日本IBM等と賃金査定のAI利用について都労委で和解成立
2018年に日本IBMは、給与調整(賃金査定)に関して同社のAI(WATSON)をツールとして利用すると公表した。労組はどのようにAIを利用するのかを明らかにするように団体交渉を申し入れたが、会社は、あくまでツールにすぎず、最終的に所属長が決定するので社内の内部資料なので開開示しないと説明を拒んだ。そこで、労組は2020年4月に不誠実団体交渉として東京都労働委員会に不当労働行為救済命令申立をしたもの。
8月1日に都労委で和解が成立しました。
厚労記者会での記者会見関連記事(朝日) ↓
https://www.asahi.com/articles/ASS8216D8S82ULFA01BM.html
当該組合の声明は次のとおり。
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声 明 (AI不当労働行為事件の和解成立にあたって)
2024年8月1日
JMITU(日本金属製造情報通信労働組合)
JMITU 東京地方本部
JMITU 日本アイビーエム支部
JMITU 日本アイビーエム支部 弁護団
1 東京都労働委員会において、2024年8月1日、私たち労働組合(以下、労組)と日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)との間で、給与調整(賃金査定)におけるAI(人工知能)の利用について次の合意を含む内容の和解が成立した(別紙)。
⑴ 日本IBMは、労組に対し、賃金査定でAIに考慮させる項目全部の標題を開示する。
⑵ 日本IBMは、労組に対し、⑴の項目と賃金規程上の評価項目との関連性を説明する。
⑶ 日本IBMは、労組が組合員の賃金査定について昇給ゼロ、減額、低評価などの具体的な理由とともに疑義を指摘した場合、当該疑義を解消するために、必要なAIの提案内容を開示する。
⑷ AIについての賃金評価方法に関して、今後疑義が生じた場合には、日本IBMは労組と誠意をもって協議するものとする。
2 この事件は、2019年8月、日本IBMがグループ社員に向けて、賃金査定に自社開発のAI(ワトソン)を導入したと発表したことを受け、労組が、AIに考慮させる項目やAIの上司に対する提案内容の開示などを求めて団体交渉を要求したことに端を発する。日本IBMが開示を拒否したので、労組は、同社の対応が労働組合法7条の禁じる不当労働行為(不誠実交渉、支配介入)に当たるとして、2020年4月、東京都労働委員会に救済を申し立てた。なお、申立て後、日本IBMの一部事業がキンドリルジャパン株式会社(以下、キンドリル)に会社分割されて、労組員の一部はキンドリルに承継されているが、キンドリルは現在はAIを賃金査定には使用していない状況にある。
3 社会の様々な領域でAIの利用が進む一方、社会に残る差別(人種、性別、国籍etc.)をAIが学習して再現したり、判断過程がブラックボックス化して理解不能に陥るなどの弊害が指摘されている。企業が人事管理にAIを利用する場合、公正性と透明性の確保が課題となるが、法規制は進んでおらず、個々の労働者の努力には限界がある。
今回の和解は、賃金査定にあたってAIの評価項目や提案内容を明らかにするという透明性を確保する労使の合意をしたものである。これは労働組合が主体的にAIの利用を監視し、企業に応答責任を課すことで、AIを利用するにあたって労働者の権利と労働条件を守るという労使合意のモデルを提供するものである。職場におけるAIの利用方法は千差万別で今後の動向も流動的であるため、法規制のみには限界があり、この労使合意モデルが今後の出発点になるべきである。今後は、AIの評価によって減額等の疑義が生じた場合のAIの評価(評価根拠・基準、アルゴリズム等)の妥当性・公正性の確保が課題となる。IBMはAIを自ら開発して市場に提供するAIベンダーであるから、今回の和解内容が履行される過程で生じる課題に対する私たちの取組の成果は、同社のAIや同種のAIを利用する他の職場にも波及すると予想される。私たちは日本IBMの従業員が加盟する労働組合としての重い責任を自覚し、労働者・労働組合の先頭に立つ気概を持って、今後とも労働者の権利を守り労働条件の改善に取り組む所存である。 以上
別紙
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