当該使用者における退職金や賞与の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて、不合理であるか否かを検討すべきとします。

【退職金や賞与の趣旨と正社員の位置づけ】

 メトロコマース事件では、「上記退職金は、本給に勤続年数に応じた支給月数を乗じた金額を支給するものとされているところ、その支給対象となる正社員は、第1審被告の本社の各部署や事業本部が所管する事業所等に配置され、業務の必要により配置転換等を命ぜられることもあり、また、退職金の算定基礎となる本給は、年齢によって定められた部分と職務遂行能力に応じた資格及び号俸により定められる職能給の性質を有する部分から成る」こと「等に照らせば、上記退職金は、上記の職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり、第1審被告は、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとした」

 最高裁は、正社員を業務の必要により配置転換を命ぜられて職務遂行能力や責任の程度が高いことを強調して、本件退職金の性質を、職能給を基礎とした職務能力や責任の程度を踏まえた労務の対価や功労報償的な複合的な性質であると判断している点が注目されます。

 大阪医科薬科大学事件でも、「賞与は、… 算定期間における労務の対価の後払いや一律の功労報償、将来の労働意欲の向上等の趣旨を含むものと認められる。そして、正社員の基本給については、勤務成績を踏まえ勤務年数に応じて昇給するものとされており、勤続年数に伴う職務遂行能力の向上に応じた職能給の性格を有するものといえる上、おおむね、業務の内容の難度や責任の程度が高く、人材の育成や活用を目的とした人事異動が行われていたものである。このような正職員の賃金体系や求められる職務遂行能力及び責任の程度に照らせば、第1審被告は、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図る目的から、正職員に対して賞与を支給することとした」

 ここでも正職員について、業務の内容の難度や責任の程度が高いことを強調して、賞与については職能給を基礎としていることを指摘しています。

【職務内容等の三つの事情について】

 最高裁は、メトロコマース事件、大阪医科薬科大学事件については、有期契約労働者と正社員の業務の内容について、その相違を強調しています。

 メトロコマースでは、「売店業務に従事する正社員」と比較して、両者はおおむね共通するものの、代務業務やエリアマネージャー業務への従事や配置転換を命ぜられる現実の可能性があるなどの一定の相違があったとします。日本郵便事件と比較して、相違が大きいように認定しています。
 また、販売業務を担当する正社員が組織変更によって雇用された正社員であり、他の本店等の部署に配置された正社員とは異なる職務の内容及び変更の範囲が異なる。売店業務に従事する正社員が2割満たないまで減少したが、賃金水準を変更したり、他部署に配置転換等をすることが困難な事情があったこと、正社員への登用制度があったことを、その他の事情として考慮しています。

【メトロコマース事件の契約社員の有利な事情】

 最高裁は、第1審原告である「契約社員Bの有期労働契約が原則として更新するものとされ、定年が65歳と定められるなど、必ずしも短期雇用を前提としていたものとはいえず、第1審原告らがいずれも10年前後の勤続期間を有している」と認めています。

 そうであれば、「相応に継続的な勤務が見込まれる」として、少なくとも退職金の複合的な性質の勤続年数に応じた功労報償的な部分については妥当すると判断できるはずである。現に日本郵便事件では、最高裁はそのように判断しているし、宇賀裁判官の反対意見はこのような判断をしています。ところが、最高裁第三小法廷は、上記の事実をしんしゃくしても、退職金の不支給について、不合理であるとまで評価できないとしました。

■日本郵便事件とメトロコマース事件の最高裁はなぜ違うのか

 最高裁の判決文にそくして読む限り、メトロコマースの退職金や大阪医科薬科大学の賞与については、賃金体系や人事異動の実態から職能給を基礎とし、正社員が配置転換等を命じらるなどの職務遂行能力や責任の程度が高いことを前提として、賞与や退職金が支給されるものととらえ、そのような正社員としての職務遂行能力を有する人材の確保とその定着のために支給されるとして捉えた点が結論を大きくわけたものと思われます。

 他方、日本郵便事件の年末年始勤務手当、扶養手当、休暇制度、住居手当については、基本給を基礎とする賞与や退職金と異なり、正社員としての職務を遂行しえる人材の確保とその定着とは別個の目的の手当であるとして、「相応に継続的な勤務が見込まれる」以上、その格差は不合理となるとしたと考えられます。

■大阪医科薬科大学の私傷病による欠勤中の賃金について

私傷病による欠勤中の賃金の支給は、「職員の雇用を維持し確保することを目的」としている。これは日本郵便事件でも同じである(「継続的な雇用を確保するのが目的」とします。)。日本郵便事件では、私傷病の有給の休暇制度についての相違は不合理なものと最高裁は判断しました。

 ところが、大阪医科薬科大学事件では不合理であるとはいえないと判断しました。私傷病による欠勤中の賃金支給については、本来は契約社員にも妥当するものと考えられるはずです。この点、最高裁は、「アルバイト職員は、契約期間を1年以内とし、更新される場合はあるものの、長期雇用を前提とした勤務を予定していると言い難い」とし、「雇用を維持し確保するという制度の趣旨が直ちに妥当するものとはいえない」と判断して、「第1審原告の有期労働契約が当然に更新され契約期間が継続する状況」にはなかったとして、不合理であると評価できないとしている。つまり最高裁の日本郵便事件の表現でいくと、「相応に継続して勤務する見込みがない」ということです。

 つまり、最高裁は、この大阪医科薬科大学の私傷病による欠勤中の賃金については、正社員としての職務を遂行しえる人材の確保とその定着とは関係はないが、継続して雇用する状況ではないことを理由として不合理ではないとされたものといえます。

■最高裁メトロコマース事件等批判

 最高裁は、上記賞与や退職金の基礎となる本給(基本給)を職能給とし、それを難度の高い職務遂行能力を備えて責任の程度が高い正社員という人材確保とその定着を目的とするものして、有期契約労働者には妥当(適用)しないとします。

 しかし、最高裁判決自身が指摘するとおり、賞与や退職金については複合的な性格が含まれます。例えば、退職金について、勤続年数によって支給月数が決まる場合には勤続年数に応じての功労報償的な性格もあわせもちます。そうであれば、その勤続年数に対応する部分については、4分の1か、6分の1かはともかく、部分的に支給すべきであり、全くの不支給は不合理となる余地は、最高裁の論理にたつとしても、十分にあり得るといえます。これは賞与についても同様です。

 最高裁は、職務の内容等について一定の相違があったとしても、労働条件の相違との間で均衡がとれているのか否かをきちんと検討すべきです。この点について、メトロコマース事件と大阪医科薬科大学事件では最高裁はまったく検討していません。原審である東京高裁・大阪高裁判決の解釈が正当なものであったというべきです。

 最高裁は、均衡待遇の確保の視点を忘れてしまっているのではないか。さらに言えば、「同一労働同一賃金の原則」という俗耳にはいりやすい安易な「スローガン」に引きずられて、同一労働ではない場合であっても、労働条件は均衡でなければならないという均衡処遇の原則を軽視していると言うべきでしょう。

■原点の丸子警報器長野地裁上田支部判決

 今回のメトロコマース事件や日本郵便事件の最高裁判決は、均等・均衡待遇原則の実現にと向けて、まだまだ道半ばです。

 非正規格差の原点であり最高峰の判決は、1996(平成8)年3月15日の長野地裁上田支部の丸子警報器事件判決です(労判690号32頁)。判旨の重要部分は次のとおです。

同一(価値)労働同一賃金の原則は、労働関係を一般的に規律する法規範として存在すると考えることはできないけれども、賃金格差が現に存在しその違法性が争われているときは、その違法性の判断にあたり、この原則の理念が考慮されないで良いというわけでは決してない。
 けだし、労働基準法三条、四条のような差別禁止規定は、直接的には社会的身分や性による差別を禁止しているものではあるが、その根底には、およそ人はその労働に対し等しく報われなければならないという均等待遇の理念が存在していると解される。それは言わば、人格の価値を平等と見る市民法の普遍的な原則と考えるべきものである。前記のような年齢給、生活給制度との整合性や労働の価値の判断の困難性から、労働基準法における明文の規定こそ見送られたものの、その草案の段階では、右の如き理念に基づき同一(価値)労働同一賃金の原則が掲げられていたことも想起されなければならない。
 したがって、同一(価値)労働同一賃金の原則の基礎にある均等待遇の理念は、賃金格差の違法性判断において、ひとつの重要な判断要素として考慮されるべきものであって、その理念に反する賃金格差は、使用者に許された裁量の範囲を逸脱したものとして、公序良俗違反の違法を招来する場合があると言うべきである。」

として、基本給、賞与等について、正社員との賃金格差が2割を超えると違法であるとして、損害賠償請求を認容しました。パート有期雇用法8条、9条の法解釈の指針として、丸子警報器事件判決は未だに輝きを失っていません。

 日本には今でも「同一労働同一賃金」の実定法は存在しません。さらに言えば、私は「同一(価値)労働同一賃金」の法規範を、正社員も含めて賃金決定の一般的な法理とすべきではないように思います。男女賃金格差に関する法理(「職務分析」論も含めて)として解釈すべきであり、雇用形態による格差是正は均等・均衡待遇原則を理念とすべきように思います。

■今後の課題

 現在も旧労契法20条やパート有期雇用法8条の裁判が全国で係属しています。日本郵便事件でも、原告154人が全国各地裁で訴訟をたたかっています。これについては、最高裁判決に従い会社は速やかに解決すべきです。

 また、ホワイトカラーの基本給や賞与に関する事件(例えば、日本IBM事件)も複数、係属しています。これらの事件の多くは、日本型賃金制度である「職能給」でなく、ジョブグレード制度やバンド制度、あるいは成果給や業績給の賃金体系の下での事件でしょう。このような事案では、メトロコマースの最高裁判決の射程範囲には入らないでしょう。

 今後もあらたな事件や新たな判決が続々生じるでしょう。たたかいと判例の発展に期待したいと思います。

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2020年10月13日 (火)

メトロコマース事件、大阪医科大学事件の最高裁判決について

■2020年10月13日、労働契約法20条に関して、有期雇用労働者と正社員の賞与の格差が争点の大阪医科大学事件、同じく退職期の格差が争点となったメトロコマース事件の最高裁判決が言い渡された。

メトロコマース事件最高裁判決
https://www.courts.go.jp/.../hanrei_jp/768/089768_hanrei.pdf

大阪医科大学事件最高裁判決
https://www.courts.go.jp/.../hanrei_jp/767/089767_hanrei.pdf

最高裁の結論は、原審(東京高裁判決、大阪高裁判決)を覆して、賞与の格差も、退職金の格差も不合理とまではいえないと判断した。

■旧労働契約法20条(平成30年改正前)

無期契約労働者(正社員)と有期契約労働者との労働条件の相違について、「労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」と定めていた。

両事件の最高裁判決の論理を追うと次のようなものである。

■メトロコマース事件

同事件は、東京メトロの地下鉄の売店に勤務する有期契約労働者(契約社員B)と正社員との労働条件(特に退職金)の格差が問われた事件だ。

① 判断枠組み

最高裁は、退職金の格差が不合理と認められるかどうかは、「当該使用者における退職金の性質やこれに支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものか否かを検討すべき」とする。

② 本件退職金の趣旨

「(本件の)退職金は、上記の職務遂行能力や責任の程度等を踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務等に対する功労報償等の複合的な性質を有するものであり、第1審被告は、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給したものといえる」とする。


③ 職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情について

1審原告(有期契約社員)と正社員の「職務の内容はおおむね共通するものの、……両者の職務の内容には一定の相違があった」、また、「正社員は配置転換を命じられる現実の可能性があり、正当な理由がなく、これを拒否できなかった」ものであり、「職務の内容及び配置の変更の範囲(以下「変更の範囲」という。)にも一定の相違があった」、さらに「他の多数の正社員とは、職務の内容及び変更の範囲について相違があった」、「開かれた試験による試験による登用制度を設け、……正社員に登用していた」ものである。

④ 結論(不合理な相違と認められるか)


「第1審被告の正社員に対する退職金が有する複合的な性質やこれを支給する目的を踏まえて、売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務内容等を考慮すれば、契約社員Bの有期労働契約が原則として更新するものとされ、定年が65歳と定められるなど、必ずしも短期雇用を前提としていたものとはいえず、第1審原告らがいずれも10年前後の勤続期間を有していることをしんしゃくしても、両者との間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることは、不合理とまで評価することができるものとはいえない」として、不合理でないとして、原審東京高裁の判決を破棄した。

