2018年12月11日 (火)

われらはレギオン 1~3  AI 恒星間探査体

早川書房から、「われらはレギオン」1~3巻が発刊され、Kindle本で購入して、この1週間で全冊を読みました。幸せな読書時間をすごせました。

ソフトウェア会社の社長兼プログラマーのボブ・ジョハンスンは、2016年にアメリカSF大会の会場で交通事故にあい死亡した。目覚めてみると、なんと117年後の2133年6月24日、キリスト教原理主義国家となったアメリカで、恒星間探査機の電子頭脳になっていた!


はからずもほぼ無尽蔵の寿命と工業生産力を手に入れたボブは、人類の第2の居住地を探して近隣の星系を探索し、つぎつぎに新発見や新発明を成し遂げていく!傑作宇宙冒険SF、3部作



人の死亡した全脳をコンピューターにコピーして人格がすべてAIに移し替えられた。
生き返った(?)、117年後の地球では、キリスト教原理主義が政権をとって宗教国家となっているアメリカ。(今のアメリカの状況のパロディです)。AIは不死だし、コピー(AIのクローン)も無限大につくれる。

ボブが生き返った2133年の世界は、ヨーロッパ合衆国、中国、ブラジル帝国がしのぎをけずっていて、ブラジル帝国が核戦争を遂行して人類が滅亡の危機に陥っていた。


(ブラジル帝国はガンダムのジオン公国のように小惑星を地球に落としちゃう)

(日本は中国に支配されています。日本人が宇宙船である惑星に移住する話がちゃんとでてきます)

(中国のAI宇宙船は悪逆非道・暴虐な異星人にのっとられて、暴虐な異星人(のAI)が中国語を話すので、中国は人類どころか全宇宙の知的生命体の敵のようになりますが)

そこで、人類が植民可能な惑星を求めて、ボブの知性や人格(?)が移し替えられたAIを搭載した恒星間探査機が他の植民可能な太陽系を探しにでる。

しかも、ボブのAIはどんどんコピーができる。小惑星の金属資源さえあれば、スパー3Dプリンターで量産可能というわけで、最後は500体ものボブAIがコピーされる。

ボブがSFオタクで、スターウオーズとスタートレックなどのSF映画大好きの陽気なオタクで、実存的悩みを知らずに、どんどん深い宇宙に探検にでかける。

中高生のころに、スミスの「レンズマン・シリーズ」、バロウズの「地底世界ペルシダー」、ハイランの「宇宙の戦士」、A.C.クラークの「幼年期まで」「2001年宇宙の旅」「宇宙のランデブー」、スタニスワフ・レムの「ソラリス」「無敵」「エデン」などのSF小説を夢中になって読んだ気分を思い出させる幸せな読書でした。

SF小説好きの人には是非おすすめです。

日頃のストレスや嫌なことをすべて忘れることができます。
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B07JGQTMNY/ref=series_rw_dp_sw
[デニス E テイラー]のわれらはレギオン1 AI探査機集合体 (ハヤカワ文庫SF)

| コメント (0) | トラックバック (0)

2018年11月11日 (日)

韓国大法院判決(2018年10月30日新日鐵住金徴用工事件)を読む

■メガトン級破壊力の韓国大法院判決


2018年10月30日の韓国大法院は、「強制動員生還者」の韓国人(遺族)を含めて、1億ウオン(約1000万円)の慰謝料請求権を認めて、新日鐵住金に賠償金の支払いを命じる判決が言い渡しました。

私は、日本がアジア諸国を侵略し、朝鮮に対して不法で過酷な植民地支配をしたものと確信しています。その私から見ても、今回の韓国の大法廷判決はビックリです。

今後の日韓関係に長期間にわたり深刻な悪影響を与えると感じます。また、日本にとっては、韓国との関係にとどまらない大変な影響をもたらすものです。

今まで新聞記事の要約でしか、この判決文がわかりませんでしたが、全文が翻訳(仮訳)されたので、読んでみました。また、当該事件については、大法院は、2012年5月24日に判決を言い渡しており、その差し戻し審の再上告事件として今回判決が言い渡されたものです。

http://justice.skr.jp/koreajudgements/12-5.pdf?fbclid=IwAR052r4iYHUgQAWcW0KM3amJrKH-QPEMrH5VihJP_NAJxTxWGw4PlQD01Jo

また、日本の最高裁は、中国人の強制徴用に関して、2007年4月27日「日中戦争の遂行中に生じた中華人民共和国の国民の日本国又はその国民(法人含む)に対する請求権は、日中共同声明5項によって、裁判上訴求する権能を失った」と判決しています。これと読み比べてみます。


■2018年10月30日大法院判決のポイント

核心的争点は、「植民地時代に日本企業に強制動員(徴用)された韓国の徴用工が日本企業に対して、1965年の「日韓請求権協定」にもかかわらず、慰謝料損害賠償請求権を裁判上請求できるか」という点です。

今回の大法院判決は次のように判断します(上告理由第3点)。

(1)本件は、不法な植民支配・侵略戦争に直結した日本企業に対する反人道的な不法行為の慰謝料請求権であり、未払い賃金や補償金を請求しているものではない。

(2)請求権協定は、不法な植民支配に対する賠償ではなく、サンフランシスコ条約第4条(a)に基づく債権債務関係の処理だけであり、植民地支配の不法性に直結する請求権まで含むものではない。

(3)請求権協定第1条により日本が韓国に支払った3億ドルの無償提供及び2億ドル借款は、同協定2条の請求権放棄と法的対価関係にはない。

(4)請求権協定の際に、日本政府は、植民地支配の不法性を認めないまま強制動員被害の法的賠償を否認した。

(5)請求権協定の交渉の際に、韓国が日本に対して8項目に対する補償として総額12億2000万ドルを要求し、そのうち3億6400万ドル(約30%)を強制動員被害補償に対するものとして算定していた事実を認めることができるが、実際の請求権協定は極めて低額な無償3億ドルで妥結し受け取ったものであり、強制動員慰謝料も請求権協定の適用対象者に含まれていたとは言いがたい。


■請求権協定の文言

大法院判決は請求権協定を引用します。請求権協定第1条に3億ドルの無償供与と2億ドルの借款が定められ、第2条1項に次のように定められています。(しかし、大法院判決は両条は対価関係には立たないとします。)。

1. 両締約国は、…両国間及びその国民間の請求権に関する問題がサンフランシスコ平和条約第4条(a)に規定されたことを含め、完全かつ最終的に解決されたことを確認する。

2. (略)

3. …一方の締約国及びその国民の財産、権利及び利益として、本協定の署名日に他方の締約国の管轄下にあることに対する措置と、一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権として同日付以前に発生した事由に起因することに関しては、如何なる主張もできないこととする。
 

さらに請求権協定に関する「合意議事録(Ⅰ)」には次のとおり定めています。
(a) 財産、権利及び利益とは法律上の根拠に基づいて財産的価値が認められる全ての種類の実体的権利をいう

(e) 同条3.によって取られる措置は、同条1.でいう両国及びその国民の財産、権利及び利益と両国及びその国民間の請求権に関する問題を解決するために取られる各国の国内措置をいう。

(g)同条1.でいう完全かつ最終的に解決されたことになる両国及びその国民の財産、権利及び利益と両国及びその国民間の請求権に関する問題には、韓日会談で韓国側から提出された『韓国の対日請求要綱』(いわゆる8項目)の範囲に属するすべての請求が含まれており、したがって同対日請求要綱に関しては如何なる主張もできなくなることを確認した。


■2005年の韓国政府公式見解と追加措置


大法院判決は、次のような2005年の韓国政府の公式意見と追加措置を認定しています。(故盧武鉉大統領時代です。)

韓国政府が設置した請求権協定を検討する民官共同委員会を設置し、2005年8月に「請求権協定は、サンフランシスコ条約第4条に基づき韓日両国間の財政的・民事的債権債務関係を解決するためのものであり、日本軍慰安婦問題等、日本政府と軍隊の日本国家権力が関与した反人道的不法行為については請求権協定で解決されたものとみることはできず、日本政府の法的責任は残っており、サハリン同胞問題と原爆被害者問題も請求権協定の対象に含まれなかった」と公式意見を表明しています。

しかし、同時に、この公式意見では次の内容も含まれていたと認定しました。


○「韓日交渉当時、韓国政府は日本政府が強制動員の法的賠償、補償を認めなかったことにより、苦痛を受けた歴史的被害事実に基づき政治的補償を求め、このような要求が両国間無償資金算定に反映されたと見なければならない」


○「請求権協定を通して日本から受領した無償3億ドルは、個人財産権(保険、預金等)、朝鮮総督府の対日債権等、韓国政府が国家として有する請求権、強制動員被害補償問題解決の性格の資金等が包括的に勘案されたものと見なければならない」


この公式意見に基づき、韓国政府は、2007年犠牲者支援法により、強制動員犠牲者には2000万ウオン、強制動員生還者には80万ウオンを支給したことも認定しています。


■大法院判決への私の疑問

私は弁護士ですが、国際法の専門家ではありません。ただ、その普通の弁護士がこの判決を読んだとき、次の疑問が生じました。

● 韓国政府の対日要求8項目には、強制動員被害者の精神的肉体苦痛に対する要求も含まれていたことは大法院判決も認めている。にもかかわらず、請求権協定の対象に含まれないといするのは不合理。金額が少ないからという理由は根拠として不十分ではないか。前記「合意議事録(Ⅰ)」の(g)にも反するのではないか。

● 請求権協定は、サンフランシスコ条約4条(a)が債権債務関係の処理であることは間違いないが、請求権協定の文言は、「サンフランシスコ…平和条約第4条(a)に規定されたことを【含め】、完全かつ最終的に解決された」としており、【含め】と明記されている以上、同条約第4条(a)以外の規定されたものも含まれていることは明白です。それは他の問題、すなわち「韓国の歴史的被害事実」に基づく関係も含まれると解釈するのが自然な解釈でしょう。もし違うというなら、第4条(a)以外の関係とは何なのでしょうか。この点、大法院判決も「そう解釈される余地がないではない」と歯切れが悪いです。

● 大法院判決は、不法行為の慰謝料請求権であることを強調し、この慰謝料請求権は請求権協定の対象外としています。では、賃金請求権等は請求権協定の対象となっており、徴用工は請求できないと判断しているのでしょうか。この点、大法院判決は明確ではないように思います。しかし、サンフランシスコ条約4条の規定に賃金請求権は含まれるでしょうから、請求権協定の対象となるでしょう。大法院は、この賃金請求権については判決で認容するのでしょうか。しかし、この場合には、請求権協定の対象になるといっているように読めます。

● 日韓政府の条約であっても、国民個人の請求権を奪うことはできないという判断は、一般論としてはそのとおりでしょう。しかし、その個人の請求権を国内措置として裁判所が判決として支払いを命じることは、上記「合意議事録(Ⅰ)」の(e)の国内措置(当然、国内の裁判制度や判決も含まれる)をとらないとの確認に反しているでしょう。


■日本の2007年4月27日最高裁判決


http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=34580

この日本の最高裁判決の事案は、中国から強制連行された中国人が日本企業に対して安全配慮義務違反等があったとして損害賠償請求を求めたものです。韓国の徴用工と同じ事案と言って良いでしょう。

問題は、サンフランシスコ条約や日中共同声明での請求権放棄によって、上記中国人の請求が認められるかどうかです。

サンフランシスコ平和条約14条(b)は、「この条約に別段の定がある場合を除き、連合国は、連合国のすべての賠償請求権、戦争の遂行中に日本国及びその国民がとつた行動から生じた連合国及びその国民の他の請求権並びに占領の直接軍事費に関する連合国の請求権を放棄する。」と定めています。
日本の最高裁は、上記サンフランシスコ平和条約について「将来に向けて揺るぎない友好関係を築くという平和条約の目的を達成するために定められたものであり、この枠組みが定められたのは、平和条約を締結しておきながら戦争の遂行中に生じた種々の請求権に関する問題を、事後的個別的な民事裁判上の権利行使をもって解決するという処理にゆだねたならば、将来、どちらの国家又は国民に対しても、平和条約締結時には予測困難な過大な負担を負わせ、混乱を生じさせることになるおそれがあり、平和条約の目的達成の妨げになるとの考えによる」と判断しました。


日中共同声明5項は、「中華人民共和国政府は、中日両国民の友好のために、日本国に対する戦争賠償の請求を放棄することを宣言する
」としています。

この趣旨は、サンフランシスコ平和条約の枠組みと同じであり、ここでいう請求権の放棄とは、請求権を実体的に消滅させることがまでを意味するのではなく、当該請求権に基づいて裁判上訴求する権能を失わせするにとどまるもの」とし、「債務者側(日本企業)が任意で自発的な対応することは妨げられない」としました。

上告人(日本企業)を含む関係者において、本件被害者らの被害の救済に向けた努力をすることが期待される」と判示しました。その結果、当事者間の話し合い、努力により、裁判外の和解により日本企業が中国人被害者に和解金を支払って、一定範囲の中国人徴用工に和解金を支払う基金を設立して解決しました。


この日本の最高裁の判決は国内でも賛否両論ありますが、一つの知恵であることは間違いないと思います。

両国間で請求権放棄で協定(条約)を締結した以上、個人的権利はあるが、裁判所に請求しても、裁判所が判決を下す措置はしないという約束になっている、ということです。このような権利を、民法では「自然債務(自然債権)」と呼んでいます。

この韓国の新日鐵住金の原告らは日本で訴訟を提起しましたが、日本の最高裁判所で上記判例に則って2008年10月9日に敗訴しています。


■どちらにしても両国の最上級裁判所が判決を下しました

韓国の大法院や日本の最高裁の判決に疑問を述べても詮無いことです。それぞれ最上級裁判所ですから、韓国政府も日本政府もそれぞれ自国の裁判所確定判決に従うしかないのです。


■大法院判決の巨額かつ幅広い衝撃

大法院判決が原告一名につき1億ウオン(約1000万円)の損害賠償を認めたわけですから、韓国国内で新日鐵住金の資産を強制執行することができます。また、第三国でも強制執行できます。第三国の裁判所が強制執行を認めたら、ですが。第三国としては、中国やアメリカ、ロシアでの強制執行が予測されますね。

強制動員被害者(徴用工)は、韓国政府から補償を受けているわけですが、韓国政府が認定した強制動員被害者は22万人もいるそうですから、これだけで2兆円となります。消費税の1%分の巨額な金額です。
さらに、中国も中国の裁判所で韓国大法院と同様の判決を下す可能性が十分あります。韓国と同様の数が存在するのではないでしょうか。
そして、何よりも大きな問題は北朝鮮です。


北朝鮮と将来国交正常化した場合
には、韓国に無償供与3億ドル及び借款2億ドルと同等の戦後補償を支払うことが想定されます(現在価値だといくらになるのか不明ですが、5兆円ともいわれています)。そして、さらに大法院の判決でいきますと、北朝鮮の個人被害者に一人1億ウオン(約1000万円)を支払わなければなりません。おそらく少なくとも韓国の22万人規模の被害者とその遺族が存在するでしょう。これを2兆円ですから、北朝鮮との戦後処理には7兆円が必要となるわけです。


日本が韓国大法院の判決を受け入れるなら、日本企業は少なくとも韓国へ2兆円、北朝鮮へ2兆円の4兆円を負担
しなければならなくなります。さらに、中国にも負担しなければならないリスクを負うことになります。韓国の人々にとっては日本の自業自得で冷笑していれば良いのでしょう。しかし、日本にとっては大変な問題になります。

大法院判決に基づき日本側の対応を求める一部の野党もあります。しかし、このような2兆円を大きく超える負担を日本企業及び日本政府に負わせることを提案しているのでしょうか。そして、このような巨額な負担と支払いをすること及びそのような政党に、日本人の
多数が賛成すると思っているのでしょうか。不可解。
確かに理想的な解決は、日本の最高裁が推奨したように、日本企業が中国徴用工と和解したように、日本企業が基金をつくって自発的な補償をするということでしょう。

