花と緑と風

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2012年1月14日 (土)

TPP協定と労働

平成23年10月 国家戦略室が各省庁と、「TPP協定交渉の分野別状況」を発表しています。

http://www.npu.go.jp/policy/policy08/pdf/20111014/20111021_1.pdf

労働分野については、次のように記載されています。

1 交渉で扱われている内容

 貿易や投資の促進のために労働基準を緩和すべきでないこと等について定める。

2 交渉の現状

 貿易・投資の促進を目的とした労働基準の緩和の禁止や国際的に認められた労働者の権利の保護等が主たる目的となっているが、米国が今後条文案を提案する段階であり、現時点では、独立した章とするかを含め、合意はない模様

既存の協定の内容について、次のように指摘してます。  

P4協定(*)、米国が締結したFTA及びニュージーランド・マレーシアFTAには、労働に関する規定が置かれ、具体的には、①国際労働機関(ILO)加盟国)としての義務の再確認、②貿易・投資の促進を目的とした労働基準の緩和(労働者の権利保護の水準の引き下げ)は不適当であることを確認する。③国際的な労働に関する約束と国内法の整合性を確保しかつそれを効果的に実施する、④協定の規定の解釈や適用をめぐり問題が生じた場合のい協議、紛争解決手続の適用について定める等、の規定が盛り込まれている。

 *:2006年5月 シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの四カ国の間で締結された自由貿易協定

 上記記述を見る限り、昨年2011年10月段階では、TPP協定では、日本国内の労働法制分野には影響はなく、ILO条約の遵守を確認し、国内の労働者権利保護規定の引き下げはないことになっています。  

 しかし、、中野剛志著の「TPP亡国論」では、「TPPは米国主導、米国の国益維持のためを目標とするもの」と指摘されています。その米国は解雇自由など労働の規制緩和の国です。今後、どのような交渉がなされるのかが、要注目です。

 外国人の労働者受け入れが労働分野では注目されていますが、労働法分野もどうなるか警戒が必要です。

2012年1月 9日 (月)

読書日記 「TPP亡国論」(中野剛志著)、「グローバル恐慌の真相」(中野剛志・柴山桂太著)、「公共事業が日本を救う」(藤井聡著)

年末年始にかけて、上記経済本の新書3冊を読みました。

曰く、「日本は財政破綻をしない。」「日本は、ギリシアとは違う。」「日本の国債の9割は日本人が購入している。」、「今は、財政再建よりもデフレ克服こそ最優先課題」、「国債をばんばん発行して公共事業につぎ込め。」「」貿易立国などは過去の話で、日本は内需で十分に成長を維持できる。」などなど。それなりの統計データをまぶして記述されています。

これらを読んでいると、素人である私は、「なるほど」と感心しました。藤井教授の本を読むと、「東日本大震災の復興のために、ばんばん豪勢に投資をして公共事業を行えば、日本の内需も拡大してデフレ克服するのではないか。日本中で耐震工事も行おう!」で良いのだという気になります。

しかし、なぜこの立論が不人気なのでしょうかね。

政府や官僚が愚かだからという説明では、今、一つ納得がいかない。中には「新自由主義者の官僚や政治家、企業家は、私腹を肥やそうとしている。」と言う人もいますが(高橋洋一氏「数学を知らずに経済を語るな!」)、具体性がなく、どうも腑に落ちないので気になります。

「グローバル恐慌」で、中野教授と柴山教授の対話の中で、現状の不安定な経済の方が金融資本はもうかるから、とか政治的にアメリカには逆らえないから、という話が出てきます。政治論議としては分かるのですが、経済論としては、今ひとつ分かりません。例えば、この政策をとれば、この経済グループがもうかるからという話なのでしょうか。これはいつの時代も真実なのでしょうが。

一方の新自由主義派の立論は「小泉改革」のときの同じなので信用できません(竹中先生や八代先生)。また、かの論者たちの言は、小難しくて素人の私には理解できず、結局、煙に巻かれる感じです。こういう場合には、「騙そうとしているな!」と警戒感が先にたちます(法律論の場合には、この感想は当たることが多いです。)。

結局、経済がうまく回らない限り、労働法がどうなろうと雇用の安定も労働条件の改善も実現できないことは事実です。本来なら、失業と貧困を少なくするために、現時点でどのような経済政策をとるべきかという問題を、もっと素人にもわかりやすく論じてもらいたいものです。

もっとも、数学が分からない私立文系の法律家には、結局、判断がつかないのでしょうが。
労働運動側に、この経済政策を立論する力量が決定的に不足していますね。

2012年1月 5日 (木)

遅ればせの【2011年の三大出来事】 と2012年政局の今後

1位:東日本大震災・津波の自然災害 2位:福島第1原発事故 3位:橋下氏「大阪の維新の会」の勝利

■1番目の大震災は言うまでもありません。
ただ、そのインパクトは東北だけではありません。
近い将来、東京直下型地震、東海地震などが差し迫っていることを改めて思い起こさせます。東北の復興だけでなく、その備えを行うことが緊急課題です。この震災対策に公共投資をすることは誰も反対しないはずです(財務省以外は!)。

■2番目の原発事故については既に記述したとおりです。

第3の敗戦

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2011/08/post-3c5b.html

原発対応の経過を見れば、中央官僚とエリート科学者(東大原発研究者)が、いかに愚かなのかをつぶさに証明してくれました。そして、これを徹底的に批判しきれない日本人の優しさというか、愚かさというか、曖昧さを全世界に知らしめました。

(今時の若い弁護士との会話)
私の法律事務所の若手弁護士が「原発は安全だと思っていた。教科書にもそう書いてあった。」というのです。私が、「教科書に書いてあったら余計に疑うもんだ。俺たちはスリーマイル島事故後、チェルノブイリ事故前に大学生だった世代だけど、原発が安全だなんて言う奴はいなかった。」と答えたところ、若者曰く「じゃあ先生たちは、原発を止めるために何をしたのですか。日本人みんなに責任があるのじゃないのですか。」と反論されました。…原発の電気を使っておいて、東電や政府の責任を言う資格が東京都民にあるのか、とかいう、この手の「感情論」というか、「誠実さ」、「心情論」に、弱いのが日本人の特徴なんでしょうね。

思わず、「そういう『一億総懺悔』こそ、本当の責任者を免責する論理なの。もっと戦後史を勉強しろ(一億層懺悔って知っている?)。原発政策を決定して実行した者にこそ責任があるのであって、俺たち庶民が責任を感じる必要はない。堂々と自信をもって責任者を追及したほうが良い」と説教したのですが、相手は他の人と話していて聞いていなかった・・・!しかし、このような若手が、私のような事務所に「就職」する時代なのですよねえ。

■3番目。橋下氏の勝利は今後の5年の日本の政治を決定づけたように思える

まあ、橋下氏が勝利すると思っていました。東京からあれだけ批判、非難されたら、絶対、大阪人は橋下を応援するのです(京都生まれの私にはよく判る!)。 ということを承知の上での週刊新潮が誹謗中傷したのでしょう。

■実は公務員数が欧米諸国に比較しても最少国家の日本

橋下氏の公務員バッシングですが、まったく根拠がない。日本の公務員数はヨーロッパ諸国だけでなく、アメリカと比較しても圧倒的に少ないのです。

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/5190.html

国家財政の下での人件費率から見ても欧米諸国と比較しても低い。ただ、一人当たりにすれば欧米から比べれば人件費は高いかもしれない。

http://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2011/seifuan23/yosan005.pdf

本来、日本はもっと国民への福祉や医療、教育のサービスのための公務員、また災害対策の公務員を増やしたって何ら問題はない。

■次は民間労働者の番なんだけど。さらなるリストラへ

日本の民間労働者の人件費が他国に比べて高すぎ、しかも解雇しにくいと経営者側がつとに訴えているところです。公務員を批判している労働者たちは、次は自分たちの番なのだということを認識しているのでしょうか。中高年が簡単に解雇され、若手労働者は仕事にありつけても不安定で低賃金の非正規職場。そして労働者相互が足を引っ張りあう社会になるというのが今の日本の現実でしょうに。

■民衆「政治意識」「社会心理」の波をつかまえる政治家が勝つ

データに基づく反論は庶民の意識、社会心理に何ら影響を与えません。こんな意見は古典的なインテリ意識の上から目線であって顧みられないのが現実でしょう。

橋下氏のように、民衆の心理をつかみ、スケープゴートを仕立て上げ、虐めても誰も文句は言わない公務員を果敢に責め立てるヒーローになることが政治闘争と権力闘争を勝ち残るもっとも有効な手段。この「民衆心理」の方向に鼻がきくのが、橋下氏なんでしょう。その民衆の心理とは、ニーチェの言うところの「ルサンチマン」です。世論の波にのっかる天才・政治的サーファーなのです(小泉元首相も)。彼が、2012年以降の政治を大きく動かすのだと思います。

今年2012年4月までに予算が成立すれば、政治は一挙に総選挙の様相です。

総選挙になれば、そのときの台風の目になるのは、「みんなの党」、そして橋下氏の「維新の会」です。どう贔屓目に見ても、総選挙では民主党は敗北するでしょう(個人的には、「より悪くない」選択肢として民主党しかないと思っていますが…)。自民、公明、みんなの党、橋下グループの政権が成立する可能性が極めて高い。

自民、公明、みんなの党の政権ができれば、派遣法改正そのものがなくなるし、有期労働契約やパート法の規制強化策は実現しないでしょう。という情勢の下で、労働立法にどう対応すべきかを検討しなければなりません。この間の派遣法改正のような迷走の繰り返しは避けたいものです。

大阪での橋下氏の勝利は、今年の政治情勢を予測させる出来事であり、2012年から5年くらいの政治を決定づけた重大な現象だと思われます。

■今年こそ?