なお、宇賀克也裁判官の反対意見がある。

■大阪医科大学事件

大阪医科大学事件は、大学の教室事務を担当する有期雇用契約労働者(アルバイト職員)と正職員との賞与の格差が労働契約法20条違反が問われた事件。

② 判断枠組みは、メトロコマース最高裁判決と同じ。

② 本件賞与の趣旨について

「賞与は、通年で基本給の4.6ヶ月分が一応の支給基準となってり、第1審被告(大学)の業績に連動するものではなく、算定期間における労務の対価の後払いや一律の功労報償、将来の労働意欲の向上等の趣旨を含む」「そして、正職員の基本給については、勤務成績を踏まえ勤務年数に応じて昇給するものとされており、勤続年数に伴う職務遂行能力の向上に応じた職能給の性格を有するものといえる上、おおむね業務の内容の何度や責任の程度が高く、人材の育成や活用を目的とした人事異動が行われていたものである。このような正職員の賃金体系や求められる職務遂行能力及び責任の程度等に照らせば、第1審被告は、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、正職員に対して賞与を支給することとした」

③ 職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情について
「両者の業務の内容を共通する部分はあるものの……両者の職務の内容に一定の相違があった」、正社員にはついては人事異動が命ぜられる可能性があったことから「変更の範囲に一定の相違があった」、「アルバイト職員については、契約職員及び正職員へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度がもうけられていた」

④ 結論
「(賞与)に労務の対価の後払いや一律の功労報償の趣旨が含まれることや、正職員に準ずるものとされる契約職員に対して正職員の80%に相当する賞与が支給されていたこと、アルバイト職員である第1審原告に対する年間の支給額が平成25年4月に新規採用された正職員の基本給及び賞与の合計約と比較して55%程度の水準にとどまることをしんしゃくしても、教室事務員である正職員と第1審原告との間に賞与に係る労働条件の相違があることは、不合理とあるとまで評価することができるものとはいえない」


「私傷病による欠勤中の賃金」についても、最高裁は、それは「正職員の雇用を維持し確保することを前提とした制度である」として、「アルバイト職員は、契約期間を1年以内として、更新される場合はあるものの、長期雇用を前提とした勤務を予定しているものとは言い難いことにも照らせば、教室事務員であるアルバイト職員に直ちに妥当するものとはいえない。また、第1審原告は、… 在籍期間も3年余りにとどまり、その勤続期間が相当の長期間に及んだと言い難く、… したがって、… 私傷病による欠勤中の賃金に係る労働条件の相違があることは、不合理であると評価することができるものとはいえない」

■ハマキョウレックス最高裁判決との違い

上記両事件の判決多数意見には、ハマキョウレックス事件最高裁判決(平成30年6月1日・民集第72巻2号88頁)よりも後退しており、多数意見には、ハマキョウレックス最高裁判決が引用されていない(メトロコマース事件の林景一裁判官の補足意見には付言として触れられているだけ)。

周知のとおり、ハマキョウレックス事件は、無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当、皆勤手当について、不合理な格差として違法と判断したものであり、その最高裁判決では、正社員の人材確保やその定着については触れられていなかった(他方、その原審大阪高裁判決は正社員の人材確保やその定着を不合理といえない理由としてあげていた)。

さらにハマキョウレックス最高裁判決は、職務内容等について相違があっても均衡がとれた労働条件でなければならないと判示していた。

ところが、本件両事件最高裁判決は、「正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、正社員に対して賞与ないし退職金を支給する」旨を判示している。これは、経営側が主張する正社員らの「有為な人材確保」や「長期雇用のインセンティブ」論を採用したこととなる。しかも、職務内容等に一定の相違するとしても、その相違と労働条件の相違について、均衡がとれているかについては何ら検討すらしていない。

この点については、ハマキョウレックス事件最高裁判決は各種手当の不合理性が問われた事件であるから、有為な人材確保や長期雇用インセンティブが妥当せず、賞与や退職金の場合には、有為な人材確保論などが妥当するという切り分けなのだろうか。

だから大阪医科大学及びメトロコマース事件については、最高裁第三小法廷は、あえてハマキョウレックス事件最判を多数意見では引用してないと思われる

■私傷病による欠勤の賃金の取り扱いについて

大阪医科大学事件最高裁判決は、私傷病による欠勤の賃金支給について、正社員の雇用の維持確保を前提する制度であり、長期雇用を想定されない有期雇用労働者、あるいは3年余り程度では相当の長期の及んだといえないとして、その格差は不合理とはいえないと判断している。

これは日本郵便事件の大阪高裁判決が有給の私傷病休暇や夏期冬期休暇制度について、5年雇用継続で区分けした(5年を超える原告については不合理で違法)論理に通じるものとなる。この論理では、日本郵便事件では、夏期冬期休暇制度及び有給の病気休暇制度について3年や5年での区分する判断がなされる可能性が高い。

■最高裁判決の保守性

大阪医科大学事件、メトロコマース事件からうかがえるのは、最高裁判所が日本型の正社員中心の長期雇用システムを維持することに固執し、非正規雇用の労働条件の格差はやむを得ないものであり、相当の著しい不合理でないかぎり容認する考えをもっていることである。

日本型労使慣行、正社員の長期雇用システムが日本型資本主義の根幹であるとの古い考え方が最高裁には牢固に残存しているのであろう。

しかし、もはや非正規社員の比率は全労働者の約38%に及び、女性労働者の過半数の55%は非正規労働者であり、若者の多くは正社員として採用されていないのが日本の現実である。

このまま非正規労働者の格差を放置すれば、日本の国民経済自体が崩れていくであろう。

その意味では、「資本家的理性」からしても、この格差を是正すべきなのは明白であろう。だからこそ、政府でさえ「同一労働同一賃金」の「スローガン」が唱えている。その流れに逆行し、この「国家理性」というか「資本家的理性」の労働法政策さえ否定しまう最高裁の判断は、すみやかに克服されなければならない。

来年の春闘では、多くの職場でパート有期雇用労働法8条、9条に基づき、非正規労働者の労働条件の改善を求める取り組みが強められる。その動きに冷水を浴びせた最高裁判所の保守性は、厳しく批判されなければならず、それを克服する努力をけっしてあきらめてはならない。

次の日本郵便労契法20条事件では、勝訴して踏みとどまり、次の一歩に踏み出すことになろう。

 

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2019年8月13日 (火)

これからの「雇用の在り方」と「正義」について  -小熊英二「日本社会のしくみ」を読んで

■本書概要

 社会学者の小熊英二教授(慶応大)の600頁もの分厚い新書です。「日本の社会のしくみ - 雇用・教育・福祉の歴史社会学」(2019年7月20日発行)と銘打っています。


 序章で、小熊教授は「本書が検証しているのは、雇用、教育、社会保障、政治、アイデンティティ、ライフスタイルまでを規定している『社会のしくみ』である。雇用慣行に記述の重点が置かれているが、それそのものが検証の対象ではない。そうではなく、日本社会の暗黙のルールとなっている『慣習の束』の解明こそが、本書の主題」と書いています。

最後に次の質問をかかげます。

 スーパーの非正規雇用で働く勤続十年のシングルマザーが「昨日入ってきた高校生の女の子となんでほとんど同じ時給なのか」と相談してきた。あなたらどう答えるか。

 

 これへの回答は社会のしくみによって異なるということを論証するものです。


 本書は各章の冒頭に「本章の要点」が記述されています。その中から私が特徴的だと思った一部を抜粋すると次のとおりです。

第1章 日本社会の「三つの生き方
 「大企業型」「地元型」「残余型」の三つの生き方の類型がある。大企業型(大卒で大企業や官庁に勤務する正社員・終身雇用の生き方)の比率は26%だが、これが全体の構造を規定している。

第2章 日本の働き方、世界の働き方
 欧米は企業横断的な採用や昇進のルールがあり、「職務の平等」が志向され、企業横断的な職務の専門能力や大学院の学位が有利となる。日本は、「職務の平等」よりも「社員に平等」を志向して、社内のがんばりが評価される。

第3章 歴史のはたらき
 欧州では職種別組合が発達し、職種別の技能資格や職業教育、企業を横断する人材移動となり、労働運動の中で社会保障や政党の在り方と結びついて社会のしくみができた。米国では科学的管理法から職務(Job)の観念が生まれ、労働運動や差別撤廃の公民権運動、専門職団体によって職務の平等が広がった。長期雇用は必ずしも日本型雇用の特徴ではなく、日本型雇用の特徴は、欧米と異なり、企業横断的なルールがないことである。

第4章 「日本型雇用」の起源
 明治初期は日本も「渡り職人」が中心であった。明治期の官庁制度や軍隊型の階級制度がその起源であり、官営工場の払い下げにより民間にも広まった。戦前の職工差別は激しく、「身分差別」として労働者に受け取られていた。

第5章 慣行の形成
 新卒一括採用、定期人事異動、定年制、大部屋型オフィス、人事考課などは明治期の官庁や軍隊にその起源が求められる。日本では、学校が企業に対して人材の品質保証する機能を担った。

第6章 民主化と「社員の平等」
 戦時期の総力戦体制から戦後の民主化の中で「社員の平等」(職工差別の解消)への道が開かれ、戦後の労働運動は年齢と家族に応じた生活給のルールを確立した。1950年代半ばから大企業と中小企業の「二重構造」が問題とされた。
1960年代前半は政府と財界は、職務給と普遍的社会保障、企業横断的労働市場による変革を構想したが、経営者はこれに抵抗し、労働組合も強く反対した。

第7章 高度成長と「学歴」
 進学率の上昇により中卒就職者が減少し、高卒者が新卒一括採用により現業労働者に配置され、大学進学率も高まり大卒者が過剰となり、それへの対応として全社員を「能力」を査定して資格を付与する職能資格制度が導入された。この職能資格制度も戦前の官庁・軍隊型のシステムであり、人事担当者らもこれを自覚していた。

第8章 「一億総中流」から「新たな二重構造」へ
 1974年で大企業正社員の量的拡大は終わった。企業は日本型雇用の重み意苦しみ人事考課の厳格化、出向・非正規・女性などの「社員の平等」を適用しない外部をつくり出す。1980年代に正社員と非正規社員の新たな二重構造が問題となる。1990年代以降は日本型雇用慣行は適用対象を限定しても、コア部分では維持される。

終章 「社会のしくみ」と「正義」のありか

■「職務の平等」と「社員の平等」

 アメリカでは、第1次世界大戦前後は、職長が仕事を一定の予算で企業から請負って、その予算の範囲内で配下の労働者の賃金を決定していた。そこでは恣意的に処遇が行われて労働者に不満が強かった。また、雇用主は職長を通して企業への忠誠度を査定させて組合活動家を差別していた。これに対抗して、労働者は1910年代から、職長による不公正な処遇の改善、同一労働同一賃金を要求した。同じ仕事をしていれば同じ賃金を支払われるべきだと。そこで、職務記述書が重要となった。労働組合は、同一労働同一賃金の職務給、先任権、雇用保障を要求した。産業別労働組合が、職務の保有権の確立、賃金ルールの明確化と産業別の「標準賃金」確立を求めたたたかった。

 ドイツでは、職種別労働組合を通じて技能資格を得て雇用主がその組合員を雇用するというシステムであり、職種別により賃金が決まった(協約賃金)。この職種別労働組合や産業別労働組合などが社会民主党の基盤となり、社会のしくみが決まっていった。

 このように、欧米は、企業横断的な「職種」や「職務」を通じて、企業横断的な賃金(協約賃金、標準賃金)を決めて、職務の平等を志向した。これに対して、日本では、職務の平等ではなく、「社員の平等」を強く志向し、雇用の安定も企業内での雇用保障を求めて、職務の安定は二の次であった。

 なお、小熊教授は、濱口桂一郎氏が日本型雇用を「メンバーシップ型」、欧米型を「ジョブ型」とする考え方を紹介しつつ、日本は「企業型メンバーシップ」であり、西欧は「職種のメンバーシップ」と形容したほうが良いという(本書200頁)。

 日本の労働運動は「職員」の特権であった長期雇用と年功賃金を「労働者」まで拡張させて「社員の平等」を志向したが、他方で経営者の裁量で職務が決まることや他企業との企業規模での断絶があることを受け入れた。一方、アメリカは、同一の職務は同一の賃金を支払うという「職務の平等」を志向したが、他方で職務がなくなれば一時解雇されることを受け入れた。

 それでは、日本の今後は?