しかし、上記のような天文学的な巨額負担は、現実的な和解水準をはるかに超えているでしょう。他方、韓国としては、大法院が1億ウオンと判決した以上、これを下回る水準の解決はありえないでしょうし。


韓国政府が妥協しようとしても、慰安婦合意のように韓国国民が受け入れないことは目に見えています。つまり、この大法廷判決には現実的な解決策が見えないのです。

この大法院判決の影響は、日韓の関係だけでなく、北朝鮮との戦後処理問題や中国との戦後処理問題にも飛び火することになり、そうしたら、日本はにっちもさっちもいかなくなります

韓国政府も相当に困っているのではないでしょうか。慰安婦問題についても打開策が見えません。他方、日本と決定的に対決することにも踏み切れないでしょう。


韓国としては、今後も、北朝鮮との国交正常化(日本の戦後補償の支払いを想定している)、そして、中国、アメリカの間で微妙な舵取りをしなければならず、そういう中で日本との関係も断ち切るのは韓国にとって損なはずです。でも、韓国国内からの突き上げは激しい。どうするんだろうと人ごとながら心配になります。

(盧武鉉大統領の妥協線が一番良かったのでは、、、)



■請求権協定第3条の仲裁委員会による解決

日韓請求権協定第3条には、この協定に関する両国の紛争は外交上の経路を通じて解決するとしつつ、外交上解決できない場合には、仲裁することが定められています。

一方の国が正式に仲裁要請する文書を出せば、30日以内に両国がそれぞれ1名の仲裁委員を任命し、両仲裁委員は30日以内に第3の仲裁委員を指名して、3人の仲裁委員会に付託する。両国政府は、この仲裁委員会の決定に服するものとすると定めています。

最後は、これによる解決しかないでしょう。

なお、韓国の憲法裁判所は、この仲裁委員会の規定をあげて、慰安婦問題について政府の外交努力が不十分で憲法違反と判断しています(2011年8月30日判決)。

その第三国の仲裁委員って、日韓両国が同意するのは、アメリカなんでしょうか。あるいは中立国のスウェーデンとか。(もっとも、欧米だと、どこも植民地をもった元帝国主義国家だねえ)

この仲裁委員会をつくって、日本の韓国・朝鮮半島被害者に対する補償を目的とする現実的な水準の金額を定める基金制度をつくっていくしか、解決の方向性がないのではないでしょうか。大法院や最高裁の判決を超える手段って、このような国際的枠組みしかないように思います。

| コメント (0) | トラックバック (0)

2018年10月 7日 (日)

働き方開殻関連法の労組向け学習会(出版労連)

 先日、出版労連の秋季年末闘争権利討論集会にて「働き方改革法で労働時間短縮は可能か-労働運動の課題」ということで話をしてきました。参加されていた北健一さんに1時間の講演を要領よくまとめてもらいました。出版労連の機関誌10月日に掲載されています。私が手を加えたものを掲載しておきます。

 「働き方改革関連法」というと、「過労死推進の高度プロフェッショナル制度」や「過労死許容水準の上限規制」という問題点が指摘されて、弊害のみが注目されました。成立前は、よりよい立法を求めるために当然のことです。

 しかし、問題点もあるが、成立してしまった以上、労働条件改善のために役立つ部分を労働組合いは、最大限活用して、労働時間短縮を目指すことが本来の任務だと思います。往々にして「悪法だ」と決めつけてしまって内容をよく見ないという傾向の労働組合を散見します。

-------------------------

出版労連学習会 働き方改革関連法にて「労働時間短縮」が実現できるか。

「働き方改革」と労働組合の課題    弁護士 水口洋介

 「働き方改革」法案は6月29日、残念ながら大きな問題を含んでまま国会で成立しました。一番大きい問題は高度プロフェッショナル制度(高プロ)という「働かせ方放題」の制度が入ったことです。他方、今日はふれませんが、いわゆる同一労働同一賃金の原則、正確には「雇用形態による不合理な格差是正」も法律に含まれ、これは活用できる点もあります。

 立法趣旨である「長時間労働の是正」という目標は正しいですし、実現を促進すべきものですが、法律の内容は微温的かつ実効性に乏しいものです。ただし、問題点はあるが、活用できる部分がある。少しでも使える法律が成立したら、使えるものは積極的に使い、悪い部分は職場への導入を阻止して、職場での働き方の改善を進めるのが労働組合の任務です。

 

 政府は、日本も時短が進んで1800時間未満を達成したと言いますが、これは実態にあっていません。先日亡くなった関西大名誉教授の森岡孝二先生も『働き過ぎに斃れて』で書かれているように、正社員の労働時間の実態は不払い(サービス)残業も加えると年2000時間を大きく超える長時間労働が続いています。こちらが実態です。

新自由主義の経済学者らは、「高プロは、時間ではなく成果を基準にした新しい賃金制度だ」と言います。その根本にある発想は、労働者が残業代欲しさにダラダラ残業しているから、長時間労働が是正されない。そこで、高プロを導入して、労働時間を長くしても残業代がなければ、無駄に残業をせず、労働時間が短縮されるというものでしょう。

しかし、残業が発生する原因を労使にアンケート調査した結果は、労使とも、①顧客の臨時的な、過剰な要求に対応しなければならない。②業務量に対して人員が不足している、と答えています。つまり、労働者が残業代欲しさにだらだらと残業することが原因だとは、労働者のみならず、使用者も言っているのです。この①と②とを何とかしないと、企業間競争、労働者間競争のなか、長時間労働にまい進せざるを得ない。


 私は1986年に弁護士になりました。そのころから長時間労働は変わっていません。NHK出身の放送ディレクター、熊谷徹さんの『ドイツ人はなぜ、1年に150日休んでも仕事が回るのか』によると、ドイツでは1日8時間の原則が厳格で罰則が厳しい。

 ドイツでも昔から短かったわけではありません。1970年代に労働運動がストも含めて週40時間制を獲得。1985年には金属産業の産別IGメタルが大闘争をして、週38時間制を獲得します。産別が強く、労働協約で獲得しているのです。法律では週48時間で、一日最大10時間まで上限(6ヵ月でならして8時間になることが必要)です。この場合には一日2時間の残業は許されます。また、勤務間インターバルが11時間と設定されています。

 このような働き方は、消費者や顧客にとっては不便ですが、顧客も我慢する。それはお互いさまだからです。「短時間労働でいい、人生の意味は休暇にあるんだ」という価値観が浸透しているのです(ただ抜け道はあって、フリーの独立契約者に外注し、そこにしわ寄せがいっているようですが)。

 日本には、ドイツのような強力な産別労働組合はありません。そこで、法律規制を行うことが重要です。そこで、今回の法改正です。これまでは36協定を結びさえすれば、上限を何時間にしようと罰則はありませんでした。それが36協定を結んだ場合の「残業の上限」が「原則月45時間、年360時間」となりました。「年720時間以下、単月100時間未満、複数月平均80時間以下」を上限に特別条項を結べますが、これの特別条項は、通常想定されない臨時的な事情などの「特別の例外」の場合です。

出版業界では、教科書改定期の繁忙さや雑誌発行に伴う〆切り間際の忙しさの実情を聞きました。労働者の側には36協定を締結する義務はありません。拒むこともできる。それを〝武器〟に会社と交渉し、働き方の改善を進めていくことが必要です。

労働時間の把握を客観的に(タイムカードやパソコンの起動の記録等)行わなければいけないということも、労働安全衛生法改正で入りました。自己申告制など労働時間把握がルーズなら、労使で協議して客観的な方法に改善すべきです。勤務間インターバル制度は法律上、努力目標ですが、運用として許容されている職場は多いと思うので、労使で合意し制度化することが推奨されます。


 年次有給休暇の使用者(会社)による付与制度もできました。現状の日本では、6ヵ月間継続勤務し労働日の8割以上出勤すると10日間の有給休暇が与えられ、就職から66ヵ月で上限の20日間になりますが、取得(消化)率は47%にとどまっています。



 今回、
10日以上の年次有給休暇が残っている労働者に、毎年5日間、使用者が有給休暇をいつ取るかを指定することができるようになりました(使用者の時季指定義務、労基法39条7項)。来年の4月1日施行なので、組合は各職場の希望を集約し、会社が一方的に指定するのではなく、労働者の希望を踏まえて指定するよう取り組まなければなりません。


 高プロの対象業務は今後省令で決まりますが、研究者、金融アナリスト、ディーラーなどが挙げられ、出版のなかには入ってこないんじゃないかと思っています。高プロ導入には労使委員会の5分の4の賛成が要件なので、組合が委員を送り込んでいれば阻止できます。ただ今後、対象業務が広がり、年収要件も引き下げられる恐れがあります。



 限界はさまざまありますが、「働き方改革関連法」は使える部分もあり、どう活用するかはそれぞれの労働組合の努力にかかっています。法律内容を確認した上で職場の実情にあわせて適用させ、時短に向けての業務の在り方を工夫し、少しでも労働時間を短くする方策を労使で検討しなければなりません。
36協定の内容、有休指定のあり方、インターバルの導入、この秋から19春闘にかけ、一つでも成果を獲得していきましょう。

| コメント (0) | トラックバック (0)

2018年6月30日 (土)

W杯 日本VS.ポーランド戦 2018.6.28

【0-1】で日本が敗戦したにもかかわらず、フェアプレイ・ポイントで決勝リーグ進出を果たした。

■世界中から批判を受けるのは当然

最後の約10分間 日本が敗戦を受け入れてパス回しに徹したことに、世界中から批判をあびている。当然だろう。日本は無様な試合を行い、日本がW杯史上最大の恥辱をおったことは認めざるを得ない。

■先発陣入れ替えの判断は?

ただ、より大きな問題は、先発6人を入れ替えたことだ。前半はなんとか機能していたが、後半、特に岡崎がいなくなった後、まったく戦えなくなった。特に、宇佐美が機能せず、柴﨑やフォワード陣との連携もできなくなった。

西野監督の先発6人入れ替えの判断の適否こそ問われるべきであろう。決勝リーグを考えれば、好調の先発陣を休ませるという判断だったのだろうが、日本にはそれほどの余裕はないはずだ。控え組にそれだけの力量がないことは衆目の一致するところではなかったか。

特に、ディフェンス陣の昌子や長谷部、攻撃陣では香川、乾の先発欠場は痛かった。ディフェンスがセットプレイのときのマークをはずしてしまったことは、悔やんでも悔やみきれない。せっかく、GK川島が好セーブをしてくれていたのに。(サッカーには、ミスはつきもの。ミスしたあとのリカバリーできる選手こそ素晴らしい!)

■正当化できない最後のパス回し

そして問題の、最後のパス回し。セネガルが1点いれれば取り返しがつかない、大ギャンブルだった。これがロスタイムであれば、批判はされなかったと思うが、あまりに早くリスクが大きすぎる判断だった。(西野監督が幸運を持っていることは証明されたが!)

最後まで、1点を目指してたたかう姿勢の放棄は、世界中から批判をうけて当然だろう。

西野監督は、後半の日本チームの出来を見て、1点を奪えず、かえってカウンターで沈められると冷静に判断し究極の敗戦受け入れを批判を承知で決断したのであろう。

やむを得ない判断だったということは理解するが、だからといって、この判断が「正当だ」と擁護することはできない。西野監督も、不本意な手段であることを認め、選手にも謝罪している。

日本代表チームは、大きな恥辱をおってしまった。

しかし、まだW杯は終わっていない。

私は、客観的に見て、日本はグループ・リーグで3戦全敗するだろうと予想していた。それが喜ばしいことに大きく外れた。ベルギー戦も何が起こるかわからない。

■ベルギー戦での名誉挽回を祈る

名誉挽回のために日本代表選手は、さらに団結して、闘志を燃やすだろう。

ベルギー戦での勝利を祈るのみである。

| コメント (0) | トラックバック (0)

2018年6月12日 (火)

米朝合意 世界史的事件と日本 2018年6月12日

結果は、予想通り!
 
米朝合意は、包括的合意=抽象的合意であり、今後の紆余曲折が予想され、段階的なディール(条件交渉)がつづくでしょう。私の個人的予測では、北朝鮮が核兵器を放棄することはない。
 
それを承知のうえで、トランプ大統領、金委員長は相互に政治的な利益を配分した。華やかな政治ショウであり、世界史的な大事件です。
 
また、トランプ式の多角的(多国間相手の) ディールです。
朝日新聞ほかで、トランプ大統領の発言について次のように報道されています。
https://www.asahi.com/articles/ASL6D4J2VL6DUHBI02J.html?iref=comtop_8_02

トランプ米大統領は12日、シンガポールで行われた米朝首脳会談後の記者会見で、北朝鮮の非核化で必要となる費用について、「韓国と日本が大いに助けてくれる」と述べた。

 北朝鮮は制裁を受けており、費用を払えるのかと記者が質問。トランプ氏は「韓国と日本が大いに助けてくれると私は思う。彼らには用意があると思う」と答えた。さらに、「米国はあらゆる場所で大きな金額を支払い続けている。韓国と日本は(北朝鮮の)お隣だ」と強調した。

 
要するに、「シンゾー。拉致言ったから、非核化の金出せよ!」 なんて普通は恥ずかしくていえないんだけど、トランプ大統領だからこそいえるんですね。
 
この言い方は下品だけど、さすがトランプ大統領!
安倍晋三総理としては、けっして「ノー」とはいえないでしょう。私が、その立場としてもいえない。
 
ただ、昭和生まれの私としては、「アメリカの粗野な不動産屋に言われるまえに、日本政府にできることはなかったのかい。」と心底、残念に感じる。「まあ敗戦国で対米従属国家だから、アメリカ大統領に馬鹿にされても仕方がないか」と思う私が、情けない。
 
本来、日本のナショナリストこそ、怒らなきゃいけない。
 
が、ネトウヨや日本会議の人々は、米国には文句も言えないし。
他方、日本のリベラル派と左派は、第二次朝鮮戦争が遠のいたことを好機だと考え、北朝鮮の人権問題改善要求を前面に出す機会が到来したと思います。
朝鮮半島での軍事的緊張が緩和した今こそ、日本のリベラル派や左派は、核兵器完全廃止、朝鮮半島の非核化を北朝鮮に要求するだけでは足らない。
日本のリベラル派や左派としては、拉致問題を含めて北朝鮮の人権侵害状況が改善されない限り(人権状況の改善を約束しない限り)、日朝国交正常化や戦後補償としての経済協力は反対というスタンスを宣言するべきです。 現在の政府は、アメリカに言われたら、拉致問題や人権問題を、たなあげして日朝国交正常化、数兆円単位もの経済協力(円借款など)をしかねないと思います。
ついては、日本政府には、核兵器廃止(非核化)と拉致を含めて人権侵害状況を改善しないかぎり、平壌宣言を破棄すると、北朝鮮に通告することを求めるべきです。
 
日本は、トランプ大統領にならって、対北朝鮮外交をすべてゼロベースにもどして、トランプ大統領の「非核化の金を日本出せ」との恫喝に抗するためにも、ちゃぶ台返しをしてほしい。
まあ、日本政府と日本人には無理なのかもしれません。
 

| コメント (0) | トラックバック (0)

2018年6月 8日 (金)

労契法20条に関する最高裁の二つの重要判決2018.6.1

 注目されていた労契法20条の「ハマキョウレックス事件」と「長澤運輸事件」の最高裁判決が2018年6月1日に言い渡されました。

 判決内容は予想された範囲内のもので驚きはなかったのです。ただ、長澤運輸事件については、あたかも「最高裁は定年後再雇用有期労働契約の場合には労働条件の格差を容認した」とする報道がありましたが、事案から見ると一般化できない判断であり、報道の一人歩きが心配です。

■ハマキョウレックス事件

 無期契約労働者(正社員の運転手)と有期契約労働者(契約社員の運転手)を比較したハマキョウレックス事件では、正社員に支払われる無事故手当、作業手当、給食手当、皆勤手当、通勤手当が、契約社員に支払われないことは不合理と認められるとして、正社員との上記項目の差額全額を損害賠償請求として認めた。