彼らに対抗できる「情理を兼ね備えた」言説を駆使できるパーソナリティをもったリーダーの出現が求められます。…なんと、私も「強いリーダー待望論」 (^-^;

2012年1月 1日 (日)

有期労働契約の在り方について-上限規制の副作用を抑制する方策は?

迎春

今年の通常国会(1月20日頃開会予定)は、予算をあげたら重要な労働関係法の改正が目白押しです。派遣法は、みんなの党の横やりで、抜本改正どころか、政府案の成立さえ見通しがついてません。そして、有期労働契約の労働契約法改正問題が具体化します。

12月26日、労政審労働条件分科会が「有期労働契約の在り方について(報告)」を取りまとめて発表し、同日、労政審本会が、この報告どおりの建議を行いました。これはメガトン級の立法です。適用対象が広く、かつ、副作用の懸念があるからです。

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001z0zl.html

■入り口規制は放棄
合理的な理由がない場合には有期労働契約を締結できないとする規制を「入り口規制」と言います。労働契約は無期契約が原則で安定した雇用を打ち立てようとする規制です。しかし、建議は、「雇用機会の減少の懸念がある」等として「入り口規制」をとらないとしました。これは「解雇規制があると雇用機会が減少する」という理屈と同じです。
ただ、雇用が減少するかどうかは法的規制の強弱や有無によりも、その時の経済情勢、為替レート、生産組織の在り方等々の多様な要素で決定されるはずです。有期労働契約の規制で雇用機会が減少するというのは短絡的でしょう。

■上限規制が5年
有期労働契約を利用する最長期間を規制する「上限規制」5年を提言しました。つまり、有期労働契約を利用するには、5年を超えてはならないという規制です。この5年を超えて利用する場合には無期労働契約でなければならないということです。例えば、1年契約であれば、5回更新すれば5年になり、5年を超えたら、労働者の申し出により無期労働契約に転換するという仕組みをです。

■「副作用」の懸念
この上限5年を超えて無期労働契約を締結するのを嫌う使用者は、例えば、1年契約の場合では最後の有期契約を11ヶ月として、都合4年11ヶ月目で契約期間終了で契約を打ち切るようにするでしょう。これでは、今までなら、5年を超えて有期労働契約を更新して働いてきた労働者が契約を切り捨てられる恐れがあります。これが、いわゆる「副作用」問題です。厚労省の実態調査でも5年を超えて働く有期契約労働者は29.5%です。この人たち、かなりの数が打ち切られる危険性があります。

この点について、建議(報告)は「制度の運用にあたり、利用可能期間到達前の雇止め抑制策の在り方について労使を含め十分に検討することが望まれる」と記載しています。この「運用に当たり、… 労使を含め十分に検討することが望まれる」というフレーズは、労使の自主的努力に委ねるだけで、法的な抑制策をもうけない趣旨にも読めます。

しかし、この利用可能期間到達前の雇止め抑制策を、法律上の工夫をしなければ、この「副作用」が致命的になりかねません。

上限規制は、有期労働契約を無期契約に転換する「薬効」は確かにあるでしょう。しかし、副作用が重大ならば、薬としては致命的な薬害になりかねません。抗がん剤のイレッサみたいなものです。副作用を軽視した使い方をすれば薬害です。

■「副作用」抑制策が必要不可欠
 そこで、上限間際に、有期労働契約を雇止めをした使用者は、その当該同一職場・同一業務について、新たに有期契約労働者を雇い入れることを禁止すべきです。

そして、これに違反した場合には、雇止めされた有期契約労働者は、当該使用者に雇用の継続と無期労働契約を求めることができるという法的措置をとるべきです。

■労働者が有期か無期か選択する
次に、報告の上限規制の特徴は、無期にするか有期にするかを、労働者の申出に委ねていることです。つまり、労働者が無期契約か、有期契約かの選択権を持っており、有期を選択した場合には、有期で良いことになります。

■第二の懸念「労働者の『選択の自由』が保障されるか」
建議(報告)の規制では、労働者が選択をすれば5年を超えても有期契約で良いことになります。となると、使用者は、事前に「あなたが有期を選択すれば、5年を超えても有期契約を更新してあげます。でも、無期契約になりたいと言うのであれば、4年11ヶ月で契約を打ち切ります」と言って、労働者の選択を抑圧する危険があります。

■「自由意思の尊重」策
このような自由意思を抑圧するような行為を禁止する必要があります。民法からいうと、上記の強迫とは言えず、労働者が有期を選択してしまっても有効となります。しかし、このような自由意思を抑圧する発言を行った場合には、有期でなく、無期を選択しなおせるような脱法行為禁止の立法措置が必要だと思います。具体的には上記のような抑圧を行った使用者に対しては、労働者は、有期を選択した後も、無期契約の雇用継続を求める権利を保障すべきです。

■雇止め法理の制定
判例の雇止め法理を制定法するとしています。この点は異論のないところでしょう。

■第三の懸念
とはいえ、上限5年を導入した場合、2年や3年目で雇止めされた場合に、雇止め法理の適用があるか。利用可能期間前であるから雇止めは自由だと理解する論者もいます。しかし、これは適用あることを明確にすべきです。少なくとも上限5年前までは継続雇用の期待があるのですから。

他方、上限を超えて自らの意思で有期を選択した労働者についても、その後も雇止め法理が適用あるというべきです。

■クーリング期間
6ヶ月のクーリング期間をおけば、同一の労働者を雇い入れることができるとします。しかし、このようなクーリング期間は必要ないでしょう。またクーリング期間を入れるとしても、その間は、別の有期契約労働者を同一業務には雇用することはできないという措置をセットにするべきです。

頭の整理に、これらの関係を図解したものを作ってみました。これから議論すべき論点は多数あります。

「yuukiroudoukeiyaku5y.pdf」をダウンロード

■労働弁護団1月26日集会開催
本年1月26日午後6時から労働弁護団がシンポジウムを行います。労政審の労働者側の委員にも出席いただき報告してもらいます。また、昨年夏に韓国調査をした小林譲二弁護士にも韓国の報告をしてもらいます。
是非、多くの方、ご参加くださるよう呼びかけます。

http://roudou-bengodan.org/topics/detail/20111220_post-40.php

2011年11月 8日 (火)

日弁連 有期労働契約法制シンポジウム

2011年11月1日に日弁連労働法制委員会主催で、有期労働契約法制シンポジウムを開催されました。

http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/event/data/111101.pdf

■韓国の非正規労働者保護法の調査結果報告

第1部で、第一東京弁護士会が今年9月に実施をした韓国調査(韓国の非正規労働者保護法の状況)に基づいて、小林譲二弁護士が韓国の実態を報告されました。
詳細は一弁が近々報告書を発表する予定です。

韓国では、2006年に非正規労働者保護関連法制が制定され、2007年7月1日から施行されています。主な内容は、
①「2年を超えて有期雇用労働者及びパート労働者を雇用する場合には、期間の定めのない労働契約を締結したものとみなす」という【上限規制】
②「非正規労働者であることを理由とする差別的処遇の禁止と非正規労働者が差別是正を労働委員会に申し立てることができる」【差別是正措置】
③「派遣先が派遣労働者を、2年を超えて使用する場合の直接雇用義務」【派遣労働者の直接雇用義務】です。

ここでは①の上限規制についてだけ、小林弁護士の報告のポイントをご紹介します。これは最新の統計に基づくものです。

2007年7月以降、2011年7月までの期間で契約期間満了者12万人のうち契約終了、正規職への転換、継続雇用の比率は次のとおりです。

契約終了    46.15%

正規職への転換 22.33%

継続雇用    31.5%(無期契約みなし)