■終章の「社会のしく」みと「正義」のありか

 小熊教授は、透明性と公開性の向上が必須であり、横断的労働市場や男女平等が実現する方向でなければならないとしつつ、「本書は具体的なの政策提言の書ではない」として、労働や社会保障、教育の専門家に委ねるという。

 最後に、社会の価値観をはかるリトマス試験紙のような質問を紹介している(金子良事・達井葉二「年功給か職務給か?」労働情報2017年4月号)。

 スーパーの非正規雇用で働く勤続十年のシングルマザーが「昨日入ってきた高校生の女の子となんでほとんど同じ時給なのか」と相談してきた。あなたらどう答えるか。

 三つの回答例が書かれています。


 日本型の回答①(生活給の論理)、アメリカ型の回答②(同一労働同一賃金の論理)、そして、ドイツ型の回答③(社会民主主義的回答)です。是非、この本を読んで考えてみてください。

 


(付録 私の回答)
 上記相談事例は、まさに「丸子警報器パート差別事件」そのままの事案です(長野地裁上田支部・1996年3月15日判決・労働者側勝訴)。労働弁護士として、私がこの方に相談されたら、そのスーパーの正社員の職務等とシングルマザーの担当職務等を比較して、その相違が合理性があるかどうかを詳しく聞きますね。是正する法律手段はあります。そして「是非、格差是正のためにみんなで労働組合をつくって使用者に団体交渉で要求しましょう。また交渉決裂したら裁判を挑みましょう。」という回答になります。
 ‥‥ただ、こんな労働運動として個人が行動するのは、今や難しいですよね。なぜ、労働者の権利意識がこれほど消極的になったのか、社会学的にどう見ているのか小熊教授に聞いてみたいです。

 もっとも、この本はこういう労働法としての相談ではなく、社会の価値観としてどの方向を選びますかということが主題です。それは有権者である一人一人の選択で決めることができるはずです。本来は。

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2018年12月11日 (火)

われらはレギオン 1~3  AI 恒星間探査体

早川書房から、「われらはレギオン」1~3巻が発刊され、Kindle本で購入して、この1週間で全冊を読みました。幸せな読書時間をすごせました。

ソフトウェア会社の社長兼プログラマーのボブ・ジョハンスンは、2016年にアメリカSF大会の会場で交通事故にあい死亡した。目覚めてみると、なんと117年後の2133年6月24日、キリスト教原理主義国家となったアメリカで、恒星間探査機の電子頭脳になっていた!


はからずもほぼ無尽蔵の寿命と工業生産力を手に入れたボブは、人類の第2の居住地を探して近隣の星系を探索し、つぎつぎに新発見や新発明を成し遂げていく!傑作宇宙冒険SF、3部作



人の死亡した全脳をコンピューターにコピーして人格がすべてAIに移し替えられた。
生き返った(?)、117年後の地球では、キリスト教原理主義が政権をとって宗教国家となっているアメリカ。(今のアメリカの状況のパロディです)。AIは不死だし、コピー(AIのクローン)も無限大につくれる。

ボブが生き返った2133年の世界は、ヨーロッパ合衆国、中国、ブラジル帝国がしのぎをけずっていて、ブラジル帝国が核戦争を遂行して人類が滅亡の危機に陥っていた。


(ブラジル帝国はガンダムのジオン公国のように小惑星を地球に落としちゃう)

(日本は中国に支配されています。日本人が宇宙船である惑星に移住する話がちゃんとでてきます)

(中国のAI宇宙船は悪逆非道・暴虐な異星人にのっとられて、暴虐な異星人(のAI)が中国語を話すので、中国は人類どころか全宇宙の知的生命体の敵のようになりますが)

そこで、人類が植民可能な惑星を求めて、ボブの知性や人格(?)が移し替えられたAIを搭載した恒星間探査機が他の植民可能な太陽系を探しにでる。

しかも、ボブのAIはどんどんコピーができる。小惑星の金属資源さえあれば、スパー3Dプリンターで量産可能というわけで、最後は500体ものボブAIがコピーされる。

ボブがSFオタクで、スターウオーズとスタートレックなどのSF映画大好きの陽気なオタクで、実存的悩みを知らずに、どんどん深い宇宙に探検にでかける。

中高生のころに、スミスの「レンズマン・シリーズ」、バロウズの「地底世界ペルシダー」、ハイランの「宇宙の戦士」、A.C.クラークの「幼年期まで」「2001年宇宙の旅」「宇宙のランデブー」、スタニスワフ・レムの「ソラリス」「無敵」「エデン」などのSF小説を夢中になって読んだ気分を思い出させる幸せな読書でした。

SF小説好きの人には是非おすすめです。

日頃のストレスや嫌なことをすべて忘れることができます。
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B07JGQTMNY/ref=series_rw_dp_sw
[デニス E テイラー]のわれらはレギオン1 AI探査機集合体 (ハヤカワ文庫SF)

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2018年11月11日 (日)

韓国大法院判決(2018年10月30日新日鐵住金徴用工事件)を読む

■メガトン級破壊力の韓国大法院判決


2018年10月30日の韓国大法院は、「強制動員生還者」の韓国人(遺族)を含めて、1億ウオン(約1000万円)の慰謝料請求権を認めて、新日鐵住金に賠償金の支払いを命じる判決が言い渡しました。

私は、日本がアジア諸国を侵略し、朝鮮に対して不法で過酷な植民地支配をしたものと確信しています。その私から見ても、今回の韓国の大法廷判決はビックリです。

今後の日韓関係に長期間にわたり深刻な悪影響を与えると感じます。また、日本にとっては、韓国との関係にとどまらない大変な影響をもたらすものです。

今まで新聞記事の要約でしか、この判決文がわかりませんでしたが、全文が翻訳(仮訳)されたので、読んでみました。また、当該事件については、大法院は、2012年5月24日に判決を言い渡しており、その差し戻し審の再上告事件として今回判決が言い渡されたものです。

http://justice.skr.jp/koreajudgements/12-5.pdf?fbclid=IwAR052r4iYHUgQAWcW0KM3amJrKH-QPEMrH5VihJP_NAJxTxWGw4PlQD01Jo

また、日本の最高裁は、中国人の強制徴用に関して、2007年4月27日「日中戦争の遂行中に生じた中華人民共和国の国民の日本国又はその国民(法人含む)に対する請求権は、日中共同声明5項によって、裁判上訴求する権能を失った」と判決しています。これと読み比べてみます。


■2018年10月30日大法院判決のポイント

核心的争点は、「植民地時代に日本企業に強制動員(徴用)された韓国の徴用工が日本企業に対して、1965年の「日韓請求権協定」にもかかわらず、慰謝料損害賠償請求権を裁判上請求できるか」という点です。

今回の大法院判決は次のように判断します(上告理由第3点)。

(1)本件は、不法な植民支配・侵略戦争に直結した日本企業に対する反人道的な不法行為の慰謝料請求権であり、未払い賃金や補償金を請求しているものではない。

(2)請求権協定は、不法な植民支配に対する賠償ではなく、サンフランシスコ条約第4条(a)に基づく債権債務関係の処理だけであり、植民地支配の不法性に直結する請求権まで含むものではない。

(3)請求権協定第1条により日本が韓国に支払った3億ドルの無償提供及び2億ドル借款は、同協定2条の請求権放棄と法的対価関係にはない。

(4)請求権協定の際に、日本政府は、植民地支配の不法性を認めないまま強制動員被害の法的賠償を否認した。

(5)請求権協定の交渉の際に、韓国が日本に対して8項目に対する補償として総額12億2000万ドルを要求し、そのうち3億6400万ドル(約30%)を強制動員被害補償に対するものとして算定していた事実を認めることができるが、実際の請求権協定は極めて低額な無償3億ドルで妥結し受け取ったものであり、強制動員慰謝料も請求権協定の適用対象者に含まれていたとは言いがたい。


■請求権協定の文言

大法院判決は請求権協定を引用します。請求権協定第1条に3億ドルの無償供与と2億ドルの借款が定められ、第2条1項に次のように定められています。(しかし、大法院判決は両条は対価関係には立たないとします。)。

1. 両締約国は、…両国間及びその国民間の請求権に関する問題がサンフランシスコ平和条約第4条(a)に規定されたことを含め、完全かつ最終的に解決されたことを確認する。

2. (略)

3. …一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益として、本協定の署名日に他方の締約国の管轄下にあることに対する措置と、一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権として同日付以前に発生した事由に起因することに関しては、如何なる主張もできないこととする。
 

さらに請求権協定に関する「合意議事録(Ⅰ)」には次のとおり定めています。
(a) 財産、権利及び利益とは法律上の根拠に基づいて財産的価値が認められる全ての種類の実体的権利をいう

(e) 同条3.によって取られる措置は、同条1.でいう両国及びその国民の財産、権利及び利益と両国及びその国民間の請求権に関する問題を解決するために取られる各国の国内措置をいう。

(g)同条1.でいう完全かつ最終的に解決されたことになる両国及びその国民の財産、権利及び利益と両国及びその国民間の請求権に関する問題には、韓日会談で韓国側から提出された『韓国の対日請求要綱』(いわゆる8項目)の範囲に属するすべての請求が含まれており、したがって同対日請求要綱に関しては如何なる主張もできなくなることを確認した。


■2005年の韓国政府公式見解と追加措置


大法院判決は、次のような2005年の韓国政府の公式意見と追加措置を認定しています。(故盧武鉉大統領時代です。)

韓国政府が設置した請求権協定を検討する民官共同委員会を設置し、2005年8月に「請求権協定は、サンフランシスコ条約第4条に基づき韓日両国間の財政的・民事的債権債務関係を解決するためのものであり、日本軍慰安婦問題等、日本政府と軍隊の日本国家権力が関与した反人道的不法行為については請求権協定で解決されたものとみることはできず、日本政府の法的責任は残っており、サハリン同胞問題と原爆被害者問題も請求権協定の対象に含まれなかった」と公式意見を表明しています。

しかし、同時に、この公式意見では次の内容も含まれていたと認定しました。


○「韓日交渉当時、韓国政府は日本政府が強制動員の法的賠償、補償を認めなかったことにより、苦痛を受けた歴史的被害事実に基づき政治的補償を求め、このような要求が両国間無償資金算定に反映されたと見なければならない」


○「請求権協定を通して日本から受領した無償3億ドルは、個人財産権(保険、預金等)、朝鮮総督府の対日債権等、韓国政府が国家として有する請求権、強制動員被害補償問題解決の性格の資金等が包括的に勘案されたものと見なければならない」


この公式意見に基づき、韓国政府は、2007年犠牲者支援法により、強制動員犠牲者には2000万ウオン、強制動員生還者には80万ウオンを支給したことも認定しています。


■大法院判決への私の疑問

私は弁護士ですが、国際法の専門家ではありません。ただ、その普通の弁護士がこの判決を読んだとき、次の疑問が生じました。

● 韓国政府の対日要求8項目には、強制動員被害者の精神的肉体苦痛に対する要求も含まれていたことは大法院判決も認めている。にもかかわらず、請求権協定の対象に含まれないといするのは不合理。金額が少ないからという理由は根拠として不十分ではないか。前記「合意議事録(Ⅰ)」の(g)にも反するのではないか。

● 請求権協定は、サンフランシスコ条約4条(a)が債権債務関係の処理であることは間違いないが、請求権協定の文言は、「サンフランシスコ…平和条約第4条(a)に規定されたことを【含め】、完全かつ最終的に解決された」としており、【含め】と明記されている以上、同条約第4条(a)以外の規定されたものも含まれていることは明白です。それは他の問題、すなわち「韓国の歴史的被害事実」に基づく関係も含まれると解釈するのが自然な解釈でしょう。もし違うというなら、第4条(a)以外の関係とは何なのでしょうか。この点、大法院判決も「そう解釈される余地がないではない」と歯切れが悪いです。

● 大法院判決は、不法行為の慰謝料請求権であることを強調し、この慰謝料請求権は請求権協定の対象外としています。では、賃金請求権等は請求権協定の対象となっており、徴用工は請求できないと判断しているのでしょうか。この点、大法院判決は明確ではないように思います。しかし、サンフランシスコ条約4条の規定に賃金請求権は含まれるでしょうから、請求権協定の対象となるでしょう。大法院は、この賃金請求権については判決で認容するのでしょうか。しかし、この場合には、請求権協定の対象になるといっているように読めます。