 同最高裁判決の労契法20条解釈のポイントは

① 労契法20条は、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、その相違が不合理と認められるものであってはならないとするものであり、職務の内容等に応じた均衡のとれた処遇を求める規定である。

② 同条の規定は、私法上の効力を有するものと解するのが相当であり、有期労働契約のうち同条に違反する労働条件の相違を設ける部分は無効となるが、同条に違反する場合であっても、同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではない。

③ 同条の「期間の定めがあることにより」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいう。
 
④ 同条にいう「不合理と認められるもの」とは、労働条件の相違が不合理であると評価することができるという意味である。

 次に、本件事件への具体的な当てはめに関するポイントは

 正社員と契約社員との間には「職務の内容には違いがないが、職務の内容及び配置の変更の範囲に関しては、正社員は、出向を含む全国規模の広域異動の可能性があるほか、等級役職制度が設けられており、職務遂行能力に見合う等級役職への格付けを通じて、将来、上告人の中核を担う人材として登用される可能性があるのに対して、契約社員は、就業場所の変更や出向は予定されておらず、将来、そのような人材として登用されることも予定されていないという違いがある。」

 つまり、職務の内容は同じだが、正社員には出向を含む広域異動の可能性があり、等級役職の格付けにより、将来、企業の中核を担う人材として登用される可能性があるので契約社員とは職務内容及び配置の変更の範囲が異なるとする。

 したがって、住宅手当については、正社員には転居を伴う配置転換が予定されているため、住宅に要する費用が契約社員と比較して多額となる可能性がある。そこで、住宅手当を契約社員に支給しないことは不合理とは認められないとする。

 他方で、皆勤手当は、出勤を確保するため皆勤を奨励する趣旨で支給されているもので、正社員と契約社員の職務の内容が同じであり、出勤を確保する必要性は両者で変わらない。将来転勤や出向する可能性や、会社の中核を担う人材として登用される可能性の有無といった事情により異なるものではない。よって、皆勤手当の支給の相違は不合理と認められるとする。

 この最高裁判決で留意すべき点として、職務内容が同一でる場合、正社員と職務内容及び配置の変更の範囲が異なり、将来の中核を担う人材として登用される可能性が異なるとしても、上記各種手当(住宅手当以外)について、正社員と契約社員の差額全額を損害として賠償を命じている点である。
 日本郵便事件の東京地裁判決のように損害額を6割とか8割とするような減額を認めていない。

■長澤運輸事件

 長澤運輸事件も、貨物自動車の運転手の正社員と有期契約労働者(嘱託社員)との労働条件の相違が問題となった。嘱託社員は定年後有期労働契約として再雇用された労働者という事案である。また、正社員と嘱託社員の運転手は、職務内容が同じだけでなく、職務内容及び配置の変更の範囲も同一である。

 最高裁は、正社員の超勤手当と嘱託社員の時間外手当の相違、精勤手当が嘱託社員に支給されないことは不合理と認められるとしたが、能率給・職務給、住宅手当、家族手当、賞与の不支給は不合理と認められないとした。

 当事者の嘱託社員の労働者にとって不当判決であることは間違いない。

 ただ、この最高裁判決によって、定年後再雇用された有期契約労働者の相違が一律に許容されたものと一般化して考えるべきではない。それは長澤運輸事件の事案には特徴があるからである。

 同最高再判決の労契法20条解釈のポイント

① 定年後再雇用された者であることは、労契法20条のその他の事情として考慮される。

② 労働条件の相違が不合理かどうかは、賃金の総額を比較することのみではなく、賃金項目の趣旨を個別に考慮すべき。

 次に、本件事案への具体的な当てはめに関するポイント

① 嘱託社員らは、労働組合を通じて、再雇用後の労働条件改善を要求して団体交渉を行い、会社は労組要求をうけて、一部だが労働条件を改善していること

② 「嘱託社員の基本賃金及び歩合給」と、「正社員の基本給、能率給及び職務給」を比較すると、正社員のそれと嘱託社員3名との差は約2%、約10%、12%の範囲にとどまっていること、さらに嘱託社員は定年退職後に再雇用された者であり、一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることができる上、組合との団体交渉を経て、老齢厚生年金の報酬比例部分が支給されるまでの間、2万円の調整給が支給されることから、両者の相違は不合理なものと認められない。

③  「賞与」については、嘱託社員は定年後再雇用された者であり、定年退職時に退職金が支給されるほか、老齢厚生年金の支給が予定され、その報酬比例部分の支給されるまでの間調整給が支給される。また、嘱託社員の賃金(年収)は定年退職前の79%程度であること、嘱託社員の賃金体系は基本賃金の額は定年退職時における基本給の額を上回っており収入の安定を配慮しながら、歩合給に係る係数を増加させて労務の成果が賃金に反映されやすくしていることを、総合考慮して不合理と認められない。

 長澤運輸事件の事案は、労働組合の要求や団体交渉により一部労働条件が改善され、その結果、基本賃金が定年時点より増額され、調整給が月額2万円支給され、能率給と職務給が支給されないが、年収での差額が約79%であるという事実を前提とした判断である。

 このような事案において最高裁は、時間外手当と精勤手当以外の労働条件の相違が不合理なものとは認められないとしたものである。


 しかし、例えば、正社員との賃金(年収)の相違が79%ではなく、60%や55%のようにより低額である事案や、基本給部分が正社員と比較して低額に切り下げられた場合や、調整給支給などの工夫がない場合には、定年後再雇用だからといって、その賃金の相違(格差)がすべて不合理ではないとは判断されていないと読むべきであろう。

 多くの会社では、労働組合との交渉もなく、長澤運輸事件以上に定年後再雇用者の賃金は正社員と比較して低額とされていることが多い。定年後再雇用の場合にはどのような相違でも許容されるという判断を最高裁がしたものではない。逆に、長澤運輸事件のような工夫や調整をしてない場合には、不合理と認められる場合があることに留意したい。

| コメント (0) | トラックバック (0)

2018年6月 6日 (水)

改正民法「消滅時効」見直しと年次有給休暇請求権の時効

 現在の労基法115条は、この法律に規定する賃金その他の請求権は2年間で時効消滅する(ただし、退職金は5年間)と定めています。

 改正民法では、短期消滅時効(給料は1年)が廃止され、消滅時効期間10年は「主観的時効5年、客観的時効10年」に変更されます。労基法115条で定める2年の消滅時効より短縮されてしまいます。そこで、労基法115条の見直しが検討されています。
 この問題については以前にも次のブログに掲載しました(長文)。

http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2018/02/post-6a29.html

 私の意見は次のとおりです。
(1) 賃金及び退職金債権などの賃金請求権については、改正民法166条1項のとおり、「権利を行使することができることを知った時から5年」(主観的時効5年)、「権利を行使することができる時から10年」(客観的時効10年)と労基法で定めるべき。
(2)  しかし年次有給休暇については、改正民法を適用するのではなく、労基法115条を改正して従前の消滅時効を2年間とすべき。

 ところが、労基法115条そのものを削除すべきとの意見が出されています。

■労基法115条削除論

 その意見は、「労基法115条をすべて削除して、改正民法の消滅時効の定め(166条1項)を適用すべきであり、その結果、年次有給休暇請求権も主観的時効5年とすべきであるというのです。

 しかし、この問題は、次の二つの観点から議論すべきです。

 第1点は、純粋に民法解釈の問題として、年次有給休暇請求権に改正民法166条がそのまま適用されると解釈できるか、という点です。

 第2点は、年次有給休暇の完全取得を促進する観点にたって、年次有給休暇が5年間行使しなければ消滅しない(5年間繰り越しできる)としたほうが労働者は年休を完全取得するようになるか、という点です。こちらが本質的な問題ですが。


■民法解釈として

 労基法39条に定める年次有給休暇請求権(年休権)の法的性格は、最高裁判所判決(最高裁昭和48年3月2日-林野庁白石営林署事件)により、次のように解釈上確定しています。

① 労基法39条所定の要件が充足されたときは、労働者は当然に年次有給休暇の権利を取得し、使用者はこれを与える義務を負う。

② 使用者に要求される義務とは、労働者がその権利として有する有給休暇を享受することを妨げてはならないと不作為を基本的内容とする義務にほかならない。

③ 労基法39条3項(現行法5項)の「請求」とは、労働者が年休をとる時季(時期)を指定したときは、使用者が時季指定変更権を行使しない限り、時季指定によって年次有給休暇が成立し、当該労働日における就労義務が消滅する。

 つまり、労基法39条5項の「請求」とは、年休の時季を指定する権利(時季指定権)にほからないと解釈されています。

 この意味での「時季指定権」とは、債務者に一定の義務を負わせる「債権」ではなく、意思表示によって一定の法律状態を形成をする権利(「形成権」)であると解釈されています(菅野和夫教授など通説)。

 時季指定権が「形成権」だとすると、改正民法166条1項ではなく、同条2項の「債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から20年間」が適用されることになります。しかし、20年も年休権が消滅時効にかからず繰り越しされるという極めて不合理な結果になります。

 ですから、「労基法115条を廃止して、改正民法を年次有給休暇請求権に適用すれば良い」という単純削除論は、解釈としては少し乱暴です。しかも、労基法39条違反は罰則規定(労基法119条1号)が適用されるので、年休権の消滅時効が民法解釈では一義的に定まらない(166条の1項なのか、2項なのか)ことは不適当です。なぜなら、罰規定の明確化の要請(罪刑法定主義)に反します。

 したがって、労基法115条を単純に削除するのではなく、労基法115条を改正民法にあわせて、賃金等の債権は主観的時効5年、客観的時効10年と定めて、年次有給休暇請求権の消滅時効期間を明確に労基法で定める必要があると思います。


■年休の消滅時効5年が完全取得を促進するのか否か

 次に、年次有給休暇の時効を5年等と長期化しても、年休を取得しにくい職場にしているのは使用者側なのだから、消滅時効の長期化の不利益を使用者は甘受すべきであるとの意見があります。

 確かに、年休がとりにくいのは、年休を取得する就労環境を整備していない使用者側に大きな責任があります。しかし、有給の消滅時効期間を長期化(5年の繰越し)を認めたとしても、今の日本の現状では完全取得は進まないように思います。

 逆に労働者側が「5年の繰越しが認められるのだから、今年、取得する必要はない」と考えて、年次有給休暇をその年に消化をせず、翌年に繰り越してしまい、結局はとれなくなるだけではないでしょうか。これではその年に有給休暇を消化するという年次有給休暇制度の原則に合致しないことになるのではないか。

 年次有給休暇の完全取得が進まない大きな理由の一つは、労働者が病気になったときのために年休を確保しておくからです。ですから、有給完全取得を推進するためには、ヨーロッパのように有給の病気休暇請求権(病休権)として年5日程度を法律で設けるべきです。

 また、ヨーロッパ諸国では、労働者の意見を聴取しつつ休暇の付与時期を決定する権限と義務を使用者に課しています。今後、日本でも病休権を認めて、欧州のような仕組みに変更する必要があると思います。

 以上の理由で、私は年次有給休暇請求権については、労基法115条削除ではなく、この条文を見直すことが必要だと思います。それを、2年とするのか、5年とするのが適切なのか、労働者や労働組合の意見を聞いて検討すべきでしょう。

| コメント (0) | トラックバック (0)

2018年5月 4日 (金)

北朝鮮  安倍首相はどうするのか?

▪️激動の北朝鮮情勢

北朝鮮の金正恩委員長が今年になり、韓国冬季オリンピックでの平和攻勢、習中国主席とのトップ会談、トランプ米大統領との米朝首脳直接対話の約束、ムン韓国大統領との「非核化」や「朝鮮戦争終結」を盛り込んだ板門店宣言の発表という劇的な変化が目の前で繰り広げられている。

ところが、日本のマスコミ、政治家や専門家は、「金正恩の改心や変心はあり得ない」とか、「詐欺や騙しにすぎない」という意見が多く見られる。

▪️外交問題は指導者の「人間性」問題ではない

しかし、北朝鮮問題の焦点は、各当事者国の国益をめぐっての対立と交渉ごとである。何も金正恩が改心したか否かや善人なのかどうかが問題ではない。これはトランプ大統領やムン大統領が、「良い人か」とか「信頼できるか」という問題でもない。あくまで、それぞれの国家の利害確保のための交渉ごとである。その国益とは、各指導者が国内的に自己の地位を維持する上での損得勘定も含まれる。

マスコミで論じられるような金正恩が改心したかどうかや信用できるかなどと考えることは意味がない(というか、そもそも改心したわけがない)。逆に、金正恩が平和を熱望しており、非核化を本気で考えているなどと北朝鮮のプロパガンダを真に受けるのも愚かな考えである。要は、現状において、北朝鮮がその国益維持のためにどういう方向性と交渉を行うかどうかという利害分析こそ重要である。当事国の利害が一致すれば、その合意は意味があるのである。

金正恩にとっては、北朝鮮国内での神格化や威信を維持できるかどうかも含めて自国の利益をどう獲得するかが重要であり、それはトランプが米国内での中間選挙での勝利や自己の支持率をあげるために役立つかどうかを検討することと同じである。


▪️したたかな北朝鮮の外交戦略


北朝鮮は、大陸間弾道核ミサイル技術が確立したという現局面で、アメリカと交渉する絶好のタイミングであると利害分析をして決断をしている。シリアやイラクでの紛争泥沼化、ロシアと米国の対立、中国と米国との貿易摩擦、韓国でのムン左派政権の成立、トランプ大統領の予測不可能性(北朝鮮への先制軍事攻撃可能性)と自己に利益があれば飛びつくという「ディール好き」を見定めて、一連の外交攻勢を行ったのであろう。

これだけ矢継ぎ早の手をうつのは思いつきでできるものではない。北朝鮮としては、数年単位で外交戦略を検討した上での行動であろう。金正恩の決断力と実行力には驚かされるが、単に金正恩個人が策定したものではなく、優秀な外交戦略立案グループが存在するのであろう。



▪️「非核化」の条件とは何か

リビアは核計画を放棄した結果、カダフィは殺害された。イランは核開発計画を放棄するという米独仏の国際合意をしたが、トランプが一方的にこの合意を破棄しようとしている。


インドやパキスンタンは核兵器を保有しているが、米国は黙認してこれらの国と協力関係に結んでいる。他方、核兵器を放棄したリビアは崩壊した。これらを考えれば、北朝鮮が核兵器をすべて放棄することは考え難い。


では、北朝鮮が将来(少なくとも金政権が継続する2、30年)にわたって現体制維持が確実に保証されると考える条件とは何か。


それは、米朝の合意だけでなく、中国もいれての米朝中韓の朝鮮戦争終結と軍事侵攻しないという合意が絶対必要であろう。そうすれば国連軍(在韓国連具Nと在日国連軍)は無くなる。米国の朝鮮半島での軍事指揮権が消滅することになろう。


これらの条件が整えられれば、少なくとも米国に届く大陸間弾道核ミサイルは放棄するだろう。ただし、核兵器を完全放棄することはまずありえない。おそらく「非核化」を将来的な究極の目標としつつ、経済制裁解除や経済協力を引き出すために核廃絶プロセスを先送りして活用するだろう。これは、日本から見れば先送りで騙しのテクニックにほかならないが、北朝鮮から見れば自国の利益を守るための合理的な行動となる。


▪️米朝会談を「失敗」とは言えない利害一致がある

北朝鮮と韓国にとって、朝鮮戦争を完全に終結することができれば、相互に利益が大きい。何よりも北朝鮮にとって経済制裁を終了させることができる。中国、EU諸国、韓国、米国からの投資を受けいれて経済を発展させることが可能となる。韓国にとっても、戦争の脅威から解放されて、中国との経済関係も著しく発展させることができる。