労働委員会への非正規労働者の2007年7月から2011年8月まで差別是正措置の申立について、韓国中労委の調査によると次のとおりです。

申立件数 2413件(100%)

是正命令  956件(是正率18.5%)

取り下げ  931件(取下率38.5%)

■労使の弁護士の討論

全国ユニオンの鴨桃代さんから日本の有期労働契約者の現状と問題点が報告され、その後、労働側弁護士の宮里邦雄(労働弁護団会長・東京弁護士会)、経営側弁護士の石嵜信憲(経営法曹会議幹事・第一東京弁護士会)、コーディネーターは、東京大学大学院法学政治学研究科教授の荒木尚志先生です。

■入口規制は平行線

【入口規制】(有期労働契約を締結するには合理的理由が必要)については、労使の主張は最後まで平行線です。経営側は国際競争力にさらされており、規制強化は産業の空洞化を招くという点を強調をしています。

ただし、労使とも一致する点がありました。それは、若年労働者が不安定な有期雇用でしか働けなくなったら日本社会が危機に瀕します。これを回避する方策が必要という点です。

経営側からは、若い労働者を正規職員として雇用した場合には政府が補助金を出すという方策も考えるべきだという意見が述べられました。ただし、入り口規制については消極的です。石嵜弁護士は、個人的意見としては、若手労働者については無期契約とするような方策がないものか述べられていました。

■【出口・上限規制】をめぐって

これに対して、有期労働契約利用の最長期間の制限【出口規制・上限規制】についても、労使の主張は対立したままです。

労働側としては「入口規制なき、出口規制には反対」です。上限・出口規制だけを導入すると、上限の直前に一斉に雇い止めされるおそれがあります。いわゆる【副作用】問題です。

■【副作用】問題

この【副作用】が重大であれば、この上限規制は入れるべきではないでしょう。その副作用の評価が難しいです。この点、韓国の調査結果は妙ですね。46%の雇い止めをどう評価するのか。もし上限規制がなければ、雇用が継続していたとも思えます。他方で、正規職員22%、無期化が31%で、あわせて53%が無期労働契約になったことをどう評価するのか。

コップに水が半分残っているのを見て、まだ半分あると見るべきか、もう半分しかないと見るべきか。悩ましいですね。入口規制なき、出口・上限規制の評価については難しい問題です。

従来のままであれば、雇い止めを争うことができたが、これが出口・上限規制では、争えない。でも雇い止めを争うことができる人は極めて少数。そうであれば、法律で規制して、無期化する人が増えればそのほうが良いという人もいるでしょう。

やはり、入口規制が必要不可欠なはずです。

なお、シンポジウムでは、この上限規制を入れる場合には何年とすべきかも意見交換がありました。宮里弁護士は3年という案を提案されていました。これに対して、石嵜弁護士は「経営側には、仮に入れるとしたら2年、3年を短すぎる。5年、10年という考え方がある」と紹介されていました。

■雇い止め法理の実定法化

【出口規制】として【雇い止め法理】(雇い止めに一定の場合には解雇権濫用法理を類推適用する)については、労使とも一致して、法律に明確なルールにすることは異論がありません。ただし、どのような法文にするかという、具体論となるといろいろ問題が生じるでしょう。特に、どのような場合に解雇権濫用法理を適用するかという点をどう法文として表現するのかは難しいところでしょう。

■均等待遇

最後に、均等待遇の原則については、労使とも平行線のままでした。

宮里弁護士は、「雇用形態の違いを理由にする不合理な差別は禁止するという原則をたてるべきではないか。合理的な理由があれば労働条件の違いが許容されるのであるから、経営側も支障がないはずだ。これがだめなら経営側は不合理な差別をしても良いということを言っていることになる。」と主張されました。

石嵜弁護士は、「合理性が何かが問題になる。また、契約をすればそれが尊重されるというのが法律の原則である」と反論をされていました。

■労働政策審議会部会での建議
今年12月には、労働政策審議会の建議が予定されています。

格差社会を是正して、若者が安定した雇用で暮らして、結婚し、子供を育てていくには、有期労働契約を規制する法律が必要不可欠です。正規・非正規、老若男女を問わず、日本社会の未来をまもるために、本気で取り組まなければならない課題だと思います。

2011年10月16日 (日)

読書日記「内部被曝の真実」児玉龍彦著 幻冬舎新書

2011年9月10日第一刷発行
2011年9月24日読了

■東大の原子力研究者は信用しないけど、例外の研究者もいました

衆議院の国会厚生労働委員会での熱弁が評判になった東大先端科学技術研究センター教授(システム生物医学)です。

■ヨウ素131と甲状腺がんの20年後の疫学的証明

放射線被曝と健康被害の疫学的証明をまっていては遅すぎると、チェルノブイリの例をあげて指摘されており、説得力があります。

1991年、ウクライナの学者がチェルノブイリの子どもに甲状腺がんが多発していることを最初に発表した。このときは、日本や米国の研究者は、因果関係があるかは不明であると主張していた。理由は1986年以前のデータがない以上、統計的に有意であることの証明ができないから。

20年経ったあとにウイーンとミンスク、キエフで国際会議が行われた。国際フォーラムで4000名の甲状腺がんの発症がコンセンサスとされた


日本の福島原発の場合も、「直ちに健康に影響を及ぼさな」いことは間違いないのでしょう。しかし、15年、20年後に、多くの健康被害が生じてから、疫学的に健康に危害を及ぼすことが証明されることでしょう。これは想定内のことです。

■セシウム137の危険性

チェルノブイリでは日本の福島昭治博士が、セシウム汚染地域では膀胱炎が見られ、2009年に膀胱がん発症が増加してることを報告しているそうです。

福島の女性の母乳から検出されたセシウム137は、このチェルノブイリ137の汚染度に匹敵するという。

今から20年後に、福島原発事故の症例として、セシウム137の膀胱がんが疫学的に証明されることになるのだろう。

■児玉教授の提言

科学的証明、疫学的証明の議論は後回しにして、直ちに徹底的な放射線の調査を行うこと、除染作業を国家プロジェクトとして全力をあげること。日本には、その技術的基盤は十分にあると言います。

子どもたちの健康と命をまもることを優先すべきとしています。

■専門家としての責任

児玉教授は、津波の想定について次のとおり原子力学会を批判しています。

原子力学会では、「何メートルくらいの津波を想定したらいいか」という津波の評価を行った際に、「津波の本質論ではこうなる」という議論をするのではなく、「現実的に考えて、だいたいこれくいの波に対応しておけばいいでしょう」ということをやっていまった。 … 私たち専門家が言わなくてはならないのは、現実はこうだと考えて結果に手心を加えるということではありません。」 「だから、健康被害の問題について、こういう可能性があるということをまずきちんと言うのが、われわれ医学の専門家の責任です。「最初からこれを言ったらこっちがダメだろうから」と折り合いをつけてしまったら、専門家ではなく政治家です。

■東大の原子力研究者とテレビ

3月12日以降、メルトダウンを起こしていない、科学的には確認できていないと何度も繰り返した、東大の原子力専門家、そしてテレビ報道関係者(新聞も同様だが、新聞はメルトダウンが起きていると指摘する学者のコメントも掲載していたのでテレビと同じではない)が多かった。

彼らは、不確かな情報で断定するべきでないし、住民がパニックを起こすほうが怖いと考えたと正当化するのでしょう。しかし、その結果、不要な被爆をした多くの住民がいることも間違いない事実です。

そして、おまえたちの言説は、経産省と同様に、二度と信用しません。

2011年10月10日 (月)

読書日記「日本の雇用と労働法」濱口桂一郎著 日経文庫

読書日記「日本の雇用と労働法」濱口桂一郎著 日経文庫

2011年9月15日発行
2011年10月9日読了

濱口桂一郎先生から、「日本の雇用と労働法」を送ってもらいました。ありがとうございました。

■労働法と雇用システム論との交錯

 実態である「日本の雇用システム」と、法規範である「日本の労働法」の乖離と交錯を真正面から取り上げた意欲的な書物です。読んでいてワクワク観がありました。

 著書によれば、日本型雇用システムは「職務の定めのない雇用契約」を特徴としており、欧米社会のジョブ型雇用契約(ジョブ・職務を特定する雇用契約)と大きく異なると言います。この点は、岩波新書の「新しい労働社会」でも鮮やかに整理されたとおりです。

 私たち労働弁護士は、労働法の教科書や論文から仕入れた契約論や法律解釈を踏まえて、事件処理を行います。ところが事件を通じて実際の企業の労務管理や運用の実態に触れると、確かに「?」と感じることがよくありました。…就業規則法制然り、職務職能賃金制度の人事考課然り、配転命令権然り、残業命令然り。