● 日韓政府の条約であっても、国民個人の請求権を奪うことはできないという判断は、一般論としてはそのとおりでしょう。しかし、その個人の請求権を国内措置として裁判所が判決として支払いを命じることは、上記「合意議事録(Ⅰ)」の(e)の国内措置(当然、国内の裁判制度や判決も含まれる)をとらないとの確認に反しているでしょう。


■日本の2007年4月27日最高裁判決


http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=34580

この日本の最高裁判決の事案は、中国から強制連行された中国人が日本企業に対して安全配慮義務違反等があったとして損害賠償請求を求めたものです。韓国の徴用工と同じ事案と言って良いでしょう。

問題は、サンフランシスコ条約や日中共同声明での請求権放棄によって、上記中国人の請求が認められるかどうかです。

サンフランシスコ平和条約14条(b)は、「この条約に別段の定がある場合を除き、連合国は、連合国のすべての賠償請求権、戦争の遂行中に日本国及びその国民がとつた行動から生じた連合国及びその国民の他の請求権並びに占領の直接軍事費に関する連合国の請求権を放棄する。」と定めています。
日本の最高裁は、上記サンフランシスコ平和条約について「将来に向けて揺るぎない友好関係を築くという平和条約の目的を達成するために定められたものであり、この枠組みが定められたのは、平和条約を締結しておきながら戦争の遂行中に生じた種々の請求権に関する問題を、事後的個別的な民事裁判上の権利行使をもって解決するという処理にゆだねたならば、将来、どちらの国家又は国民に対しても、平和条約締結時には予測困難な過大な負担を負わせ、混乱を生じさせることになるおそれがあり、平和条約の目的達成の妨げになるとの考えによる」と判断しました。


日中共同声明5項は、「中華人民共和国政府は、中日両国民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する
」としています。

この趣旨は、サンフランシスコ平和条約の枠組みと同じであり、ここでいう請求権の放棄とは、請求権を実体的に消滅させることがまでを意味するのではなく、当該請求権に基づいて裁判上訴求する権能を失わせするにとどまるもの」とし、「債務者側(日本企業)が任意で自発的な対応することは妨げられない」としました。

上告人(日本企業)を含む関係者において、本件被害者らの被害の救済に向けた努力をすることが期待される」と判示しました。その結果、当事者間の話し合い、努力により、裁判外の和解により日本企業が中国人被害者に和解金を支払って、一定範囲の中国人徴用工に和解金を支払う基金を設立して解決しました。


この日本の最高裁の判決は国内でも賛否両論ありますが、一つの知恵であることは間違いないと思います。

両国間で請求権放棄で協定(条約)を締結した以上、個人的権利はあるが、裁判所に請求しても、裁判所が判決を下す措置はしないという約束になっている、ということです。このような権利を、民法では「自然債務(自然債権)」と呼んでいます。

この韓国の新日鐵住金の原告らは日本で訴訟を提起しましたが、日本の最高裁判所で上記判例に則って2008年10月9日に敗訴しています。


■どちらにしても両国の最上級裁判所が判決を下しました

韓国の大法院や日本の最高裁の判決に疑問を述べても詮無いことです。それぞれ最上級裁判所ですから、韓国政府も日本政府もそれぞれ自国の裁判所確定判決に従うしかないのです。


■大法院判決の巨額かつ幅広い衝撃

大法院判決が原告一名につき1億ウオン(約1000万円)の損害賠償を認めたわけですから、韓国国内で新日鐵住金の資産を強制執行することができます。また、第三国でも強制執行できます。第三国の裁判所が強制執行を認めたら、ですが。第三国としては、中国やアメリカ、ロシアでの強制執行が予測されますね。

強制動員被害者(徴用工)は、韓国政府から補償を受けているわけですが、韓国政府が認定した強制動員被害者は22万人もいるそうですから、これだけで2兆円となります。消費税の1%分の巨額な金額です。
さらに、中国も中国の裁判所で韓国大法院と同様の判決を下す可能性が十分あります。韓国と同様の数が存在するのではないでしょうか。
そして、何よりも大きな問題は北朝鮮です。


北朝鮮と将来国交正常化した場合
には、韓国に無償供与3億ドル及び借款2億ドルと同等の戦後補償を支払うことが想定されます(現在価値だといくらになるのか不明ですが、5兆円ともいわれています)。そして、さらに大法院の判決でいきますと、北朝鮮の個人被害者に一人1億ウオン(約1000万円)を支払わなければなりません。おそらく少なくとも韓国の22万人規模の被害者とその遺族が存在するでしょう。これを2兆円ですから、北朝鮮との戦後処理には7兆円が必要となるわけです。


日本が韓国大法院の判決を受け入れるなら、日本企業は少なくとも韓国へ2兆円、北朝鮮へ2兆円の4兆円を負担
しなければならなくなります。さらに、中国にも負担しなければならないリスクを負うことになります。韓国の人々にとっては日本の自業自得で冷笑していれば良いのでしょう。しかし、日本にとっては大変な問題になります。

大法院判決に基づき日本側の対応を求める一部の野党もあります。しかし、このような2兆円を大きく超える負担を日本企業及び日本政府に負わせることを提案しているのでしょうか。そして、このような巨額な負担と支払いをすること及びそのような政党に、日本人の
多数が賛成すると思っているのでしょうか。不可解。
確かに理想的な解決は、日本の最高裁が推奨したように、日本企業が中国徴用工と和解したように、日本企業が基金をつくって自発的な補償をするということでしょう。

しかし、上記のような天文学的な巨額負担は、現実的な和解水準をはるかに超えているでしょう。他方、韓国としては、大法院が1億ウオンと判決した以上、これを下回る水準の解決はありえないでしょうし。


韓国政府が妥協しようとしても、慰安婦合意のように韓国国民が受け入れないことは目に見えています。つまり、この大法廷判決には現実的な解決策が見えないのです。

この大法院判決の影響は、日韓の関係だけでなく、北朝鮮との戦後処理問題や中国との戦後処理問題にも飛び火することになり、そうしたら、日本はにっちもさっちもいかなくなります

韓国政府も相当に困っているのではないでしょうか。慰安婦問題についても打開策が見えません。他方、日本と決定的に対決することにも踏み切れないでしょう。


韓国としては、今後も、北朝鮮との国交正常化(日本の戦後補償の支払いを想定している)、そして、中国、アメリカの間で微妙な舵取りをしなければならず、そういう中で日本との関係も断ち切るのは韓国にとって損なはずです。でも、韓国国内からの突き上げは激しい。どうするんだろうと人ごとながら心配になります。

(盧武鉉大統領の妥協線が一番良かったのでは、、、)



■請求権協定第3条の仲裁委員会による解決

日韓請求権協定第3条には、この協定に関する両国の紛争は外交上の経路を通じて解決するとしつつ、外交上解決できない場合には、仲裁することが定められています。

一方の国が正式に仲裁要請する文書を出せば、30日以内に両国がそれぞれ1名の仲裁委員を任命し、両仲裁委員は30日以内に第3の仲裁委員を指名して、3人の仲裁委員会に付託する。両国政府は、この仲裁委員会の決定に服するものとすると定めています。

最後は、これによる解決しかないでしょう。

なお、韓国の憲法裁判所は、この仲裁委員会の規定をあげて、慰安婦問題について政府の外交努力が不十分で憲法違反と判断しています(2011年8月30日判決)。

その第三国の仲裁委員って、日韓両国が同意するのは、アメリカなんでしょうか。あるいは中立国のスウェーデンとか。(もっとも、欧米だと、どこも植民地をもった元帝国主義国家だねえ)

この仲裁委員会をつくって、日本の韓国・朝鮮半島被害者に対する補償を目的とする現実的な水準の金額を定める基金制度をつくっていくしか、解決の方向性がないのではないでしょうか。大法院や最高裁の判決を超える手段って、このような国際的枠組みしかないように思います。

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2018年10月 7日 (日)

働き方開殻関連法の労組向け学習会(出版労連)

 先日、出版労連の秋季年末闘争権利討論集会にて「働き方改革法で労働時間短縮は可能か-労働運動の課題」ということで話をしてきました。参加されていた北健一さんに1時間の講演を要領よくまとめてもらいました。出版労連の機関誌10月日に掲載されています。私が手を加えたものを掲載しておきます。

 「働き方改革関連法」というと、「過労死推進の高度プロフェッショナル制度」や「過労死許容水準の上限規制」という問題点が指摘されて、弊害のみが注目されました。成立前は、よりよい立法を求めるために当然のことです。

 しかし、問題点もあるが、成立してしまった以上、労働条件改善のために役立つ部分を労働組合いは、最大限活用して、労働時間短縮を目指すことが本来の任務だと思います。往々にして「悪法だ」と決めつけてしまって内容をよく見ないという傾向の労働組合を散見します。

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出版労連学習会 働き方改革関連法にて「労働時間短縮」が実現できるか。

「働き方改革」と労働組合の課題    弁護士 水口洋介

 「働き方改革」法案は6月29日、残念ながら大きな問題を含んでまま国会で成立しました。一番大きい問題は高度プロフェッショナル制度(高プロ)という「働かせ方放題」の制度が入ったことです。他方、今日はふれませんが、いわゆる同一労働同一賃金の原則、正確には「雇用形態による不合理な格差是正」も法律に含まれ、これは活用できる点もあります。

 立法趣旨である「長時間労働の是正」という目標は正しいですし、実現を促進すべきものですが、法律の内容は微温的かつ実効性に乏しいものです。ただし、問題点はあるが、活用できる部分がある。少しでも使える法律が成立したら、使えるものは積極的に使い、悪い部分は職場への導入を阻止して、職場での働き方の改善を進めるのが労働組合の任務です。

 

 政府は、日本も時短が進んで1800時間未満を達成したと言いますが、これは実態にあっていません。先日亡くなった関西大名誉教授の森岡孝二先生も『働き過ぎに斃れて』で書かれているように、正社員の労働時間の実態は不払い(サービス)残業も加えると年2000時間を大きく超える長時間労働が続いています。こちらが実態です。

新自由主義の経済学者らは、「高プロは、時間ではなく成果を基準にした新しい賃金制度だ」と言います。その根本にある発想は、労働者が残業代欲しさにダラダラ残業しているから、長時間労働が是正されない。そこで、高プロを導入して、労働時間を長くしても残業代がなければ、無駄に残業をせず、労働時間が短縮されるというものでしょう。

しかし、残業が発生する原因を労使にアンケート調査した結果は、労使とも、①顧客の臨時的な、過剰な要求に対応しなければならない。②業務量に対して人員が不足している、と答えています。つまり、労働者が残業代欲しさにだらだらと残業することが原因だとは、労働者のみならず、使用者も言っているのです。この①と②とを何とかしないと、企業間競争、労働者間競争のなか、長時間労働にまい進せざるを得ない。


 私は1986年に弁護士になりました。そのころから長時間労働は変わっていません。NHK出身の放送ディレクター、熊谷徹さんの『ドイツ人はなぜ、1年に150日休んでも仕事が回るのか』によると、ドイツでは1日8時間の原則が厳格で罰則が厳しい。

 ドイツでも昔から短かったわけではありません。1970年代に労働運動がストも含めて週40時間制を獲得。1985年には金属産業の産別IGメタルが大闘争をして、週38時間制を獲得します。産別が強く、労働協約で獲得しているのです。法律では週48時間で、一日最大10時間まで上限(6ヵ月でならして8時間になることが必要)です。この場合には一日2時間の残業は許されます。また、勤務間インターバルが11時間と設定されています。

 このような働き方は、消費者や顧客にとっては不便ですが、顧客も我慢する。それはお互いさまだからです。「短時間労働でいい、人生の意味は休暇にあるんだ」という価値観が浸透しているのです(ただ抜け道はあって、フリーの独立契約者に外注し、そこにしわ寄せがいっているようですが)。

 日本には、ドイツのような強力な産別労働組合はありません。そこで、法律規制を行うことが重要です。そこで、今回の法改正です。これまでは36協定を結びさえすれば、上限を何時間にしようと罰則はありませんでした。それが36協定を結んだ場合の「残業の上限」が「原則月45時間、年360時間」となりました。「年720時間以下、単月100時間未満、複数月平均80時間以下」を上限に特別条項を結べますが、これの特別条項は、通常想定されない臨時的な事情などの「特別の例外」の場合です。

出版業界では、教科書改定期の繁忙さや雑誌発行に伴う〆切り間際の忙しさの実情を聞きました。労働者の側には36協定を締結する義務はありません。拒むこともできる。それを〝武器〟に会社と交渉し、働き方の改善を進めていくことが必要です。