中国にとっても、朝鮮半島の軍事衝突を回避して緩衝国家の北朝鮮の安定を確保することは国益に合致するであろう。


トランプ大統領にとっては、米国本土に届く核兵器を放棄させ、朝鮮戦争を終結させて、在韓米軍も縮小でき、国内の支持率は一挙にあがるという大きなメリットが生まれる(ノーベル平和賞も)。


となると、北朝鮮と米国との交渉や非核化は、紆余曲折はあるだとうが、大局的にみれば失敗することはないだろう(失敗したら、どの国も特をしない。いや日本以外は。)。


国際平和や信頼などという言葉は、上記のような利害が一致したあとに、修飾語としてまぶされるものにすぎない。


▪️安倍政権はどうするのか

安倍首相の立場としては、非常に困った状態になっている。

安倍首相があれほど「対話には意味がない」と言っていたにもかかわらず、米国大統領が率先して対話路線に踏み出した。また、日本政府がムン大統領の北朝鮮への対話路線を批判していたにもかかわらず、ムン大統領と金正恩委員長とのトップ交渉で、金正恩が日朝の話し合いに応じる用意があると発言したことをムン大統領から伝えられ、仲介の労をとっても良いとまで言われる始末である。

他方で、日本と北朝鮮との間の直接交渉を行う高いレベルでの交渉ルートは見当たらない。

北朝鮮は、日朝の国交相正常化をするにあたって、いわゆる戦後補償を受けることを当然の前提としており、これは日朝平壌宣言で無償資金提供や経済協力することを日本も盛り込んでいる。したがって、国交正常化には、過去の植民地支配に対する補償としての大規模な経済協力(1兆円から2兆円)を行うことが必要不可欠であり、日本政府はこれを否認することはできない。北朝鮮は、この戦後補償を強く欲しているであろう。


他方、日本は、拉致問題の解決が絶対的な条件であり、拉致問題解決抜きの日朝国交正常化や戦後補償を行うことは考えれれない。


拉致問題の解決とは、何よりも拉致被害者の生存者の帰国である。安倍首相は、拉致被害者の全員の帰国こそ絶対条件であると再三表明してきた。


しかし、2002年に北朝鮮の故金正日委員長が、小泉首相に拉致問題を謝罪しつつ、日本に帰国した蓮池さんら以外には、もはや生存者はいないと回答した。果たして、それから16年経過した現在、北朝鮮が「実は拉致被害者は生きていました」と回答するであろうか。そうであれば良いが。現在、北朝鮮は、トランプ大統領との交渉をひかえて、抑留されているアメリカ人3名を解放する準備をしており、同様なことが日本の拉致被害者でも起こるのであろうか。


今や、安倍首相も金正恩委員長との面談(対話)を行うことを示唆している。しかし、もし安倍首相が金正恩委員長に仮に会ったとしても、2002年のように拉致被害者の生存者はもういないと言われてしまったらどうするのだろうか。


そう言われないことを確認しない限り、日朝首脳会談を実現することはできないだろう。今後も、安倍首相は、拉致被害者を解放するために圧力をかけると言うしかない。つまり、北朝鮮が日本の戦後補償欲しさに拉致被害者の全員解放を決断するまで待つ、という選択肢しかないのではないだろうか。


ただし、今の状況では、結果的に日本だけが取り残されることになろう。

安倍首相や外務省は、トランプ大統領やムン大統領に拉致被害者問題を解決して欲しいと懇願する以外に、何か良い知恵と良い手を持っているのであろうか。


| コメント (0) | トラックバック (0)

2018年4月29日 (日)

憲法記念日前の「憲法世論調査」の分析-自衛隊憲法明記に3分2が賛成

■憲法改正の世論調査

 共同通信が4月25日に実施した憲法に関する世論調査が、同月26日に発表され、東京新聞は「自民改憲案に否定多数」と一面トップの見出しで報道しています。
 その根拠は、【問22】「安倍首相の下での憲法改正に賛成ですか?」という質問に、賛成が38%、反対が61%であることを根拠にしています。
 しかし、自民改憲案の「肝」は、憲法9条改正の内容ですので、これを中心に世論調査を仔細に見ると、印象が異なります。


■無意味な「一般的な憲法改正質問」

 「あなたは憲法改正する必要があると思いますか?」という【問2】があります(「必要」が58%、「不要」が39%。どちらかと言えば派も含む)。しかし、憲法の何(どの条文)を変えるのかを特定しないでする質問は、まったく無意味です。

 これは、死刑廃止に賛成ですか?という質問は意味があるが、刑法改正に賛成ですか?という質問が無意味であることと同じです(「憲法と世論」境家史郎著)。
 少し意味のある具体的な質問として、【問6】「憲法9条を改正する必要がありますか?」があります。その回答は次のとおりで、要否が拮抗しています。

 9条改憲必要  44%
 9条改憲不要  46%



■9条改憲派内部の二つの立場

 この世論調査では、上の9条改正を必要とした44%の人々(9条改憲派)に対して、「9条を改正する必要があると思う理由は何か?」と選択肢を示して質問しています。選択された選択肢を多い順に三つ並べると次のとおりです。


9条改正が必要な理由

北朝鮮中国の軍拡による安全保障環境の変化61%
自衛隊違憲論があるから                      22%
自衛隊の活動範囲を専守防衛に制約するため10%


 意外なことに、3番目の「自衛隊に専守防衛の制約を憲法に規定する」という人々が9条改憲派のうち1割(全体の4.4%)を占めています。この人たちは、いわゆる「護憲的9条改憲派」(正しくは「立憲的9条改憲派」)といえます。

 また、9条改憲派に「9条改正する場合には何を重視すべきか?」と質問に対する回答も多い順に並べると次のようになっています。


9条改正する場合に重視すべきこと

現在の自衛隊の存在を明記する   47%
自衛隊の海外活動に歯止めを設ける 24%
自衛隊を軍として明記する」     14%
自衛隊の国際貢献の規定を設ける 12%

 上の二つ目の選択肢の全文は「自衛隊の海外での活動が際限なく拡大しないよう歯止めを設ける」というものです。これを選択する9条改憲派が24%(全体の10.6%)も占めており、けっこう有力意見です。これも9条改憲派でありながらの立憲(護憲)的9条改憲派といえるでしょう。
 つまり、立憲(護憲)的9条改憲派は、この世論調査でいうと4%~10%程度存在しているようです。


■自民9条改憲案の賛否結果

 具体的に自民党の9条改憲案の賛否を問う質問と回答は次のとおりです。


 【問9】「憲法9条は第2項で陸海空軍その他の戦力の不保持と交戦権の否認を定めています。安倍首相はこの規定を維持しつつ、9条に自衛隊の存在を書き加えることを提案しています。あなたはどう思いますか」


9条2項維持自衛隊明記 40%
9条2項削除自衛隊の目的性格を明確28%
自衛隊の明記必要なし   29%

 9条2項維持・自衛隊明記派が40%を占めています。また、9条2項削除派も次善の策としては、9条2項を維持しても自衛隊明記に賛成するでしょうから、自衛隊明記容認は68%と3分の2を超えていると言えます。
 こうなると東京新聞の見出しとは異なり、共同通信の世論調査の結果は、「自衛隊憲法明記への賛成は3分の2を超える」となるべきでしょう。


■9条改憲不要が46%なのに、なぜ自衛隊明記賛成が68%になるのか


 しかし、ここで私が解せない点は、【問6】の憲法9条改正の要否を問う質問では、改正不要派が46%も存在することです。
 【問6】で9条改憲を不要と回答した46%のうち17%が、【問9】では、自衛隊明記容認(おそらく9条2項維持・自衛隊明記派)に意見を変えています。
 その理由は、問6の質問が、「あなたは『戦争放棄』や『戦力の不保持』を定めた憲法9条を改正する必要がありますか」という質問だからです。
 つまり、【問6】では戦争放棄や戦力不保持がなくなるのは反対だということで、9条改正不要と回答した。しかし、【問9】では、9条1項と2項を維持(つまり「戦争放棄」と「戦力の不保持」という条文は変えない)する前提で、自衛隊のみを明記することには賛成という結果になります。


■安倍首相の下での改憲反対61%は、なぜなのか

 もう一つ解せないのは【問22】で安倍首相の下での憲法改正に反対が61%もいるにも関わらず、自衛隊明記容認に68%も賛成している点です。

 これは憲法9条の改正を論理的に考えた結果ではなく、安倍首相が信用できないという気分・感情の反映のようです。

 しかし、人間の気分・感情はうつろいやすいものです。特に国民投票にあたっては、国民全体の気分・感情が大きく影響するといわれています。最近では、イギリスのEU離脱国民投票を見ればわかります。
 その意味では安倍首相にとっては、この国民の気分・感情の雰囲気は重大な関心事でしょう。9条改憲を実現するためには、この雰囲気を変えるための起死回生の策が無い限り、国会発議もできないのではないでしょうか。

 国会で9条改憲を発議しても、国民投票で否決されたら安倍首相退陣どころか、今後9条改憲は、よほどのこと(戦争とか)が無い限り、二度と政治課題として提起することは不可能になるからです。しかし、気分・感情はうつろいやすいものですから、今後、何かがあって劇的に変わることもありえます。
 例えば、安倍首相が北朝鮮拉致問題を解決すれば、がらっと雰囲気は変わることでしょう。(米朝韓中が「非核化」で和解し、日本が北朝鮮に数兆円の多額戦争賠償=経済協力を提供することになれば、北朝鮮が拉致問題を解決しようとするかもしれません)。そうなったときが9条改憲ゴーサインでしょう。


■改憲派、護憲派内部の潮流の違いが見える

 世論調査結果を見ると9条改憲派(A)の中にも二つの潮流があるようです。
 一つは安倍首相と同様の意見で、北朝鮮や中国との軍事的脅威に対抗して、自衛隊と日米軍事同盟の強化の道であり、これが9条改憲派の多数派(A1)です。他方、自衛隊の存在を憲法上明記するが、その活動に歯止めをかけるという立憲(護憲)的改憲派(A2)が存在してます(このA2は、9条改憲派の中では10~20%程度で、全体ではおよそ5~10%程度か)。

 9条護憲派(B)の中でも二つの潮流があります。自衛隊は存在自体が違憲であり、非武装であるべきであるとの伝統的護憲派(B1)です(これは少数派)。他方、自衛隊は専守防衛のかぎり合憲であるとする自衛隊容認護憲派(B2)で、こちらが護憲派の多数です。

 現状の国会では、自民党や維新などが3分の2を超えていますから、立憲的改憲派(A2)が求める自衛隊の活動を制約するという9条改憲案が発議される可能性はないでしょう。現状の自民9条改憲案が発議されるでしょう。

 しかし、自民9条改憲案(9条2項維持・自衛隊明記)であっても、「戦力不保持」という憲法上の制約を削除する結果になります(以前、これを私も解釈してみました)。


 そこで、自衛隊の活動について「憲法上の制約」を維持するには、A2(立憲的9条改憲派)とB(護憲派、B1とB2)が連携する道しか残されていないと思います。この場合、伝統的護憲派(B1)が、大人の対応ができるか、建前と原理原則を振り回すだけの子供ような振る舞いをするか、その度量が問われることになるでしょう。

 安倍政権はもう長く続かないでしょうが、その後継が誰になろうと自民党政権が続くことは不可避なのですから(いや、野党が政権をとっても)、この憲法9条改正問題と論争はまだまだ続くことになるのでしょう。

| コメント (0) | トラックバック (0)

2018年4月24日 (火)

野川忍教授「労働法」

明治大学の野川忍教授から新著「労働法」(日本評論社)を送っていただきました。

ありがとうございます。

本文1051頁の大著です。
債権法改正から、労契法20条の最新の判例(大阪地裁 日本郵便労契法20条事件)まで網羅されています。

「はしがき」に、政策の理論的基盤を提供し、これに精緻な解釈論を加える政策法学としての体系書と、憲法の理念に立脚して労働者の権利擁護を重視する理念法学の流れの中で、本書は「マージナルポジションにある」とされています。

「労働法の生成」の章で、「資本主義の成立と労働関係」の説明の中で、イギリスの工場制生産体制の確立の中で、エンゲルスや、ロバート・オーウェン、サンシモン、マルクスの名前が出てきて、注に廣松渉が引用されているのは、労働法の教科書としては珍しいです。

知人の町田悠生子弁護士が協力者として名前があげられています。




https://www.amazon.co.jp/%E5%8A%B4%E5%83%8D%E6%B3%95-%E9%87%8E%E5%B7%9D-%E5%BF%8D/dp/4535523088/ref=pd_lpo_sbs_14_img_0?_encoding=UTF8&psc=1&refRID=AS6PDD9WT8SBG0ZMRS6Q

| コメント (0) | トラックバック (0)

2018年4月18日 (水)

驚愕の幹部自衛官ー統合幕僚監部の三佐が国会議員に「国民の敵だ」と罵倒

自衛隊の幕僚監部の三等空佐が、民進党の小西参議院議員に対して、国会近くの路上で夜9時に偶然にあった際に、「国民の敵だ」「気持ち悪い」などと罵倒し、警備の警官が集まってきても罵倒をやめなかったという。

財務省の事務次官のセクハラ問題の影に隠れていますが、この事件を軽視すべきではありません。

「自衛隊員にも政治的意見を言う自由がある」などと三佐を擁護する声も見受けられますが、そのような意見は、自衛隊が実力組織(もっと、ありていに言えば軍事組織)であることを忘れた謬見だと思います。

「三等空佐」とは航空自衛隊の三佐であり、旧軍で言えば「少佐」にあたる将校です。幕僚監部は、旧帝国陸軍では参謀本部、旧帝国海軍では軍令部にあたり、統合幕僚監部(統幕)は、陸上、海上、航空の幕僚監部を統合する自衛隊の中枢機関です。

その「統幕」の「三佐」(少佐)が、国会議員に対して、勤務時間外だとしても、国会周辺の公道上で「お前は国民の敵だ」と罵倒したわけです、しかも、警官が集まってきても、現職の自衛官となのって罵倒をやめなかったという。


自衛隊法61条や自衛隊法施行令では、自衛隊員の政治的行為を禁止しています(刑罰規定あり)。つまり、自衛隊員は、政治的中立性を守らなければなりません。

また、自衛官の服務等訓令では、「何人に対しても冷静で忍耐強く、正しい判断をし、野卑で粗暴な言語又は態度を慎まなければならない」と定めれれています。そして、「隊員たるにふさわしくなく行為があったとき」には懲戒処分をうけます(自衛隊法46条)。


自衛隊は軍事組織にほかなりませんから、一般の国家公務員以上に、政治敵中立性を厳格に遵守しなければなりません。わが国には戦前の軍部テロ(5.15事件や2.26事件)の歴史がありましたから。

ところが、統幕の三等空佐という幹部自衛官(昔で言えば「参謀本部少佐」というエリート軍人)が、特定の政党や国会議員の政策や方針について反対する意図をもって、公道にて周りの警察官が制止するのも無視して、自衛官であることを名乗った上で、「お前は国民の敵だ」と発言をしたわけです。


統幕の佐官クラスが、このような政治的意図をもって、自己抑制もできずに、国会議員を罵倒することは由々しき事態であり、驚愕します。タガがはずれいていると思います。

罵倒された国会議員が民進党議員であるか、自民党議員であるか、公明党議員であるかは本質的問題ではありません。この自衛隊員の意見にあわない場合に、議員を「国民の敵だ」と決めつけて罵倒することが問題なのです。


だからといって、すぐに戦前の軍部テロの時代が再来するとは思いませんが、統幕の佐官クラスの言動であることから見て、自衛隊の内部(統幕内部)に、自衛隊に批判的な政党や政治家に対して、「国民の敵」とか「反日分子」として攻撃すべき「敵」であるとの政治思想やイデオロギーが蔓延し、あるいは浸透していることが伺われます。あるいは、そのような政治思想グループがすでに形成されているのかもしれません。そうだとすると怖いですね。