 この日本の雇用システムの実態について、ふた昔前なら「日本的後進性」とか、「封建主義的労務管理」などと批判していたものです。一昔前に「日本型企業社会」論の登場後、「ハイブリッド」な「現代的な日本型雇用システム」というようなとらえ方が主流になりました。

 濱口氏は、日本型雇用システムの実態をメンバーシップ型雇用契約を本質として、その形成プロセスについても、イデオロギッシュな色分けをせずに、戦前から戦後までの歴史的現実を踏まえて手際よく整理されます。

■メンバーシップ型への雇用システムの変容とその問題点

 本書は、岩波本から一歩進めて、日本の労働法がジョブ型契約を前提としていながら、実際の上の解釈では、メンバーシップ型雇用契約という実態に応じて修正されているという視点で労働法全体が描かれています。

 ジョブ型雇用契約を前提とした労働法が、メンバーシップ型雇用実態に応じて修正されたものであるという視点と解釈論は、なるほどと思いました。他方、このメンバーシップ型契約から除外された女性労働者、非正規労働者を「陰画」として描写されてます。

 著者の濱口氏は、日本の雇用システムの現実に根ざしたメンバーシップ型雇用システムが形成されてきた歴史の重みを重視します。しかし、今の社会状況の変化によって、もはや旧来のメンバーシップ型雇用は維持できないと考えられているようです。
 著者は、日本型雇用システムの今後の動向については断定されず、慎重に見極めるというスタンスです。ただし、見通しとしては、メンバーシップ型雇用契約を前提として、それが徐々にジョブ型の方向(同一価値同一労働や解雇の金銭解決制度など)に変容していくと予想されているのでしょう(そして、その方向に徐々に修正していくべきという労働法政策を含意している)。

 メンバーシップ型雇用契約の特質によって、労働者が企業に過度に包摂されることになり、個人としての自立が阻害され、中には過労死に至るような非人間的な働き方に繋がるものです。このメンバーシップ型契約の欠陥を乗り超えることは、今でも課題となっていると思います。

■職務の特定と雇用契約(労働契約)

 ところで、ジョブ型雇用契約が欧米では一般的でも、「職務を特定しない雇用契約」という類型は一つの雇用契約(労働契約)としてあり得るのではないでしょうか。なぜなら、雇用契約(労働契約)の特徴は、労働者が労務(労働力)を使用者に提供し、使用者が「労務指揮権」を有して一方的に労働者を指揮命令できるという点ですから。日本の民法の雇用契約も労働契約法の労働契約も、ジョブ型も、メンバーシップ型もカバーする法規範のように思えます。

2011年9月24日 (土)

読書日記 「労働法入門」 水町勇一郎著 岩波新書

岩波新書
2011年9月21日発行
2011年9月24日読了

■水町先生 ありがとうございます。

水町先生から、「労働法入門」をご送付いただきました。社会人のための「労働法入門」です。なかなか随所に工夫があり、おもしろく読ませてもらいました。

■「アダムとイブ-『罰』として課された労働」と「ルター-『天賦』としての労働」という対比

前者は、フランスのバカンスの権利につながり、後者はドイツの就労請求権につながるという説明は「なるほど」と思いました。

■日本の労働観は「家業」としての労働

これに対して、日本は、イエという共同体に結びつき、家族のための「生業」と、自分の分を果たすという「職分」の二面が合体したものと言います。なるほどね。

柳田國男によると、江戸時代の漁村や農村では、繁忙期には家族に養子をたくさん抱え込んで働かせて、繁忙期がすぎると養子を解消するという例があるそうです。近代以前は、日本では、家族が労働組織で、近代化した後、産業組織が家族的な共同体と観念されたということにつながるのでしょうか。

■集団の役割

「集団としての労働者」から「個々人としての労働者」に転換し、「労働法を労働市場での労働者をサポートする市場経済のサブシステム」と把握する菅野和夫・諏訪邦夫教授路線と、「労働者の自己決定を保障するには国家法(労働法)は重要な役割を果たすべき」とする西谷敏教授路線を紹介した上で、

水町先生は、「国家」と「個人」の間に位置する「集団」の役割を強調されます。ただ、集団は、労働組合よりも、労働組合を透明化し、開放化する法制度が必要であると指摘されます。

労働組合が、正社員を中心とした内向きの性格を持っているとすれば、そこに外からの風を入れ、外にも目を向けて話し合いができる組織に変えていく必要がある。

従来の集団的な労使関係に場合によっては透明性と開放性という新しい風を入れその息を吹き返させ、また、法律によって新たな集団的制度を作り出していくことによって、国家と個人との間に立ち、両者の能力を補う集団的基盤を作り上げていくことが、これからの日本の労働法の重要な課題となる。

労働者代表制度は是非、必要でしょうね。ただし、形をつくるだけでなく、「心」が入るかが大きな課題なんでしょうね。

■感想

労働法の歴史の中で、産業革命や19世紀の歴史の中で、エンゲルスの「イギリスの労働者階級の状態」や英国の「チャーティスト運動」が触れられないのは、やはり時代が変わったのだなあ、と感じました。

ロースクールに進学した娘に読ませてみようと思います。

2011年9月19日 (月)

原発労働ホットライン

■労働弁護団の原発労働ホットラインの結果

午前11:00~午後3時まで弁護士がのべ8名くらい待機しましたが、原発関連の相談は2件しかありません。1件は原発に働きに出ている家族からの相談。もう1件は福島原発で取材をしているジャーナリストからの、法律問題についての相談でした。他は、一般の労働相談です。

朝から、テレビ局5社がカメラをもって取材に来てくれたのですが。。。

NHKがインターネットで報道してくれています。

http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110919/k10015692701000.html

原発で働く人の電話相談 9月19日 13時40分 東京電力福島第一原子力発電所をはじめ全国の原発で働く人の賃金や健康問題などについての電話相談会が行われ、「会社から雇用期間や賃金について教えてもらえず困っている」など相談が寄せられました。この電話相談は、19日は午後3時まで開かれているほか、毎週の月曜日、火曜日、木曜日の午後3時から午後6時の間も受け付けています。電話番号はいずれも03-3251-5363です。 「原発労働者の命を守るホットライン」は、日本労働弁護団が全国各地の原発で働く人の賃金や労災、健康などの問題に応じようと開いたもので、東京・千代田区の事務所では労働問題に詳しい弁護士が無料で相談に応じていました。この中で、原発で働く20代の息子の父親からは「各地の原発を転々としながら働いているが、会社から雇用期間や賃金について一切、教えてもらえず困っている」という相談が寄せられました。これに対し弁護士は「会社は労働契約を結んだ際、賃金や勤務地などを明らかにする必要があるので、すぐに各都道府県の労働局に相談してほしい」とアドバイスしていました。日本労働弁護団の事務局長の佐久間大輔弁護士は「原発の職場は閉鎖的なところがあるが、おかしいことがあったら勇気を出して相談してほしい」と話しています。


■最初の一歩

労働組合の方や取材をしている記者の方からは、東電や下請会社は、労働者に箝口令をひいているそうです。マスコミには話さないという念書を書かせている業者もいるそうです。

いわきの知り合いの弁護士にチラシを送ったところ、「そう簡単に原発労働者に接触できるなんて、甘い」と言われましたが、そのとおりでしたね。

しかし、一部の新聞に相談を掲載されただけで、とにもかくにも2件の相談があったことは最初の一歩と言えます。相談は労働弁護団本部のホットラインで引き続いて受けつけます。

9月21日には労働弁護団でシンポを開催します。

原発労働は5年、10年、いやもっと続きます。Q&Aも作るように準備しています。
長い課題として継続していきます。

2011年9月10日 (土)

原発労働ホットライン&シンポジウムのお知らせ

■原発労働ホットライン

日本労働弁護団は、下記のとおり、原発関連労働からの相談を受けつけるホットラインを実施します。相談担当者は労働専門分野の弁護士です。相談者の秘密は絶対に守ります。


 福島原子力発電所だけでなく、全国の原発で働く労働者のみなさんの相談を受けつけます。また、原発労働者でなくとも、原発事故が原因での解雇、賃金未払い、労災保険などの労働問題も相談を受けます。

※ホットライン開設日時

  2011年9月19日(月)
   午前11時~午後3時

※ホットライン電話番号

 03-3251-5363

次のような相談を労働弁護士が受けてアドバイスをします。

○ 雇用保険や健康保険の社会保険に加入できていますか?
○ 当初の雇い入れ時の説明と違った賃金や労働条件で困っていませんか?
○ 危険手当や賃金がピンハネされていませんか?
○ 放射線の防護措置はきちんとなされていますか?
○ 放射線量はきちんと記録されていますか?
○ 労災のケガは補償されていますか?労災隠しはありませんか?
○ 原発事故の非難地域に入って企業が倒産した。雇用保険が切れるがどうしたら良いか?