労働時間の把握を客観的に(タイムカードやパソコンの起動の記録等)行わなければいけないということも、労働安全衛生法改正で入りました。自己申告制など労働時間把握がルーズなら、労使で協議して客観的な方法に改善すべきです。勤務間インターバル制度は法律上、努力目標ですが、運用として許容されている職場は多いと思うので、労使で合意し制度化することが推奨されます。


 年次有給休暇の使用者(会社)による付与制度もできました。現状の日本では、6ヵ月間継続勤務し労働日の8割以上出勤すると10日間の有給休暇が与えられ、就職から66ヵ月で上限の20日間になりますが、取得(消化)率は47%にとどまっています。



 今回、
10日以上の年次有給休暇が残っている労働者に、毎年5日間、使用者が有給休暇をいつ取るかを指定することができるようになりました(使用者の時季指定義務、労基法39条7項)。来年の4月1日施行なので、組合は各職場の希望を集約し、会社が一方的に指定するのではなく、労働者の希望を踏まえて指定するよう取り組まなければなりません。


 高プロの対象業務は今後省令で決まりますが、研究者、金融アナリスト、ディーラーなどが挙げられ、出版のなかには入ってこないんじゃないかと思っています。高プロ導入には労使委員会の5分の4の賛成が要件なので、組合が委員を送り込んでいれば阻止できます。ただ今後、対象業務が広がり、年収要件も引き下げられる恐れがあります。



 限界はさまざまありますが、「働き方改革関連法」は使える部分もあり、どう活用するかはそれぞれの労働組合の努力にかかっています。法律内容を確認した上で職場の実情にあわせて適用させ、時短に向けての業務の在り方を工夫し、少しでも労働時間を短くする方策を労使で検討しなければなりません。
36協定の内容、有休指定のあり方、インターバルの導入、この秋から19春闘にかけ、一つでも成果を獲得していきましょう。

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2018年6月30日 (土)

W杯 日本VS.ポーランド戦 2018.6.28

【0-1】で日本が敗戦したにもかかわらず、フェアプレイ・ポイントで決勝リーグ進出を果たした。

■世界中から批判を受けるのは当然

最後の約10分間 日本が敗戦を受け入れてパス回しに徹したことに、世界中から批判をあびている。当然だろう。日本は無様な試合を行い、日本がW杯史上最大の恥辱をおったことは認めざるを得ない。

■先発陣入れ替えの判断は?

ただ、より大きな問題は、先発6人を入れ替えたことだ。前半はなんとか機能していたが、後半、特に岡崎がいなくなった後、まったく戦えなくなった。特に、宇佐美が機能せず、柴﨑やフォワード陣との連携もできなくなった。

西野監督の先発6人入れ替えの判断の適否こそ問われるべきであろう。決勝リーグを考えれば、好調の先発陣を休ませるという判断だったのだろうが、日本にはそれほどの余裕はないはずだ。控え組にそれだけの力量がないことは衆目の一致するところではなかったか。

特に、ディフェンス陣の昌子や長谷部、攻撃陣では香川、乾の先発欠場は痛かった。ディフェンスがセットプレイのときのマークをはずしてしまったことは、悔やんでも悔やみきれない。せっかく、GK川島が好セーブをしてくれていたのに。(サッカーには、ミスはつきもの。ミスしたあとのリカバリーできる選手こそ素晴らしい!)

■正当化できない最後のパス回し

そして問題の、最後のパス回し。セネガルが1点いれれば取り返しがつかない、大ギャンブルだった。これがロスタイムであれば、批判はされなかったと思うが、あまりに早くリスクが大きすぎる判断だった。(西野監督が幸運を持っていることは証明されたが!)

最後まで、1点を目指してたたかう姿勢の放棄は、世界中から批判をうけて当然だろう。

西野監督は、後半の日本チームの出来を見て、1点を奪えず、かえってカウンターで沈められると冷静に判断し究極の敗戦受け入れを批判を承知で決断したのであろう。

やむを得ない判断だったということは理解するが、だからといって、この判断が「正当だ」と擁護することはできない。西野監督も、不本意な手段であることを認め、選手にも謝罪している。

日本代表チームは、大きな恥辱をおってしまった。

しかし、まだW杯は終わっていない。

私は、客観的に見て、日本はグループ・リーグで3戦全敗するだろうと予想していた。それが喜ばしいことに大きく外れた。ベルギー戦も何が起こるかわからない。

■ベルギー戦での名誉挽回を祈る

名誉挽回のために日本代表選手は、さらに団結して、闘志を燃やすだろう。

ベルギー戦での勝利を祈るのみである。

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2018年6月12日 (火)

米朝合意 世界史的事件と日本 2018年6月12日

結果は、予想通り!
 
米朝合意は、包括的合意=抽象的合意であり、今後の紆余曲折が予想され、段階的なディール(条件交渉)がつづくでしょう。私の個人的予測では、北朝鮮が核兵器を放棄することはない。
 
それを承知のうえで、トランプ大統領、金委員長は相互に政治的な利益を配分した。華やかな政治ショウであり、世界史的な大事件です。
 
また、トランプ式の多角的(多国間相手の) ディールです。
朝日新聞ほかで、トランプ大統領の発言について次のように報道されています。
https://www.asahi.com/articles/ASL6D4J2VL6DUHBI02J.html?iref=comtop_8_02

トランプ米大統領は12日、シンガポールで行われた米朝首脳会談後の記者会見で、北朝鮮の非核化で必要となる費用について、「韓国と日本が大いに助けてくれる」と述べた。

 北朝鮮は制裁を受けており、費用を払えるのかと記者が質問。トランプ氏は「韓国と日本が大いに助けてくれると私は思う。彼らには用意があると思う」と答えた。さらに、「米国はあらゆる場所で大きな金額を支払い続けている。韓国と日本は(北朝鮮の)お隣だ」と強調した。

 
要するに、「シンゾー。拉致言ったから、非核化の金出せよ!」 なんて普通は恥ずかしくていえないんだけど、トランプ大統領だからこそいえるんですね。
 
この言い方は下品だけど、さすがトランプ大統領!
安倍晋三総理としては、けっして「ノー」とはいえないでしょう。私が、その立場としてもいえない。
 
ただ、昭和生まれの私としては、「アメリカの粗野な不動産屋に言われるまえに、日本政府にできることはなかったのかい。」と心底、残念に感じる。「まあ敗戦国で対米従属国家だから、アメリカ大統領に馬鹿にされても仕方がないか」と思う私が、情けない。
 
本来、日本のナショナリストこそ、怒らなきゃいけない。
 
が、ネトウヨや日本会議の人々は、米国には文句も言えないし。
他方、日本のリベラル派と左派は、第二次朝鮮戦争が遠のいたことを好機だと考え、北朝鮮の人権問題改善要求を前面に出す機会が到来したと思います。
朝鮮半島での軍事的緊張が緩和した今こそ、日本のリベラル派や左派は、核兵器完全廃止、朝鮮半島の非核化を北朝鮮に要求するだけでは足らない。
日本のリベラル派や左派としては、拉致問題を含めて北朝鮮の人権侵害状況が改善されない限り(人権状況の改善を約束しない限り)、日朝国交正常化や戦後補償としての経済協力は反対というスタンスを宣言するべきです。 現在の政府は、アメリカに言われたら、拉致問題や人権問題を、たなあげして日朝国交正常化、数兆円単位もの経済協力(円借款など)をしかねないと思います。
ついては、日本政府には、核兵器廃止(非核化)と拉致を含めて人権侵害状況を改善しないかぎり、平壌宣言を破棄すると、北朝鮮に通告することを求めるべきです。
 
日本は、トランプ大統領にならって、対北朝鮮外交をすべてゼロベースにもどして、トランプ大統領の「非核化の金を日本出せ」との恫喝に抗するためにも、ちゃぶ台返しをしてほしい。
まあ、日本政府と日本人には無理なのかもしれません。
 

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2018年6月 8日 (金)

労契法20条に関する最高裁の二つの重要判決2018.6.1

 注目されていた労契法20条の「ハマキョウレックス事件」と「長澤運輸事件」の最高裁判決が2018年6月1日に言い渡されました。

 判決内容は予想された範囲内のもので驚きはなかったのです。ただ、長澤運輸事件については、あたかも「最高裁は定年後再雇用有期労働契約の場合には労働条件の格差を容認した」とする報道がありましたが、事案から見ると一般化できない判断であり、報道の一人歩きが心配です。

■ハマキョウレックス事件

 無期契約労働者(正社員の運転手)と有期契約労働者(契約社員の運転手)を比較したハマキョウレックス事件では、正社員に支払われる無事故手当、作業手当、給食手当、皆勤手当、通勤手当が、契約社員に支払われないことは不合理と認められるとして、正社員との上記項目の差額全額を損害賠償請求として認めた。

 同最高裁判決の労契法20条解釈のポイントは

① 労契法20条は、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、その相違が不合理と認められるものであってはならないとするものであり、職務の内容等に応じた均衡のとれた処遇を求める規定である。

② 同条の規定は、私法上の効力を有するものと解するのが相当であり、有期労働契約のうち同条に違反する労働条件の相違を設ける部分は無効となるが、同条に違反する場合であっても、同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではない。

③ 同条の「期間の定めがあることにより」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいう。
 
④ 同条にいう「不合理と認められるもの」とは、労働条件の相違が不合理であると評価することができるという意味である。

 次に、本件事件への具体的な当てはめに関するポイントは

 正社員と契約社員との間には「職務の内容には違いがないが、職務の内容及び配置の変更の範囲に関しては、正社員は、出向を含む全国規模の広域異動の可能性があるほか、等級役職制度が設けられており、職務遂行能力に見合う等級役職への格付けを通じて、将来、上告人の中核を担う人材として登用される可能性があるのに対して、契約社員は、就業場所の変更や出向は予定されておらず、将来、そのような人材として登用されることも予定されていないという違いがある。」

 つまり、職務の内容は同じだが、正社員には出向を含む広域異動の可能性があり、等級役職の格付けにより、将来、企業の中核を担う人材として登用される可能性があるので契約社員とは職務内容及び配置の変更の範囲が異なるとする。

 したがって、住宅手当については、正社員には転居を伴う配置転換が予定されているため、住宅に要する費用が契約社員と比較して多額となる可能性がある。そこで、住宅手当を契約社員に支給しないことは不合理とは認められないとする。

 他方で、皆勤手当は、出勤を確保するため皆勤を奨励する趣旨で支給されているもので、正社員と契約社員の職務の内容が同じであり、出勤を確保する必要性は両者で変わらない。将来転勤や出向する可能性や、会社の中核を担う人材として登用される可能性の有無といった事情により異なるものではない。よって、皆勤手当の支給の相違は不合理と認められるとする。

 この最高裁判決で留意すべき点として、職務内容が同一でる場合、正社員と職務内容及び配置の変更の範囲が異なり、将来の中核を担う人材として登用される可能性が異なるとしても、上記各種手当(住宅手当以外)について、正社員と契約社員の差額全額を損害として賠償を命じている点である。
 日本郵便事件の東京地裁判決のように損害額を6割とか8割とするような減額を認めていない。

■長澤運輸事件

 長澤運輸事件も、貨物自動車の運転手の正社員と有期契約労働者(嘱託社員)との労働条件の相違が問題となった。嘱託社員は定年後有期労働契約として再雇用された労働者という事案である。また、正社員と嘱託社員の運転手は、職務内容が同じだけでなく、職務内容及び配置の変更の範囲も同一である。

 最高裁は、正社員の超勤手当と嘱託社員の時間外手当の相違、精勤手当が嘱託社員に支給されないことは不合理と認められるとしたが、能率給・職務給、住宅手当、家族手当、賞与の不支給は不合理と認められないとした。

 当事者の嘱託社員の労働者にとって不当判決であることは間違いない。

 ただ、この最高裁判決によって、定年後再雇用された有期契約労働者の相違が一律に許容されたものと一般化して考えるべきではない。それは長澤運輸事件の事案には特徴があるからである。