軍事組織である自衛隊の一部でも暴走しはじめたら、誰にも止められません。自衛隊では監察本部がその役目を担うのでしょうが、これも防衛省の内部組織ですから身内です。警察(公安部)も監視していると思います(戦前の5.15事件では、犬養首相警護の巡査らが軍に殺害されているので、警察は伝統的に「軍」を警戒していると何かの本で読んだことがあります)。


この三佐を厳しく処分することは当然として、自衛隊内には自衛隊に批判的な政党や国会議員を敵視する政治思想グループが形成されていないか、徹底的に調査し、もし形成されいればその影響力を除去する措置がとられるべきです。将来の禍根を残さないように国会がきちんと対処すべきです。

毎日新聞

議員罵倒

「国民の敵」発言は3佐 防衛相「適正に対処」

参院外交防衛委員会で質問する民進・小西洋之氏=国会内で2018年4月17日午前10時45分、川田雅浩撮影

 防衛省は17日、統合幕僚監部指揮通信システム部の30代の3等空佐が、民進党の小西洋之参院議員と16日夜に国会近くの路上で偶然遭遇した際に、「不適切な発言」を繰り返したと認めた。小西氏によると3佐は「お前は国民の敵だ」と繰り返し罵倒した。河野克俊統合幕僚長が17日、議員会館の小西氏の部屋を訪れて謝罪。小野寺五典防衛相は「適正に対処する」と話し、統幕が処分も検討する。野党は「実力組織の統制に大きな疑問を持たざるを得ない」(希望の党の玉木雄一郎代表)と反発している。

 小西氏が17日の参院外交防衛委員会で明らかにした。小西氏と防衛省によると、3佐は16日午後9時前、帰宅後のランニング中に小西氏と出会った。3佐は「小西だな」と言った後、現職自衛官だと自分から明かして繰り返し罵倒。警備中の複数の警察官が集まった後も「気持ちが悪い」などとののしり続けた。小西氏が「服務規定に反し、処分の対象になる」と撤回を求めたが撤回しないため、同省の人事担当に電話するなどした。3佐は最終的に態度を改め、発言を撤回したという。

 自衛隊法は、隊員に選挙権の行使を除く政治的行為を原則として禁じ、品位を保つ義務も課している。河野氏は記者団に「自衛官が国民の代表である国会議員に暴言と受け取られるような発言をしたのは大問題。極めて遺憾だ」と話した。

 小西氏は国会で自衛隊イラク日報問題などを取り上げ、小野寺氏の管理責任などを追及している。玉木氏は17日の記者会見で、1938年に佐藤賢了陸軍中佐が当時の帝国議会で議員のヤジに「黙れ」と発言したことに触れ、「由々しき問題だ。80年たって非常に嫌な雰囲気が漂ってきた気がする」と指摘。社民党の又市征治党首も会見で「批判的なことを言ったら『非国民』というのと同じだ」と強調した。

 小西氏は記者団に「かつて青年将校が『国民の敵だ』『天誅(てんちゅう)だ』と叫んで政治家を暗殺した。現職の自衛隊幹部が国会議員を国民の敵だと何度も言い放った暴挙は、民主主義において許してはいけない」と語った。【前谷宏、立野将弘】

https://mainichi.jp/articles/20180418/k00/00m/010/095000c

| コメント (0) | トラックバック (0)

2018年4月16日 (月)

財務省事務次官セクハラ疑惑へのマスコミへの疑問

財務省の対応への評価はなかなか難しいですね。新聞報道だけでの印象であり、週刊新潮の記事自体を読んでいませんが。

そもそも、週刊新潮の記事では被害者である女性記者が被害を週刊新潮に提供したというのが記事の発端のようだ。

そこで、第1の疑問。財務省の記者クラブに出入りするようマスコミの女性記者(ジャーナリスト)が、なぜ自社ではなく週刊新潮にリークするのだろうか? しかも、録音までしているにもかかわらず。

考えられる理由は、自社に訴えたが財務省とにらまれることを恐れて当該マスコミが取り上げなかった。そこで、女性記者は週刊新潮にたれこんだという理由です。それでも自社に迷惑がかかるので匿名にしたということだろうか?

第2の疑問。一般論としてセクハラの被害者が匿名でしか訴えられない事情は理解できます。しかしながら、マスコミ記者でジャーナリストである人物が実名を恐れたり、セクハラ告発でさえ匿名でするものなのだろうか?(自社の上司のセクハラ告発を躊躇するのは理解できるが、超大物の財務省事務次官のセクハラ行為の告発を躊躇するだろうか? ジャーナリストなら、こんな超弩級の特ダネは諦めないのが普通ではないだろうか?)

もし、女性記者がマスコミ(報道機関)に所属するジャーナリストさえ、官僚のセクハラを実名告発できないのが日本のマスコミ、ジャーナリズムだということになると、日本のマスコミやジャーナリズムが絶望的な状態ということになる。

おそらく、その女性記者が実名告発を恐れるのは、実名で告発すると自分が所属する報道機関が財務省などから報復を受けることになり、自社をそういう立場に追い込むなと上司から妨害や嫌がらせを受ける。あるいはその危険を感じているということでしょう。(こういう現状をふまえる限り、その女性記者の自己防衛としてはやむをえないことでしょうから、当該女性記者を非難するものではありません。)

第3の疑問。加害者である男性が、女性記者に対して胸を触らせろなどと言った行為を全面的に否認している場合、当該言動が事実であると確信するには、週刊新潮の報道(録音も含めて)だけでは不十分といわざるをえないでしょう。事実関係の確認を経ないまま、即更迭を主導するマスコミ報道への疑問。

被害者名や所属報道機関名を公表する必要はないが、少なくとも財務省が懲戒処分をするには、男性が否認している以上、被害者からの事実確認は必要不可欠であり、その事実確認手続き経ないで懲戒処分することは、法律的には無理スジだと思います(財務省に固有名詞を知らせなくとも、委託した弁護士などが少なくとも被害者本人に事実確認をすることは必須ではないでしょうか)。

他方、新潮社は、男性からの名誉毀損訴訟では、「真実でなくとも真実だと信用する相当な根拠があれば勝てる」と見込んでいるのでしょう。でも、男性への懲戒処分の有効性は、上記セクハラ行為が真実であることが必要となるでしょう。

第4の疑問。財務省は被害者に弁護士に連絡して協力してほしいと発表したが、弁護士の守秘義務(第三者だけでなく、財務省にも固有名詞などを通報しないという守秘義務)を明確にしていない点が不思議であり、また、当該法律事務所が財務省の顧問事務所という点も疑問である。第三者性が明確な弁護士に委託するべきでした。例えば、日弁連に担当弁護士の推薦を依頼するとか。

願わくば、被害者である女性記者が勇気を出して、財務省事務次官のセクハラを実名で告発し、声をあげられない女性の代表として、たたかってほしい。そして、マスコミや市民が彼女を擁護するという関係が理想でしょう。でも、この日本では無理なんでしょう。

財務省の福田淳一事務次官が女性記者にセクハラ発言を繰り返したと週刊新潮が報じた問題で、財務省は調査結果を発表した。…
ASAHI.COM

| コメント (0) | トラックバック (0)

2018年3月29日 (木)

北朝鮮の決断力と実行力に瞠目する

金正恩は、非道な独裁者だが、あるいは独裁者であるが故の「決断力」と「実行力」には、瞠目せざるを得ない。

この数ヶ月の間に、中朝首脳会談を実現し、韓朝首脳会談、そして米朝首脳会談の実現をやつき早に獲得した。

このことを予測した人は誰もいないのではないでしょうか。(トランプ大統領でさえ予測していなかったでしょう)。


北朝鮮の外交力は、危なっかしい瀬戸際外交だが、タフ・ネゴシエーターであることは認めざるを得ない。


今年初めには、今年の米国中間選挙前に米国の北朝鮮先制攻撃が行われる可能性が現実的な危機として語られていたが、幸いなことに、ひとまず戦争の危機は遠のいた。


しかし、日本は、朝鮮半島の外交舞台から外れて、プレイヤーとしてではなく、外野席から「圧力強化」や「拉致問題解決を」と叫ぶしかないかもしれない。いわゆる蚊帳の外である。


今後、日本の存在感は一段と薄くなるだろうが、日本が拉致問題の解決を前提にする以上は、拉致問題を抜きに非核化を優先させるわけにいかず、どうにも動きようがない。

北朝鮮は、タフ・ネゴシエーターだから、核兵器を放棄しないだろうが、米国向けのICBMを放棄するくらいの妥協をして、徐々に制裁緩和と中国、韓国や欧州からの経済援助を獲得することだろう。


北朝鮮は、米国、中国、韓国との間で事を進めれば、米国追従の日本は焦って最後は折れてくるだろうと考えているにちがいない。

あるいは、もっとずる賢くて、モリカケで苦境にある安倍首相の弱みにつけ込んで、「日朝首脳会談」のカードを切ってくるのかもしれない。安倍首相や日本政府は、今なら焦って飛びつきかねないと狙って。


そうなると日本のような貧弱な外交力の国は、北朝鮮の術中にはまり振り回されるだけになるのではないでしょうか。


日本は、しばらくは、どちらにしても「蚊帳の外」に出されるのであるから、焦って日朝首脳会談にとびつくべきではないでしょう。今は、「外交弱小国」を自覚して、「外野」から静観するのが上策のように思う。

朝日新聞  解説記事

https://www.asahi.com/articles/ASL3X6G54L3XUHBI044.html

| コメント (0) | トラックバック (0)

2018年3月26日 (月)

自民党「改憲案 9条の2」を解釈する

■自民党 憲法9条改正案 9条の2

自民党憲法改正推進本部は、現行憲法9条1項と2項を変更せずに、新たに「9条の2」を加える改憲案で行くという。

この憲法9条改正する趣旨を、安部首相は、「自衛隊の違憲論の余地をなくすため」と名言しています。言い換えれば「自衛隊と憲法9条との矛盾を解消する」ことです。
この「9条の2」を挿入すると、日本国憲法「第二 の戦争の放棄」は次のようになります。

第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。
国の交戦権は、これを認めない。


第9条の2 前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。

2 自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。


■事実論 自衛隊の現実

法律解釈を離れて、自衛隊の「現実」を見てみましょう。
わが国の自衛隊は、2015年の「世界軍事力ランキング」(アメリカのグローバルファイヤーパワーという軍事力評価機関)では日本の軍事力(自衛隊)は世界第7位です。
Img0105
ちなみに、韓国は12位で、北朝鮮は23位だそうです。

自衛隊の保有する銃弾、砲弾、ミサイルは他の国と当然に同じものですから、この世界第7位の自衛隊が憲法9条2項が禁止する「陸海空軍のその他の戦力」にあたらないことはありえません。この「現実」を誰も否定できないでしょう。

歴代政府は「自衛権を保持する以上、自衛のための必要最小限度の実力を保持することは許容される」と解釈してきましたが、現実を踏まえるかぎり、説得力がありません。世界第7位にランクされる日本の自衛隊を「必要最小限度の実力」の範囲内と解釈するのは無理があります。

また、長谷部恭男教授や木村草太教授のような「自衛隊合憲論」の立場にたつ護憲派(現状維持的護憲派)の解釈も御都合主義であり、自衛隊の「現実」を前にしては何ら説得力はありません。この護憲派が言うような、「現行憲法でも自衛隊は合憲だ」との解釈は、憲法規範を軽視するものであり、立憲主義の観点から大いに疑問です。

憲法9条に矛盾する疑いのある軍事力(軍隊)を憲法で明記しないで放置し、「砂上の楼閣のような解釈」でごまかす「現状維持的な護憲派」の立場は、立憲主義の見地からは許容できないと思います。


■事実を踏まえる立憲主義の観点から

そうすると、「政治権力を縛る憲法規範」を重視する「立憲主義」の観点からは、憲法9条と自衛隊との関係について、論理的には次のどちらかの立場をとるしかないと思います。


A【自衛隊縮小ないし廃止】
 現行憲法9条の規範力を尊重して「自衛隊を廃止する又は戦力でないレベルまで自衛隊を縮小する」という方向


B【憲法改正して自衛隊を憲法に定める】
 憲法を改正して自衛隊の保有を明記する。

しかし、Aの自衛隊廃止は非現実的です(自衛隊を廃止する現実的条件や実現可能性が存在しません。)

この点では、安部首相が自衛隊と憲法との関係を憲法上明確にしようというのは一理あると思います。
では、自民党案の9条の2を加えることが適切でしょうか。
ここswは法律論として、自民党の提案する「9条の2」を解釈してみます。

■法律論として「9条の2」を考える

条文に即して文理解釈して、この憲法9条改正案を検討してみます。
まず、前提として、 9条と自衛隊との関係についての政府解釈を見ておきましょう。2014年7月の閣議決定の憲法解釈変更により、「限定的な集団的自衛権」を容認しました。これに基づく安保法制の改正により、憲法9条の下で許容される自衛措置行使の要件は次のように決められています(防衛省のウェブサイトの引用)。

【憲法第9条のもとで許容される自衛の措置としての「武力の行使」の新三要件】
◯ わが国に対する武力攻撃が発生したこと、またはわが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること
◯ これを排除し、わが国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないこと
◯ 必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと


この政府解釈は、憲法9条2項の戦力禁止を考慮しての解釈です。

ところで、新たな「9条の2」は「必要な自衛の措置」とのみ定めています

この条文には、現在の政府解釈の「わが国の存立を脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求権が根底から覆される明白の危険」や「必要最小限度の実力行使」という縛りは記載されていません。

そこで、現行憲法9条2項の「戦力の禁止」規定が「9条の2」にも及ぶか(言い換えれば、9条の2が定める「必要な自衛の措置」も9条2項の「戦力」であってはならないと解釈されるのか)否かが問題となります。
文理解釈上は、肯定説と否定説が成り立つでしょう。


《否定説》
 9条の2の「必要な自衛の措置」は、9条2項の「戦力」禁止の例外として、戦力に該当しても許容されるとする見解。
 否定説の理由は、9条の2が改正で加えられる以上「後法優先の原則」から、9条2項の「戦力禁止」条項は、9条の2の「必要な自衛の措置」に及ばない。さらに、集団的自衛権は「国際法上の自衛権に含まれる」と現在の政府は解釈していますから、「わが国と密接な関係のある国への攻撃により、わが国の存立を危ぶむ場合」という限定もなくなり、法文上は、フルスペックの集団的自衛権の行使も許容できることなります。


《肯定説》
 9条の2の「必要な自衛の措置」にも9条2項の戦力禁止条項が及ぶのであり、「必要な自衛の措置」も「陸海空軍のその他の戦力」であってはならない(9条2項)とする見解。
 肯定説の理由は、そうでなければ9条2項は死文化することになってしまい、9条2項を廃止すると同然の結果となり、9条1項、2項を存続させた意味がなくなるからです。


肯定説だと、今後も「9条の2」を根拠に定められた自衛隊の自衛の措置も、「戦力」に該当しないかどうかが常に検討されることになり、結局、自衛隊ないし自衛権行使の範囲について、違憲論は引き続き憲法論争として続く
ことになり、安部首相の言う「自衛隊の違憲論の余地をなくす」という改正の趣旨は達成されません。


そうなると、自民党の石破氏が言う通り、「じゃあ、何のために改憲するのか」ということになってしまいます。
そこで、仮に9条の2が国民投票の結果で承認されたとしたら、この9条の2追加の趣旨・目的が「自衛隊の違憲論の払拭」である以上、《否定説》を国民が承認したことになります(少なくとも、政府はそう解釈でするのは間違いない)。

そうなれば、9条の2が加えられた場合には、9条2項の「戦力禁止」条項は死文化してしまいます。法律で「必要な自衛の措置」の範囲を決めさえすれば、憲法9条2項の戦力禁止規定の効力は及ばないことになり、自衛の措置が必要最小限度であるか否かも、憲法上の要請ではなくなることになります。