http://roudou-bengodan.org/topics/detail/20110910_post-32.php

 
■原発労働シンポジウム
-原発労働者の命を守る-

2011年3月11日に発生した東日本大震災により、福島第一原発の原子炉が炉心溶融を起こすなどして、大量の放射性物質が漏れ出すという未曾有の原発事故が発生しました。震災直後から、事態の収束を図るために、大量の人員が、東電により福島第一原発に送り込まれており、被曝のもたらす様々な健康被害の危険に日々晒されています。
事故を受けて、従来電離放射線障害防止規則により、5年間で100msvに制限されていた放射線業務従事者の受ける実効線量は、いとも簡単に250msvに引き上げられました。また、福島第一原発内及びその周辺で活動する原発労働者の労働の実態や、被曝線量管理等の健康管理のあり方は、今なお不透明な状況です。今後、原発での労働により、彼らに短期的のみならず、中長期的な健康被害が発生することが、強く懸念されます。
さらに、原発労働は重層的な下請構造となっており、原発労働者の多くは、東電の下請、下請の下請、そのさらに下請などとして働かされています。これにより、健康管理が徹底されないおそれが一層強まるばかりでなく、彼らの多くは、幾重にも中間搾取を受けることで、極めて危険な労働に従事していながら、日給数千円程度の賃金しか受けられず、就労環境・賃金等で、劣悪な労働条件を強いられています。
このような原発労働者の被曝線量管理等の健康管理のあり方、健康被害が発生した場合の補償、そして、賃金面での劣悪な待遇につき考え、今後これらの問題に取り組んでいく第一歩として、このたび下記シンポジウムを企画しました。各界各層からの多数の御参加を得たく、御案内申し上げます。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
日 時  2011年9月21日(水)
18時30分~20時30分(18時15分開場)
場 所  総評会館4階402号室(裏面地図参照)
参加費  無 料(事前申込要・先着順)
内 容 
1 原発労働者の安全確保  西野方庸氏(関西労働者安全センター事務局長)
2 原発労働者の実態    小川英郎氏(日本労働弁護団常任幹事)
3 原発労働者の訴え    予定
3 討議と会場発言

2011年8月 7日 (日)

「第三の敗戦」 フクシマ原発事故と日本人のエートス

■こりゃ駄目だ

東北大震災による3月11日からの福島原発事故後、日本のテクノクラート(科学者、中央官僚たち)の対応を見てきて、『ホント、こりゃ駄目だ』と気分が滅入っています。

原発事故が起こったこと自体よりも、その後の科学者や中央官僚の右往左往ぶりにです。政治家の迷走は想定内ですから、今更、驚きません。

■原子力専門家の無責任と官僚の無策

科学者、官僚たちの無責任さと無能ぶりには愕然とします。原子炉の冷温停止さえも目処がたっていません。その後、廃炉(そもそも可能なのか?)や広大な土壌の汚染除去を考えると20~30年がかかるでしょう。本当に深刻な事故が起こることを想定していなかったのですね。いざとなれば、経産省あたりが秘密で対策を用意しており、少しは何とかすると思っていたのに・・・。観測ロボットさえないんだから(悲しい!)

■自分で作った「安全神話」を自ら信ずる愚かさ

住民をだまくらかすために編み出した「原発安全神話」を、官僚も科学者も、本当に自分で信じてしまったのだ?何という愚かさよ!

しかし、一番気が滅入ることは、原発事故の復旧に目処が立たないということでも、ありません。

■メルトダウンを否定した東大原子力専門家教授連中は何だったんだ

原発全冷却機能喪失直後、3月12日にメルトダウンが指摘されたときに、東大の原子力専門家の教授や准教授たちが入れ替わり立ち替わりにテレビに出演して、「燃料棒は損傷しているだけだ」と述べていました。ところが、5月初めに原子力・保安院が「3月12日いは原子炉の燃料棒はメルトダウンしていた」と発表しました。新聞ではわりと小さい記事でしたが。

あの「メルトダウンしたとは言えない」と大合唱した東大の原子力専門家とは、いったい何んだったのでしょう。

しかも、そのことについて反省や弁明さえない。「でたらめ」じゃなかった、「まだらめ」とかいう原子力安全委員会委員長並みの無責任さです。おまえらの言うことは、今後は絶対信用しないからね。

彼らも専門家だから、メルトダウンしている可能性が高いことを認識していたはずです。住民のパニックを恐れて口をつぐんだのでしょう。しかし、原子炉がメルトダウンを起こしたのであれば、水素爆発や水蒸気爆発が発生して、より深刻な事態(放射性物質の大量放出・広域汚染)が予測されたはずです。より広範囲な避難が必要となります。また、現に3月13日から14日には首都圏まで放射性物質を含んだ雲(プルーム)流れてきていた。その危険性への指摘も行うべきだったのでしょう。それを怠った。紙一重で水蒸気爆発を免れた(危機一髪)というのが真相だったのでしょう。不幸中の幸いでした。

■意図的な隠蔽でなく、無為無策の結果?

当初は、私は、その危険性が十分あることを念頭におきながら政府や経産省は、国民のパニックを回避するために、あえて秘匿していたのだと思っていたのです。ところが、実際には科学者も官僚も、そこまで検討しなかったのが真相ではないかと思うようになりました。

おそらく経産省や政府部内でも、最悪の事態について議論さえされずにタブーになった。「それを言っちゃおしまい」という感覚が蔓延していた。実際には、実務担当の専門家は事態が深刻さを深めていくのを見ながら、茫然自失していたのではないか。個々人では最悪の事態に発展する危険を感じながら、それを指摘して対策を検討し提言することもできず、周りに合わせて、楽観的なことを述べていたのだと思うのです。

これが私の気分を絶望的にさせるのです。

■空気に抗せない 組織人・日本人

ちょうど、第二次世界大戦、多くの日本人が『空気』に支配され、軍人でさえ「空気」には抗えなかったのと同じと感じます。山本七平は、「空気の研究」で戦艦大和を沖縄戦に出撃させる特攻作戦に対して大和の艦長らが、その軍事的愚かな作戦に反対したが、参謀本部が「申し訳ないが、もはや作戦の軍事的な成功不成功は問題ではない。それが皆の意見だと」と言われて、大和艦長以下、男らしく受け入れたと書いてありました。「空気」には抵抗できない、「水をさす」ようなことを言うのを躊躇する。そうして戦争に突入し、とうとう自分で泥沼から抜け出せなかった日本人。

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2006/09/post_6ffb.html

これと同じことが、フクシマ原発事故に際して発生したように思います。これは、政権党が民主党であろうと、自民党であろうと同じだったでしょう。まさに三度目の「敗戦」です。

■日本人のエートスとは

このような行動パターンは日本人の「エートス」、日本人の「原型」なのでしょう。

丸山真男が、例の「日本の思想」で、<個人としての信念や良心を持ち、主体的に判断して行動できる近代的市民のエートスは日本では生まれていない>と論じました。残念ながら21世紀になっても当たっているようです。

日本の民衆は震災や原発事故への対応が冷静で落ち着いていると言われています。しかし、見方を変えれば「お上」に単に「恭順」なお人好しでしかないとも思えます。(だから、脱原発の動きも燃え上がらないし、被災者の損害賠償も適当なところでごまかされる)。

チェルノブイリ事故が起こった後、数年してソヴィエト帝国が崩壊した。日本も、そうなるのではないかと暗い気持ちです。

日本に希望があるとすれば、原発事故を克服し、段階的な脱原発の道に踏み出し、再生エネルギーの新産業と新社会を創出するという目標をかかげるくらいことでしょう。ところが、退陣表明してしまった菅首相が言うと全く説得力がないのが哀しい。その点、孫正義の主張は凄いと思います。(日経連会長は酷すぎる!)