 同最高再判決の労契法20条解釈のポイント

① 定年後再雇用された者であることは、労契法20条のその他の事情として考慮される。

② 労働条件の相違が不合理かどうかは、賃金の総額を比較することのみではなく、賃金項目の趣旨を個別に考慮すべき。

 次に、本件事案への具体的な当てはめに関するポイント

① 嘱託社員らは、労働組合を通じて、再雇用後の労働条件改善を要求して団体交渉を行い、会社は労組要求をうけて、一部だが労働条件を改善していること

② 「嘱託社員の基本賃金及び歩合給」と、「正社員の基本給、能率給及び職務給」を比較すると、正社員のそれと嘱託社員3名との差は約2%、約10%、12%の範囲にとどまっていること、さらに嘱託社員は定年退職後に再雇用された者であり、一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることができる上、組合との団体交渉を経て、老齢厚生年金の報酬比例部分が支給されるまでの間、2万円の調整給が支給されることから、両者の相違は不合理なものと認められない。

③  「賞与」については、嘱託社員は定年後再雇用された者であり、定年退職時に退職金が支給されるほか、老齢厚生年金の支給が予定され、その報酬比例部分の支給されるまでの間調整給が支給される。また、嘱託社員の賃金(年収)は定年退職前の79%程度であること、嘱託社員の賃金体系は基本賃金の額は定年退職時における基本給の額を上回っており収入の安定を配慮しながら、歩合給に係る係数を増加させて労務の成果が賃金に反映されやすくしていることを、総合考慮して不合理と認められない。

 長澤運輸事件の事案は、労働組合の要求や団体交渉により一部労働条件が改善され、その結果、基本賃金が定年時点より増額され、調整給が月額2万円支給され、能率給と職務給が支給されないが、年収での差額が約79%であるという事実を前提とした判断である。

 このような事案において最高裁は、時間外手当と精勤手当以外の労働条件の相違が不合理なものとは認められないとしたものである。


 しかし、例えば、正社員との賃金(年収)の相違が79%ではなく、60%や55%のようにより低額である事案や、基本給部分が正社員と比較して低額に切り下げられた場合や、調整給支給などの工夫がない場合には、定年後再雇用だからといって、その賃金の相違(格差)がすべて不合理ではないとは判断されていないと読むべきであろう。

 多くの会社では、労働組合との交渉もなく、長澤運輸事件以上に定年後再雇用者の賃金は正社員と比較して低額とされていることが多い。定年後再雇用の場合にはどのような相違でも許容されるという判断を最高裁がしたものではない。逆に、長澤運輸事件のような工夫や調整をしてない場合には、不合理と認められる場合があることに留意したい。

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2018年6月 6日 (水)

改正民法「消滅時効」見直しと年次有給休暇請求権の時効

 現在の労基法115条は、この法律に規定する賃金その他の請求権は2年間で時効消滅する(ただし、退職金は5年間)と定めています。

 改正民法では、短期消滅時効(給料は1年)が廃止され、消滅時効期間10年は「主観的時効5年、客観的時効10年」に変更されます。労基法115条で定める2年の消滅時効より短縮されてしまいます。そこで、労基法115条の見直しが検討されています。
 この問題については以前にも次のブログに掲載しました(長文)。

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2018/02/post-6a29.html

 私の意見は次のとおりです。
(1) 賃金及び退職金債権などの賃金請求権については、改正民法166条1項のとおり、「権利を行使することができることを知った時から5年」(主観的時効5年)、「権利を行使することができる時から10年」(客観的時効10年)と労基法で定めるべき。
(2)  しかし年次有給休暇については、改正民法を適用するのではなく、労基法115条を改正して従前の消滅時効を2年間とすべき。

 ところが、労基法115条そのものを削除すべきとの意見が出されています。

■労基法115条削除論

 その意見は、「労基法115条をすべて削除して、改正民法の消滅時効の定め(166条1項)を適用すべきであり、その結果、年次有給休暇請求権も主観的時効5年とすべきであるというのです。

 しかし、この問題は、次の二つの観点から議論すべきです。

 第1点は、純粋に民法解釈の問題として、年次有給休暇請求権に改正民法166条がそのまま適用されると解釈できるか、という点です。

 第2点は、年次有給休暇の完全取得を促進する観点にたって、年次有給休暇が5年間行使しなければ消滅しない(5年間繰り越しできる)としたほうが労働者は年休を完全取得するようになるか、という点です。こちらが本質的な問題ですが。


■民法解釈として

 労基法39条に定める年次有給休暇請求権(年休権)の法的性格は、最高裁判所判決(最高裁昭和48年3月2日-林野庁白石営林署事件)により、次のように解釈上確定しています。

① 労基法39条所定の要件が充足されたときは、労働者は当然に年次有給休暇の権利を取得し、使用者はこれを与える義務を負う。

② 使用者に要求される義務とは、労働者がその権利として有する有給休暇を享受することを妨げてはならないと不作為を基本的内容とする義務にほかならない。

③ 労基法39条3項(現行法5項)の「請求」とは、労働者が年休をとる時季(時期)を指定したときは、使用者が時季指定変更権を行使しない限り、時季指定によって年次有給休暇が成立し、当該労働日における就労義務が消滅する。

 つまり、労基法39条5項の「請求」とは、年休の時季を指定する権利(時季指定権)にほからないと解釈されています。

 この意味での「時季指定権」とは、債務者に一定の義務を負わせる「債権」ではなく、意思表示によって一定の法律状態を形成をする権利(「形成権」)であると解釈されています(菅野和夫教授など通説)。

 時季指定権が「形成権」だとすると、改正民法166条1項ではなく、同条2項の「債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間」が適用されることになります。しかし、20年も年休権が消滅時効にかからず繰り越しされるという極めて不合理な結果になります。

 ですから、「労基法115条を廃止して、改正民法を年次有給休暇請求権に適用すれば良い」という単純削除論は、解釈としては少し乱暴です。しかも、労基法39条違反は罰則規定(労基法119条1号)が適用されるので、年休権の消滅時効が民法解釈では一義的に定まらない(166条の1項なのか、2項なのか)ことは不適当です。なぜなら、罰規定の明確化の要請(罪刑法定主義)に反します。

 したがって、労基法115条を単純に削除するのではなく、労基法115条を改正民法にあわせて、賃金等の債権は主観的時効5年、客観的時効10年と定めて、年次有給休暇請求権の消滅時効期間を明確に労基法で定める必要があると思います。


■年休の消滅時効5年が完全取得を促進するのか否か

 次に、年次有給休暇の時効を5年等と長期化しても、年休を取得しにくい職場にしているのは使用者側なのだから、消滅時効の長期化の不利益を使用者は甘受すべきであるとの意見があります。

 確かに、年休がとりにくいのは、年休を取得する就労環境を整備していない使用者側に大きな責任があります。しかし、有給の消滅時効期間を長期化(5年の繰越し)を認めたとしても、今の日本の現状では完全取得は進まないように思います。

 逆に労働者側が「5年の繰越しが認められるのだから、今年、取得する必要はない」と考えて、年次有給休暇をその年に消化をせず、翌年に繰り越してしまい、結局はとれなくなるだけではないでしょうか。これではその年に有給休暇を消化するという年次有給休暇制度の原則に合致しないことになるのではないか。

 年次有給休暇の完全取得が進まない大きな理由の一つは、労働者が病気になったときのために年休を確保しておくからです。ですから、有給完全取得を推進するためには、ヨーロッパのように有給の病気休暇請求権(病休権)として年5日程度を法律で設けるべきです。

 また、ヨーロッパ諸国では、労働者の意見を聴取しつつ休暇の付与時期を決定する権限と義務を使用者に課しています。今後、日本でも病休権を認めて、欧州のような仕組みに変更する必要があると思います。

 以上の理由で、私は年次有給休暇請求権については、労基法115条削除ではなく、この条文を見直すことが必要だと思います。それを、2年とするのか、5年とするのが適切なのか、労働者や労働組合の意見を聞いて検討すべきでしょう。

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2018年5月 4日 (金)

北朝鮮  安倍首相はどうするのか?

▪️激動の北朝鮮情勢

北朝鮮の金正恩委員長が今年になり、韓国冬季オリンピックでの平和攻勢、習中国主席とのトップ会談、トランプ米大統領との米朝首脳直接対話の約束、ムン韓国大統領との「非核化」や「朝鮮戦争終結」を盛り込んだ板門店宣言の発表という劇的な変化が目の前で繰り広げられている。

ところが、日本のマスコミ、政治家や専門家は、「金正恩の改心や変心はあり得ない」とか、「詐欺や騙しにすぎない」という意見が多く見られる。

▪️外交問題は指導者の「人間性」問題ではない

しかし、北朝鮮問題の焦点は、各当事者国の国益をめぐっての対立と交渉ごとである。何も金正恩が改心したか否かや善人なのかどうかが問題ではない。これはトランプ大統領やムン大統領が、「良い人か」とか「信頼できるか」という問題でもない。あくまで、それぞれの国家の利害確保のための交渉ごとである。その国益とは、各指導者が国内的に自己の地位を維持する上での損得勘定も含まれる。

マスコミで論じられるような金正恩が改心したかどうかや信用できるかなどと考えることは意味がない(というか、そもそも改心したわけがない)。逆に、金正恩が平和を熱望しており、非核化を本気で考えているなどと北朝鮮のプロパガンダを真に受けるのも愚かな考えである。要は、現状において、北朝鮮がその国益維持のためにどういう方向性と交渉を行うかどうかという利害分析こそ重要である。当事国の利害が一致すれば、その合意は意味があるのである。

金正恩にとっては、北朝鮮国内での神格化や威信を維持できるかどうかも含めて自国の利益をどう獲得するかが重要であり、それはトランプが米国内での中間選挙での勝利や自己の支持率をあげるために役立つかどうかを検討することと同じである。


▪️したたかな北朝鮮の外交戦略


北朝鮮は、大陸間弾道核ミサイル技術が確立したという現局面で、アメリカと交渉する絶好のタイミングであると利害分析をして決断をしている。シリアやイラクでの紛争泥沼化、ロシアと米国の対立、中国と米国との貿易摩擦、韓国でのムン左派政権の成立、トランプ大統領の予測不可能性(北朝鮮への先制軍事攻撃可能性)と自己に利益があれば飛びつくという「ディール好き」を見定めて、一連の外交攻勢を行ったのであろう。

これだけ矢継ぎ早の手をうつのは思いつきでできるものではない。北朝鮮としては、数年単位で外交戦略を検討した上での行動であろう。金正恩の決断力と実行力には驚かされるが、単に金正恩個人が策定したものではなく、優秀な外交戦略立案グループが存在するのであろう。



▪️「非核化」の条件とは何か

リビアは核計画を放棄した結果、カダフィは殺害された。イランは核開発計画を放棄するという米独仏の国際合意をしたが、トランプが一方的にこの合意を破棄しようとしている。


インドやパキスンタンは核兵器を保有しているが、米国は黙認してこれらの国と協力関係に結んでいる。他方、核兵器を放棄したリビアは崩壊した。これらを考えれば、北朝鮮が核兵器をすべて放棄することは考え難い。


では、北朝鮮が将来(少なくとも金政権が継続する2、30年)にわたって現体制維持が確実に保証されると考える条件とは何か。


それは、米朝の合意だけでなく、中国もいれての米朝中韓の朝鮮戦争終結と軍事侵攻しないという合意が絶対必要であろう。そうすれば国連軍(在韓国連具Nと在日国連軍)は無くなる。米国の朝鮮半島での軍事指揮権が消滅することになろう。


これらの条件が整えられれば、少なくとも米国に届く大陸間弾道核ミサイルは放棄するだろう。ただし、核兵器を完全放棄することはまずありえない。おそらく「非核化」を将来的な究極の目標としつつ、経済制裁解除や経済協力を引き出すために核廃絶プロセスを先送りして活用するだろう。これは、日本から見れば先送りで騙しのテクニックにほかならないが、北朝鮮から見れば自国の利益を守るための合理的な行動となる。


▪️米朝会談を「失敗」とは言えない利害一致がある

北朝鮮と韓国にとって、朝鮮戦争を完全に終結することができれば、相互に利益が大きい。何よりも北朝鮮にとって経済制裁を終了させることができる。中国、EU諸国、韓国、米国からの投資を受けいれて経済を発展させることが可能となる。韓国にとっても、戦争の脅威から解放されて、中国との経済関係も著しく発展させることができる。


中国にとっても、朝鮮半島の軍事衝突を回避して緩衝国家の北朝鮮の安定を確保することは国益に合致するであろう。


トランプ大統領にとっては、米国本土に届く核兵器を放棄させ、朝鮮戦争を終結させて、在韓米軍も縮小でき、国内の支持率は一挙にあがるという大きなメリットが生まれる(ノーベル平和賞も)。