これでは究極の権力の行使である「自衛の措置」(戦争を含む)を憲法でチェックできなくなり、立憲主義の観点からは賛成することはできません。


■国際情勢から見て


また、現在の国際情勢の中で、日本が憲法9条を自民党案のように9条の2を追加改正し、上記《否定説》のように「必要な自衛の措置」を法律によって決定できるということになると、現在の国際情勢からみてどのような反応が生じるでしょうか。

安部首相は「抑止力が強まり、日本の安全は高まる」と言うでしょう。しかし、外から見れば、日本は従来以上の軍事力を装備するために憲法改正をしたということになるでしょう。

中国と米国が、「世界の覇権」を争うことは避けられない事態でしょう。そして、日本は米国の従属国家ですから、中国は日本に対抗する軍事力を強化するでしょう。
ロシアも、欧米に対する対決姿勢を強く打ち出しており、日本の軍事力への対抗手段を強化するでしょう。現実に日本がアメリカから購入するミサイルシステムに対して、ロシアは強い不信の声をあげており、北方四島に軍事基地を設置する動きをしています。

そして、アメリカは目下の軍事同盟国である日本に、より多くの軍事的貢献や兵器の購入を迫ってくるでしょう。日本は従来のように憲法9条があるからと消極的な態度をとることができなくなります。


結局、日本は、米中露の間で、相互の不信感増幅と抑止力の名の下で「軍事力の拡大」に陥るでしょう。そうなれば、日本の安全は高まりません。結局、米国と北朝鮮の軍事衝突や、米国と中国との軍事衝突にまきこまれる危険が高まります。
自民党の「9条の2」の追加の改憲案は日本の安全保障を損なうことになると思います。


■将来の憲法9条


私自身は「非武装主義者」ではなく、日本も自衛のための戦力(自衛隊)を保持するしかないと思います。将来的には憲法9条改正して自衛隊の設置と自衛権行使の限界を憲法で定める必要があると思っています。いわゆる「護憲的(正しくは、立憲的)改憲派」の立場です。

なぜなら、戦争は、政治的・社会的・歴史的・経済的な社会構造の結果として発生する現象であり、軍隊も同様です。仮に、憲法に繰り返し「非武装」や「戦争放棄」と書いたとしても、戦争や軍隊を生み出す社会構造や政治的条件が変わらないかぎり、軍隊や戦争をなくすことができるわけがありません。現に、日本は憲法9条を持ちながら、世界有数の軍事力を誇る自衛隊を保持し、多数派の国民がそれを支持しています。

現状の世界が戦争や軍備を放棄をする社会的・歴史的・政治的な条件を満たしていないことは明白です。遠い将来に「軍隊・戦争の放棄」が可能だとしても、それは数百年後、幾度かの大戦争と大災厄、なんらかの革命の後に、戦争の社会的原因が除去されないかぎり実現されないでしょう。
将来的には、日本に人権や平和、民主主義、立憲主義を真に尊重する国民意識が確立し、それを守る政府が成立した段階で初めて、憲法9条を改正して、専守防衛を理念とする自衛隊を設置し、必要最小限度の自衛力行使、自衛隊の海外派兵禁止、核兵器不保有、外国軍隊の駐留禁止、国際連合の集団的安全保障体制への平和的貢献などを定める憲法改正(立憲的改憲)をすることが望ましいと思います。

しかし、現状の自民党安部内閣の下での上記9条の2追加の憲法改正は、極めて危険であり、憲法9条維持の非武装主義の護憲派の皆さんとともに反対します。

| コメント (0) | トラックバック (0)

2018年3月10日 (土)

明治から変わらぬ「洋学紳士 V.S 豪傑」-現代「洋学紳士君」V.S「洋学豪傑君」

■中江兆民の「三酔人経綸問答」を再読する。

 憲法9条改正に向けての国会発議が準備され、自民党内で憲法改正条項が具体的に提案されています。そのような今、中江兆民の「三酔人経綸問答」(岩波文庫・桑原武夫・島田虎次郎約)を再読しました。この本は明治20年(1887年)発刊された本で、なんと今から131年前です。この本の内容は次のとおり。


■非武装主義者の洋学紳士君

 酔っ払いの「南海」先生の家に、二人の客が訪れます。
 一人は、スマートで頭脳明晰な「洋学紳士」君。彼は西欧の立憲民主制度を理想と掲げる徹底した平和主義者(非武装中立主義者)です。


 もう一人は、羽織袴の壮士の「豪傑」君。彼は、国権を強くし、欧米列強の侵略を防ぐためににアジア大陸を征服しようという軍事侵略主義者です。

 洋学紳士君は日本を民主平等にのっとる立憲主義国家とし、さらに陸海の軍備を撤廃して、無形の道議に立脚し、大いに学問を振興して、精緻に彫刻された芸術作品のような国とし、諸強国も敬愛して侵略するにしのびない国」にしようと主張します。

 豪傑君が「もし凶暴な国がわが国を襲撃したらどうするか」と問うと、洋学紳士君は、「そんな凶暴な国は絶対ないと信ずる」(断じて斯くの如き兇暴國有ること無きを知る)。と述べ、もし万一撃たれたら「汝何ぞ無禮無義なるや、と。因って弾を受けて死せんのみ。」と何も抵抗せずに殺されれば良いと放言します。現在の護憲派・非武装主義者と一緒ですね。明治時代からこういう人たちがいたんです!
 これを聞いて、豪傑君は、「君は狂っている」と大笑いします。


■実はニヒリストの豪傑君

 豪傑君も面白い。
 彼が言うには、一昔前(明治維新時)には「討ち死に主義」の武士が世の中に蔓延していた。そのとき「討ち死に」できなかった連中がたくさんまだ生き残っている。「奴らは西洋のフランス革命話しを聞いて、『これぞ我が死に場所』と自由民権に飛びついた。でも、こいつ
らの『討ち死に主義者』は社会の癌であり切除すべきである」と。

 洋学紳士君が「馬鹿を言うな。人を癌のように切除できるか。」と言ったところ、豪傑君は「切除の方法はある。それが戦争だ。私のような古い社会の癌を中国に征服の先兵として出せば良い」というのです。まさに昭和維新の予言ですね。


■南海先生曰く 中庸的現実主義

 南海先生曰く、紳士君の説に「まだ世の中で実現されていないところの、目もまばゆい思想上の瑞雲のようなもの」といい、豪傑君の説には「今日ではもはや実行しえない政治的手品です」として、「どちらも現在の役に立つはずのものではない」と指摘します。


「紳士君の説は、全国の人民が一致協力しなければ実行できない。豪傑君の説は天子や宰相が独断専行するのでなければ実施できない。どちらも空の言葉と言わざるを得ない。」


そして、特に、洋学紳士君を次のように批判します。
 
 紳士君の進化の思想は素晴らしい。しかし、「進化の神が憎むものは、その時、その場所において、けっして行い得ないことを行おうとすることにほかならない」と。

 つまり、理想を語るあまり、現実の歴史的・社会的・経済的・政治的な条件を無視してできもしないことを述べることの愚かさを厳しく批判します。

 さらに、南海先生は、豪傑君と洋学紳士君の両極論の病因は一つ。その病因とは「思いすごし」(過慮)であると言います。それは「今にも百、千の軍艦をもって攻めてくるにちがない」と思い込んでいるという意味です。もっと、国際関係と国家組織をリアルに考えれば、そう簡単に戦争は起こらない。もっと冷静に事実をリアルに見るべきだというのです。
 2018年3月はじめの北朝鮮情勢の米朝首脳会談への劇的変化を見ると、「過度な思い込み」や「短慮」ではなく、冷静な事実分析が重要であることを証明していますね。

 南海先生曰く、「戦争が起きるのは、実情ではなくデマからであり、戦争への恐怖(相手が攻めてくるという恐れ)というノイローゼによる。先んずれば人を制す、と自ずと開戦となる。これが古今東西の開戦の実情である」と。


■ 南海先生の結論

南海先生曰く

「要するに外交上の良策とは、世界のどの国とも平和友好関係をふかめ、万やむを得ないばあいになっても、あくまで防衛戦略を採り、遠く軍隊を出征させる労苦や費用をさけて、人民の重荷を軽くするよう尽力すること、これです。こちらがやたらに外交のノイローゼをおこさないかぎり、中国もまた、どうしてわれわれを敵視しましょうか。」


「よこしまな心であえて攻めてくるならば、我々はただ力のかぎり抵抗し、国民すべてが兵士となり、あるいは要害によって守り、あるいは不意を突いて進撃し、進み、退き、出、かくれ、予測もできなぬ変化を見せ、相手は不義、こちらは正義というので、わが将校や兵卒が敵愾心をいよいよ激しく燃やすならば、どうして防衛することができぬなどという道理がありましょう。」


「どうして紳士君の説のように、なんの抵抗も試みないで、殺されるのを待っている必要がありましょうか。どうして豪傑君のように隣国の恨みを買う必要がありましょうか」


 最後、「洋学紳士君は北米に行き、豪傑君は上海に行った。」というところで終わります。 繰り返します。これは明治20年(1887年)に書かれた本です。


■「洋学紳士」は今の護憲派

 上海に行った豪傑君は、昭和の主流派となり日中戦争・日米戦争に突っ走って自滅した。他方、洋学紳士君は、北米からマッカーサーとももに帰ってきて、憲法9条(軍備撤廃)の理想を入手した。まさに「恩寵の民権・平和」ですね

 ちなみに、南海先生は「民権には『回復の民権』と『恩寵の民権』があると言っています。日本国憲法は、まさに「恩寵の民権」です。天皇からではなく、連合国とマッカーサーからの「恩寵」です。

 洋学紳士君は、現代「非武装中立の自衛隊廃止論」の元祖で、まさに今の「護憲派・非武装主義者」です。この彼・彼女は明治時代から生息している方々なんですね。彼・彼女らは北米にわたっていましたが、マッカーサーとともに日本に帰ってきた「恩寵の民権・平和主義者」です。


■現代の「洋学豪傑君」

 豪傑君は、さすがに、昔のままでは存在していません。

 現代の豪傑君は、国際政治の現実主義者として、日本こそ、超大国アメリカの同盟国として軍事的な役割を担い、強大な独裁国家である中国に対抗し、日本が依存する米国中心の世界利権構造を維持しようと主張しています。それが「自由と民主主義」を守る崇高な闘いだと。今や壮士風の豪傑君は、「洋学豪傑君」になっています。ただし、中には人権も平等も嫌いな「古い豪傑君」も混じっているようですが…。

 しかし、もはや古い豪傑君は少数派であり、多くは「洋学豪傑君」に進化しています。しかも男だけではなく、美人国際政治学者の三浦瑠麗嬢や麗しい大和撫子の桜井よし子女史のようなたおやかな女性も多数参加されています。豪傑君側の女性進出は男女平等の観点からは喜ばしい限りです。


■未だに「三酔人経綸問答」の枠内にある憲法9条論争

  集団的自衛権を担う軍事主義の「洋学豪傑君」でもなく、非現実的な非武装主義の「洋学紳士君」でもなく、南海先生が言うように次のような憲法であれば理想ですね。
 
 主権国家として、国連の集団的安全保障を自主的に担う用意もある専守防衛戦力を有し、外国の軍事基地を我が国土に置かせず、世界のどの国とも友好関係を深め、学術・芸術を高めて、国民の自由と福祉の向上をはかる民主共和制を定めた新しい日本国憲法

 ただし、このような私の理想は、やはり新たな「洋学紳士」なのでしょう。現在の改憲発議構想は、「洋学豪傑君の憲法」を作るものです

 結局、現在の日本においては、国民の意識や歴史的、政治的、経済的条件からみて、私の理想はあくまで「瑞雲の彼方のまぼろし」でしかないでしょう。 

| コメント (0) | トラックバック (0)

2018年2月22日 (木)

日本郵便(労契法20条)事件 大阪地裁判決

■大阪地裁平成30年2月21日判決 勝訴
 東京地裁判決に続いての大阪地裁での労働者勝訴判決です。
https://www.asahi.com/articles/ASL2P5SDFL2PPTIL026.html

 東京と大阪の原告は違いますが、郵政産業労働者ユニオンの組合員らが原告で、労働組合が運動として総力をあげて取り組んでいる裁判です。


■「扶養手当」請求を認めたインパクト
 大阪地裁判決の最大の特徴は、「扶養手当」の有期社員への不支給を労契法20条違反として違法と判断したことです。東京地裁では原告に該当者がいなかったので請求していませんでした。
 しかも、配置転換などの異動の範囲が異なる正社員との間で比較しても、不合理で違法となるとしています
 この判決は、日本郵便に働く有期契約労働者だけでなく、他の民間企業で働く有期契約労働者にも当てはまるものです。多くの民間企業で、扶養手当、家族手当を支給しています。労働者の生活保障をはかる趣旨です。ですので、この判旨が確定すれば、扶養手当や家族手当については正社員だけでなく有期契約労働者にも支払うべきことになります。


■年末年始勤務手当、住居手当、扶養手当の「全額」支給
 大阪地裁判決は、年賀状配達する年末年始勤務手当も全額の支給を命じ、住居手当は新人事制度導入から不合理な格差だとして全額の支給を命じています。他方、東京地裁判決は、年末年始金手当と住居手当について、8割、6割の損害しか認めなかったのですが、全額を損害として認めています(東京地裁では扶養手当は該当者がいないので請求していなかった)。
参考:東京地裁判決について
http://analyticalsociaboy.txt-nifty.com/yoakemaeka/2017/09/post-c586.html


■「比較対象正社員」について
 大阪地裁判決の特徴的な判断理由部分は次の部分だと思います。
 有期契約労働者と比較対象すべき正社員について大阪地裁判決は次のように述べます。
「同一の使用者に雇用される無期契約労働者の中に、職務の内容等が異なる複数の職員群が存在する場合において、有期契約労働者と無期契約労働者の中のある職員群との間で労働条件んの相違が不合理ではないときであったとしても、別の無期契約労働者の中の職員群との間で期間の定めがあることによる労働条件の相違が不合理であるならば、当該労働条件の相違は同条の反することになると解される。したがって、有期契約労働者の側において、必ずしも同一の使用者に雇用される無期契約労働者全体ではなく、そのうちの特定の職員群との間で労働条件に不合理な相違があるか否かも検討することも可能である。」
 つまり、比較すべき正社員は、有期契約労働者が主張する一定の職員群との比較で検討することが可能であるとします。東京地裁判決は、同旨ですが、有期契約労働者が主張する「類似した職務を担当する正社員」と比較すると述べていました。
 大阪地裁判決は、これに続けて
「もっとも、労契法20条は、不合理性の判断における考慮要素の一つとして『職務の内容及び配置の変更の範囲』を挙げているところ、職務の内容や配置の変更の範囲があり得る労働者の労働条件については、必ずしも現在従事している職務のみに基づいて設定されるものではなく、雇用関係が長期間継続することを前提として、将来従事する可能性があるであろう様々な職務や地位の内容等を踏まえて設定されている場合が多いと考えられるから、そのような場合に単に現在従事している職務のみに基づいて比較対象者を限定することは妥当ではなく、労働者が従事し得る部署や職務等の範囲が共通する一定の職員群と比較しなければならないと解される。」
 このような観点に基づいて、転居と伴う配転がなく、主任以上への昇格がない新一般職制度が導入される前は、配置転換や昇任昇格があるとされた旧一般職(職種)と比較すべきであり、新一般職制度が導入された平成26年4月1日以降は、新一般職と比較すべきとしました。


■「正社員の長期雇用を図るインセンティブ」について
 東京地裁は、正社員を優遇することで有為な人材の長期的確保を図る趣旨や、長期雇用へのインセンティブを付与することを、その他の事情として取り上げて、それを根拠に損害賠償を6割や8割に減額しています。
 これに対して、大阪地裁判決は、次のように修正しています。
「被告が主張するような正社員の待遇を手厚くすることで有為な人材の長期的確保を図るという事情も相応の理由がある」としながら、年末年始勤務手当の支給の趣旨目的の中では飽くまで補助的なものに止まる」と排斥しています。住居手当についても、」「被告が主張する長期雇用へのインセンティブという要素や社宅に入居できる者と入居でなきない者との処遇の公平を計る要素などが存在することも否定できない」としつつも、「住居手当が支給される趣旨目的は、主として、配転に伴う住宅に係る費用負担の軽減という点にあると考えられ」「新一般職は、本件契約社員と同様に、転居を伴う配転が予定されていないにもかかわらず、住居手当が支給されていること」から、有期契約労働者への住居手当の不支給を違法としました。