久しぶりのブログ更新は愚痴になりました。

2011年7月 2日 (土)

大阪労働者弁護団の集会に参加

■7月2日 大阪労働者弁護団「賛助労組との交流会」に参加

 7月2日、大阪労働者弁護団主催の賛助労働組合との交流集会(大阪弁護士会)に労働弁護団の幹事長として参加してきました。土曜日の午前中にもかかわらず100名程度の労組員や弁護士の方々が参加されていました。
 そこで、「有期雇用法制の課題と問題点」という演題で1時間、次のような講演をしてきました。労働組合と労働弁護士が個々の事件を超えて、幅広く交流して経験を交流しあうという貴重な集会です。

■労働政策新議会労働条件分科会での審議

 2010年9月に有期労働契約法制研究会が「有期労働契約に法制の在り方」について報告書を発表した後、現在、労働政策審議会労働条件分科会が審議されています。8月までに中間的整理が発表され、秋には最終報告書、まだ流動的ですが、来年通常国会には立法提案もされる予定です。
 議論の視点としては有期労働者は雇用音不安定と低い労働条件という問題を抱え、「有期労働契約の不公正・不適正な濫用を防止する」ことをあげています。各論の論点としては、①有期労働契約締結事由の規制(入り口規制)、②有期労働契約の更新回数・利用可能期間の制限(利用可能年数の上限規制)、③雇い止め判例法理の立法化、④正社員との均等待遇を検討することになっています。
 
 有期労働契約研究会の報告書の内容と労働政策新議会労働条件分科会の審議状況を詳解しました。労働組合としては、「入り口規制」の導入、「均等待遇の実効的措置」の獲得を目指して運動をひろげる必要があると訴えました。

■上限規制だけでは副作用

 労働組合の取り組みが弱いと、2~3年の上限規制だけが導入されて、2~3年を超えて有期で雇用される労働者は、無期とみなされるという内容にとどまる危険性が高い。そうなると、利用期間の上限が来る前に多くの有期労働者が雇い止めされてしまいます。上限規制がなければ、引き続き3年、5年と雇用が継続されていたかもしれない労働者が雇い止めになります。これは上限規制の「副作用」です。そのような労働者は有期契約労働者として、企業を転々としなければならなくなります。このような有期労働者が大量に出れば、その副作用は致死的といえます。

■致死性の副作用

 「薬」にプラスの薬効があっても、マイナスの副作用が致死的でれば、その「薬」は薬害でしかありません。上限規制だけでは、致死的な副作用をもつ法律が作られることになります。労働組合としては、「入り口規制」を「均等待遇の禁止」とその実効的措置を定める法律を要求すべきです。

 

2011年6月30日 (木)

トンネルじん肺救済法案

■トンネルじん肺救済法案

トンネルじん肺訴訟は、国賠請求事件で東京地裁をはじめ5地裁で勝訴判決を得ました。2007年6月に国との間でトンネルじん肺防止についての合意書を締結し、粉じん許容濃度の見直し、エアラインマスクの検討などの改善を合意して決着しました。

他方、50社を超えるゼネコンとの間では、裁判所の和解ルールを合意して、今年5月27日には、東京地裁にて、ゼネコンは、法的責任を認め、被害者に真摯な謝意を表明して和解をしました。現在、あと260名の原告が全国12地裁で和解手続きをしています。

1997年以降、2200名を超えるトンネルじん肺被害者に対しての和解が成立しています。しかし、和解が成立するまでには、訴訟開始から2年の期間がかかっています。一人ひとりのトンネル建設工事場所、機関を認定して、ゼネコン各社の負担割合を決めているからです。症状に応じて、原告の賠償金額は決まっているので、この作業はもっぱらゼネコン側の負担割合を決めるためです。

この2年の間に亡くなる原告もいます。裁判で職歴の確定するには弁護士が関与しなければなりません。原告は、貴重な時間がなくなり、裁判の負担も大きい。

そこで、トンネルじん肺救済法にて、ゼネコンからお金を拠出させて基金を創設して、簡易迅速に補償を行う。それだけでなく、全国各地のトンネル建設工事を転々とするトンネル建設労働者の就労、職歴、健康、安全衛生教育を、会社の枠を超えて、一元的管理を行って、じん肺を予防するという法律が検討されています。

http://www.myrmt.info/archives/675

トンネルじん肺、救済基金で調整 民自公、法

Date:2011-06-24Author:adminCategory:社会ニュースComment:0

 民主、自民、公明3党は15日、トンネル工事で「じん肺」にかかった労働者らの救済に向け、ゼネコンなど企業の拠出により給付金支給のための基金を創設する方向で調整に入った。今国会中に議員立法を提出し、成立を目指す。ただ、企業側の反発に加え、民主党内にも慎重論があり、調整に時間がかかりそうだ。

この基金には、衆参国会議員580名の賛同署名を得ています。民主党、自民党、公明党、共産党、社民党にも議員連盟や、プロジェクトチームがあり、積極的に賛同してもらっています。ところが、日本建設業連合会が、6月22日反対の決議をあげたのです。

■基金に反対するゼネコン

http://www.decn.co.jp/decn/modules/dailynews/news.php/?storyid=201106230104001

日建連/じん肺基金創設に反対/民主PTが法案要項、工事受注での資金拠出盛る

 日本建設業連合会(日建連)は、民主党の「トンネルじん肺救済法プロジェクトチーム(PT)」が、トンネル工事のじん肺被害者を救済するため新たな基金の創設を盛り込んだ新法の要綱案をまとめたのに対し、反対する方針を表明した。22日の理事会で決定した。
 PTが21日の会合でまとめた「トンネルじん肺救済法案要綱(案)」には、新規の工事受注者が資金を拠出する基金の創設などが盛り込まれている。これに対し日建連は、過去の工事による被害者は、その工事を実施した企業の負担によって救済するべきだと指摘。無関係の企業が基金に拠出することは受け入れ難いと主張している。
 さらに、トンネル工事で建設会社は国のガイドラインなどに沿って適正に粉じん対策を講じており、そうした状況下でじん肺被害者が発生した場合は国が救済を行うべきだとの考えも示した。加えて、被害者の迅速な救済が望ましいものの、就労履歴などが明確でないケースもあり、裁判所による和解スキームが不可欠だとも指摘。信頼性の面からも、裁判所の厳格な判断に沿って和解を進めるべきだとした。日建連は、21日のPTの会合でヒアリングを受けた際にも、基金の創設を受け入れるのは難しいとの意向を表明している。

ゼネコンは今後も裁判で決着するつもりなのでしょうか。でも、基金法案は補償金は訴訟上の和解基準の6割です。これにもろもろの訴訟対応費用を抑制できることを考えれば、基金による会社負担は軽くなるはずです。

他方で、トンネルじん肺の被害者にとっては、補償金は少なくなるが、訴訟をせずに簡易迅速に救済が受けられます。ゼネコンの役員が、この救済法案にあくまで反対すれば、かえって会社に大きな負担をかけることになるのではないでしょうか。

今も苦しむ被害者を早期に救済し、就労や健康管理を一元的に管理する法案を早期に成立させて、じん肺の根絶に踏み切るべきでしょう。

今は第3陣訴訟が全国12地裁で約260名が訴訟をしています。提訴してから3年経過しようとしていますが、まだ18名しか和解解決できていません。この間に亡くなった原告もいます。

また、基金ができなければ、今後も2~3年に一度300名近くの訴訟が延々と続いていくことになります。

国会議員(特に与党民主党議員)には、ゼネコンの不合理な反対を抑えて、救済法案の成立に尽力してもらいたいと思います。

2011年6月29日 (水)

労働弁護団 北海道ブロック総会

今日は、札幌で労働弁護団北海道ブロック総会に出席しました。
東京の猛暑から逃れて、札幌の爽やかな風が気持ちよかったです。

労働弁護団の地域のブロック総会は、この数年、若手の弁護士が多数参加されており、活発な活動をしています。
今日も、各弁護士の事件報告が興味深かったです。

札幌の労働相談ホットラインから、個別労働紛争だけでなく、集団的労働紛争も相談があり、弁護士が関与しながら成果をあげています。

任期制の大学講師の雇い止め事件、パワハラの労災事件、ホテルの労働組合に対する不当労働行為事件、タクシー労働者の権利擁護活動、水産加工会社の研修生の解雇事件など多数でした。

若手とベテランの弁護士がいっしょになって事件活動をしています。

北海道だけでなく、各地で若手の弁護士が積極的に労働事件に参加しています。一昔前から見ると、大きく変わったと思います。

労働事件は、弁護士の業務拡大の対象として、多くの弁護士が関与しはじめています。「過払いの次は、残業代請求だ」という債務整理系の弁護士の話も聞きます。

労働弁護団の会員は、彼らと違って労働者の権利確立を常に念頭におき、個別労働紛争の「処理」だけに埋没せずに、常に労働者の団結と労働組合への結集、制度改革、立法課題に向けて役立てるという意識をもって、取り組むところが違うと思っています。

必要な場合には使用者と激しく戦い、裁判所との対決も辞さない。そのために、よりいっそうの勉強が必要です。
単なるマニュアル的知識ではなく、労働弁護士としのてスピリットが何かが問われているのでしょう。

そんなことを考えた北海道ブロック総会でした。

2011年6月12日 (日)

月刊 法律のひろば 労働審判特集 と東大社研のアンケート調査

■法律のひろば


労働審判施行5年「法律のひろば」6月号で労働審判の特集が掲載されました。

http://shop.gyosei.jp/index.php?main_page=product_info&cPath=40_4071_404071001&products_id=7094