となると、北朝鮮と米国との交渉や非核化は、紆余曲折はあるだとうが、大局的にみれば失敗することはないだろう(失敗したら、どの国も特をしない。いや日本以外は。)。


国際平和や信頼などという言葉は、上記のような利害が一致したあとに、修飾語としてまぶされるものにすぎない。


▪️安倍政権はどうするのか

安倍首相の立場としては、非常に困った状態になっている。

安倍首相があれほど「対話には意味がない」と言っていたにもかかわらず、米国大統領が率先して対話路線に踏み出した。また、日本政府がムン大統領の北朝鮮への対話路線を批判していたにもかかわらず、ムン大統領と金正恩委員長とのトップ交渉で、金正恩が日朝の話し合いに応じる用意があると発言したことをムン大統領から伝えられ、仲介の労をとっても良いとまで言われる始末である。

他方で、日本と北朝鮮との間の直接交渉を行う高いレベルでの交渉ルートは見当たらない。

北朝鮮は、日朝の国交相正常化をするにあたって、いわゆる戦後補償を受けることを当然の前提としており、これは日朝平壌宣言で無償資金提供や経済協力することを日本も盛り込んでいる。したがって、国交正常化には、過去の植民地支配に対する補償としての大規模な経済協力(1兆円から2兆円)を行うことが必要不可欠であり、日本政府はこれを否認することはできない。北朝鮮は、この戦後補償を強く欲しているであろう。


他方、日本は、拉致問題の解決が絶対的な条件であり、拉致問題解決抜きの日朝国交正常化や戦後補償を行うことは考えれれない。


拉致問題の解決とは、何よりも拉致被害者の生存者の帰国である。安倍首相は、拉致被害者の全員の帰国こそ絶対条件であると再三表明してきた。


しかし、2002年に北朝鮮の故金正日委員長が、小泉首相に拉致問題を謝罪しつつ、日本に帰国した蓮池さんら以外には、もはや生存者はいないと回答した。果たして、それから16年経過した現在、北朝鮮が「実は拉致被害者は生きていました」と回答するであろうか。そうであれば良いが。現在、北朝鮮は、トランプ大統領との交渉をひかえて、抑留されているアメリカ人3名を解放する準備をしており、同様なことが日本の拉致被害者でも起こるのであろうか。


今や、安倍首相も金正恩委員長との面談(対話)を行うことを示唆している。しかし、もし安倍首相が金正恩委員長に仮に会ったとしても、2002年のように拉致被害者の生存者はもういないと言われてしまったらどうするのだろうか。


そう言われないことを確認しない限り、日朝首脳会談を実現することはできないだろう。今後も、安倍首相は、拉致被害者を解放するために圧力をかけると言うしかない。つまり、北朝鮮が日本の戦後補償欲しさに拉致被害者の全員解放を決断するまで待つ、という選択肢しかないのではないだろうか。


ただし、今の状況では、結果的に日本だけが取り残されることになろう。

安倍首相や外務省は、トランプ大統領やムン大統領に拉致被害者問題を解決して欲しいと懇願する以外に、何か良い知恵と良い手を持っているのであろうか。


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2018年4月29日 (日)

憲法記念日前の「憲法世論調査」の分析-自衛隊憲法明記に3分2が賛成

■憲法改正の世論調査

 共同通信が4月25日に実施した憲法に関する世論調査が、同月26日に発表され、東京新聞は「自民改憲案に否定多数」と一面トップの見出しで報道しています。
 その根拠は、【問22】「安倍首相の下での憲法改正に賛成ですか?」という質問に、賛成が38%、反対が61%であることを根拠にしています。
 しかし、自民改憲案の「肝」は、憲法9条改正の内容ですので、これを中心に世論調査を仔細に見ると、印象が異なります。


■無意味な「一般的な憲法改正質問」

 「あなたは憲法改正する必要があると思いますか?」という【問2】があります(「必要」が58%、「不要」が39%。どちらかと言えば派も含む)。しかし、憲法の何(どの条文)を変えるのかを特定しないでする質問は、まったく無意味です。

 これは、死刑廃止に賛成ですか?という質問は意味があるが、刑法改正に賛成ですか?という質問が無意味であることと同じです(「憲法と世論」境家史郎著)。
 少し意味のある具体的な質問として、【問6】「憲法9条を改正する必要がありますか?」があります。その回答は次のとおりで、要否が拮抗しています。

 9条改憲必要  44%
 9条改憲不要  46%



■9条改憲派内部の二つの立場

 この世論調査では、上の9条改正を必要とした44%の人々(9条改憲派)に対して、「9条を改正する必要があると思う理由は何か?」と選択肢を示して質問しています。選択された選択肢を多い順に三つ並べると次のとおりです。


9条改正が必要な理由

北朝鮮中国の軍拡による安全保障環境の変化61%
自衛隊違憲論があるから                      22%
自衛隊の活動範囲を専守防衛に制約するため10%


 意外なことに、3番目の「自衛隊に専守防衛の制約を憲法に規定する」という人々が9条改憲派のうち1割(全体の4.4%)を占めています。この人たちは、いわゆる「護憲的9条改憲派」(正しくは「立憲的9条改憲派」)といえます。

 また、9条改憲派に「9条改正する場合には何を重視すべきか?」と質問に対する回答も多い順に並べると次のようになっています。


9条改正する場合に重視すべきこと

現在の自衛隊の存在を明記する   47%
自衛隊の海外活動に歯止めを設ける 24%
自衛隊を軍として明記する」     14%
自衛隊の国際貢献の規定を設ける 12%

 上の二つ目の選択肢の全文は「自衛隊の海外での活動が際限なく拡大しないよう歯止めを設ける」というものです。これを選択する9条改憲派が24%(全体の10.6%)も占めており、けっこう有力意見です。これも9条改憲派でありながらの立憲(護憲)的9条改憲派といえるでしょう。
 つまり、立憲(護憲)的9条改憲派は、この世論調査でいうと4%~10%程度存在しているようです。


■自民9条改憲案の賛否結果

 具体的に自民党の9条改憲案の賛否を問う質問と回答は次のとおりです。


 【問9】「憲法9条は第2項で陸海空軍その他の戦力の不保持と交戦権の否認を定めています。安倍首相はこの規定を維持しつつ、9条に自衛隊の存在を書き加えることを提案しています。あなたはどう思いますか」


9条2項維持自衛隊明記 40%
9条2項削除自衛隊の目的性格を明確28%
自衛隊の明記必要なし   29%

 9条2項維持・自衛隊明記派が40%を占めています。また、9条2項削除派も次善の策としては、9条2項を維持しても自衛隊明記に賛成するでしょうから、自衛隊明記容認は68%と3分の2を超えていると言えます。
 こうなると東京新聞の見出しとは異なり、共同通信の世論調査の結果は、「自衛隊憲法明記への賛成は3分の2を超える」となるべきでしょう。


■9条改憲不要が46%なのに、なぜ自衛隊明記賛成が68%になるのか


 しかし、ここで私が解せない点は、【問6】の憲法9条改正の要否を問う質問では、改正不要派が46%も存在することです。
 【問6】で9条改憲を不要と回答した46%のうち17%が、【問9】では、自衛隊明記容認(おそらく9条2項維持・自衛隊明記派)に意見を変えています。
 その理由は、問6の質問が、「あなたは『戦争放棄』や『戦力の不保持』を定めた憲法9条を改正する必要がありますか」という質問だからです。
 つまり、【問6】では戦争放棄や戦力不保持がなくなるのは反対だということで、9条改正不要と回答した。しかし、【問9】では、9条1項と2項を維持(つまり「戦争放棄」と「戦力の不保持」という条文は変えない)する前提で、自衛隊のみを明記することには賛成という結果になります。


■安倍首相の下での改憲反対61%は、なぜなのか

 もう一つ解せないのは【問22】で安倍首相の下での憲法改正に反対が61%もいるにも関わらず、自衛隊明記容認に68%も賛成している点です。

 これは憲法9条の改正を論理的に考えた結果ではなく、安倍首相が信用できないという気分・感情の反映のようです。

 しかし、人間の気分・感情はうつろいやすいものです。特に国民投票にあたっては、国民全体の気分・感情が大きく影響するといわれています。最近では、イギリスのEU離脱国民投票を見ればわかります。
 その意味では安倍首相にとっては、この国民の気分・感情の雰囲気は重大な関心事でしょう。9条改憲を実現するためには、この雰囲気を変えるための起死回生の策が無い限り、国会発議もできないのではないでしょうか。

 国会で9条改憲を発議しても、国民投票で否決されたら安倍首相退陣どころか、今後9条改憲は、よほどのこと(戦争とか)が無い限り、二度と政治課題として提起することは不可能になるからです。しかし、気分・感情はうつろいやすいものですから、今後、何かがあって劇的に変わることもありえます。
 例えば、安倍首相が北朝鮮拉致問題を解決すれば、がらっと雰囲気は変わることでしょう。(米朝韓中が「非核化」で和解し、日本が北朝鮮に数兆円の多額戦争賠償=経済協力を提供することになれば、北朝鮮が拉致問題を解決しようとするかもしれません)。そうなったときが9条改憲ゴーサインでしょう。


■改憲派、護憲派内部の潮流の違いが見える

 世論調査結果を見ると9条改憲派(A)の中にも二つの潮流があるようです。
 一つは安倍首相と同様の意見で、北朝鮮や中国との軍事的脅威に対抗して、自衛隊と日米軍事同盟の強化の道であり、これが9条改憲派の多数派(A1)です。他方、自衛隊の存在を憲法上明記するが、その活動に歯止めをかけるという立憲(護憲)的改憲派(A2)が存在してます(このA2は、9条改憲派の中では10~20%程度で、全体ではおよそ5~10%程度か)。

 9条護憲派(B)の中でも二つの潮流があります。自衛隊は存在自体が違憲であり、非武装であるべきであるとの伝統的護憲派(B1)です(これは少数派)。他方、自衛隊は専守防衛のかぎり合憲であるとする自衛隊容認護憲派(B2)で、こちらが護憲派の多数です。

 現状の国会では、自民党や維新などが3分の2を超えていますから、立憲的改憲派(A2)が求める自衛隊の活動を制約するという9条改憲案が発議される可能性はないでしょう。現状の自民9条改憲案が発議されるでしょう。

 しかし、自民9条改憲案(9条2項維持・自衛隊明記)であっても、「戦力不保持」という憲法上の制約を削除する結果になります(以前、これを私も解釈してみました)。


 そこで、自衛隊の活動について「憲法上の制約」を維持するには、A2(立憲的9条改憲派)とB(護憲派、B1とB2)が連携する道しか残されていないと思います。この場合、伝統的護憲派(B1)が、大人の対応ができるか、建前と原理原則を振り回すだけの子供ような振る舞いをするか、その度量が問われることになるでしょう。

 安倍政権はもう長く続かないでしょうが、その後継が誰になろうと自民党政権が続くことは不可避なのですから(いや、野党が政権をとっても)、この憲法9条改正問題と論争はまだまだ続くことになるのでしょう。

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2018年4月24日 (火)

野川忍教授「労働法」

明治大学の野川忍教授から新著「労働法」(日本評論社)を送っていただきました。

ありがとうございます。

本文1051頁の大著です。
債権法改正から、労契法20条の最新の判例(大阪地裁 日本郵便労契法20条事件)まで網羅されています。

「はしがき」に、政策の理論的基盤を提供し、これに精緻な解釈論を加える政策法学としての体系書と、憲法の理念に立脚して労働者の権利擁護を重視する理念法学の流れの中で、本書は「マージナルポジションにある」とされています。

「労働法の生成」の章で、「資本主義の成立と労働関係」の説明の中で、イギリスの工場制生産体制の確立の中で、エンゲルスや、ロバート・オーウェン、サンシモン、マルクスの名前が出てきて、注に廣松渉が引用されているのは、労働法の教科書としては珍しいです。

知人の町田悠生子弁護士が協力者として名前があげられています。




https://www.amazon.co.jp/%E5%8A%B4%E5%83%8D%E6%B3%95-%E9%87%8E%E5%B7%9D-%E5%BF%8D/dp/4535523088/ref=pd_lpo_sbs_14_img_0?_encoding=UTF8&psc=1&refRID=AS6PDD9WT8SBG0ZMRS6Q

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2018年4月18日 (水)