 扶養手当については、「労働者及びその扶養家族の生活を保障するために、基本給を補完するものとして付与される生活保障給としての性質を有し」「職務の内容等の相違によってその支給の必要性の程度が大きく左右されるものではないこと」などから、「歴史的経緯等被告が挙げる事情を考慮しても、正社員に対してのみ扶養手当が支給され、原告ら有期契約労働者に支給されないこという相違は不合理といわざるを得ない」
 他方、大阪地裁判決も、夏期年末手当(いわゆる賞与)については、正社員へのインセンティブを持つものとして、使用者側の裁量が広いとして、格差の不合理性を否定しています。


■「格差全額」の損害認定について

 大阪地裁は、年末年始勤務手当、住居手当及び扶養手当の不支給を不合理な労働条件んの相違として、「これらが支給されてにないこと自体が不合理であり、不法行為を構成する」として、「支給額に相当する損害が生じたものと認める」として、全額を損害としました。
  民法709条は、不法行為責任を「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と定めています。労契法20条は、不合理な労働条件の相違を禁止しているのですから、有期契約労働者の労契法20条によって保護された利益を侵害されたことは明らかですから、不法行為責任を全額認めるのは当然でしょう。


■大きな「追い風」
 東京地裁判決に対しては、原告と被告双方が控訴して、現在、東京高等裁判所にて審理中です。次回の4月の期日で結審する予定であり、遅くとも夏頃には高裁判決が言い渡されると思います。労働者側にとって、大きな弾みがつきました。
 それだけでなく、有期契約労働者の格差是正にとっって大きな追い風になります。これも労働組合のとりくみがあってこそです。

| コメント (0) | トラックバック (0)

2018年2月 3日 (土)

賃金等請求権の消滅時効の在り方について

 現行民法(債権関係)は改正されて、2020年4月1日から施行されます。最も大きな改正点は消滅時効の改正です。
 厚生労働省労働政策審議会の「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」第2回(2018年2月2日)にて労使法律家のヒアリングがあり、労働者側として私も意見を述べてきました。
  http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000189823.html
 
 当日の議事録は後日、公表されますが、当日の私の意見原稿を下記に掲載しておきます。
(前提/問題の所在)
 民法の一般債権は、今までは「債権者が権利を行使することができる時から10年」で時効消滅しました(旧民法166条)。しかし、今回の改正で次のようになります。
  ■改正民法166条
  ① 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
  ② 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。
 ①は、知ったかどうかが起算点なので「主観的時効「、②を「客観的時効」といいます。要するに、知ってから5年で時効となるという新しいルールが導入されます。
 旧民法では、給料は短期1年で時効で消滅するとされていました。
  ■現行民法174条3号 短期消滅時効
   月又はこれより短い期間によって定めた使用人の給料に係る債権
 この短期消滅時効は廃止されます。
 この旧民法時代、1年では短すぎるとして、次のとおり労働者保護のために労働基準法は給料の時効を2年(退職金は5年)としていました。
  ■労働基準法(時効)
  第115条 この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。
 
  ところが民法改正により、労働者保護の労基法(時効2年)より、民法の時効制度(5年、10年)の方が長期化して、労基法の方が2年の短期消滅時効としており、労働者の保護にかける状態が生じる(逆転現象)。さて、労基法115条をどうするか。
-------------------------
 
はじめに結論を申し上げます。
 労働基準法115条につては、この法律に定める請求権の時効は民法による。ただし、年次有給休暇請求権についての時効は2年とするとすべきと考えます。
 以下、理由を述べます。
第1 給料の時効期間について
      旧民法174条3号によると給料は1年の短期消滅時効になります。しかし、労基法115条は、労働者保護の観点から、2年に延長しています。これは工場法が災害扶助の請求が2年であったことにあわせたようです。
 
   民法の短期消滅時効制度の廃止が、法制審の審議を経て民法が改正されました。
   結果、賃金請求権も一般債権として、主観的時効5年、客観的時効10年となり、労働者保護法の労基法115条の方が短期という「逆転現象」が生じます。
      労基法115条をどう改正すべきか。
 
   まず、民法の短期消滅時効廃止の理由を確認しておくことが重要です。
 
    民法改正法制審部会の審議によれば
   職業別の3年、2年、1年の短期消滅時効の区分を設けることの合理性に疑問がある。実務的にも、どの区分に属するか逐一判断しなければならず煩雑である上、その判断も容易でない例も少なくなく、実務的にも統一的に扱うべきである(法制審部会資料14-1の1頁)。また、職業別の区分については身分の名残ともいうべき前近代的な遺制であるとの法制審部会討議でも指摘されていた(法制審部会討議第12回6頁)。
 
 さらに、もともと旧法の短期消滅時効は、立法論として批判が強かった制度です。
      我妻榮教授は、昭和40年発行の「新訂民法総則」の教科書で、
 
    「これらの債権者にとっては、少額の債権について現在の煩瑣な裁判手続を利用することは、極めて困難であるだけでなく、これらの債権者中には資力が乏しいため、現在のように多額の出費を要する裁判手続に訴えることの不可能な者も少なくない。現在の訴訟手続は、実際上、多くの無産階級の者から権利保護の機会を奪っていることは否定すべからざる事実であって、時効に関してだけいうべきことではない。しかし、短期消滅時効制度において、とくにその感を深くする」
 
     つまり、社会的弱者の保護にかけるという指摘です。この我妻教授が指摘される実情は、現在においても大きく異ならないというべきです。労基法115条の改正についても、この権利行使の障壁の格差、社会的弱者の保護を念頭において検討すべきなのです。
 
第2 退職金請求権について
 
   退職金請求権については、旧民法では同法174条3号に当たらないから、原則10年の消滅時効期間と民法では解釈さることになりますが、最高裁判所判決(昭和49年11月8日-九州運送事件・判例時報764号92頁)により、労基法115条の適用されると解釈されました。
 
   しかし、退職金請求権については2年では短すぎると批判が強くあり、退職金が高額で支払いに時間がかかる場合があることや労働者の請求も容易でないため、昭和62年に労基法が改正されて5年に延長されました(昭和63年4月1日施行)。
 
   期間が5年とされたのは、「中小企業退職金共済制度による退職金や、厚生年金保険法による厚生年金基金制度による給付の消滅時効が5年であること」が参考にされた(平賀俊行・改正労働基準法298頁)。平賀氏は、労働省労働基準局長をつとめた方です。退職金請求については、毎月支払われる給料よりもより時効期間を長期として保護しようというのがその趣旨であったことが重要です。民法より、短い消滅時効期間を定めることができるという趣旨と理解すべきではありません。
 
   したがって、今回の民法改正により、主観的時効5年、客観的時効10年とされたことから、退職金請求権についても、その労働者にとって老後の生活を支える重要な生活の糧であるから、この改正民法を適用するのが労基法の趣旨から見ても当然です。
第3 起算点問題について(主観的時効と客観的時効の二本立て問題)
      次に起算点について意見を述べます。主観的時効の起算点と客観的時効の起算点の二つになることの問題です。
    今回の民法改正の特徴は、主観的時効と客観的時効の二本立てにしたことです。この二本立てにすることについては、法制審部会において、その適否について相当な議論がなされています。最終的に主観的時効5年の二本立てにすることでまとまり、国会で成立したものです。この点ついては、法制審部会の議論を確認することが重要です。
 
  法制審部会では、短期消滅時効の廃止に伴い、すべての債権につき消滅時効期間を一律10年とすることは、債務者にとって長すぎて酷な結果となるため、主観的時効5年を挿入して債権者(権利者)の利益との調整を図ったものです。この議論に当たっては、主観的時効の起算点(権利の行使をすることができることを知った時)の意義と、客観的時効の起算点の二つになることの不安定さが問題として議論されています。
 
  この主観的時効の起算点の意義については、次のようにまとめられています。
 
  中間試案では、「債権発生の原因及び債務者を知った時」とされていたが、「権利を行使することができることを知った時」に変更された。その趣旨は、債権発生の原因や債務者の存在を認識することを含み、さらに違法性の認識を踏まえた権利行使ができることについての具体的な認識を含む趣旨である。
           「ここでの「知った時」とはというのは、不法行為に関する民法724条前段の「知った」と同じ意味であり、実質的な権利行使が可能である。その権利行使が可能な程度に事実を知った、ということになります」(法制審議会部会第92回会議 議事録22頁。合田関係官の発言)
 
    通常の賃金請求権(退職金請求権)は就業規則などで弁済期が定まっており、労働者も当然、これを知っている場合が圧倒的多数です。したがって、主観的時効であっても起算点も明確です。

    労基法上のその他の請求権についても、労働者が権利を行使できることを知らないにもかかわらず、消滅時効にかからせる合理性はありません。
 
 また、時間外・休日労働に対する割増賃金について、例えば管理監督職について就業規則の定めが労基法に違反しており、本来支払わなければならないのに労働者に支払っていない場合にも、労働者が当該措置が違法であると知った時から時効進行をすることも問題はありません。労基法違反をしてた使用者に消滅時効による賃金支払義務の消滅という「利益」を付与する合理性は見当たりません。
 
 債務者(使用者)の不安定な立場については、客観的時効10年ルールで画一的に救済できることになります。それが今回の民法改正の趣旨なのです。労働者保護の労基法の趣旨から、この民法改正の考え方を生かすことこそが求められて、これを修正する必要はありません。
 

 現在、政府は働き方改革として、長時間残業の規制を政策目標として掲げています。長時間残業を規制するために、消滅時効を改正民法に従って長期化することは、使用者に長時間残業を規制するという協力なインセンティブ(制裁?)を当たることになり、政府の「働き方改革」と一致します。
第4 年次有給休暇請求権について

    年次有休休暇請求権については、一般の債権とは性質が異なり、何よりも年次有給休暇の完全取得を図る必要性があり、繰り越しを5年と認めることは、有給取得を促進することにはなりません。よって、労働組合などの意見を聞いた上で、年休については、現行2年の繰り越しを維持すべきです。
------------------------
 経営側は、経営法曹会議の弁護士が3名、労働側は私と古川景一弁護士と2名です。経営側は必死に、労基法115条の時効2年(退職手当5年)は変更する必要がないと訴えていました。ただ、労働者保護の労基法が民法より短い時効期間を規定するって、法制度としては明らかな矛盾であり、まじめに法律の筋を通すなら労基法115条は民法にあわせるべきでしょう。

| コメント (0) | トラックバック (0)

2018年1月 8日 (月)

北朝鮮への米国の先制攻撃はあるか?

▪️過去にあった北朝鮮への先制攻撃

1994年頃、クリントン政権が北朝鮮の核施設を限定攻撃を行おうとしたが、韓国大統領が反対し、また日本も北朝鮮からの反撃に対応する準備ができていなかったことから、米国は北朝鮮核施設攻撃を断念した。このことは後に明らかになった。1994年当時、私を含めて日本人の多くは、そこまで開戦の危機が切迫化していたとを知らなかった。

▪️現状では北朝鮮からの先制核攻撃はない

北朝鮮は現時点では武力での朝鮮半島統一方針を放棄しています。北朝鮮の核ミサイル開発は金正恩体制(北朝鮮の国体)護持のためであり、北朝鮮からの先制核攻撃はありえません。なぜなら、北朝鮮が先制攻撃すれば米国の反撃により、北朝鮮は壊滅するしかないからです。

このことは、米国、韓国、日本の軍事筋も認めているところです。

北朝鮮の攻撃(核兵器使用を含めて)があるとしたら、米国が北朝鮮を先制攻撃した場合(あるいは米国の先制攻撃が必至だと北朝鮮が認識した場合)しかないでしょう。

▪️米国の先制攻撃の可能性

では、いまの北朝鮮危機は具体的にはなんでしょうか。

それは、米国が北朝鮮への先制攻撃を行うか否かの一点です。

米国の目的は、北朝鮮の大陸間弾道核ミサイル施設の破壊です。北朝鮮の体制転覆のためではありません(米国はこのことを公言している)。米国本土に到達する核ミサイルの実戦配備を阻止するという一点です。

パキスタンやインド、そしてイスラエルは核ミサイルを保有していますが、米国を標的にしていないから、米国は黙認しています。

しかし、北朝鮮のような国が米国本土に対する大陸間弾頭核ミサイル攻撃能力を保有することを米国が許すことは決してないでしょう(ただし、逆に言えば米国に届かないのであれば核兵器を黙認する可能性があるということです)。

▪️米国先制攻撃不可避説

北朝鮮が米国本土を攻撃する大陸間弾道弾(核ミサイル)を完成させる前に、米国は北朝鮮のミサイル施設を叩くはず。軍事的な合理性のみを考えたとき、米国がこれを躊躇する理由が見当たりません。

ちなみに、米国は、自国への軍事危機を守るためには軍事行動を躊躇するような国ではありません。米国本土の米国人をまもるために、朝鮮人、韓国人、日本人が数十万人、数百万人くらい死んでも「悲しいがやむを得ない犠牲」と言うはずです。特に、今の米国政権はトンランプ大統領ですからなおさらです。

米国が北朝鮮に先制攻撃を行うタイミングは、核ミサイルが実戦配備される前、つまり2018年中だと予測されています。

韓国での冬季オリンピック開催期間は戦争は回避されるでしょうが、北朝鮮は核ミサイル開発を進めるでしょう。

2017年秋頃から、米国の国務長官は、「北朝鮮の体制転覆を企図しない」とか「核ミサイル開発を凍結すれば北朝鮮と直接対話を行う」と表明しています。が、北朝鮮はこれに応じる気配はありません。

今や、北朝鮮が自発的に核開発を放棄することはありえません。それは、インドやパキスタン、イスラエルが自発的に核兵器を放棄することはありえないことと同じです。

米国本土への危険がない状態で軍事攻撃できるのは、2018年が最後のチャンスだと米国は考えているでしょう。

軍略としては、イラク戦争のように、巡行ミサイルや航空兵力で北朝鮮に奇襲軍事攻撃を行う。38度線付近の長距離砲陣地を一挙に巡行ミサイルと航空兵力で叩いてソウルへの砲撃を阻止し、同時に核ミサイル施設を破壊する。そして、北朝鮮軍が38度線を南下しようとすれば米韓合同軍がこれを阻止するという作戦でしょう。

この先制攻撃作戦を実行するとしたら、北朝鮮が韓国や日本に対して報復として核兵器による攻撃の可能性は低いという判断が前提になります。いかに金正恩とはいえ、核兵器を使用して報復すれば、米国の核攻撃にさらされることは承知しているので、核兵器は使用しないと想定しているのです(この点では、彼の合理的判断能力を前提している)。

テポドンなどのミサイルが数発、韓国や日本に打ち込まれても迎撃ができるし、たいした損害は発生しないと軍事的合理性の観点から割り切るでしょう。

米国が先制攻撃を行うかどうかは、北朝鮮が反撃として核攻撃に踏み切るか可能性をどの程度に見積もるかが重要な分かれ道になります。

▪️米国先制攻撃回避(不可能)説

いかに米軍とはいえ、北朝鮮の核兵器による韓国や日本への反撃を100%阻止できる保障はない。北朝鮮が自暴自棄となり、自国の崩壊覚悟で核兵器を使用することもあり得る。

この場合には、米国は北朝鮮との戦争には勝利するだろうが、数十万人、数百万人という多大な犠牲を払う韓国では、反米運動が盛り上がり、朝鮮半島は北だけでなく南も中国に勢力圏内になりかねない。