私も、労働者側弁護士としての評価と課題を書いています。
裁判所の詳しい統計や東京地裁や奈良地裁の実際の運用が報告されています。

【特集:労働審判制度 開始からの5年間を振り返る】 ●労働審判制度の課題 -制度開始から5年を経て  /京都大学教授 村中孝史

●全国の労働審判事件の動向と課題
 /最高裁判所事務総局行政局第一課長兼第三課長 春名茂

●東京地方裁判所における労働審判の実施の現状と実務
 /東京地方裁判所民事第11部部総括判事 白石哲

●奈良地方裁判所における労働審判制度の運用状況
 /奈良地方裁判所判事 藤野美子

●使用者団体からみた労働審判制度
 /社団法人日本経済団体連合会労働法制本部長 田中秀明

●使用者側代理人からみた労働審判制度の意義と課題
 /弁護士(太田・石井法律事務所) 石井妙子

●労働審判制度充実に向けた連合の提言
 /日本労働組合総連合会総合労働局長 新谷信幸

●労働側代理人からみた労働審判制度の意義と課題
 /弁護士(東京法律事務所) 水口洋介

労働審判員用の書証を整備したほうが良いとの意見は労使とも共通のように思います。
傍聴の扱いについては、労使の意見はことなっています。私は、相談を担当した労働組合の担当者も柔軟に傍聴をしたほうが、適切に労働審判が運営できるという意見です。もちろん。


■裁判所、労使とも高評価

東大社会科学研究所が、労働審判の当事者アンケート結果の概要を速報していますが、ここからも利用者の多くは好意的に評価していることが分かります。

http://jww.iss.u-tokyo.ac.jp/roudou/pdf/sokuho.pdf


労働者側の満足度が約50%が高く、使用者側の満足度は約35%と低いです。
詳細は上記をご覧下さい。


2011年6月 6日 (月)

2011年6月6日 国歌起立斉唱命令最高裁判決 少数意見付き 

■6月6日に最高裁第一小法廷判決

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110606165018.pdf

5月30日の最高裁第二小法廷判決(http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110530164923.pdf)に続いて、私たちが担当していた13名の嘱託採用拒否事件の最高裁判決第一小法廷で6月6日に言い渡されました。

多数意見(法廷意見)は、両者とも基本的には一緒です。細かな用語や言い回しまで一緒ですので、両小法廷で意見のすりあわせがあったことは間違いないでしょう。担当の最高裁調査官が同一人物なのです。

滝井元最高裁判事の本(「最高裁は変わったか」)によれば、最高裁の評議事件では担当調査官が合議に出席して最高裁判事たちの議論を聞いて、調査官が起案するのだそうです。

第三小法廷が、6月14日に八王子の中学校の起立斉唱命令に関する判決を言い渡します。これも弁論を開かないので、高裁敗訴が確定です。続いて第三小法廷は6月21日に広島の高校の懲戒処分事件の判決を言い渡します。

第一、第二、第三の各小法廷でつぎつぎと判決が言い渡されていますが、これは最高裁が全体として、この問題を決着させると意図的に、この時期に一斉に判決を言い渡していると思われます。最高裁の強い意志を感じます。大阪の君が代条例も影響しているのでしょうか。

■法廷意見

5月30日と6月6日判決の大筋は次のとおりです。

卒業式等における国歌斉唱の際の起立斉唱行為は、一般的、客観的に見て、これらの式典における慣例上の儀礼的な所作としての性質を有するものであるかり、かつ、そのような所作として外部からも認識されるものというべきである。したがって、…起立斉唱行為は、その性質から見て、上告人らの有する歴史観ないし世界観を否定することと不可分に結び付くものとはいえず、上告人らに対して上記国歌斉唱の際の起立斉唱行為を求めることを内容とする本件各職務命令は、上記の歴史観ないし世界観それ自体を否定するものということはできない。

また、上記国歌斉唱の際の起立斉唱行為は、その外部からの認識という点から見ても、特定の思想又はこれに反対する思想の表明として外部から認識されるものと評価することは困難であり、職務上の命令に従ってこのような行為が行われる場合には、上記のように評価することは一層困難である。

そうすると、本件各職務命令は、これらの観点において、個人の思想及び良心の自由を直ちに制約するものとは認めることはできない

以上は、ピアノ伴奏命令拒否事件最高裁判決のとおりです。次からは違います。

もっとも、上記国歌斉唱の際の起立斉唱行為は、一般的、客観的に見ても、国旗及び国歌に対する敬意の表明の要素を含む行為であるということができる。そうすると、自らの歴史観ないし世界観との関係で否定的な評価の対象となる「日の丸」や「君が代」に対して敬意を表明することは応じ難いと考える者が、これらに対する敬意の表明の要素を含む行為を求められることは、その行為が個人の歴史観ないし世界観に反する特定の思想の表明に係る行為うそのものではないとはいえ、個人の歴史観ないし世界観に由来する行動(敬意の表明の拒否)と異なる外部的行為(敬意の表明の要素を含む行為)を求められることとなる限りにおいて、その者の思想及び良心の自由にういて間接的な制約となる面は否定しがたい。

このような間接的な制約が許容されるか否かは、職務命令の目的及び内容並びにこれによってもたらされる上記の制約の態様等を総合的に衡量して、当該職務命令に上記の制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められるか否かという観点から判断するのが相当である。

本件職務命令は、高等学校教育の目標や卒業式等の儀式的行事の意義、在り方等を定めた関係法令等の諸規定の趣旨に沿って、地方公務員の地位の性質及びその職務の公共性を踏まえ、生徒等への配慮を含め、教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに当該式典の円滑な進行を図るものということができる。

以上の諸事情を踏まえると、本件各職務命令については、上告人らの思想及び良心の自由について間接的な制約となる面はあるものの、職務命令の目的及び内容並びにこれによってもたらされる上記の制約の態様等を総合的に衡量すれば、上記の制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められる

■宮川光治最高裁判事の反対意見

救いは、宮川最高裁判事の反対意見です。格調が高いものです。

国旗に対する敬礼や国歌を斉唱する行為は、私のその一員であるところの多くの人々にとっては心情から自然に、自発的に行う行為であり、式典における起立斉唱は儀式におけるマナーでもあろう。しかし、そうではない人々が我が国には相当数存在している。それらの人々は、「日の丸」や「君が代」を軍国主義や戦前の天皇制絶対主義のシンボルであるとみなし、平和主義や国民主権とは相容れないと考えている。そうした思いはそれらの人々の心に深く在り、人格的アイデンティティをも形成し、思想及び良心として昇華されている。少数であっても、そうした人々はともすれば忘れがちな歴史的・根源的な問いを社会に投げかけているとみることができる。

(国旗国歌法は)強制の契機を有しないものとして成立したものといえるであろう。しかしながら、本件通達は、校長の職務命令に従わない場合は服務上の責任を問うとして、都立高等学校の教職員に対し、式典において指定された席で国旗に向かって起立し国歌を斉唱することを求めており、その意図するところは、前記の歴史観ないし世界観及び教育上の信念を有する教職員を念頭に置き、その歴史観等に対する否定的評価を背景に、不利益処分をもってその歴史観等に反する行為を強制しようとすることになるとみることができる。本件各職務命令は、こうした本件通達に基づいている。

そして、上告人らの行動が式典において前記歴史観等を積極的に表明する意図をもってなされたものでない限りは、その審査はいわゆる厳格な基準によって本件事案に即して具体的になされるべきであると思われる。本件は、原判決を破棄して差し戻すことを相当とする。

宮川反対意見は、厳格な基準により判断すべきだとして次のように言います。

具体的に、目的・手段・目的と手段の関係をそれぞれ審査することになる。目的は真にやむを得ない利益であるか、手段は必要最小限度の制限せあるか、関係は必要不可欠であるかということをみていくことになる。 … より制限的でない他の選び得る手段が存在するか(受付を担当させる等、会場外における役割を与え、不起立不斉唱行為を回避させることができないか)を検討することになろう。

■上告理由の第二点の憲法26条、23条に基づく教育の自由違反は無視

これについては、法廷意見は、単なる法令違反の主張であるとして適法な上告理由でないとしました。しかし、宮川最高裁判事は、この点については、通達の趣旨目的を的確に把握しており、われわれの主張を受け止めてくれています。

■生徒の思想良心の自由をまもる

法廷意見は、間接的であっても、思想良心の自由の制約を認めたことから、生徒に対して起立斉唱を命じて強制することは許されないことになります。

特に金築誠志最高裁判事の補足意見は

私が、念のために強調しておきたいのは、上告人らは、教職員であって、法令やそれに基づく職務命令に従って学校行事を含む教育活動に従事する義務を負っているという点である。この点で、児童・生徒に対し、不利益処分の制裁をもって起立斉唱行為を強制する場合とは、憲法上の評価において、基本的に異なると考えられる