驚愕の幹部自衛官ー統合幕僚監部の三佐が国会議員に「国民の敵だ」と罵倒

自衛隊の幕僚監部の三等空佐が、民進党の小西参議院議員に対して、国会近くの路上で夜9時に偶然にあった際に、「国民の敵だ」「気持ち悪い」などと罵倒し、警備の警官が集まってきても罵倒をやめなかったという。

財務省の事務次官のセクハラ問題の影に隠れていますが、この事件を軽視すべきではありません。

「自衛隊員にも政治的意見を言う自由がある」などと三佐を擁護する声も見受けられますが、そのような意見は、自衛隊が実力組織(もっと、ありていに言えば軍事組織)であることを忘れた謬見だと思います。

「三等空佐」とは航空自衛隊の三佐であり、旧軍で言えば「少佐」にあたる将校です。幕僚監部は、旧帝国陸軍では参謀本部、旧帝国海軍では軍令部にあたり、統合幕僚監部(統幕)は、陸上、海上、航空の幕僚監部を統合する自衛隊の中枢機関です。

その「統幕」の「三佐」(少佐)が、国会議員に対して、勤務時間外だとしても、国会周辺の公道上で「お前は国民の敵だ」と罵倒したわけです、しかも、警官が集まってきても、現職の自衛官となのって罵倒をやめなかったという。


自衛隊法61条や自衛隊法施行令では、自衛隊員の政治的行為を禁止しています(刑罰規定あり)。つまり、自衛隊員は、政治的中立性を守らなければなりません。

また、自衛官の服務等訓令では、「何人に対しても冷静で忍耐強く、正しい判断をし、野卑で粗暴な言語又は態度を慎まなければならない」と定めれれています。そして、「隊員たるにふさわしくなく行為があったとき」には懲戒処分をうけます(自衛隊法46条)。


自衛隊は軍事組織にほかなりませんから、一般の国家公務員以上に、政治敵中立性を厳格に遵守しなければなりません。わが国には戦前の軍部テロ(5.15事件や2.26事件)の歴史がありましたから。

ところが、統幕の三等空佐という幹部自衛官(昔で言えば「参謀本部少佐」というエリート軍人)が、特定の政党や国会議員の政策や方針について反対する意図をもって、公道にて周りの警察官が制止するのも無視して、自衛官であることを名乗った上で、「お前は国民の敵だ」と発言をしたわけです。


統幕の佐官クラスが、このような政治的意図をもって、自己抑制もできずに、国会議員を罵倒することは由々しき事態であり、驚愕します。タガがはずれいていると思います。

罵倒された国会議員が民進党議員であるか、自民党議員であるか、公明党議員であるかは本質的問題ではありません。この自衛隊員の意見にあわない場合に、議員を「国民の敵だ」と決めつけて罵倒することが問題なのです。


だからといって、すぐに戦前の軍部テロの時代が再来するとは思いませんが、統幕の佐官クラスの言動であることから見て、自衛隊の内部(統幕内部)に、自衛隊に批判的な政党や政治家に対して、「国民の敵」とか「反日分子」として攻撃すべき「敵」であるとの政治思想やイデオロギーが蔓延し、あるいは浸透していることが伺われます。あるいは、そのような政治思想グループがすでに形成されているのかもしれません。そうだとすると怖いですね。


軍事組織である自衛隊の一部でも暴走しはじめたら、誰にも止められません。自衛隊では監察本部がその役目を担うのでしょうが、これも防衛省の内部組織ですから身内です。警察(公安部)も監視していると思います(戦前の5.15事件では、犬養首相警護の巡査らが軍に殺害されているので、警察は伝統的に「軍」を警戒していると何かの本で読んだことがあります)。


この三佐を厳しく処分することは当然として、自衛隊内には自衛隊に批判的な政党や国会議員を敵視する政治思想グループが形成されていないか、徹底的に調査し、もし形成されいればその影響力を除去する措置がとられるべきです。将来の禍根を残さないように国会がきちんと対処すべきです。

毎日新聞

議員罵倒

「国民の敵」発言は3佐 防衛相「適正に対処」

参院外交防衛委員会で質問する民進・小西洋之氏=国会内で2018年4月17日午前10時45分、川田雅浩撮影

 防衛省は17日、統合幕僚監部指揮通信システム部の30代の3等空佐が、民進党の小西洋之参院議員と16日夜に国会近くの路上で偶然遭遇した際に、「不適切な発言」を繰り返したと認めた。小西氏によると3佐は「お前は国民の敵だ」と繰り返し罵倒した。河野克俊統合幕僚長が17日、議員会館の小西氏の部屋を訪れて謝罪。小野寺五典防衛相は「適正に対処する」と話し、統幕が処分も検討する。野党は「実力組織の統制に大きな疑問を持たざるを得ない」(希望の党の玉木雄一郎代表)と反発している。

 小西氏が17日の参院外交防衛委員会で明らかにした。小西氏と防衛省によると、3佐は16日午後9時前、帰宅後のランニング中に小西氏と出会った。3佐は「小西だな」と言った後、現職自衛官だと自分から明かして繰り返し罵倒。警備中の複数の警察官が集まった後も「気持ちが悪い」などとののしり続けた。小西氏が「服務規定に反し、処分の対象になる」と撤回を求めたが撤回しないため、同省の人事担当に電話するなどした。3佐は最終的に態度を改め、発言を撤回したという。

 自衛隊法は、隊員に選挙権の行使を除く政治的行為を原則として禁じ、品位を保つ義務も課している。河野氏は記者団に「自衛官が国民の代表である国会議員に暴言と受け取られるような発言をしたのは大問題。極めて遺憾だ」と話した。

 小西氏は国会で自衛隊イラク日報問題などを取り上げ、小野寺氏の管理責任などを追及している。玉木氏は17日の記者会見で、1938年に佐藤賢了陸軍中佐が当時の帝国議会で議員のヤジに「黙れ」と発言したことに触れ、「由々しき問題だ。80年たって非常に嫌な雰囲気が漂ってきた気がする」と指摘。社民党の又市征治党首も会見で「批判的なことを言ったら『非国民』というのと同じだ」と強調した。

 小西氏は記者団に「かつて青年将校が『国民の敵だ』『天誅(てんちゅう)だ』と叫んで政治家を暗殺した。現職の自衛隊幹部が国会議員を国民の敵だと何度も言い放った暴挙は、民主主義において許してはいけない」と語った。【前谷宏、立野将弘】

https://mainichi.jp/articles/20180418/k00/00m/010/095000c

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2018年4月16日 (月)

財務省事務次官セクハラ疑惑へのマスコミへの疑問

財務省の対応への評価はなかなか難しいですね。新聞報道だけでの印象であり、週刊新潮の記事自体を読んでいませんが。

そもそも、週刊新潮の記事では被害者である女性記者が被害を週刊新潮に提供したというのが記事の発端のようだ。

そこで、第1の疑問。財務省の記者クラブに出入りするようマスコミの女性記者(ジャーナリスト)が、なぜ自社ではなく週刊新潮にリークするのだろうか? しかも、録音までしているにもかかわらず。

考えられる理由は、自社に訴えたが財務省とにらまれることを恐れて当該マスコミが取り上げなかった。そこで、女性記者は週刊新潮にたれこんだという理由です。それでも自社に迷惑がかかるので匿名にしたということだろうか?

第2の疑問。一般論としてセクハラの被害者が匿名でしか訴えられない事情は理解できます。しかしながら、マスコミ記者でジャーナリストである人物が実名を恐れたり、セクハラ告発でさえ匿名でするものなのだろうか?(自社の上司のセクハラ告発を躊躇するのは理解できるが、超大物の財務省事務次官のセクハラ行為の告発を躊躇するだろうか? ジャーナリストなら、こんな超弩級の特ダネは諦めないのが普通ではないだろうか?)

もし、女性記者がマスコミ(報道機関)に所属するジャーナリストさえ、官僚のセクハラを実名告発できないのが日本のマスコミ、ジャーナリズムだということになると、日本のマスコミやジャーナリズムが絶望的な状態ということになる。

おそらく、その女性記者が実名告発を恐れるのは、実名で告発すると自分が所属する報道機関が財務省などから報復を受けることになり、自社をそういう立場に追い込むなと上司から妨害や嫌がらせを受ける。あるいはその危険を感じているということでしょう。(こういう現状をふまえる限り、その女性記者の自己防衛としてはやむをえないことでしょうから、当該女性記者を非難するものではありません。)

第3の疑問。加害者である男性が、女性記者に対して胸を触らせろなどと言った行為を全面的に否認している場合、当該言動が事実であると確信するには、週刊新潮の報道(録音も含めて)だけでは不十分といわざるをえないでしょう。事実関係の確認を経ないまま、即更迭を主導するマスコミ報道への疑問。

被害者名や所属報道機関名を公表する必要はないが、少なくとも財務省が懲戒処分をするには、男性が否認している以上、被害者からの事実確認は必要不可欠であり、その事実確認手続き経ないで懲戒処分することは、法律的には無理スジだと思います(財務省に固有名詞を知らせなくとも、委託した弁護士などが少なくとも被害者本人に事実確認をすることは必須ではないでしょうか)。

他方、新潮社は、男性からの名誉毀損訴訟では、「真実でなくとも真実だと信用する相当な根拠があれば勝てる」と見込んでいるのでしょう。でも、男性への懲戒処分の有効性は、上記セクハラ行為が真実であることが必要となるでしょう。

第4の疑問。財務省は被害者に弁護士に連絡して協力してほしいと発表したが、弁護士の守秘義務(第三者だけでなく、財務省にも固有名詞などを通報しないという守秘義務)を明確にしていない点が不思議であり、また、当該法律事務所が財務省の顧問事務所という点も疑問である。第三者性が明確な弁護士に委託するべきでした。例えば、日弁連に担当弁護士の推薦を依頼するとか。

願わくば、被害者である女性記者が勇気を出して、財務省事務次官のセクハラを実名で告発し、声をあげられない女性の代表として、たたかってほしい。そして、マスコミや市民が彼女を擁護するという関係が理想でしょう。でも、この日本では無理なんでしょう。

財務省の福田淳一事務次官が女性記者にセクハラ発言を繰り返したと週刊新潮が報じた問題で、財務省は調査結果を発表した。…
ASAHI.COM

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2018年3月29日 (木)

北朝鮮の決断力と実行力に瞠目する

金正恩は、非道な独裁者だが、あるいは独裁者であるが故の「決断力」と「実行力」には、瞠目せざるを得ない。

この数ヶ月の間に、中朝首脳会談を実現し、韓朝首脳会談、そして米朝首脳会談の実現をやつき早に獲得した。

このことを予測した人は誰もいないのではないでしょうか。(トランプ大統領でさえ予測していなかったでしょう)。


北朝鮮の外交力は、危なっかしい瀬戸際外交だが、タフ・ネゴシエーターであることは認めざるを得ない。


今年初めには、今年の米国中間選挙前に米国の北朝鮮先制攻撃が行われる可能性が現実的な危機として語られていたが、幸いなことに、ひとまず戦争の危機は遠のいた。


しかし、日本は、朝鮮半島の外交舞台から外れて、プレイヤーとしてではなく、外野席から「圧力強化」や「拉致問題解決を」と叫ぶしかないかもしれない。いわゆる蚊帳の外である。


今後、日本の存在感は一段と薄くなるだろうが、日本が拉致問題の解決を前提にする以上は、拉致問題を抜きに非核化を優先させるわけにいかず、どうにも動きようがない。

北朝鮮は、タフ・ネゴシエーターだから、核兵器を放棄しないだろうが、米国向けのICBMを放棄するくらいの妥協をして、徐々に制裁緩和と中国、韓国や欧州からの経済援助を獲得することだろう。


北朝鮮は、米国、中国、韓国との間で事を進めれば、米国追従の日本は焦って最後は折れてくるだろうと考えているにちがいない。

あるいは、もっとずる賢くて、モリカケで苦境にある安倍首相の弱みにつけ込んで、「日朝首脳会談」のカードを切ってくるのかもしれない。安倍首相や日本政府は、今なら焦って飛びつきかねないと狙って。


そうなると日本のような貧弱な外交力の国は、北朝鮮の術中にはまり振り回されるだけになるのではないでしょうか。


日本は、しばらくは、どちらにしても「蚊帳の外」に出されるのであるから、焦って日朝首脳会談にとびつくべきではないでしょう。今は、「外交弱小国」を自覚して、「外野」から静観するのが上策のように思う。

朝日新聞  解説記事

https://www.asahi.com/articles/ASL3X6G54L3XUHBI044.html

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