また、日本の在日米軍への核ミサイル攻撃が行われて、これを阻止できなかった場合には、数十万人、百万人規模の日本人の犠牲者が出る。そうなれば日本でも反米運動が盛り上がり、日米軍事同盟が崩壊しかねない。日本という在日米軍基地を失えば、米国の国益を著しく損なう結果となる。米国の対中軍事戦略は崩壊していまう。

米国が失うものがあまりに大きいため、このような危険な賭けである北朝鮮への先制攻撃をすることはまずないと考えるのが合理的な判断でしょう。

また、北朝鮮を攻撃する場合には、中国との戦争を回避する措置を事前に中国と合意しておく必要があります。この合意を中国とまとめようとした場合に、米国は外交交渉上、中国に対して弱い立場になる。中国は『北朝鮮への先制攻撃をすることを容認するかわりに、南シナ海を中国の勢力圏であることを認めろ』と要求することは必至です。こういうディールは中国の得意技でしょう。

以上を考えると、米国の対中軍事戦略という米国の国益の観点から考えて、危険な先制攻撃は不可能だという考え方も十分な理由があります。

▪️北朝鮮の思惑

北朝鮮とすれば、日米韓の弱い輪を叩く戦術をとるはず。韓国には、同一民族としてのアイデンティティーの強調、冬季オリンピックへの参加することで融和策を引き出そうとしています。日本に対しては、米国の北朝鮮先制攻撃に協力した場合には核攻撃の報復を行うと威嚇しています。

その上で、北朝鮮としては、米国との二国間交渉を実現して、北朝鮮の体制保障を確約させ、核兵器保有を事実上黙認(あるいは大陸間弾道弾開発の凍結)させる米朝平和条約を締結するというところが最低の獲得目標でしょう。

▪️米国の本気度

北朝鮮の核ミサイル開発を中止させるには軍事的攻撃するしかない。しかし、この場合には北朝鮮による韓国や日本への核兵器による報復という大きなリスクがある。

さすがに北朝鮮は自殺行為である核兵器使用はしないと考えるかどうかは、金正恩の合理的判断に期待するしかない。

しかし、第二次世界大戦では、大日本帝国は合理的に考えればどう考えても勝ち目のない日米戦争に踏み切りました。そう考えると、あの神がかった独裁国家(大日本帝国にそっくり!)の北朝鮮指導者が合理的判断をすると信頼することはできないでしょう。

米国としても、金正恩の正気にかけることはしないでしょう。そうなると、北朝鮮の核ミサイル凍結と引き換えに米朝交渉のテーブルにつくことになると考えるのが合理的な帰結です。

この場合、建前上は北朝鮮の非核化を掲げるが、事実上、核兵器保有を黙認するという枠組みになるのではないでしょうか。

そうなれば、次はイランの核武装、サウジの核武装など核武装のドミノ化を招くことになりかねません。したがって、危険を冒しても米国は軍事行動をとるべきだという論者もいます。ただし、この論者は「北朝鮮は核攻撃してこない」と盲信しているか、あるいは使用されても犠牲者は日本人や韓国人であり米国人ではないと割り切っているかのどちらかでしょう。

でも、朝鮮半島や日本で核兵器が使用されてもやむを得ないという立場には(少なくとも公には)たつことはできないでしょう。

したがって、米国の北朝鮮先制攻撃の可能性は米国が合理的な判断をする限り、極めて低いはずです

▪️それでも北朝鮮への米国先制攻撃の危機は去らない

最大のリスクは、トランプ大統領です。アメリカ・ファーストを標榜する彼は、韓国や日本の犠牲など意に介さず、北朝鮮の先制攻撃を確信的に実施する危険があるように思われます。



日本人に問われるのは、①核攻撃というリスクを負いながら、米国の北朝鮮核ミサイル施設の先制攻撃に協力して北朝鮮の核兵器廃棄を軍事手段により達成すべきと考えるか、それとも、②米朝二国間交渉にて北朝鮮の核保有を事実上黙認してでも、先制攻撃を回避するか、どちらかです。

後者②は「不正義の平和』です。しかし、①は「正義の戦争」であっても、核兵器による報復を受けるリスクを負うことになり、①を選択することは、日本の国益に反する愚かな選択だと私は思います。

| コメント (0) | トラックバック (0)

2017年11月25日 (土)

5時から頑張る日本人-日本人は労働時間短縮が可能か?

日本で労働時間短縮は可能か?
「5時に帰るドイツ人、5時から頑張る日本人」(熊谷徹著SB新書)を読みました。

https://www.amazon.co.jp/dp/B00W4NB3IO/ref=dp-kindle-redirect?_encoding=UTF8&btkr=1
昔、日本でも「5時から男」って言葉があった(1988年流行語大賞・高田純次)。ただ、これは仕事が終わってから生き生きと遊びにいく日本人サラリーマンのこと。この本の「5時から頑張る」とは残業を頑張るという意味です。

著者は1959年生まれ。早大卒業後NHKに入局して記者として8年間働き、1990年からはドイツで27年生活し働いているジャーナリスト。ドイツの生活実感から日本の「働き方」を批判します。

ドイツ人は午後5時まで働き残業をしない。日本人は午後5時から頑張って残業する。ドイツは「時短先進国」で年労働時間1371時間。「長時間労働大国」日本は年労働時間1719時間である。

でも、ドイツ経済は現在絶好調であり、労働生産性は日本より46%も多い。2016年の1人当たりGDPを比べるとドイツ(4万2902ドル=約486万円)が日本(3万8917ドル=約451万円)を上回る。
ドイツでは有給休暇を100%消化することや2~3週間のまとまった長期休暇を取ることが、当然の権利として認められ、実行されている。
著者は過労自殺を生み出す電通を厳しく批判し、ドイツではあのような働き方はあり得ないと批判しています。NHKで働いていたころ、著者も日本流の長時間労働にあけくれ、締め切り間際に、不眠不休の長時間労働に従事したという。

最近、NHK女性記者が過労死したことが報道された。ドイツでは「原稿より健康」と言われて、テレビ放送局でも一日最長10時間の規制は守られているという。また、就業時間以外に仕事のメールを部下に送るのは禁止されており、これは休暇中も同様だという。有給休暇とは別に病気欠勤制度が区別され、ドイツでは有給の病気休暇制度が用意されている。

日本とは、まったくの「別世界」です。


ドイツとは「国民性」も「文化」も違うのだから、「日本では無理だとあきらめる」のが多くの日本人でしょう。しかし、ドイツに住む著者は「違う」
と言います。日本でも本当の「働き方改革」を行えば、労働時間短縮は実現できると。


ドイツでは、1日10時間を超える労働が法律で厳格に禁止されていることが大きい。ドイツの労働時間法は「1日8時間・週48時間」で「6ヶ月平均日8時間となること条件に1日最長10時間までしか働けない」制度です。
10時間を超えて働くことは、日本と違ってけっして許されない(適用除外の職種はありますが)。

ドイツでは、国が厳しく企業を監視します。この法律は厳格に適用されます。10時間を超えて労働者を働かせた場合、事業所監督局から最高1万5000ユーロ(約180万円)の罰金が会社に課せられます(場合によっては管理職にも適用)。これが建前だけでなく、実際に多くの企業が摘発されているそうです(病院など)。

さらに、ドイツは産業別労働組合の力が強く、法律よりさらに短い労働時間を定める労働協約が締結されています。例えば、金属産業であれば週35労働時間となっている。


日本では、「1日8時間しか働かないと言って、顧客からの注文を断ることはできない。断れば、競争会社に顧客を取られてしまう。」「年次有給休暇で長期間休むなんて。同僚に迷惑かけるので無理。」と考えるのが普通ですね。しかも、日本の労働組合は力が弱いし、頼りにならない。


でも、だからこそ日本では法律による横並びの規制が絶対必要です。
1日上限10時間とすることがは絶対必要です。10時間超えて働いたら企業や上司は必ず罰金を払うこととすれば、顧客が文句をいってきても法律だから仕方が無いと断れるでしょう。他の競争会社も厳格に同じ法律が適用されるから、同じ条件となります。

普通の企業で、労働者は1日8時間(上限10時間労働)では本当に仕事が回らないのでしょうかね。もし回らないとしたら、それは労働者1人当たりの業務量が過多にすぎるからでしょう。

人口減少時代となり、多くの女性にも労働市場で働いてもらわなければならない。少子化解消のため、子どもを産み育て易い労働社会環境を実現するために「ワーク・ライフ・バランス」は必要不可欠です。男女ともに労働時間短縮の実現こそ、日本社会と経済の発展と維持のために必要です。
顧客や経営者・労働者の自発的な「意識改革」を待っていては、永遠に実現しないでしょう。

法律で1日8時間・週40時間を定めるだけでなく、ドイツのように1日の上限時間を10時間とすべきです。

ところが、今の「働き方改革」の労基法改正案では、

時間外労働の上限について、月45時間、年360時間を原則とし、臨時的な特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)を限度に設定。

これでは何も変わりません。過労死ラインを超える80時間以上の労働を認めるなんて、あり得ないでしょう。

ドイツ人にできて、日本人にできないわけはありません。
ドイツ人も昔から労働時間が短かったわけではありません。1950年代は週50時間を超える労働時間だったそうです。1956年のメーデーでは、「土曜日のパパは僕のもの」というスローガン(「日曜日は神様のもの」ということで週休二日制の要求)が叫ばれました。ドイツの労働組合は週40時間労働時間を強く要求し続け、1984年に金属産業で7週間ものストライキという戦後最大の労働争議がおこり、産業別労働協約を獲得して、1995年には週35時間が実現されることとなったといいます。

労働組合の力が弱い日本では、法律による横並び規制しか道はありません。

労働時間の短縮は「国家」にとって、少子化という「国難」への対応、国力維持・経済発展のために必須であり、「国策」として推進すべき目標です。安部首相は国策や国難は得意なのに。


にもかかわらず、「働き方改革一括法案」の労働時間規制の水準は、悲しいかな「トホホ」の水準です。いつまでも変わらない、このままの日本で良いのか。

| コメント (0) | トラックバック (0)

2017年10月27日 (金)

私的「2017年選挙結果分析-誰が選挙結果を左右するのか」

朝日新聞の20171026日朝刊の小熊英二さん「論壇時評」の総選挙分析が鋭かった。興味のある方は必読ですね。

 

http://digital.asahi.com/articles/DA3S13198367.html?_requesturl=articles%2FDA3S13198367.html&rm=150

 

 

曰く、<安部首相周辺は、「日本人は右3割、左2割、中道5割だ」と言っている>とのこと。この左には、共産党や社民党だけでなく、民主党(民進党)も含まれる。

そして、自民党、公明党(以上、右)、民進党、社民党、共産党(以上、広義の左)も基本はコアな支持層を持っているが、右と左が、中道5割の国民(多くは棄権する人たち)の支持をいかに集めるのかによって、政権は決まるということです。

 

でもって、仕事がたまっているにもかかわらず、2009年から2017年の衆議院比例区の選挙結果(投票率、各党別の得票数、得票率、議席)を整理してみました。

 

 

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  
 


 
(投票率)

 
 

20098

 

衆院比例
  (69.27%)

 
 

201212

 

衆院比例
  (59.32%)

 
 

201412

 

衆院比例
  (52.66%)

 
 

201710

 

衆院比例
  (53.68%)

 
 

主要政党

 
 

得票率(%)

 
 

得票数

 
 

議席

 
 

得票率(%)

 
 

得票数

 
 

議席

 
 

得票率(%)

 
 

得票数

 
 

議席

 
 

得票率(%)

 
 

得票数

 
 

議席

 
 

自民党

 
 

26.7

 
 

1,888

 
 

55

 
 

27.6

 
 

1,662

 
 

57

 
 

33.1

 
 

1,765

 
 

68

 
 

33.3

 
 

1,855

 
 

66

 
 

公明党

 
 

11.5

 
 

805

 
 

21

 
 

11.8

 
 

711

 
 

22

 
 

13.7

 
 

731

 
 

26

 
 

12.5

 
 

697

 
 

21

 
 

みんなの党

 
 

4.3

 
 

300

 
 

3

 
 

8.7

 
 

524

 
 

14

 
 

-

 
 

 
 

 
 

-

 
 

 
 

 
 

維新系

 
 

 

 
 

 

 
 

 

 
 

20.4

 
 

1,226

 
 

40

 
 

15.7

 
 

832

 
 

30

 
 

6.1

 
 

338

 
 

8

 
 

希望の党

 
 

-

 
 

 
 

 
 

-

 
 

 
 

 
 

-

 
 

 
 

 
 

17.4

 
 

967

 
 

32

 
 

民主党

 
 

42.4

 
 

2,984

 
 

87

 
 

16.0

 
 

962

 
 

30

 
 

18.3

 
 

977

 
 

35

 
 

-

 
 

 
 

 
 

立憲民主党

 
 

-

 
 

 
 

 
 

-

 
 

 
 

 
 

-

 
 

 
 

 
 

19.9

 
 

1,108

 
 

37

 
 

社民党

 
 

4.3

 
 

300

 
 

4

 
 

2.4

 
 

142

 
 

1

 
 

2.5

 
 

131

 
 

1

 
 

1.7

 
 

94

 
 

1

 
 

共産党

 
 

7.0

 
 

494

 
 

9

 
 

6.1

 
 

368

 
 

8

 
 

11.4

 
 

606

 
 

20

 
 

7.9

 
 

440

 
 

11

 

 

 

この表を見ると、自民党は1888万人から1662万人で常に1800万人前後の固定支持層がいます。公明党は800万人から697万人で固定支持層は700万人共産党の固定支持層は400万人前後社民党は現状では100万人くらいでしょうか。民進党(旧民主党)は、固定支持層は900万人くらい(民主党の2009年の獲得票数は例外で後述します)。

 

これらに比較して、みんなの党、維新系は固定支持層が見えず、そのときの風次第のようです。希望の党もこちらのグループでしょう

 

今回、立憲民主党が1109万人を獲得して、民主党の前回997万人から上積みしました。希望の党も967万人を獲得していますから、民進党(旧民進党)は分裂したけど大幅に得票数を伸ばしているように思われます。

 

しかし、表をよく見ると、立憲民主党の1100万の票は、民進党(旧民主党)のコアな支持票に、共産党や社民党から流れた票を上積みしたもののようです。また、選挙全体の投票率が高くないので、立憲民主党への「支持政党無し」(中道5割)からの支持はあまりないと言うべきでしょう。ですから、立憲民主党は「躍進だ」と言って喜んでいられる状況ではないことがわかります。

 

他方、希望の党は、967万の票を獲得していますが、投票率が低く支持政党無しの多くは棄権しているのだと考えると、希望の党も、維新系からの票を多く獲得しただけではないのでしょうか。維新の激減が、これを裏付けているように思います。


みんなの党や維新系や希望の党に投票する人々は、時の「風」によって投票先を変える傾向(支持政党なし層だから)があるのでしょう。

 

つまり、政権の命運を決めるのは、いつもは選挙にいかず、支持政党を持っていない「中道」の多数派の国民であることが如実にわかります。

 

例えば、2009年に民主党が勝利したのは、投票率が69%と高いことから見ると、支持政党無しの「中道」の2000万人が民主党に投票したのです。驚くべきことに、自民党も、公明党も、共産党も獲得票(固定支持票)自体は変わっていませんから。

 

その意味で、自民党も安泰ではないことは十分に認識していることでしょう。何か情勢(「風」を生み出す客観条件)が変わって、いつもは選挙にいかない支持政党なしの多くの国民が動き出すか、どう投票するかで、すべてが決まるのですから。

 

さて、安部首相の悲願である憲法9条改正の国民投票では、この層がどう動くか予測できないところがあります。そうであるからこそ、改憲派にとっては、北朝鮮情勢が緊迫している今こそ、「千載一遇」のチャンスなのでしょう。

 

 

| コメント (0) | トラックバック (0)

«「リベラル」と「保守」、そして「左派」の違い