つまり、児童・生徒に対して起立斉唱行為を強制することは19条違反になることを指摘しています。

■最後に

私としては、間接的であっても思想良心の自由の制約を認めた以上、猿払事件最高裁大法廷判決の審査基準(合理的でやむを得ない制限、目的の正当性、目的と手段の合理的関連性、利益の均衡)が適用されることになる。そうなれば、合理性と必要性という緩やかな基準ではないです。少なく猿払事件基準を適用すれば論理的には、宮川最高裁判事と同様の結論になるはずだと思います。しかし、最高裁多数意見はそうとりませんでした。

その実質的な判断が何によるのか。

第二小法廷の須藤最高裁判事は、あけすけに言っています。「教師が率先垂範すべきだ」と。しかし、それは生徒に事実上、起立斉唱を強制するものではないでしょうかね。

本件上告人らが訴えたかったことは、反「日の丸」でも反「君が代」でも、反「天皇」ではありません。学校において、生徒に対して一律に国歌斉唱時に起立斉唱行為を強制することはおかしいという点なのです。それは個人の歴史観ないし世界観に基づくだけでなく、教師として生徒の思想良心の自由を尊重すべきという信念にほかなりません。

「強制された愛国心や忠誠心は偽物である」と述べたアメリカ合衆国の連邦裁判所判決が、このことを一言で表していると思います。

まだまだ、この点にはこだわっていきたいと思います。

2011年6月 5日 (日)

菅総理退陣が意味するもの 大連立と原発

■菅総理が辞任で大連立に

この間の政局のドタバタにはうんざりです。
このドタバタの本当の意味は、菅総理を退任させることで大連立に道が開けたということでしょう。

年内中にも大連立が実現するのでしょうね。
そうなれば、小沢派は切り捨てられることになるでしょう。
民主、自民、公明の大連立ですが、民主と自民のイニシア争いの政争がまだ続くことでしょう。
どっちが主導権を握るのでしょうか。

■大連立

大連立により、懸案事項を一挙に解決しようということになるのでしょう。
その場合の最優先事項は財政赤字解決、消費税増税、沖縄米軍基地問題なんでしょうね。

■原発は大連立しようとどうしようもない

とはいえ、大連立しようと福島原発は収束はしない。
昨日は、第一号機の建屋内で4000ミリシーベルトを測定したとニュースでやっていました。

もうどうしようもないですね。
4000ミリシーベルトって、人間が入ったら死んでしまいます。
人間が入れない以上、原子炉を冷温停止なんて不可能でしょう。

このまま1年、2年、放射性物質が漏れ続けるのです。
そして、その影響は、10年、20年後、われわれが今、想像している以上に悲惨な事態を起こすのでしょう。

■悪夢のような未来

これから10年後、20年後、多くの人々が放射線障害で苦しむことでしょう。ガンの発症率が5%とか10%増えているのではないでしょうか。

しかし、裁判でそれを原発の放射線被害であると証明することは無理でしょう。

裁判所は厳格な証明を求めますから、地域でガン患者が10%増えていても、その被害者(原告)が原発の放射性物質による被害と証明することは極めて困難ですからね。他の発ガン性物質だってあるのだから。

今の原爆症認定訴訟では行政は延々と争います。被爆後65年すぎても解決しないのですよ。

10年、20年後、また想定外だったって、政治家や学者は言っていることでしょう。
そして、東電や官僚は、福島で増加したガン患者の損害賠償や労災請求について訴訟で争っていることでしょう。

あの水俣やイタイイタイ病公害闘争のように、原発被害者闘争がおこる可能性は高いと思います。

国家公務員制度改革 自律的労使関係と給与カット

■国家公務員制度改革関連法案

国家公務員制度改革関連法案と国家公務員の給与カット法案が閣議決定されました。
労働弁護団も意見書を発表しています。

http://roudou-bengodan.org/proposal/detail/post-12.php

■自律的労使関係

労働弁護団が意見書を発表したことあら、内閣官房の国家公務員制度改革推進本部の事務局の方が、法案を持参して、わざわざ、「総評会館」内の労働弁護団事務所まで説明にきてくれました。

国家公務員の法案に、「労使関係」という用語が使われ、「労働協約締結権」を認めるのは、画期的ではあります。
とはいえ、公務員諸氏にとっては、うれしくもないでしょうね。

■給与カット法案と自律的労使関係

自律的労使関係と言っても、人事院を廃止して、給与を労使間で自律的に決定するという建前だけで、結局、今の情勢から言えば、労使で自律的に給与カットを合意しますというための地ならしのようなものですね。

■争議権剥奪の代償措置ってあるのかい?

争議権を否定しながら、給与カット、人事院の廃止ということで、公務員の争議禁止は、また憲法問題が提起されますね。

争議禁止の代償措置として、労働協約締結を認めたということが代償措置になりますかねえ。
まあ、今の最高裁であれば、何でもかんれでも合憲って認めることでしょうね。

国歌起立斉唱命令も合憲だし、原発だって東電の主張を鵜呑みで野放しですからねえ。


2011年5月22日 (日)

協同労働の協同組合法案への批判

■協同労働の協同組合法案要綱への批判声明

労働弁護団として、超党派の議員連盟が準備している「協同労働の協同組合法案要綱」に、協同組合への労働法への規制を解除するおそれがあり、安く労働者を使用する(チープレイバー)を手段になりかねないとして、批判の声明を出しました。

http://roudou-bengodan.org/proposal/detail/post-13.php

■協同労働の協同組合

この法律の理念は素晴らしいものです。

「組合員が協同で出資し、経営し、及び就労する団体に法人格を付与すること等により、働く意思のある者による就労の機会の自発的な創出を促進するとともに、地域社会の活性化に寄与し、もって働く意思のある者がその有する能力を有効に発揮することができる社会の実現に資すること」


この協同組合は、組合院である役員と、業務に従事する組合員とに別れます。前者が協同組合の管理運営に従事し、協同組合の業務に従事する組合員とに別れることになります。少人数であれば、役員と業務従事する組合員は分離することはないでしょう。しかし、この協同組合は人数や規模に制限はありませんから、100人、500人、1000人の規模になった場合に、協同で決定して、協同で働くという 自主管理的な運営はできなくなるでしょう。現に、この手のNPOで労働紛争が起こったりしています。

■法案要綱の労使関係の基本的考え方

ところが、この法案要綱の前提となる労使関係の基本的考え方では、協同労働の協同組合には、労働組合法も、労基法も適用しないとしています。

ただし、雇用保険と労災保険についてのみ労働者とみなすということにするとしています。

2011年2月23日、議員連盟において、「要綱案」が改定され、「協同労働の協同組合法案(仮称)の要綱」が議決されましたた。

この「新要綱」は、「協同労働の協同組合において就労規程に従って働く者は、労働基準法の適用事業に使用される労働者とみなすものとすること。」としています。

これを見ると、労基法が全面的に適用されるかのようにも読めるのですが、他の部分では、就労規定は、就業規則のように労基署の指導監督権限がないようにも読めます。何よりも、協同組合を使用者として、労基法、労組法、最賃法などによる規制を行うことは、注意深く、外しているように読めます。

■議員連盟は秘密裏に進めています

私は、民主党の当該議連の事務局長とおぼしき議員事務所宛に何度か電話やファクシミリで問い合わせて、上記の懸念を疑問として投げかけましたが、まるでなしのつぶてです。

ということで、上記の懸念が深まったため、労働弁護団として批判声明を出したものです。

■震災復興にも役立つとして、今通常国会の中でも自民党、民主党、共産党まで含めた全党派の議員立法で成立する予定とのことです。法案要綱の問題点も十分に審議してもらいたいと思います。

2011年5月10日 (火)

竹中平蔵の確率論

■竹中平蔵の確率論

ツイッターで次のようにつぶやいているそうです。

竹中平蔵 30年で大地震の確率は87%・・浜岡停止の最大の理由だ。確率計算のプロセスは不明だが、あえて単純計算すると、この1年で起こる確率は2.9%、この一カ月の確率は0.2%だ。原発停止の様々な社会経済的コストを試算するために1カ月かけても、その間に地震が起こる確率は極めて低いはずだ。


http://twitter.com/#!/HeizoTakenaka/status/67726323170283520

えっつ、そうなの? ・・・・ ちがうでしょ!

中学生のときに、サイコロの確率について教師に質問をされました。

5回ふって、一度も1が出なかった場合に6回目にサイコロをふって、1の出る確率は?

アホな中学生だった私は、「6分の1より高い」と思ったのです。

数学の教師は、「違う。常に6分の1の確率は変わらない」と説明していました。

■とすると確率87%というのは?

30年間、毎日87%の確率があるということなのでしょうかね。

«菅直人総理の英断 浜岡原発停止要請

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